夏のイベントに訪れた蝶と正義がお互いに一目惚れした話。

狭山雪菜

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短編

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8月の第2の週末に!ノリノリな音楽と暑さも吹き飛ばす大放水のウォーターの大型イベント開催!
その名も──「スプラッシュアクア」


夏限定でやる大型イベントに、友達に誘われてやって来た。暑い日の続く夏にしか行われないこのイベントは、7月から8月までの毎週土日に2万人以上の観客が入る屋外の会場限定で全国各地を転々と移動する。
『新感覚 スプラッシュ アクア』
音楽と水が融合された新しい形のイベントは、フェスのように何組もいる様々な曲のジャンルのアーティストが歌い、観客に向け水が放出される。濡れてもいい服または水着で参加するのが必須で、イベントに参加する観客も水鉄砲ウォーターガンを用いて見知らぬ参加者に水を掛ける。


開場してしばらくすると、2組の女性が歩く前を、人々がモーセのように脇にどいて道を開ける。
まず、日に焼けていない真っ白な肌が目に入り、その次に大きくて豊満な二つの胸が寄せられて形の良い膨らみを作り真っ白なビキニに収まり、首の後ろと背中に結んだ紐で支えられていた。きゅっと細いラインの腰にも上とついとなる水着を身につけていた。手足の長い爪は黒く塗られ、真っ白なぺたんこのサンダルを履いている。丸く綺麗なお尻も、お腹の位置が高くてスラッとした脚、黒いウェーブのかかった髪が彼女の腰まで伸び、卵のようなつるんとした小顔、さらに大きな目と鼻、小さな口が、人間が美しく見える黄金比を忠実に守るように配置され、会場の参加者の視線を独占する。気がついていないのは本人だけで、彼女は幼い頃から見られ続けられていたから、こういった・・・・・視線には慣れていた。
だが、それなら誰もが彼女に声を掛けるわけではない。なぜなら彼女の左腰には拳サイズほどの縁が真っ黒の羽が青い蝶が一匹、描かれているからだ。それもシールなどではなく、タトゥーとしてはっきりとわかるくらい見事な色使いの蝶がそこにいる。
このタトゥーをしているからか、それともただ無表情な顔は恐ろしく整っているから浮世離れをしているからか、こんな美女だとしても彼女に声を掛ける人などあまりいなく、男女から憧れと羨望の熱い視線を向けられているだけに留まっている。
もう1人は、全身黒く焼けた肌の女性。彼女は蝶のタトゥーをしている人とは対象的に、満遍なく日焼けをしていた。友達とお揃いの白い水着を着た彼女は、ブリーチをした金色の髪をお団子にしていた。耳には数個の粒と長く垂れたイヤリングと、へそにピアスをしている。
「わっ!すごい人じゃん!」
口数の少ない友達とは正反対に楽しそうに、にかっと笑うと、彼女の八重歯が口からはみ出した。
「…待って、未知みち
入場してからひと言も喋らなかった黒髪の子が、未知と呼んだ金髪の子の腕を掴む。
「どうしたの?果南かなん
果南と呼ばれた黒髪の子が、他の人とぶつかりそうになった未知の腕を引いた。
「ん?さんきゅー」
未知はよく分かっていなかったけど、明るく笑うと果南は口元を僅かに上げた。

──今日は久しぶりに未知と遊べる
果南は、なかなか表情かおに出ない自分をもどかしいと思っていたが、未知は気にしている様子はない。
昔から喜怒哀楽を作るのが苦手で、そのせいもあってよく男の子にいじめられていた。口数も少ない私の親友となってくれたのは、高校の時に知り合った未知だった。私といて楽しいのだろうか、と思っていたら、未知からは『意外と果南は分かりやすい』と言ってくれた。
高校卒業して美容の専門学校に通い、そこから美容師となるべく資格を取った。卒業後に若者が集う街にある美容院に就職して、今は新しく入った後輩に指導している。毎日のスタイリングの練習をしたり、新しいヘアスタイルの勉強に勤しんでいる。
社会人になってから、未知とはぐんと会う時間が少なくなってしまったが、連絡は取り合っていた。そして今日、このスプラッシュアクアのイベントに誘われたのだ。
普通ならタトゥーや刺青、厳しいところではシールタトゥーをしている人は、例え隠していても参加禁止の所が多いのに、このイベントはそういった規則は載っていなかった。
なので普段、隠している腰のタトゥーが映えるような真っ白な水着をインターネットのショップ通販で選んでいたら、未知もお揃いで買いたいと急遽双子コーデとなったのだ。
「はぁー、心配…果南こんなに可愛くて」
と、言いながら背後から抱きつく未知は、私の肩に顎を置いた。
「…それを言ったら」
未知もそうだ…綺麗に焼けた肌は、彼女にすごく似合っている。金色に染めた髪は私が毎回ヘアカラーしている。最初は練習台と言ってなってくれ、今はもうその時の気分によって指定された色を未知の髪に染めるのが楽しい。
「今日は思いっきり楽しもう!」
「…うん」
お互いのほっぺたがぴったりと重なると、きゃっきゃっと騒ぐ。


