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挨拶
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朝から侍女達に磨かれ、マッサージをされて綺麗に着飾ったアリカ。
真っ白な生地に銀色の花と黒の花の刺繍がなされた、ふくらはぎが半分隠れたプリンセスラインのワンピース、白い靴下と、黒いヒールの低い歩きやすい靴。ポニーテールで纏めた銀髪は、太陽光に反射してキラキラと宝石のように輝く。黒いイヤリングとネックレスを付け、シュワルツ家の玄関ホールで婚約者のハル様を待っている。
アリカのうしろには、一緒に出かける侍女のカルメンと執事とメイド達が並んでいる。
間もなく到着すると聞いてから、自分の部屋でソワソワしていたアリカは、到着の報告を待つのも疲れてしまったので、玄関ホールで出迎える事にしたのだ。
ーー今日はハル様と騎士団本部に行き、ハル様の同僚の方や部下の方たちへご挨拶に行く日だわ
騎士団長として指揮をとるトップに君臨するハル様を日頃から補佐する方々への挨拶をするのだ。また別の日に2人で城へと向かい国王陛下や大臣の方々へも挨拶に行く予定だ。
ドキドキと緊張するのは、別にご挨拶に行くからだけじゃない。ハル様とお会いするのが2週間ぶりで、久しぶりに持てる2人の時間が嬉しくもあるからなのだ。
「…お嬢様、お身体が冷えてしまいますわ」
と玄関ホールに着いてから玄関の扉を見つめ、あまりにも微動だにしないアリカを心配してカルメンが、アリカに声を掛ける。彼女の声に我に返ったアリカは、カルメンのいるうしろを振り向いた。
彼女の手にはアリカの上着とバスケットがあり、団長室で食べる予定の軽食が入っている。
彼と出会って、間もなく冬がやってくる。
ーー来年の今頃にはデーモン夫人と言われているわ
カルメンの持つ上着が私の視界に入り、ボボッと顔が熱くなってしまう。
ーーきっ…気が早いわっ、アリカ!デッデーモン夫人だなんてっっ!
赤くなっているであろう、それを隠すように両手で頬を挟み、カルメンに背を向ける。
1人悶絶している美しいお嬢様のうしろでは、執事達が微笑ましく、カルメンは大好きなお嬢様の心を惑わす憎き騎士団長に舌打ちをしてしまいそうな雰囲気だとも知らずに。
***********************
「アリ、お待たせ」
騎士団の紋章がついた馬車が屋敷に入り、玄関先に到着するや否や御者が降りる前に馬車の扉が開き、中からデーモン騎士団長ーーハル様が降りる。
屋敷の門を通るとの知らせを受けて、彼を出迎えるため玄関先へと出たアリカの元へと足早にやってくるハル様。
「…っいいえ!」
久しぶりに会う凛々しいお顔と大きくて頼もしい身体のハル様を見て、嬉しくて声が詰まってしまう。
彼は私の前に跪き手を取ると、私の手の甲に触れるだけのキスを落とす。
「…冷たくなっているじゃないか」
と低く咎める声を聞いて、背後にいるメイド達はひっと小さな悲鳴をあげる。
「私がっ…私がハル様をっ…お出迎えしたいと言ったのでっきゃっ!」
使用人達は悪くないと言おうとして、身体に浮遊感が出てびっくりする。
「…なら、早く暖まろう」
そう言ったハル様の顔がすぐ近くにある事に気がついて、彼に横抱きに持ち上げられた事を知る。自然と彼の首に腕を回したアリカは、ハル様から漂うレモンの香りを胸いっぱいに吸い込み、ぼぅっと見惚れる。
「お嬢様、私はこの騎士団長様の馬車のうしろから付いていきますので」
「っ!えっ、ええ、わかりましたわ」
ハル様に見惚れてしまっていたために、カルメンへの返事が遅くなってしまったのである。
********************
「ハル様、目の下のクマが、ちゃんと身体を休めておりますか」
騎士団本部へと向かう馬車の中。
やっと2人きりになったので当たり前のように馬車の中も彼の膝の上に座り、身体を寄せた。私とは違う筋肉質の固い顔を両手で挟み、親指で目の下のクマをなぞる。
「…いや、最近は忙しくて屋敷に…帰る暇もない」
真剣な眼差しで彼の顔のチェックをする私を、呆然としながらも返事を返すハル様。
「はっ…すっすいませんっ、わっ…私ったら!」
パッと彼の顔から手を離して、寄りかかっていた身体も離した。大胆なことをしてしまい、きっと顔も真っ赤になっているのだろう。
「…いや」
そう言ってハル様は、百面相をする私を見て苦笑していた。
**************
ハル様の部下にも同僚だった人々にも挨拶をして、ほとんどの人は祝福をしてくださり、驚きで固まる人もいた。
「騎士団長もついに身を固めるのか」
「シュワルツ公爵令嬢、コイツがハメを外さないように監視しとくからさっ」
「いや、こんな奥様なら他所に目なんかいかねぇよ!」
「……お前ら」
ガハハと笑う彼の同僚もハル様の事をを想っていて、なんだか感動してしまった。そんな人達の前で不機嫌になるハル様も新鮮で面白かった。
