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誤解2
しおりを挟むまるで騎士に忠誠を誓われているような、そんな錯覚を起こしてしまう。
ーートラヴィ様…素敵…カッコいい
私の手をそっと触れているトラヴィ様に、うっとりと見つめていたら、コホンとスミレが咳払いをした。
「奥様、今はご主人様に見惚れている場合じゃありません」
直接嗜められ、ハッと気がついた。
「そっ、そうよねっ!トラヴィ様!正直に言ってくださいませ!この部屋で密会しているご令嬢はどこの家の方ですかっ!」
彼の指先をギュッと握り、私の手から離れないようにしておいて、少しだけ上体を前に倒すとトラヴィ様の顔に近づいた。ギョッと驚いた彼がうしろへと倒れるが、私が掴んだ手を無理に離そうとしなかった。
「密会?何故そんな話に?」
「休日の度にこちらに来ている事は、ロヨにも確認が取れてます!ええ、分かってますわ望まぬ結婚にトラヴィ様は」
「望まぬ結婚…?誰がそんな戯言を」
密会の件で問い詰めているのに、突然始めて聞く低音で唸り声を上げたトラヴィ様にびっくりして固まってしまう。
「…スミレ」
「はっ」
「サーシャに接触した人物をリストにしろ」
「はっ」
私をじっと見つめたまま、スミレに指示を出すトラヴィ様。元部下だからか条件反射か背筋を伸ばすスミレ。いつもはにこにこと笑顔の絶えない優しいスミレが緊張して、それが伝わってピリピリとした重い空気となってしまった室内。
「ちっ違いますわっ!それは…私が勝手にっ、ああっ!もうっ!」
なんだか空回りしている気がして、左手を伸ばしトラヴィ様の右頬に触れた。目を見開き驚く彼の表情を見て、今日でこの表情を見るのは2回目だと嬉しくなる。
ーーちょっと驚いた表情が可愛いな…ドキドキしちゃう
「…サーシャ…?」
「望まぬ結婚…は、そうでしょう…だって国王陛下から命令されたら断れないじゃないですか…それに…結婚式当日に」
「サーシャ、君は何か誤解をしている」
彼の頬に触れている私の手を、上から自分の手を重ねるトラヴィ様。そんな彼がさらに何か言う前に私は首を横に振った。
「密会…されるのは嫌です…トラヴィ様の気持ちが私にないなら…嫌ですが…でもっ…でも、私は自分のものを他の人と共有できる程心が広くないですわ」
「…自分のもの…?サーシャそれは…」
「お慕いしております、トラヴィ様…他の女性を好きにならないで下さい」
我慢しようと思っていた涙が溢れて、耐えきれずポロポロと涙が零れた。トラヴィ様は右手を伸ばし私の頬に流れる涙を拭う。親指の腹で何度か拭ってはいたが、止め処なく溢れる涙に彼の指先が濡れてしまうだけだった。トラヴィ様は両膝を付き膝立ちとなると、私の両頬を両手で挟み唇を寄せると、今度は涙を吸い取る。両目から流れる涙を順に彼の唇の中へと消えていく。彼の触れる箇所から熱が生まれたように熱くなり、次第に気分が落ち着いていく。
閉じていた瞼を開けて、目の前にいるトラヴィ様を見上げると、彼の顔が近くにあり視線が絡んで見つめ合う。
「トラヴィ様…っ」
彼の名を呼ぶとすぐに口を塞がれ、呼吸をする間もくれずに彼の舌が傍若無人に私の口内を貪る。久しぶりに感じる彼からの情熱的な口づけにすぐに夢中になり、彼の首のうしろへと腕を回し抱きつく。顔の角度を何度も何度も変えては、決して終わる気配のないキスに溺れてしまう。彼の手が私の背と腰に回ると、片膝を立てた彼の足の上へと横抱きに座り、ぴたりと密着する上半身。
「ん、っ、っ」
少しだけ口から甘い声が漏れて、最後にとキツく舌を吸われ名残惜しく離れた彼の唇を、未練たらしく目で追いかけてしまう。
「スミレ、呼ぶまで部屋に入るな…誰も、分かるな」
「…かしこまりました…対処はお任せください」
まだスミレが居たと、また思い出した私は頬が赤くなり、彼女の顔が見れなくて彼の首に抱きついて顔を隠した。
「もう誰も居ないよ」
耳元で聞こえた彼の声、そっとこめかみにキスをされ耳の下を彼の舌が這う。首筋に移動した彼の舌が這い、すぐに強く吸われチクリと痛みが出る。肩に向かって下りていく彼の頭を片手で抱きしめて瞼を閉じると、彼の手が私の脇腹から腰までを行ったり来たり撫でる。街に出たためトラヴィ様や他の人にバレないように、白いブラウスとダークブラウンのロングスカートの上に薄手のフード付きマントを羽織っただけのシンプルな装いだったのだけど、
「こんな目を引く格好をして誘拐でもされたらどうする」
耳に直接吹き込まれる彼の吐息と低い声に胸が熱くなり、声がうわずってしまう。
「んっ…っそんなっ…目立たないようっ…にっスミレがっ」
「今度からもう少し護衛をつける」
そう言って私の首筋に再び舌を這わし、甘噛みを始めたトラヴィ様の肩に手を置いた。なんだかこのまま終わりそうにない雰囲気が漂い、ちゅうちゅうと吸われた首筋に反応して肩が上がると、トラヴィ様の顔が上がり私と視線が絡まった。
「…このまま…するの…ですか?」
「いやか…?」
すぐ目の前にある彼の唇を自分から重ねると、トラヴィ様の目元がフッと和らいだ。頭の中では、嫌じゃない、嬉しい、と言葉が浮かぶのに、口がくっついてしまったかのように、固く閉ざされ動かない。彼の頬を両手で挟み自分からまた重ねると、彼の上唇を喰み下唇も喰むと私を抱いたまま立ち上がったトラヴィ様が、私をベッドの上に押し倒して覆いかぶさった。
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