イベント会場は、森林公園の広大なグランドの中で行われた。入り口からロッカーのある更衣室に行き、準備が終わると会場へと入れる。私服での参加も可能だが、夏の今は少しでも涼もうと水着で参加する人が多い。通常のアーティストのライブよりも入場料が高額とあって、子供はまだ見かけてない。
グランドの一番奥に特大のステージがあり、その前にはステージに侵入しないように柵と座席のないフリースペースがあって好きな場所で音楽を聞ける。
今日このイベントに参加するアーティストは、聴いたことある曲を出していたり、聞いた事ないバンドグループだったりする。未知は参加アーティストのファンなのかなと思ったが、ただ舞台袖から四方八方に放出される水があって、楽しいと口コミで見たからスプラッシュアクアに参加したいとなったらしい。
持ち物は全てロッカーに預け、首から白い紐でぶら下げた防水ケースにスマホを入れた。少額のお金も持ってこようと思ったが、イベントに出店しているお店は全てキャッシュレス決済が出来るのでスマホ一つで大丈夫だった。
ラーメン、お好み焼き、焼きそば、B級グルメ、フランクフルトにかき氷と種類豊富な飲料水とアルコール。ゆうに10店舗は越える屋台、その他にもウォーターガンのレンタルや、イベント限定Tシャツやバスタオルも購入も出来る。
「最前列で見る?」
と未知に言われた私は、こくんと頷くと最前列に向かって歩き出した。まだイベント自体始まっていないけど、長時間に及ぶからみんなは芝生の上にシートや折り畳みの椅子を持って来て場所取りをして座っていた。
会場の半分くらい進むと、やっぱり前でアーティストを見たい人が多くなって、スムーズに歩くのが難しくなって人と人との間を歩いた。
「…まっ、未っ、知っ」
私と手を繋いだまま未知が歩くけど、人混みで狭い隙間を歩くのは大変だった。このままじゃ転んで引き摺られると思った私は小走りを始めたら、右側から大きな身体が後退りしたのか、人と人との間から急に出てきてぶつかった。
「っ、あっ」
「…っ、悪いっ」
未知に腕を引っ張られていたから、勢いよくぶつかった相手に背後から抱きつく形となってしまい、慌てて身体を離すと、未知に掴まれていた手が私から離れて、目の前に大きな身体が私の方を向いた。智美のように日に焼けた黒い肌と、分厚い胸板と私の3倍の太さがある手足は、鍛えているのか筋肉の凸凹が出来ている。私の頭3個分くらいある高さの男の黒い髪は短くツーブロックでカットされ、太い眉に反してギロリと睨む目が怒っているかのように鋭い眼差しを私を見下ろす。ハイビスカスが白でプリントされた水色シンプルなハーフパンツの水着を着た上半身裸の男がそこにいた。
「ごめんなさい」
「いや…こっちこそ…急にごめん」
怒らせたらダメな人だとすぐに分かって謝ると、彼は目元を和らげて謝る。すると、途端に彼の怖い人からの印象が変わり、普通の人みたいに感じるから不思議だ。蛇に睨まれたカエルのように身体が硬直してしまって、目の前にいる男の人から目を離すことが出来ない。
「もう、果南?」
私の手が離れてしまったのに気がついた未知が、私の所にやってくると、彼はチラッと未知の声のする方を見て、また私に視線を戻した。
「どうしたの?」
じっと見られるのは慣れているはずなのに、この人から見つめられていると思うと胸がドキドキするし落ち着かない。私の腕に抱きついた未知に、声を掛けられ、そういえば私も彼から視線を外せていないと気がついた。
「あ…ううん」
「あれ?春山はるやま?どうした?…ん?わっ!めっちゃギャルやん」
未知に返事をすると、目の前の男の人とは違う声がして、未知と2人で声のした方を見ると、日に焼けた男の人は真逆のあまり日に焼けてない茶髪の男の人が出てきた。
「…塩川しおかわ
「何アイツ、デリカシーないやつ」
呆れた男の人と、茶髪の男の人に向かって未知は、ムッとしていると、
「なんだ?ナンパか?」
とにやにやし始め、私と未知のそばまでやってきた。
「はっ?ちげーし…ってか、そっちが」
「おーおー、生意気だなぁ」
「…塩川やめろ」
キレる寸前の未知に、塩川と言われた茶髪の男の人が尚も揶揄うと、春山って私がぶつかった人が止めに入る。
「ムカつくなんなのこいつ」
「こいつじゃなくて、嗣朗しろうだよ、おチビちゃん」
「はっ?!何っ?!」
ニヤニヤ笑いながら、未知にちょっかいをかけ始め、未知が言い返している。そのやりとりを見ている事しか出来ない私は、おろおろと2人を見守っていたら、
「…塩川は、根はいいやつなんだよ」
と、私の横にたった男の人が私を見下ろしながら、そう告げた。
「俺は春山正義まさよし…名前は?」
「…果南です」
「果南か」
いつもなら知らない人に名前なんて絶対に教えないのに、口が勝手に開いてしまう。そして、当たり前のように私の名前を呼び捨てにした正義は、口元を僅かに上げると、怖い印象が若干和らいだ。
「何歳?」
「24歳です」
「そっか、なら6歳下だな」
なら30歳なのか、と思って、彼を見上げると、彼の身体はプラスチックみたいなつるつるの綺麗な肌をしている。じっと見ているのに気がついたのか、彼は私の聞いてないのに、腕を上げて曲げた。
「…これ?鍛えてるんだ、職業柄ある程度鍛えないといけなかったが…思わず筋トレにハマったんだ」
「だーもう果南行くよ!こいつマジありえない!行こ行こっ」
返事をしようとしたら、塩川って人と話が終わったのか未知が戻ってきた。ここからまた移動するからと思ったら、この正義とここで別れるのが少し寂しく感じた。
──なんで?
自分でも分からない感情を抱いていると、塩川は未知を背後から抱きしめた。
「え~?もう行くの?なんで?ここでいいじゃん」
「ぎゃー!離してっ」
「なんでなんで未知ちゃん」
「勝手に名前で呼ぶなっ!」
また騒ぎ始めた2人に私はまたおろおろしていると、正義は私にそっと耳打ちした。
「飲み物買いに行くぞ、場所取りは2人に任せてさ」
彼はそう言って私の手を取ると、歩き出した。
「あっ!果南!」
「えー、俺を無視しないでよ未知ちゃん」
振り返ると未知は、思いっきり塩川の頬を手で退けていたが、塩川はずっと頬が緩んでいた。心配させないように手を横に振ると、人混みで2人の姿が見えなくなった。