真っ白な生地に銀色の花と黒の花の刺繍がなされた、ふくらはぎが半分隠れたプリンセスラインのワンピース、白い靴下と、黒いヒールの低い歩きやすい靴。ポニーテールで纏めた銀髪は、太陽光に反射してキラキラと宝石のように輝く。黒いイヤリングとネックレスを付け、シュワルツ家の玄関ホールで婚約者のハル様を待っている。
アリカのうしろには、一緒に出かける侍女のカルメンと執事とメイド達が並んでいる。
間もなく到着すると聞いてから、自分の部屋でソワソワしていたアリカは、到着の報告を待つのも疲れてしまったので、玄関ホールで出迎える事にしたのだ。
ーー今日はハル様と騎士団本部に行き、ハル様の同僚の方や部下の方たちへご挨拶に行く日だわ
騎士団長として指揮をとるトップに君臨するハル様を日頃から補佐する方々への挨拶をするのだ。また別の日に2人で城へと向かい国王陛下や大臣の方々へも挨拶に行く予定だ。
ドキドキと緊張するのは、別にご挨拶に行くからだけじゃない。ハル様とお会いするのが2週間ぶりで、久しぶりに持てる2人の時間が嬉しくもあるからなのだ。
「…お嬢様、お身体が冷えてしまいますわ」
と玄関ホールに着いてから玄関の扉を見つめ、あまりにも微動だにしないアリカを心配してカルメンが、アリカに声を掛ける。彼女の声に我に返ったアリカは、カルメンのいるうしろを振り向いた。
彼女の手にはアリカの上着とバスケットがあり、団長室で食べる予定の軽食が入っている。
彼と出会って、間もなく冬がやってくる。
ーー来年の今頃にはデーモン夫人と言われているわ
カルメンの持つ上着が私の視界に入り、ボボッと顔が熱くなってしまう。
ーーきっ…気が早いわっ、アリカ!デッデーモン夫人だなんてっっ!
赤くなっているであろう、それを隠すように両手で頬を挟み、カルメンに背を向ける。
1人悶絶している美しいお嬢様のうしろでは、執事達が微笑ましく、カルメンは大好きなお嬢様の心を惑わす憎き騎士団長に舌打ちをしてしまいそうな雰囲気だとも知らずに。
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「アリ、お待たせ」
騎士団の紋章がついた馬車が屋敷に入り、玄関先に到着するや否や御者が降りる前に馬車の扉が開き、中からデーモン騎士団長ーーハル様が降りる。
屋敷の門を通るとの知らせを受けて、彼を出迎えるため玄関先へと出たアリカの元へと足早にやってくるハル様。
「…っいいえ!」
久しぶりに会う凛々しいお顔と大きくて頼もしい身体のハル様を見て、嬉しくて声が詰まってしまう。
彼は私の前に跪き手を取ると、私の手の甲に触れるだけのキスを落とす。
「…冷たくなっているじゃないか」
と低く咎める声を聞いて、背後にいるメイド達はひっと小さな悲鳴をあげる。
「私がっ…私がハル様をっ…お出迎えしたいと言ったのでっきゃっ!」
使用人達は悪くないと言おうとして、身体に浮遊感が出てびっくりする。
「…なら、早く暖まろう」
そう言ったハル様の顔がすぐ近くにある事に気がついて、彼に横抱きに持ち上げられた事を知る。自然と彼の首に腕を回したアリカは、ハル様から漂うレモンの香りを胸いっぱいに吸い込み、ぼぅっと見惚れる。
「お嬢様、私はこの騎士団長様の馬車のうしろから付いていきますので」
「っ!えっ、ええ、わかりましたわ」
ハル様に見惚れてしまっていたために、カルメンへの返事が遅くなってしまったのである。
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「ハル様、目の下のクマが、ちゃんと身体を休めておりますか」
騎士団本部へと向かう馬車の中。
やっと2人きりになったので当たり前のように馬車の中も彼の膝の上に座り、身体を寄せた。私とは違う筋肉質の固い顔を両手で挟み、親指で目の下のクマをなぞる。
「…いや、最近は忙しくて屋敷に…帰る暇もない」
真剣な眼差しで彼の顔のチェックをする私を、呆然としながらも返事を返すハル様。
「はっ…すっすいませんっ、わっ…私ったら!」
パッと彼の顔から手を離して、寄りかかっていた身体も離した。大胆なことをしてしまい、きっと顔も真っ赤になっているのだろう。
「…いや」
そう言ってハル様は、百面相をする私を見て苦笑していた。
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ハル様の部下にも同僚だった人々にも挨拶をして、ほとんどの人は祝福をしてくださり、驚きで固まる人もいた。
「騎士団長もついに身を固めるのか」
「シュワルツ公爵令嬢、コイツがハメを外さないように監視しとくからさっ」
「いや、こんな奥様なら他所に目なんかいかねぇよ!」
「……お前ら」
ガハハと笑う彼の同僚もハル様の事をを想っていて、なんだか感動してしまった。そんな人達の前で不機嫌になるハル様も新鮮で面白かった。
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