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寡黙な騎士団長7
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「ソファー欲しいです、2人が並んで座って…ベッドでもいいのですが零しちゃうので…っ」
とこの部屋に必要な物はないか?と言った俺に、可愛らしい声で答えるアリ。
「そうか、なら買おう」
と執務室が別にあるため私室には、使わない物を置かず最低限の物だけしかない部屋に、これから一緒に住むアリの要望を取り入れる。
ベッドに腰掛けた俺の膝の上に座るアリは、気怠げな雰囲気を隠そうともしないで、俺の肩に頭を乗せる。
ーーその雰囲気が頬を染めて色気が出ている…なんて気がつかないな
他の男に見せたら鼻の下を伸ばすに違いないと息巻く俺は、まだ見ぬアリへ視線を寄越す男達に嫉妬して、彼女を支える腰にやった手に力を込めた。
「っハッ…ハル様…?」
「…アリ、このドレスはとても良く似合っている」
何か言いたげな彼女の言葉を遮り、アリが着ているドレスのスカートを摘み描かれている刺繍に触れた。
「ええっ!ハル様のお屋敷で働く方々から、プレゼントしていただきましたの!とても可愛くて仕上がっています!動きやすくて…嬉しいです」
「…屋敷で働く使用人…から…?」
俺の肩からパッと顔を上げて、手をドレスに触れながら全身で喜びを表現するアリ。そんなアリの表情が美しいと見惚れてしまう一方、俺以外からの贈り物に喜ぶアリに仄暗い感情が湧き起こる。
ーーしかし、この屋敷の使用人は俺みたいにガサツで愛想がない奴が多い…そんな奴らをアリは魅了してしまうとは…
「…俺もこのドレスに負けないくらいアリの好むドレスを贈らせてくれ」
彼女の手を取り、手の甲にちゅっと触れるだけのキスを落とすと、アリはポッと頬が赤くなる。
「…ハル様…ハル様からいただいた物は全て好きですわ」
そんな可愛らしい事を言うアリに、我慢など出来るはずもなく…夕食前にシュワルツ家へと送るはずが、結局いつもの夜会の日と同じ時間帯になってしまった。
「…デーモン騎士団長、いくら婚約者とはいえ娘を外泊させないで欲しいものだ」
部屋に戻ったアリを見送ると、娘に向ける顔とは違い厳しい表情のシュワルツ公爵当主に玄関先で小言を言われた。
**********************
「ーーという事で、次回の討伐までの準備抜かりなくするように」
「「はっ」」
騎士団本部での討伐へ出発する団員と、団長、副団長、事務官の数十人で集まった会議室では、次の討伐の勤務体制などについての最終確認をしていた。
ぞらぞろと部屋から出て行く団員達が居なくなると、副団長のミックが俺のそばに近づく。
「締まらねぇ顔して、偉いご機嫌だな、ハル!婚約したからってもう幸せボケか?」
「…何のことだ、ミック」
机に置かれた書類の束を手にして揃え、とぼけてミックの言葉を流す。そんな俺をミックは、またまたーと、にやにやとしている。
ーー確かに…この数ヶ月、いやこの数週間特に機嫌が良いのを自覚している
それは婚約者のアリとの関係がすこぶる良好で、最近では週に2日、多い時には3日アリが屋敷に泊まるようになったからだ。アリが騎士団本部に挨拶に来て、そのまま屋敷へ連れて行ってから、すでに3ヶ月が経とうとしていた。
シュワルツ公爵当主に許可を得て…まぁ、新居への家具選びで時間が遅くなったという理由で、少しばかり強引だったがーー彼女が泊まり2人の時間を楽しんでいた。
特に彼女が来るとわかっている日は、仕事を早めに切り上げ屋敷の玄関で、アリを出迎えるのが楽しみでもあった。
ーー先週の彼女も可愛かった…
「おーい!勝手に自分の世界に入るなー!」
