辺境の侯爵家に嫁いだ引きこもり令嬢は愛される

狭山雪菜

文字の大きさ
上 下
7 / 20

辺境の当主2

しおりを挟む
叔父がにこやかに帰って行き、ソフィア令嬢をエスコートし自室まで連れて行く。

ーーあの、癖のある叔父をいとも簡単に懐柔するとは、美しいだけじゃないのかもしれない
それにあのほっそりと柔らかくて小さな手を離したくないと強く思ってしまった。
ぼんやりとそんな事を思っていたが、あっという間に彼女の部屋の前に到着した。
「ありがとうございます、キース様」
そっと手が腕から抜けると、途端に冷える腕。
ーー寂しくて離れがたいみたいだ
苦笑する自分に、彼女はいつものように暖かい部屋へと入ろうとするので、扉を開けて彼女が入ると、くるりと振り返り、おやすみなさいと甘い声で別れを告げる。
「ああ、おやすみ」
いつもならここで部屋から出るのだが、今日は初めて手を握り隣にも座って近い距離に居たので、帰りたくないなと強く思った。
「…あの…キース様?」
なかなか立ち去らない私に、彼女は戸惑いの声を隠さない。
口を開いて何か言おうとするが、何を言えばいいのか分からず、結局口を閉じてはまた開く。
あまりにも何も言わない私に、ソフィア令嬢は
「…少しお話…しますか?」
「ああ、そう…だな」
彼女の部屋にあるソファーに並んで座ると、2人掛けなのに私の身体が大きいために太ももが、彼女の足に触れる。
「すっ…すまない」
「いいえ、近いと暖かいですし…話しやすいですよ」 
にっこりと微笑む彼女が、あまりにも美しすぎて見惚れてしまう。

「何か飲み物頼みましょうか」
うしろにいる侍女に声を掛けようとする彼女の腕が、私の腕に触れた。
ドクンドクンと波打つ心臓がうるさい
「…いや私は大丈夫だ、ソフィア令嬢は?身体が冷たくなるから何か温かい」
「大丈夫ですわ、もう寝るだけ…ですから」
ふふふ、と可愛らしい声で笑う。
「そっそうか」
そのあと会話も無くなり、無言になり気まずくなる。
そんは空気を払拭するように、口を開いたソフィア。
「…キース様…結婚は当初の予定よりも、2週間後に延期でよろしいのですか?」
顎に手を添え、疑問を口にした。
「ああ、色々準備もあるしな…その、本当に私でいいのか?…いや!それよりも今週休みが取れそうだから…どこかに行こうか…体調が良かったらだが」
2週間後に延期になった結婚式を残念に思いながら、しかし彼女の気持ちも聞きたいが…怖くなり話題を変えた。
そんな私に彼女は、とくに話を戻すでもなく
「まぁ、お休みですか…でしたら、キース様にこの領地を案内して欲しいですわ」
にこにこと可愛らしい事を言うもんで、ぼうっと見惚れた私は思ったままの言葉を口にしてしまった。

「……キスをしても良いだろうか、その頬に」

はっと驚くソフィアは、真っ赤になり
「…はい」
と消え入りそうな声で言った。

彼女の頬に手を添え恐る恐る顔を近づけると彼女は目を閉じ、手を添えた反対側の頬に触れるキスをした。

ちゅっ

柔らかく近づけた時にふんわりと香る彼女の匂いに、クラクラと目眩がした。
離れると、彼女の瞼が上がり視線が絡む。
「…そろそろ、眠るといい」
掠れた声に、彼女は瞳を潤ませる。
ーー帰りたくないっ
そんな私の想いとは裏腹に彼女が
「…はい」

そうして断腸の思いで部屋から出た私は、その日彼女の事を思い出しては眠れなくなり、次の日アガサに叩き起こされたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

筋書きどおりに婚約破棄したのですが、想定外の事態に巻き込まれています。

一花カナウ
恋愛
第二王子のヨハネスと婚約が決まったとき、私はこの世界が前世で愛読していた物語の世界であることに気づく。 そして、この婚約がのちに解消されることも思い出していた。 ヨハネスは優しくていい人であるが、私にはもったいない人物。 慕ってはいても恋には至らなかった。 やがて、婚約破棄のシーンが訪れる。 私はヨハネスと別れを告げて、新たな人生を歩みだす ――はずだったのに、ちょっと待って、ここはどこですかっ⁉︎ しかも、ベッドに鎖で繋がれているんですけどっ⁉︎ 困惑する私の前に現れたのは、意外な人物で…… えっと、あなたは助けにきたわけじゃなくて、犯人ってことですよね? ※ムーンライトノベルズで公開中の同名の作品に加筆修正(微調整?)したものをこちらで掲載しています。 ※pixivにも掲載。 8/29 15時台HOTランキング 5位、恋愛カテゴリー3位ありがとうございます( ´ ▽ ` )ノノΞ❤︎{活力注入♪)

一途なエリート騎士の指先はご多忙。もはや暴走は時間の問題か?

