強面騎士団長と転生皇女の物語

狭山雪菜

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逢瀬

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静養という名の自分の部屋から軟禁状態となって早3週間。
結婚先でサーシャに付いていた侍女も、城から元の屋敷へと帰された。



「「皇女様、おやすみなさいませ」」
「おやすみ」
ベッドの上で、寝る前の本を読むサーシャに、初日から相変わらず皇女に仕える侍女2人は、挨拶をしてサーシャの部屋から出て行ってしまった。
しばらくしてシンと静かになった部屋で、パタンと本を閉じると、ベッドの横にあるナイトテーブルのランプのそばに本を置いた。
足に掛かった布団を捲り、室内用のスリッパを履いて部屋のカーテンで閉まっている窓へと向かった。少しだけカーテンをズラすと、窓の外に大きな影が出来ていて、外の景色が見れなくて暗くなっている。音を立てないように窓を開けると、無言でその影がサーシャの部屋に身体を滑り込ませる。
静かに窓を閉めると、自然とカーテンも閉まり、薄暗い部屋となる。
「っ!」
「…っ様っ」
ぎゅうっと影に抱きつくと、その影も私を抱きしめ返してくれる。ぎゅうぎゅうと力強く抱きしめられ、懐かしい匂いと力と固い身体に、涙が溢れそうになる。
「…あと、少しだ…そうすればっ」
「はい、はいっ!」
小声で喋る影は、サーシャの夫のトラヴィ様だ。


***************


スミレが来た日、彼女にあるメッセージカードを託した。それは、トラヴィ様としていた手紙のやりとりで、
『父を説得します トラヴィ様愛してます』
と送ったのだが、実際部屋から出る事も出来なくて心が折れそうになっていた。
そして、スミレが王城を日に何度も行き来出来るはずもなく、身体検査もされるだろうから短い文の小さなカードしか渡せなかったのだ。
スミレにカードを渡した次の日の夜、部屋のバルコニーから侵入したトラヴィ様は、私を抱きしめ愛を囁いた。
「愛してる、サーシャ」
「トラヴィ様、危険ですわ…もし見つかったらっ!」
「この警備体制は頭に入ってる、心配するな」
そう言って、書類不備のため婚姻解消の手続きを止めているらしく、まだ婚姻解消のお触れも出されていない。
部屋から出られないと告げると、彼は私を安心させるために、寄せていた眉を元に戻し柔らかく微笑んだ。
「今、解決策がないか…模索している」
「はい…信じて待ってます」
私の頬に手のひらを添えられたので、上がっていた彼の腕を掴み自分の頬を押しつけた。


***************


それがつい3週間前の出来事で、トラヴィ様は毎晩やって来てくださった。そしてーー


「ッ、ッ!」
彼が来てすぐに着ていた物を全て脱ぎ捨て、彼との濃厚な時間が始まった。声が出てしまわないように、シーツに顔を埋めたり噛んだりして、トラヴィ様の熱を受け止めた。お布団に包まり急な来訪者にも対応出来る様に、お互いの身体を隠して。


ーー最初は、本当ただ顔を見れば良かった
抱きしめられ彼の腕を中にいるだけで、彼とのキスだけで、と彼が来るたびに、どんどん触れたい欲求とそれだけじゃ満足出来なくなって渇望感が日に日に増えていた。
それもそうだ、2人はこうして離れ離れになる前はほぼ身体を重ねていたから、突然終わった蜜月に身体も頭もまだついて来れていないのだ。

「っ、はっ、っ」
噛んだり吸ったりして私の身体に跡が残らないように、背後からが多い情事で私の肩に額を押し当て、短い吐息を出すトラヴィ様。シーツに顔を埋めている私には彼の顔も見れないけど、吐息が背中に掛かるとゾクゾクとして快感となる。
「っ…つ、んんっ」
ギュッとシーツを握りしめ、強張る身体は絶頂に達したという証。すぐに蜜壺に注がれた熱い液体は、勢いよく放出されほどなくして蜜壺がいっぱいになった。

僅かな貴重な時間を無駄にする事なく、私の身体を軽く綺麗にしたトラヴィ様は、まだベッドで横になっている私のそばに近寄り腰掛けた。
私が手を伸ばすと、彼は手のひらを合わせて指を曲げた。自分の口元へ寄せると、私の指先に軽くキスをする。
「…知ってました?もう貴方が居ない人生など考えられないって」
彼を心配させないように、微笑むと
「…っ…そんなの…俺だって…そうだ、ずっと」
眉を寄せて悔しそうに、または泣きそうになっているトラヴィ様は苦しそうだ。
「もう、間もなく…もう間もなく以前の…生活に戻しますので」
ズキッと心が痛くなって、反対に私が泣きそうになる。
「…そう…貴方を失いたくない…トラヴィ様がそばに居なかったら…私も」
その先は言わせては、くれなかった。口を塞がれ熱い口づけを受けていたから。

ーー私が生きる意味…は、トラヴィ様だもの


目が覚めたら屋敷ではない事を知り、絶望する。もちろんトラヴィ様もすでに居ない。今の・・サーシャでは、この部屋に馴染がなくて居心地が悪い。
いつからか、彼に惹かれていた。それは私が目を覚ました時に彼が私を抱き上げてくれた時かもしれないし、彼と初めて出かけた時かもしれないし、夕飯を一緒に食べた時かもしれないし、浮気している…と思った時にはもう自覚していた。
ーーサーシャは本当に馬鹿だ…こんな素敵な人を拒絶するなんて、優しくて…頼もしくて…別れたくない
ゲームの中と言っても、もうエンディングは終わっているはずだ。この後の展開なんて知らないし、皇族としての役割なんてよく分からない、けど
ーー彼がそばに居てくれないと、息もうまく出来ない
サーシャは元から無鉄砲な弟の事を溺愛していたのに、親から結婚を言われ…裏切られたと感じていたのか。目が覚めてトラヴィ様に愛されて、彼の愛に包まれているうちに、当たり前になっていた。
ーートラヴィ様がそばにいる事を
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