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辺境の当主1
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「叔父さん…結婚結婚って、私は一生独身で過ごすつもりだから、あまり責めないでくれよ」
シンプルな部屋の応接室で、1人掛けのソファーに座るキースの向かい側にいる叔父ーーベンが渋い顔で顎髭を撫でていた。
「しかし、キース…跡継ぎが出来ないとムール家の存続の危機になるぞ」
「それなら、叔父の娘が産まれたばかりでしょう、その子を養子にでも」
「そうじゃない、直系の血筋の話をしておるっ!」
「無理だ…この顔に身体は、人々を恐れさせる」
代々ムール家から産まれる直系男子は、極寒の地を治めるためか、厳しい環境を耐える大柄な身体と一重の鋭い眼差し碧眼、銀髪の特徴が強く現れる。祖父も、父も、叔父もみんなガタイがよく、眼差しも強くていつも不機嫌に見られ、結婚相手を見つけるのも一苦労したと聞いた。
「そんな事言ってもなぁ…キースにも一生を添い遂げる相手が現れるぞ」
「……」
叔父は知らないが、これでも社交界デビューの時から色々と言われ、もう希望を持つのを辞めたのだ。
ーーこんな恐ろしい男なんぞ、女にとっては畏怖の存在だ
自嘲気味に、話を逸らすために最近の領地の相談などをして誤魔化した。
しかし、数日後に叔父から
「縁談を申し込んだ!このままいくと、ひと月後に式を挙げる!」
と声高々に宣言させられ、開いた口が塞がらなかった。
********************
ソフィア・ヒル
ヒル男爵家の三女、噂では社交界デビューも出来ない程の身体の弱さで、屋敷に籠っているらしい。
ーーそんな女を娶っても、病弱なら意味ないじゃないか…むしろ私の顔を見て心臓が止まるんじゃないのか
こんな私の気持ちとは裏腹に、彼女が来る日が近づきーー
「旦那ぁぁっ!大変ですわっ!南部の森の監視塔が雪で倒壊しましたっっ!」
扉を壊す勢いで監視兵が慌てて入ってきて、南部で緊急事態が起こった事を知らせる。
「そうか、すぐ向かおう」
執務中だった私は立ち上がり外出の準備を命令すると、執事のアガサが止めに入る。
「しっしかし、キース様!明日はソフィア様が」
「…どうせ初日は移動で疲れているんだ、ゆっくり休ませて次の日に顔合わせすればいいさ」
「しかしっ!キース様っ」
アガサの制止を振り切り、視察へと向かった。
次の日の夜遅くに、屋敷に着き雪を払っていると、鈴の音のような可愛らしい声が聞こえて振り向いた。
「…貴方は?」
声の元を視線で辿るとーー
そこにいたのは、ひとりの女性。
休んでいたのか結んでいない長くウェーブのかかった赤い髪が腰まで美しく伸び頭が小さい、厚手の室内用のローブから覗く白い肌が首の下を隠し、バスローブが物凄く大きく余計に身体が小さく見える。ぷるんと瑞々しい唇が言葉を紡ぎ、まつ毛が長く大きな碧い瞳が私を見つめていた。
「ヒル男爵家の三女のソフィア・ヒルと申します。」
綺麗なお辞儀をする彼女に見惚れていると、彼女が私のコートを脱がすのを手伝っているのに気が付き、慌てて取り上げた。
えっと驚く彼女に、「身体が濡れてしまう」と告げると、そうですか、とにっこり笑う彼女の笑顔に心臓がうるさく鳴った。
シンプルな部屋の応接室で、1人掛けのソファーに座るキースの向かい側にいる叔父ーーベンが渋い顔で顎髭を撫でていた。
「しかし、キース…跡継ぎが出来ないとムール家の存続の危機になるぞ」
「それなら、叔父の娘が産まれたばかりでしょう、その子を養子にでも」
「そうじゃない、直系の血筋の話をしておるっ!」
「無理だ…この顔に身体は、人々を恐れさせる」
代々ムール家から産まれる直系男子は、極寒の地を治めるためか、厳しい環境を耐える大柄な身体と一重の鋭い眼差し碧眼、銀髪の特徴が強く現れる。祖父も、父も、叔父もみんなガタイがよく、眼差しも強くていつも不機嫌に見られ、結婚相手を見つけるのも一苦労したと聞いた。
「そんな事言ってもなぁ…キースにも一生を添い遂げる相手が現れるぞ」
「……」
叔父は知らないが、これでも社交界デビューの時から色々と言われ、もう希望を持つのを辞めたのだ。
ーーこんな恐ろしい男なんぞ、女にとっては畏怖の存在だ
自嘲気味に、話を逸らすために最近の領地の相談などをして誤魔化した。
しかし、数日後に叔父から
「縁談を申し込んだ!このままいくと、ひと月後に式を挙げる!」
と声高々に宣言させられ、開いた口が塞がらなかった。
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ソフィア・ヒル
ヒル男爵家の三女、噂では社交界デビューも出来ない程の身体の弱さで、屋敷に籠っているらしい。
ーーそんな女を娶っても、病弱なら意味ないじゃないか…むしろ私の顔を見て心臓が止まるんじゃないのか
こんな私の気持ちとは裏腹に、彼女が来る日が近づきーー
「旦那ぁぁっ!大変ですわっ!南部の森の監視塔が雪で倒壊しましたっっ!」
扉を壊す勢いで監視兵が慌てて入ってきて、南部で緊急事態が起こった事を知らせる。
「そうか、すぐ向かおう」
執務中だった私は立ち上がり外出の準備を命令すると、執事のアガサが止めに入る。
「しっしかし、キース様!明日はソフィア様が」
「…どうせ初日は移動で疲れているんだ、ゆっくり休ませて次の日に顔合わせすればいいさ」
「しかしっ!キース様っ」
アガサの制止を振り切り、視察へと向かった。
次の日の夜遅くに、屋敷に着き雪を払っていると、鈴の音のような可愛らしい声が聞こえて振り向いた。
「…貴方は?」
声の元を視線で辿るとーー
そこにいたのは、ひとりの女性。
休んでいたのか結んでいない長くウェーブのかかった赤い髪が腰まで美しく伸び頭が小さい、厚手の室内用のローブから覗く白い肌が首の下を隠し、バスローブが物凄く大きく余計に身体が小さく見える。ぷるんと瑞々しい唇が言葉を紡ぎ、まつ毛が長く大きな碧い瞳が私を見つめていた。
「ヒル男爵家の三女のソフィア・ヒルと申します。」
綺麗なお辞儀をする彼女に見惚れていると、彼女が私のコートを脱がすのを手伝っているのに気が付き、慌てて取り上げた。
えっと驚く彼女に、「身体が濡れてしまう」と告げると、そうですか、とにっこり笑う彼女の笑顔に心臓がうるさく鳴った。
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