「生ビール、と何飲む?」
「…コーラ」
「そっか…生ビール一つと、コーラ2つ」
屋台の人に注文を言うと、正義は私を見ながら、
「友達の分もね」
と言った。
「これ先に持って」
と言って、私にコーラのボトルを2つ渡し、正義は会計を始めた。
私はコーラを受け取って、屋台の前に列を成しているので邪魔になると思い正義の横から移動して、屋台の正面が見える所まで離れた。すぐに来るかと思った正義は、生ビールを頼んだからその場で入れて貰っているので遅れているようだ。
「ね!かーのじょ!1人?」
正義の方をぼうっと見ていた私は、近づいてくる男に声を掛けられるまで気が付かないでいた。チラッと男を見ると、細身の茶髪の男が私の側にいた。
──やっぱり何か違う
この人は正義を見た時みたいに、視線を外す事が出来ないわけじゃない。興味を失った私は、正義の方にまた視線を向けたら、正義がちょうどプラスチックのカップに入った生ビールを受け取っている所だった。
振り返り視線を左右に動かして私を探して、私を見て口元が緩くなるが、すぐに隣にいる男の存在に気がつくと、3mくらい離れているのにも関わらず眉を寄せて不機嫌なオーラを出しているのがわかる。
「果南!来いっ」
「…っひ!」
地を這う声は恐ろしいくらいに低く響き、隣にいた男は恐怖ですくみ上がる。私はナンパして来た男の存在なんて忘れたように正義の側に行くと、彼はギロッとナンパ男を睨んでいた。
「ダメだろ離れたら」
「…うん」
そんな事言ったって、と思っても、なんだか正義のヤキモチが胸を擽って嬉しいと思ってしまう。
──本当、今日の私変…なんかの病気かな?
コテンと首を傾げると、正義はビールを右手に持ち、私の腰に手を置いた。
「また変な奴に声を掛けられないように」
と、自分にも言い聞かせるようにぶつぶつ話し、私から視線を外した彼の耳は赤くなっている。
──色黒でも赤くなるんだ
発見した事実が嬉しくて、正義をじっと見ると、彼は、コホンと咳払いをした。
「ほら行こう、飲み物ぬるくなっちまう」
コクンと私が頷くと、歩き出す。

