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寡黙な騎士団長3

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ーーやっと見つけた

あの仮面舞踏会から数週間、すぐに見つかるだろうと踏んでいた俺の心を奪ったアリ。
舞踏会の同伴者もわからぬまま、いくら主催者を締め上げても分からなかった美しい少女は、今目の前にいる。

「騎士団長様はお仕事でしたのですね」
「…ああ、そうです」

実は部下のミックにあの舞踏会の成人していない出席者の名を片っ端から集める様にと指示していたために、恒例行事の晩餐会に遅れたなどと素直に言えずに濁した。
誘拐事件は解決したものの、まだ国王陛下が憂いている他の事件は解決していなく、アリの件もあり不眠不休の日々を過ごしていた。
しかし、もう一つは解決した。そうアリが俺の横で歩いているんだ。俺の手と小さくて折れそうな手が重なっていて、この手を離したくないと強く思う。
この時が永遠に続いて欲しいと思う反面、彼女を独り占めしたいと思う気持ちがぶつかる。
小さな頭に歩くたびに揺れる髪が、ぴょこぴょこと跳ねて愛しい思いが積もる。
そんな事を考えていると、晩餐会の会場に着いたらしく、扉の前で俺たちの前を先導していた執事とは違う他の壮年の執事が待っていた。

「デーモン騎士団長様、お待ちしておりました」

白髪の執事は洗礼された動作で一礼すると、扉を開いた。



************************



晩餐会は表面上問題なく終わった。財務大臣のシュワルツ公爵は俺たちを見送るために、玄関先まで一緒に歩く。
晩餐会の大広間で軽く挨拶をして、居なくなったアリを思いながら長い廊下を過ぎる。

ーーそういえば…到着した際に視線を感じ見上げた時に、誰かと目があった気がしたが…彼女だったのか

しかし先程彼女と並んで歩いた時は、俺に気がついた気配を感じなかった気がした。
もう少し近づきたい…が、シュワルツ公爵家の長女だ。下手な事をして公爵家当主の機嫌を損ねたら、それこそ一生そばに近寄る事すら出来なくなるだろう。

「では、お気をつけてお帰りください」

アリと雰囲気が似ている公爵夫人がそう告げると、玄関前に並んだ送迎の馬車に大臣が乗り込んでいく。
一番最後に来た俺は最後に馬屋に行って自分の愛馬を受け取る予定だが、とりあえず大臣を見送ってからにしようとシュワルツ公爵当主の横に立つ。

「…本当に図体が大きく羨ましい限りだ」

ボソリと聞こえた公爵当主の呟きに、俺は無視を決め込んだ。別に嫌味を言う訳でもなく、ただ事実を述べている感じの公爵当主に何を返せばいいのかわからなかったからだ。

「騎士団長殿、貴殿は先日の誘拐事件を解決し迅速な指示で民の信頼を勝ち取ったらしいな」
「勿体ないお言葉ありがたく頂戴します」

先日の誘拐事件は、アリとの時間を邪魔されイライラしていたので、半ば八つ当たりの様に犯人を締め上げたのはいい思い出と、評判が上がっていい副作用が生まれた。

「それで…息子のロータスが君に憧れていてな、騎士団に入団すると聞かないんだ…そこで騎士団員の厳しさを教えてあげて欲しいと思う…特別に稽古をつけてもらう事は可能だろうか」
「ご子息を稽古に…ですか、私でよろしければ」
「うむ、君以上の適任者はいないだろう…何とぞ息子の目を覚ましてくれ」

シュワルツ公爵当主は息子が騎士団に入団するのを反対しているのか、と疑問が顔に出たのか、俺の顔を見てシュワルツ公爵当主は苦笑した。

「騎士団をどうこうじゃないんだ、後継者の息子を心配する親バカの戯れ言だと思って気にしないでくれ」



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