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皇女の夫2
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ーーきっと彼女は…俺の喜びを理解していない…と思う
帰る足取りも軽く、事務処理ばかりしていた仕事も切り上げるようになり、彼女の待つ屋敷へと戻る。
寄り道などせずまっすぐ、御者もそれを分かっているのか馬車を走らせる速度は、朝の騎士団本部へと向かう時とは違い断然に速い。
初めて2人でーーと言っても念のために遠くから彼女を護衛する人員を配置させていたがーー街へ出かけてから、彼女との距離が近くなった。ころころと変わる表情と、キラキラとした瞳で真っ直ぐ俺と視線を合わせ話す姿に、何度込み上げてくる喜びを叫びたかったことか。
彼女の唇に触れた時なんかは、すれ違った時に感じる仄かな香りではなく、身近に感じる彼女の匂いに頭が沸騰し熱を持った。
あの外出の件以降、毎朝毎晩彼女と一緒に起きては眠る至福の時間が始まった。
ーーなんなら、キスもするようになった
飽きる事なく眠る彼女の寝顔を見て幸せを実感し、彼女が起きる気配がすると、寝たふりをして
「トラヴィ様、時間ですわ」
と鈴の音のように愛らしい声に起こしてもらうのが、日課となっている。
朝起きて少し話をして唇を重ねて、彼女が着替えるのを手伝ってくれ、彼女の支度の準備も済ませたら、2人で朝食を摂りそのまま玄関先まで見送ってくれる。
みんなの目があるから、と見送る際の挨拶のキスは照れて俺の頬にキスをする彼女の唇を奪いたい衝動を抑えるのを毎回苦労するが…
そんな俺たちの仲睦まじい姿に執事のロヨや使用人達は、微笑ましく見守ってくれている。
**************
「おかえりなさいませ、トラヴィ様」
今日も俺の愛しい妻ーーサーシャが、俺の帰宅の知らせを受けたのか、玄関先で朝と同じ動きやすい簡易なドレスを身に纏っていた。
「ただいま、サーシャ」
挨拶をした彼女は両手をお腹の前に合わせていた。俺は彼女のそばに寄り、優しく抱きしめると緊張していたのか、力が入り固くなっていた身体がふにゃりと柔らかくなって俺にもたれた。執事達から隠すように大きな身体で、彼女の腰に手を添えると、周りをチラチラと見て、彼女の方から執事達が見えないと分かると、踵を上げて俺の頬へと触れるだけの淡いキスをされた。
「おかえりなさい」
そう小声で告げる声は俺にしか聞こえないが、毎日帰宅のたびにこのやりとりをしているので、屋敷の者も気がついているのだろう。俺のうしろで息を呑む使用人達に気が付かないサーシャは、頬を染めていた。
「今日は、この間一緒に出かけた時に食べた料理を作っていただきましたので、お口に合うといいです」
彼女が目覚めてから半年が経とうとしていた。初めて2人で出かけた時から、時折こうして2人で食べた屋台の食べ物の味付けを真似ては、夕飯の食卓に並ぶ。もう少し味が濃かった気がするとか、あーだ、こーだいいながら食べる食事は、思いの外楽しくて、一人で済ませていた食事にも楽しみが出てきた。
お互い夫婦としてやっていこうと、決めた時から始まった一緒に食事をする時間。お互いを知るために過ごす時間がぐんと増えて嬉しい反面、幻滅されたらどうしようと、女々しい気持ちも現れ出していた。彼女がリハビリをしていた時は、報告を聞いてこっそり覗くくらいしか出来ない自分に、歯痒い思いばかりしていたーーが、今こうして彼女と過ごしていると、キツかった眼差しも柔らかくなったと部下達にも、ちょくちょく言われ始めている。
「こちらです、トラヴィ様」
と彼女に手を引かれ、一緒に食事を摂る食堂へと向かう。執事のロヨが先頭に移り、彼のあとに2人で並んで続く。
今日あった事、感じた事を告げる彼女の話を聞いていると、あっという間に食堂に到着してしまった。