時々ビールを口にして、同じ歩幅で進む。
正義と出会った所まで半分の所まで進むと、私の腰に置かれた手が動いてるのに気がついた。しかも、腰の左側にあるタトゥーを彼の親指の腹でなぞっている。
──なんで
一度意識してしまうと、さっきまでの人混みが嫌だなとか暑いなとか考えていたものが全て無くなり、腰に集中してしまう。
「おっ!おせーよ」
「果南!」
2人のいる場所に到着すると、未知は私に抱きついた。腰に置かれた手は離れ、不思議な事に寂しく感じてしまった。
「大丈夫だった?」
何の心配をしているのかわからなかったけど、大丈夫だったのでコクンと頷くと、未知に買ってきたコーラを渡した。
「えー?春山ー俺の分は?」
口を尖らせた塩川は、正義に抗議をする。
「知らん、さっき飲んだろ」
と、彼は答えた。
「ね、果南…しばらくコイツらと一緒にいてもいいかな?」
正義と塩川がフランクなやり取りしていると、未知は私に抱きついたまま、そっと彼らに聞こえない声で私に呟いた。
「…えっ」
未知はナンパ男に容赦ないのに、珍しくここにいたいと言って、私が驚いていると、会場のライトが付いて大音量の音楽が流れ出す。
『スプラッシュアクア!間もなく開演します!』
アナウンスが流れると、人々は立ち上がってステージの方を見る。
「…始まった」
ぼそりと私が言った言葉は、アーティストの登場で沸いた観客の声に掻き消された。




アーティストが歌うたび、ランダムに勢いよく放水され、お天気なのに雨が降っているみたいだ。ほどよく冷たい水が、暑い夏を涼しくしてくれる。水が放水されるから、ノリのいいハイテンションの曲が流れて歓声や水の音、曲に合わせて踊ったり手を上げたり大声でアーティストと一緒に歌ったりしている。
「…っ」
前のめりになる人が近くにいて、何度か身体がぶつかる。そうすると、目敏く気がついた正義が私の腰を掴み、彼の前に立たされ、お腹の前に手を置かれて背後から抱きしめられる。背中に正義の熱い体温の胸板が当たり、冷えた身体を温めてくれる。
「…風邪引くぞ」
思いの外私の身体が冷たくなってしまったので、私の耳元に口を寄せて言われ、彼は私の頭にタオルを被せた。
──熱い…どうしよう
私と違う固さの身体が触れ合って、胸がドキドキしてうるさい。一緒に横に揺れてダンスをすると、楽しさよりも触れ合う箇所が気になる。