はなまる
恋愛
 シエルは20歳。父ルドルフはセルベーラ国の国王の弟だ。17歳の時に婚約するが誤解を受けて婚約破棄された。以来結婚になど目もくれず父の仕事を手伝って来た。 ところが2か月前国王が急死してしまう。国王の息子はまだ12歳でシエルの父が急きょ国王の代理をすることになる。ここ数年天候不順が続いてセルベーラ国の食糧事情は危うかった。 そこで隣国のオーランド国から作物を輸入する取り決めをする。だが、オーランド国の皇帝は無類の女好きで王族の女性を一人側妃に迎えたいと申し出た。 国王にも王女は3人ほどいたのだが、こちらもまだ一番上が14歳。とても側妃になど行かせられないとシエルに白羽の矢が立った。シエルは国のためならと思い腰を上げる。 そこに護衛兵として同行を申し出た騎士団に所属するボルク。彼は小さいころからの知り合いで仲のいい友達でもあった。互いに気心が知れた中でシエルは彼の事を好いていた。 彼には面白い癖があってイライラしたり怒ると親指と人差し指を擦り合わせる。うれしいと親指と中指を擦り合わせ、照れたり、言いにくい事があるときは親指と薬指を擦り合わせるのだ。だからボルクが怒っているとすぐにわかる。 そんな彼がシエルに同行したいと申し出た時彼は怒っていた。それはこんな話に怒っていたのだった。そして同行できる事になると喜んだ。シエルの心は一瞬にしてざわめく。 隣国の例え側妃といえども皇帝の妻となる身の自分がこんな気持ちになってはいけないと自分を叱咤するが道中色々なことが起こるうちにふたりは仲は急接近していく…  この話は全てフィクションです。

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

冷酷王子と逃げたいのに逃げられなかった婚約者

月下 雪華
恋愛
我が国の第2王子ヴァサン・ジェミレアスは「氷の冷酷王子」と呼ばれている。彼はその渾名の通り誰に対しても無反応で、冷たかった。それは、彼の婚約者であるカトリーヌ・ブローニュにでさえ同じであった。そんな彼の前に現れた常識のない女に心を乱したカトリーヌは婚約者の席から逃げる事を思いつく。だが、それを阻止したのはカトリーヌに何も思っていなさそうなヴァサンで…… 誰に対しても冷たい反応を取る王子とそんな彼がずっと好きになれない令嬢の話

引きこもり令嬢が完全無欠の氷の王太子に愛されるただひとつの花となるまでの、その顛末

藤原ライラ
恋愛
 夜会が苦手で家に引きこもっている侯爵令嬢 リリアーナは、王太子妃候補が駆け落ちしてしまったことで突如その席に収まってしまう。  氷の王太子の呼び名をほしいままにするシルヴィオ。  取り付く島もなく冷徹だと思っていた彼のやさしさに触れていくうちに、リリアーナは心惹かれていく。けれど、同時に自分なんかでは釣り合わないという気持ちに苛まれてしまい……。  堅物王太子×引きこもり令嬢  「君はまだ、君を知らないだけだ」 ☆「素直になれない高飛車王女様は~」にも出てくるシルヴィオのお話です。そちらを未読でも問題なく読めます。時系列的にはこちらのお話が2年ほど前になります。 ※こちら同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

天才魔術師から逃げた令嬢は婚約破棄された後捕まりました

oro
恋愛
「ねぇ、アデラ。僕は君が欲しいんだ。」 目の前にいる艶やかな黒髪の美少年は、にっこりと微笑んで私の手の甲にキスを落とした。 「私が殿下と婚約破棄をして、お前が私を捕まえることが出来たらな。」 軽い冗談が通じない少年に、どこまでも執拗に追い回されるお話。

処理中です...