上 下
23 / 40

しおりを挟む
ハル様のお屋敷にお邪魔してから数ヶ月が経った。
ひと月に2回ほど夜会へと誘われ、少し顔を出したらハル様のお屋敷に行って2人きりの時間を楽しむ。
一度だけハル様のお屋敷にいる時に、騎士団からの呼び出しで御者のみで帰った事もあったが、ほぼハル様が私を屋敷まで送ってくださる。

ーー本当はもう少し会いたい

本音を言えば、会う頻度も時間も全く足りない。いつも会えない時間を埋めるように、口数も少なくなって身体を寄せていた。
そんな事を思っていた罰なのか、私を取り巻く噂が社交界へと流れ始めていた。



アリカ・シュワルツ公爵令嬢は、騎士団長のお気に入りとなっている。





*******************



「アリカ様、今度の夜会…あっ、騎士団長様といらっしゃるのですか?」
「公爵令嬢なのですから、婚約されてない方と2人きりになるなんて…」
「はっきりと立場を表明しない殿方など、大事にされていませんわよ」
「少し…年上すぎませんか」

ユルア令嬢に呼ばれて行ったお茶会で、夜会でよく会うご令嬢達に情け容赦なく言われる言葉に、頭が真っ白になり何も言い返せない。
ユルア令嬢はただ静かにお茶を飲み、ご令嬢達の会話を聞いている。

ーー私…やっぱりダメじゃない

最初の頃はハル様と過ごす時間は彼の事しか考えられず、他の事などどうでもよかったのに…最近では、ふと1人で屋敷にいる時に感じる焦燥感、本当にこのままでいいのか…不安に押し潰されてしまいそうになる。
そんな私にトドメを刺すようなご令嬢達の言葉。
彼女達に弱気な所など見せたら、あっという間に社交界へと広がってしまう。そうなったら…成人したばかりの令嬢を誑かす騎士団長

ーーハル様にも迷惑が掛かってしまうわ

そんな事を思っていたら、黙っていてつまらないと私に興味を無くしたご令嬢達は他の話題に移っていった。





「アリカ様、人は噂話が好きなので…気をつけてください」
「…ユルア様」

お茶会も終わり馬車に乗って帰っていく令嬢を見送るユルア様は、隣に並んでいた私にコソッと告げた。

「大臣の娘ってだけで、一挙一動注目されてますから…軽率な行動は慎んだほうがよろしいですわ」
「…はい」

柔らかな口調で嗜められると、明け透けに言われるよりも心に重くのし掛かりキツい。しょんぼりと落ち込んでいると、シュワルツ家の馬車が私の目の前に止まり、御者が馬車の扉を開けたので歩き始めた。

「ユルア様、本日はお招きいただきありがとうございました…私…気をつけますわ」

スカートの裾を少し上げて軽くカーテシーをして、別れの挨拶をした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

獣人公爵のエスコート

ざっく
恋愛
デビューの日、城に着いたが、会場に入れてもらえず、別室に通されたフィディア。エスコート役が来ると言うが、心当たりがない。 将軍閣下は、番を見つけて興奮していた。すぐに他の男からの視線が無い場所へ、移動してもらうべく、副官に命令した。 軽いすれ違いです。 書籍化していただくことになりました!それに伴い、11月10日に削除いたします。

可愛すぎてつらい

羽鳥むぅ
恋愛
無表情で無口な「氷伯爵」と呼ばれているフレッドに嫁いできたチェルシーは彼との関係を諦めている。 初めは仲良くできるよう努めていたが、素っ気ない態度に諦めたのだ。それからは特に不満も楽しみもない淡々とした日々を過ごす。 初恋も知らないチェルシーはいつか誰かと恋愛したい。それは相手はフレッドでなくても構わない。どうせ彼もチェルシーのことなんてなんとも思っていないのだから。 しかしある日、拾ったメモを見て彼の新しい一面を知りたくなってしまう。 *** なんちゃって西洋風です。実際の西洋の時代背景や生活様式とは異なることがあります。ご容赦ください。 ムーンさんでも同じものを投稿しています。

悪役令嬢はゲームのシナリオに貢献できない

みつき怜
恋愛
気がつくと見知らぬ男たちに囲まれていた。 王子様と婚約解消...?はい、是非。 記憶を失くした悪役令嬢と攻略対象のお話です。 2022/9/18 HOT女性向けランキング1位に載せていただきました。ありがとうございます。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

辺境の侯爵家に嫁いだ引きこもり令嬢は愛される

狭山雪菜
恋愛
ソフィア・ヒルは、病弱だったために社交界デビューもすませておらず、引きこもり生活を送っていた。 ある時ソフィアに舞い降りたのは、キース・ムール侯爵との縁談の話。 ソフィアの状況を見て、嫁に来いと言う話に興味をそそられ、馬車で5日間かけて彼の元へと向かうとーー この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。また、短編集〜リクエストと30日記念〜でも、続編を収録してます。

コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~

二階堂まや
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。 彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。 そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。 幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。 そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?

国王陛下は愛する幼馴染との距離をつめられない

迷い人
恋愛
20歳になっても未だ婚約者どころか恋人すらいない国王ダリオ。 「陛下は、同性しか愛せないのでは?」 そんな噂が世間に広がるが、王宮にいる全ての人間、貴族と呼ばれる人間達は真実を知っていた。 ダリオが、幼馴染で、学友で、秘書で、護衛どころか暗殺までしちゃう、自称お姉ちゃんな公爵令嬢ヨナのことが幼い頃から好きだと言うことを。

処理中です...