すると、曲調が変わり、爽快感のあるラブソングが流れる。
──あっ、嘘っ
おかしなことにラブソングが流れて初めて、この落ち着かない気持ちは恋かもしれないと気がついた。──もしかして一目惚れってやつ?
こんな気持ちになったのが初めてで、恋を自覚をすると顔が赤くなる。
──こんな…彼女みたいに扱われたから…?ううっ…それは違うと思う
頭に被されたタオルの端を握って顔を下げたら、自分の馬鹿さ加減に呆れた。
──そんな事あるの?出会ったばかりだよ?
無表情で無口な私とは別に心の中は、百面相をしてマシンガントークを自分にする。
「…どうした?果南」
横に揺れていた身体の動きを止めた私を不審に思った正義が、タオルを被った私の顔を覗き込む。
「…あ」
タオルの隙間から見える太い首と、人によっては怖いと感じる顔が、私にとっては世界一のイケメンに見えてしょうがない。
自然と潤んでしまう瞳で私よりも背の高い彼をタオルを太い指で退かした隙間から見上げると、正義も目を見開いて止まる。
「正義」
「…っ」
彼の名前を初めて私が呼ぶと正義は口をぱくぱくと動かして、口を開けていたが口から声が出ていない。
「…っ、ん」
タオル越しから頬を両手で挟まれ、彼の顔が私の顔に近づき、2人の唇が重なった。頭から被ったタオルで隠されているから、私の顔は他の人からは見えない。それが私の行動をより大胆にさせる。重なった口を薄く開けて、舌を出して彼の唇を辿ると彼の口も開いて私の口内に舌を入れた。
ちゅうっと私の口内に入ってきた彼の分厚い舌に吸い付くと、恐る恐る私の反応を見ていたみたいに控えめな彼の舌が突然私の口内を弄り、傍若無人に暴れる。舌を押されその上から彼の舌が這い、口内の隅から隅までしっかりとなぞる。顔を横に倒すと、彼の舌がさらに奥まで入り、私の下の付け根に当たる。苦しくなって顔を離そうとすると、がっしりと頬を掴まれて離れられない。しょうがないので、彼の舌を追い出すと、今度は逆に吸い付かれ彼の口内に入れられる。
「っ、ん…はっ」
「はぁ、っ」
息が上がってやっと彼とのキスが終わりを告げた。それでも名残り惜しく彼の舌は私の唇のラインをなぞる。
彼を見ると私の口紅が移り、口の周りが赤くなっていた。手を上げて彼の口元を拭うと、私の手を握りキスをする。
私が顔を上げるのをやめて、周りをみるとみんなはステージに夢中になっていた。
正義の手によって前を向かされ、背後からぎゅうぎゅうと抱きつかれる。
「…一目惚れって信じるか」
彼の口が私の耳にタオル越しに押し付けながら、少し低い声で言う。爆音が流れている会場では、誰も彼の言葉が聞こえない。
私はお腹の前にある彼の腕に自分の手を置くと、コクンと頷いた。
「そうか」
私の反応を見て、彼はそれだけ言うと、私が被っているタオルの上から頬を押し付けた。
ラブソングが終わり、アーティストが変わると、アップテンポな音楽が始まる。水の放水は止まらず、冷えた身体を正義の身体が暖めてくれる。
「…正義…温めて」
誰も私達を見ていないからと、彼の手を上に持っていくと私の下乳に当たり、正義の身体がぴくりと反応した。彼は私の下乳を親指を立てると触った。
「ああ、熱くするよ」
獣のような唸る声で返事をされ、私は背後から抱きつく彼の胸板に頭を付けた。




***************




簡易シャワー室は男女が使え、ステージから放出される水を洗い流す場所だ。1人分のスペースのカーテンで仕切ったシャワーに入ると、すぐ後ろに正義も入ってくる。
シャッ、とカーテンが閉まると、私の背後から伸びた手がコックを捻り、壁に埋め込まれたシャワーから水を出す。背後から抱きしめられ、大きな手が私の胸を下から掬い揉み始めた。大きな手のひらで包まれた胸は、満遍なくこねられて形が変わる。ステージの近くから放出された水よりも温かい水が、持って着たタオルを濡らしていく。
「ふっ、んっんぅっ」
振り向くと口を塞がれ、ゴリゴリとお尻に当たる固い昂りはもう大きくなっていた。抽送をするかのように彼の腰が前後に動き、私のお尻の間に入ろうとしている。私は右腕を上げて、彼の右腕に手を置くと蠢いていた舌が止まりキスが終わる。瞼を上げると、キツイ眼差しの正義と視線が交わる。
「ここでするの?」
「いや…しない」
彼の顔がすぐそばにあり、カッコいいと思うと信じられないくらいに胸がドキドキする。
「エロいな」
「あ…ん」
見惚れていただけなのに、正義はそう言って私のお尻に昂りをぐりぐりと押し付けた。
「休憩室があるんだ…有料の個室のな、そこに行こう…だがまずはコレ・・をどうにかしないと歩けん」
コレと言った物は、私のお尻に当たっている昂りもので、ハーフパンツを押し上げていた。
「ん」
私は彼の方を向くと、ハーフパンツの中に右手を入れ、熱を持つ昂りを握った。指を曲げても指先がくっつく事はない太さの昂り。彼は唸りながら腰を動かし、堪能するよりも出す事を優先させている。
「…果南っ」
ペロリと私が彼の上半身を舐めれば、彼は左手で私のお尻を強く掴み揉む。
自分でハーフパンツをずらすと、目の前に現れた昂りは爆発してしまいそうなくらいぱんぱんに膨らんでいた。
──すごく…大きい
今まで見たことのない私の手首くらいの太さの昂りが、はたして私の中に入るのか不安になってくる。
「っ、くそっ」
悔しそうに私の手の上に手を重ねると、彼は私の手の上から一緒に上下に擦り出す。
彼の額が私の額に当たり、上を向かさせられると、口を塞がれて舌をキツく吸われる。
「ぐ、っ」
深いキスで酸欠になりながら、口が解放されると、手とお腹に熱い飛沫が掛かった。