目の前でひらひらと、ゴツい手が俺の視界に入る。幸福感で満たされた思い出を途中で遮られ、チッと舌打ちが漏れる。
「…なんだ」
「その態度…本当アリカちゃんに見せたいよ」
ふーっとため息を吐いて、やれやれと頭を横に振るミック。最近ではユルア令嬢との仲を進展させたいが故に、俺の情報を持ってアリに近寄ろうとしている。
「…言っておくが、今度俺の居ない所でアリに近づいたら…」
「……それは分かってるよ、この間身に染みたよ」
ミックをギロッと睨むと、ミックはしょんぼりと肩を落とす。この男はあろう事か、俺が仕事で居ない時を狙いシュワルツ公爵家へと行ってアリとお茶会をしていたのだ。
ーーもちろん、その後直ぐにシュワルツ家のアリの侍女カルメンから苦情が届いて俺が無理矢理連れて帰ったのだが…
「あの時の訓練という名の制裁…すごく辛かったなぁ」
ミックが遠い目をして語るのは、連れて帰った後から数日俺が稽古をつけたためだ。
数日間動けなく全身筋肉痛になるまで、無言で訓練を共にした。
「そんな事より、アリカちゃん今日もハルの屋敷に行くのか?」
「ああ、そうだ」
「…なら、気をつけろよ…最近社交界で、きな臭い噂が流れてる」
「…きな臭い…とは」
「なんでも貴族の間でアリカちゃんの結婚を阻止しようとする動きが活発になってきてる…らしい…それに、誘拐された人々の特徴を調べたら何処かアリカちゃんの特徴と一致していたんだ、銀髪だったり、青い瞳だったり…もちろん!言われてみれば…ってレベルだけどな」
「…アリの…?」
「ああ、報告書…ちっ、あの新人ライン事務官渡してねぇじゃねぇかっ!」
ミックは話が通じない事に疑問を持ち、俺の手にある書類に目を通すが、誘拐された人の特徴などを記した書類がない事に気がついて、イライラとし始めた。
「とりあえず気ぃつけろ、今ライン事務官呼んでくる」
そう言って会議室から出て行ったミックを、俺は不吉な事が起こる気がして嫌な気持ちになっていた。
とこの部屋に必要な物はないか?と言った俺に、可愛らしい声で答えるアリ。
「そうか、なら買おう」
と執務室が別にあるため私室には、使わない物を置かず最低限の物だけしかない部屋に、これから一緒に住むアリの要望を取り入れる。
ベッドに腰掛けた俺の膝の上に座るアリは、気怠げな雰囲気を隠そうともしないで、俺の肩に頭を乗せる。
ーーその雰囲気が頬を染めて色気が出ている…なんて気がつかないな
他の男に見せたら鼻の下を伸ばすに違いないと息巻く俺は、まだ見ぬアリへ視線を寄越す男達に嫉妬して、彼女を支える腰にやった手に力を込めた。
「っハッ…ハル様…?」
「…アリ、このドレスはとても良く似合っている」
何か言いたげな彼女の言葉を遮り、アリが着ているドレスのスカートを摘み描かれている刺繍に触れた。
「ええっ!ハル様のお屋敷で働く方々から、プレゼントしていただきましたの!とても可愛くて仕上がっています!動きやすくて…嬉しいです」
「…屋敷で働く使用人…から…?」
俺の肩からパッと顔を上げて、手をドレスに触れながら全身で喜びを表現するアリ。そんなアリの表情が美しいと見惚れてしまう一方、俺以外からの贈り物に喜ぶアリに仄暗い感情が湧き起こる。
ーーしかし、この屋敷の使用人は俺みたいにガサツで愛想がない奴が多い…そんな奴らをアリは魅了してしまうとは…
「…俺もこのドレスに負けないくらいアリの好むドレスを贈らせてくれ」
彼女の手を取り、手の甲にちゅっと触れるだけのキスを落とすと、アリはポッと頬が赤くなる。
「…ハル様…ハル様からいただいた物は全て好きですわ」
そんな可愛らしい事を言うアリに、我慢など出来るはずもなく…夕食前にシュワルツ家へと送るはずが、結局いつもの夜会の日と同じ時間帯になってしまった。
