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寡黙な騎士団長1
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『このテクニエノコ王国に繁栄と栄光を!』
テクニエノコ王国の国王陛下が、謁見の間に登場し一斉に頭を下げ首を垂れる。この謁見の間には各省大臣とその護衛兵、大きな扉の前を警備する騎士団員、そしてこのテクニエノコ王国騎士団副団長ミック、数人の新人事務官と、私ーーハルモンド・デーモン。騎士団長としてこのテクニエノコ王国に忠誠を誓った身だ。
真っ白な城の内部にテクニエノコ王国を表す獅子の紋章の赤い垂れ幕が、玉座の背後の両側に掲げている。謁見の間の入り口から玉座まで繋ぐ赤い絨毯の上で横並びになった集められた俺たちは、決められた場所に並んで床に片膝をついていた。
「騎士団長、この集まりは何ですか?」
こそっと俺に声を掛け、緊急招集された大物ばかりの人物達の登場に圧倒された新人の事務官に、ため息を吐くのをグッと堪えた。
「…今日は国王陛下から招集されたのは、おそらく多発している誘拐事件の件だろう…」
「へーそうなんすね」
ふーんと、場違いな相槌をうつ事務官の首根っこ掴んで放り投げ出したくなるのを、拳を握り我慢する。そんな俺の変化に目敏く察知した副団長のミックは、
「…ライン事務官、静粛に」
と注意を促す。事務官は肩をすくめると、視線を王座に戻した。
ーーこの事務官は事前に調べることもしないのか
そんな思いをしながらも、王座に座る国王陛下に俺も視線を向けた。
**********************
「しかしながら、今日も平和だなー」
騎士団本部に戻った俺たちは、不在の時の報告を受け終わっていた。報告に来た部下も新人の事務官も居なくなると、ミックと2人きりになり、ソファーで伸びを始めた。
「ココは団長室だが?」
テーブルを挟んだ向かいにいるミックをギロッと睨むと、かつての戦友は俺の睨みにも怯むことなく目を閉じて脚を組む。
「まぁいいじゃん、たまには息抜きをしないとね」
鼻歌でもはじまりそうなミックに、何かいい事が起きたと察した。
「えらいご機嫌だな、なんかあったのか」
俺の問いかけに、待ってましたと言わんばかりに組んでいた足を下ろし身を乗り出したミックは、嬉しそうに口を開いた。
「今度の夜会はあのユルア・ムーゲル公爵令嬢が出るらしいんだ」
「…成人したばかりのムーゲル公爵家の?」
「そう!あの社交場でアリカ・シュワルツ公爵令嬢と二分した人気を持つ!あのユルア令嬢だ!」
美丈夫とミック副団長ファンクラブもある名高い男が、頬を染めてうっとりと目を細める。
「……お前の言う夜会って…よく行っている」
「そう!仮面舞踏会だよ!ぜひハルにも見せたいよ!絶世の美女を!もちろん、アリカ令嬢も大変美しかったが俺は断然!ユルア令嬢だよ」
あの時は俺は溜まりまくっていた事務処理を監視付きで執務室に篭っていて、警護責任者として職務にあたったのはこのミックだと思い出した。
「…仮面舞踏会なのに、出席者が知られているとは、な」
ミックの浮かれ具合に呆れ半分、セキュリティの面での心配も半分、どうでも良くてユルア令嬢の素晴らしさを語るミックのテンションに適当に、そうかそうかと相槌をうつ。
「そうだっ!ハルも一緒に夜会に出席しないか!参加の仮面手配するからさ」
そうかとまた頷きかけて、ハッとした。
「何故俺が出る必要がある」
馬鹿なことをいうなと言うと、ミックは俺はいい事を言ったと顔を綻ばせる。
「そうだよ!君はいい加減身を固めないとダメだし…君!最後に女性と話したのはいつだい?」
「………つい先日ミーア嬢と話した」
「…ミーア嬢って食堂のおばあちゃんじゃないか」
女は女だ!と言いたいのを我慢し、本気で心配する俺よりも5歳年下のミックと目があった。
「もう32歳…だろ?」
これ以上反論したら、口で勝てた試しがない俺は早々に白旗をあげた。
「……考えとく」