「…っ、どこから来てる」
「あ…隣の県の」
「そうか…っ、ぐ…締めるなっ」
「は…ぁっ、んぅっ」
私の中に何度も果てて、余裕が出来た正義は、抽送を続けながら耳元で囁きながら質問責めをした。

グランドの側に有料の個室が設置されている。それはクーラーの効いた部屋で、4.5畳くらいの広さだ。あるのはミニ冷蔵庫と木製の板の鉄製の脚のテーブルと4脚のパイプ椅子だけだ。腰から上は窓ガラスでステージのあるグランドが一望出来て、出入口から反対側にあって、窓以外は白い壁に囲まれていている。
機嫌のよろしくない声のトーンでたまたま空いていた個室を取ると、彼に引っ張られるようにして指定された部屋へと入った。
この会場に着いた時は熱くてうんざりしていたが、水を浴びて体温が下がり、シャワーから個室のある場所まで移動したらまた暑くなったけど、冷房の効いた部屋に入ったら熱くなった身体が冷えて気持ちよかった。
入ってすぐに、首の後ろを掴まれながら噛み付くようなキスをされ、腰に腕が回る。ねっとりと味わうキスをしていると、彼の手が私の背中を弄り始めた。
「っ、んぅ」
グランドにいた時とは違う、誰もいないから大胆に愛撫が出来る。私も負けじと彼の下半身に手を伸ばすと、すでに固くなった昂りはその存在を感じさせる。さっきのシャワー室でやったように、下から上へと撫でていると、彼の手が私の手首を掴み、自分の首の後ろへと回した。
「…悪いっ、それをやられると、もたん・・・
顔の角度を何度か変えながら、ぐいぐい押されて部屋の中心へと移動していく。テーブルが私のお尻にぶつかると、彼は私の上半身をテーブルの上へと仰向けに寝かせた。サンダルが脱げ、右足を上げさせられると、彼は私の下の水着を脱がした。
目を細めた彼は、私の首筋に顔を埋め、肩や鎖骨にキスや舌を這わし、水着の上から胸を揉む。
足を広げながら膝を立てると、彼は私の上へと体重を乗せ、ギシッとテーブルが軋む。
私の肌に彼が舌を這わす箇所がないんじゃないかというくらいに、上半身を舐められ濡れていく。水着もズラされたので自分で脱ぐと、彼の前で初めて裸となった。ツンと固くなった乳房の中央にある粒が、天井を向いている。正義は粒を口に含むと、2つの乳房を交互に母乳ミルクを飲む赤ちゃんのように吸い付いて口の中で舌を這わした。
「っん、あっ、あ」
正義の頭を抱きしめると、彼は乳房の粒を甘噛みして粒を引っ張る。口を開けて粒を離すと、引っ張られていた粒が元に戻って、ぷるんぷるんとプリンのように揺れた。何度かそうして遊んでいたが、彼の左手が私の下半身に伸びると、彼の指先がくちゅっと蜜で濡れた。
「はっぁ…っ、んっ」
ゆっくりと2本の指を蜜口から中へと入れると、親指の腹で私の下生えの上をくるくると回して弄ぶ。
順に私の下半身に向かって彼の顔が移動し、ついにはへその緒から下の下生えに到達すると、私の蜜口から溢れる蜜を舐めた。
「ぁあっ!」
ものすごく強い快感が一気に身体中を巡り、軽く達する。背中がのけ反り、お尻がテーブルを押す。彼の頭に向かって手を伸ばすと、彼は私の右手のひらを重ねて指を曲げて繋げた。
じゅるっと音を立てながら蜜を啜り、蜜壺の中にある2本の指を出し入れし、たまに中に留まるとぱらぱらと動かして中を広げていく。
べろべろに舐められ、下半身が私の蜜か彼の唾液かわからないくらい蜜口からお尻へと伝う。