「…デーモン騎士団長、いくら婚約者とはいえ娘を外泊させないで欲しいものだ」
部屋に戻ったアリを見送ると、娘に向ける顔とは違い厳しい表情のシュワルツ公爵当主に玄関先で小言を言われた。
**********************
「ーーという事で、次回の討伐までの準備抜かりなくするように」
「「はっ」」
騎士団本部での討伐へ出発する団員と、団長、副団長、事務官の数十人で集まった会議室では、次の討伐の勤務体制などについての最終確認をしていた。
ぞらぞろと部屋から出て行く団員達が居なくなると、副団長のミックが俺のそばに近づく。
「締まらねぇ顔して、偉いご機嫌だな、ハル!婚約したからってもう幸せボケか?」
「…何のことだ、ミック」
机に置かれた書類の束を手にして揃え、とぼけてミックの言葉を流す。そんな俺をミックは、またまたーと、にやにやとしている。
ーー確かに…この数ヶ月、いやこの数週間特に機嫌が良いのを自覚している
それは婚約者のアリとの関係がすこぶる良好で、最近では週に2日、多い時には3日アリが屋敷に泊まるようになったからだ。アリが騎士団本部に挨拶に来て、そのまま屋敷へ連れて行ってから、すでに3ヶ月が経とうとしていた。
シュワルツ公爵当主に許可を得て…まぁ、新居への家具選びで時間が遅くなったという理由で、少しばかり強引だったがーー彼女が泊まり2人の時間を楽しんでいた。
特に彼女が来るとわかっている日は、仕事を早めに切り上げ屋敷の玄関で、アリを出迎えるのが楽しみでもあった。
ーー先週の彼女も可愛かった…
「おーい!勝手に自分の世界に入るなー!」
目の前でひらひらと、ゴツい手が俺の視界に入る。幸福感で満たされた思い出を途中で遮られ、チッと舌打ちが漏れる。
「…なんだ」
「その態度…本当アリカちゃんに見せたいよ」
ふーっとため息を吐いて、やれやれと頭を横に振るミック。最近ではユルア令嬢との仲を進展させたいが故に、俺の情報を持ってアリに近寄ろうとしている。
「…言っておくが、今度俺の居ない所でアリに近づいたら…」
「……それは分かってるよ、この間身に染みたよ」
ミックをギロッと睨むと、ミックはしょんぼりと肩を落とす。この男はあろう事か、俺が仕事で居ない時を狙いシュワルツ公爵家へと行ってアリとお茶会をしていたのだ。
ーーもちろん、その後直ぐにシュワルツ家のアリの侍女カルメンから苦情が届いて俺が無理矢理連れて帰ったのだが…
「あの時の訓練という名の制裁…すごく辛かったなぁ」
ミックが遠い目をして語るのは、連れて帰った後から数日俺が稽古をつけたためだ。
数日間動けなく全身筋肉痛になるまで、無言で訓練を共にした。
「そんな事より、アリカちゃん今日もハルの屋敷に行くのか?」
「ああ、そうだ」
「…なら、気をつけろよ…最近社交界で、きな臭い噂が流れてる」
「…きな臭い…とは」
「なんでも貴族の間でアリカちゃんの結婚を阻止しようとする動きが活発になってきてる…らしい…それに、誘拐された人々の特徴を調べたら何処かアリカちゃんの特徴と一致していたんだ、銀髪だったり、青い瞳だったり…もちろん!言われてみれば…ってレベルだけどな」
「…アリの…?」
「ああ、報告書…ちっ、あの新人ライン事務官渡してねぇじゃねぇかっ!」
ミックは話が通じない事に疑問を持ち、俺の手にある書類に目を通すが、誘拐された人の特徴などを記した書類がない事に気がついて、イライラとし始めた。
「とりあえず気ぃつけろ、今ライン事務官呼んでくる」
そう言って会議室から出て行ったミックを、俺は不吉な事が起こる気がして嫌な気持ちになっていた。
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