そうは言ったが、どうせ仮面舞踏会当日に連れ出されるだろうと、ミックに見えないところでため息をついた。
テクニエノコ王国の国王陛下が、謁見の間に登場し一斉に頭を下げ首を垂れる。この謁見の間には各省大臣とその護衛兵、大きな扉の前を警備する騎士団員、そしてこのテクニエノコ王国騎士団副団長ミック、数人の新人事務官と、私ーーハルモンド・デーモン。騎士団長としてこのテクニエノコ王国に忠誠を誓った身だ。
真っ白な城の内部にテクニエノコ王国を表す獅子の紋章の赤い垂れ幕が、玉座の背後の両側に掲げている。謁見の間の入り口から玉座まで繋ぐ赤い絨毯の上で横並びになった集められた俺たちは、決められた場所に並んで床に片膝をついていた。
「騎士団長、この集まりは何ですか?」
こそっと俺に声を掛け、緊急招集された大物ばかりの人物達の登場に圧倒された新人の事務官に、ため息を吐くのをグッと堪えた。
「…今日は国王陛下から招集されたのは、おそらく多発している誘拐事件の件だろう…」
「へーそうなんすね」
ふーんと、場違いな相槌をうつ事務官の首根っこ掴んで放り投げ出したくなるのを、拳を握り我慢する。そんな俺の変化に目敏く察知した副団長のミックは、
「…ライン事務官、静粛に」
と注意を促す。事務官は肩をすくめると、視線を王座に戻した。
ーーこの事務官は事前に調べることもしないのか
そんな思いをしながらも、王座に座る国王陛下に俺も視線を向けた。
**********************
「しかしながら、今日も平和だなー」
騎士団本部に戻った俺たちは、不在の時の報告を受け終わっていた。報告に来た部下も新人の事務官も居なくなると、ミックと2人きりになり、ソファーで伸びを始めた。
「ココは団長室だが?」
テーブルを挟んだ向かいにいるミックをギロッと睨むと、かつての戦友は俺の睨みにも怯むことなく目を閉じて脚を組む。
「まぁいいじゃん、たまには息抜きをしないとね」
鼻歌でもはじまりそうなミックに、何かいい事が起きたと察した。
「えらいご機嫌だな、なんかあったのか」
俺の問いかけに、待ってましたと言わんばかりに組んでいた足を下ろし身を乗り出したミックは、嬉しそうに口を開いた。
「今度の夜会はあのユルア・ムーゲル公爵令嬢が出るらしいんだ」
「…成人したばかりのムーゲル公爵家の?」
「そう!あの社交場でアリカ・シュワルツ公爵令嬢と二分した人気を持つ!あのユルア令嬢だ!」
美丈夫とミック副団長ファンクラブもある名高い男が、頬を染めてうっとりと目を細める。
「……お前の言う夜会って…よく行っている」
「そう!仮面舞踏会だよ!ぜひハルにも見せたいよ!絶世の美女を!もちろん、アリカ令嬢も大変美しかったが俺は断然!ユルア令嬢だよ」
あの時は俺は溜まりまくっていた事務処理を監視付きで執務室に篭っていて、警護責任者として職務にあたったのはこのミックだと思い出した。
「…仮面舞踏会なのに、出席者が知られているとは、な」
ミックの浮かれ具合に呆れ半分、セキュリティの面での心配も半分、どうでも良くてユルア令嬢の素晴らしさを語るミックのテンションに適当に、そうかそうかと相槌をうつ。
「そうだっ!ハルも一緒に夜会に出席しないか!参加の仮面手配するからさ」
そうかとまた頷きかけて、ハッとした。
「何故俺が出る必要がある」
馬鹿なことをいうなと言うと、ミックは俺はいい事を言ったと顔を綻ばせる。
「そうだよ!君はいい加減身を固めないとダメだし…君!最後に女性と話したのはいつだい?」
「………つい先日ミーア嬢と話した」
「…ミーア嬢って食堂のおばあちゃんじゃないか」
女は女だ!と言いたいのを我慢し、本気で心配する俺よりも5歳年下のミックと目があった。
「もう32歳…だろ?」
これ以上反論したら、口で勝てた試しがない俺は早々に白旗をあげた。
「……考えとく」
そうは言ったが、どうせ仮面舞踏会当日に連れ出されるだろうと、ミックに見えないところでため息をついた。
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