徐に私の下半身から顔を上げて立ち上がると、私の唇を奪う。呼吸が乱れ揺れる乳房を愛おしそうにひと撫ですると、彼は私の足の間に身体を入れて立った。天井に向かってそそり立つ昂りの先端はツユで濡れ、側面は赤黒く血管が浮き出ていて切れてしまいそうだ。それもこれも私の身体のせいだと思うと、下半身がきゅんと疼く。
「…はっ、正義っ、ん」
「ああ、今いく・・
お尻が期待して少し右に動くと、彼は自分の昂りを握り、私の蜜口を目指して前に倒した。脚を広げて彼のが入りやすいようにすると、彼は蜜口に当てた瞬間、一気に腰を進め、私の蜜壺を昂りで貫いた。
「はっぁあっ!」
「く…っ、っづ」
まだ抽送が始まっていないにも関わらず、私が快感で痙攣する身体を、彼の手が離れないように腰をがっつりと掴み、繋がった下半身をぐりぐりと奥へと押し付けた。
彼が腰を引くと、昂りも最奥にいた蜜壺から居なくなり、腰を進めると、私の最奥の蜜壺へと戻る。抽送が早くなるにつれ、ギシッギシッと大きくなるテーブルが軋み、壊れそうになる。
彼は私の背中に手を回すと、私を起き上がらせ、私の膝の裏に手を入れて持ち上げた。自分の体重でこれ以上奥に進む事はないと思っていた繋がりがより一層深くなり、目の前が白くなっていく。
腰を器用に動かして下から突き上げられ、彼の肩に手を置いて落ちないようにするのがいっぱいいっぱいとなる。
「あっ、あっ、あっ」
「はっ、果南っ」
彼は私の首筋を噛み、痛いのに下から突き上げられた衝撃で快感が上回る。もう絶頂が来ると、伝えたいのに、開いた口から出るのは甘い声のみ。
「やっ…あっ!」
「はっ、っ、ぐっ、ぅ」
ぎゅうっと、繋がった箇所を締め付けてしまうと、低く唸った彼は私の膝裏から入れた腕に力を入れて私のお尻を掴んで固定した。一気に膨れた昂りは、蜜壺をさらに広げた後に、熱い証を蜜壺に注いだ。小刻みに揺れる腰は、快感の余韻と蜜壺の中に注いでる証が溢れないように蓋をする。
「は…ぁっ、ぁ」
やっと息が出来た時には、彼の頬を自分の方へと向かせてキスを始めた。
私を持ち上げたまま歩き出した彼は、私が持ってきていた濡れたタオルを床に敷いて、繋がったまま仰向けに寝かすと、私の上に覆い被さった。
そして──


質問責めをしながら、私の事を話すように促す。快感に負けて口を閉ざしたり、甘い声しか出さなくなると、私の乳房をぎゅうっ、と強く摘み、咎めるようにガンガンと腰を突く。疲れたと言って彼が仰向けに横になると、私をお腹の上へと座らせ、動くように指示をする。腰を前後に動かして、止まるとお尻をパンと軽く叩かれる。
「あっ、正義っ、う…っ、んっ」
「ああ、果南ここにいるよ」
快感でぐちゃぐちゃな思考になって不安になっている私の手を取り、彼は優しく囁くのに残酷にも突き上げるのをやめない。
もう無理と啜り泣けば、彼はそうだなと言って繋げた身体を離すのに、私の身体を弄るから、また昂って彼を求めちゃうから結局意味がない。
「もう、行こうか、2人で抜けてさ」
「うんっ…イ…くっ」
と、繋がった時にイクと言ったのに、違う意味で質問していた彼は私の言質を取ったとばかりに、あっという間に私の中に果てると、私をパイプ椅子に座らせた。そういえば、さっきパイプ椅子に座る彼の上で腰を揺らしたと思い返して頬を赤らめれば、
「…ぐっ、我慢だ…今は我慢だ」
とぶつぶつ独り言を喋る正義がいた。頬を赤らめた素っ裸な彼女に、早くも理性の糸が切れそうになる。
タオルで濡らした2人の体液をさっさとテキトーに拭いて、彼は私の水着を手早く着せると手を取り連れて個室から出た。

すれ違う人が皆、気怠げで妖艶となった美しい黒髪の姫に見惚れて道を開けると、まるで自分の物だと主張するように大柄な男が彼女の肩を抱き、周囲の男に牽制の眼差しを向けた。首や胸元やお腹にある幾つもの赤い所有印を惜しげもなく晒した彼女は、自分が今どんな格好をしているのかすらも考えられないくらい、目の前の男に付いて行くのが精一杯だった。
そんな彼の肩のから背中にかけて、彼女が付けた爪の跡があるから2人は親密な関係だと伺えるが、男の目が据わっているからケンカでもしたのかと、変な憶測を呼ぶ。
「あっ…溢れる」
誰にも聞こえないような小さな声が漏れ、それを目敏く聞いた男は、ちっ、と不機嫌に舌打ちをしてシャワー室へと向かった。
シャワーの音で掻き消される声を殺した彼女に、男は指を入れて自分の出したモノを無言で掻き出した。
「…声を出すなよ…もう欲しくなる」
一度彼女の中を知ってしまった男は、早く彼女の中へと入りたくてうずうずする。囁いた後にペロリと耳朶を甘噛みして、ちゃっかり味見をするのを忘れない。

「着替えが終わるのを…待ってる」
更衣室の前でそう言って別れた彼は、私に背を向けて男用の更衣室へと足早に向かった。
立つのが辛い彼女が更衣室に戻り、着てきた服に着替えて出ると、仁王立ちした彼に抱き上げられて近場のホテルへと連れて行かれた。
「帰りは送る」
「送る…?」
彼はお酒を飲んだはずだと、疲れて回らない頭で考えれば、正義はふっと笑う。
「明日の夜になればもう完全に抜けてるよ」
優しく囁き、私の首筋に顔を埋めた。つまりは明日の夜まで解放してくれないのか、と言おうとしたら、先に彼の口が開いた。
「その格好、エロいな」
ただのシャツとスカートの姿なのに、彼は嬉しそうに私の額に唇をつけた。
──笑った顔も可愛い
ゆっくりと落ち着いたペースで低く唸る声は、これから始まる時間が濃厚となる印でもある。



会場近くのホテルへと部屋を取ると、その日は片時も離れずにそばにいた。
ベッドの上で初めて交わると、彼の底知らずの体力の源は警察官として日々鍛錬している事を知った。
彼はあんなに私に質問責めをしていたのに、私は氏名フルネームと年齢しか知らない。どこに住んで、警察の何をしているのかよく知らないままだった。休憩と称して頑張って色々聞いたら、全てに答えてくれた。
そして
「果南、これからは呼んだら来い」
「…うん」
休憩をする間にスマホの連絡先を半強制的に交換し、呼ばれないと会えない関係になるのかと危惧していたが…ほぼ毎日呼び出された私は、のちに彼が独身で恋人がいないのを知った──馬鹿だけど、恋人が居ないから私に声を掛けたと思い込んでいて、聞くのを忘れていたのだ。

次第に彼が私の元へ来るようになると、お互い無口になる事が多かったけど、一緒にいる時間が苦痛に感じない、いて当たり前の関係となった。果南が思う以上に、正義が自分に熱い思いを抱いているのを知る。
「好きだ」
多分抱きしめながら愛を囁くなんて、そんなタイプには見えない彼は、私によく想いを伝える。私は恥ずかしくて頷くだけで終わってしまうけど、私も彼と同じ気持ちだと知って欲しくて抱きつく。
言葉にしないとわからないと分かるのに、長年にも及ぶ口数の少なさは、すぐに治るものじゃない。
「果南」
それでも彼は、私の気持ちが分かるとでも言うように抱きしめる腕に力を入れるのだった。
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