そのまま彼女をいつも座る席へと座らせると、斜め横の席の上座へと座り食事が運ばれ始めた。
**************
「んっ」
小さな声は俺が舌を彼女の口内へと入ると、消えてしまった。夜着に着替えた俺たちは使用人を下がらせて、しばらくしてからいつもの寝る前の夜の儀式を始めた。
啄むように何度か唇を触れ合うと、舌を絡めたキスへと変わる。ついつい執拗に彼女の唇を求めてしまうのも、仕方がない事だった。
ーーやっと…彼女を感じれる
溢れる想いを彼女にぶつけたい気持ちと、慎重に動きたい気持ちが頭の中をぐるぐると駆け巡り、結局行き着く先はとりあえず口づけに想いをぶつける。
一生懸命俺の舌に自分の舌を絡めようと、動く彼女が愛おしい。
ちゅうっ、と名残惜しく離れる頃には、彼女の息も上がりきっていて、俺の腕の服を握っていた。
「っ…あっ」
彼女の甘い声に頭が沸騰して、どうにでもなりそうになる。
いやいや手を出せないと、頭の中の煩悩を追いやり、2人の唾液で濡れた彼女の唇を親指の腹で拭った。
「おやすみ」
「…はい、おやすみ…なさい」
掠れた彼女の声を出す小さくて可愛い口を俺の口で塞ぎたかったのだが、口づけだけじゃ終わらないと確信している俺は、彼女と眠るベッドを軽く整え横になって電気を消した。
帰る足取りも軽く、事務処理ばかりしていた仕事も切り上げるようになり、彼女の待つ屋敷へと戻る。
寄り道などせずまっすぐ、御者もそれを分かっているのか馬車を走らせる速度は、朝の騎士団本部へと向かう時とは違い断然に速い。
初めて2人でーーと言っても念のために遠くから彼女を護衛する人員を配置させていたがーー街へ出かけてから、彼女との距離が近くなった。ころころと変わる表情と、キラキラとした瞳で真っ直ぐ俺と視線を合わせ話す姿に、何度込み上げてくる喜びを叫びたかったことか。
彼女の唇に触れた時なんかは、すれ違った時に感じる仄かな香りではなく、身近に感じる彼女の匂いに頭が沸騰し熱を持った。
あの外出の件以降、毎朝毎晩彼女と一緒に起きては眠る至福の時間が始まった。
ーーなんなら、キスもするようになった
飽きる事なく眠る彼女の寝顔を見て幸せを実感し、彼女が起きる気配がすると、寝たふりをして
「トラヴィ様、時間ですわ」
と鈴の音のように愛らしい声に起こしてもらうのが、日課となっている。
朝起きて少し話をして唇を重ねて、彼女が着替えるのを手伝ってくれ、彼女の支度の準備も済ませたら、2人で朝食を摂りそのまま玄関先まで見送ってくれる。
みんなの目があるから、と見送る際の挨拶のキスは照れて俺の頬にキスをする彼女の唇を奪いたい衝動を抑えるのを毎回苦労するが…
そんな俺たちの仲睦まじい姿に執事のロヨや使用人達は、微笑ましく見守ってくれている。
**************
「おかえりなさいませ、トラヴィ様」
今日も俺の愛しい妻ーーサーシャが、俺の帰宅の知らせを受けたのか、玄関先で朝と同じ動きやすい簡易なドレスを身に纏っていた。
「ただいま、サーシャ」
挨拶をした彼女は両手をお腹の前に合わせていた。俺は彼女のそばに寄り、優しく抱きしめると緊張していたのか、力が入り固くなっていた身体がふにゃりと柔らかくなって俺にもたれた。執事達から隠すように大きな身体で、彼女の腰に手を添えると、周りをチラチラと見て、彼女の方から執事達が見えないと分かると、踵を上げて俺の頬へと触れるだけの淡いキスをされた。
「おかえりなさい」
そう小声で告げる声は俺にしか聞こえないが、毎日帰宅のたびにこのやりとりをしているので、屋敷の者も気がついているのだろう。俺のうしろで息を呑む使用人達に気が付かないサーシャは、頬を染めていた。
「今日は、この間一緒に出かけた時に食べた料理を作っていただきましたので、お口に合うといいです」
彼女が目覚めてから半年が経とうとしていた。初めて2人で出かけた時から、時折こうして2人で食べた屋台の食べ物の味付けを真似ては、夕飯の食卓に並ぶ。もう少し味が濃かった気がするとか、あーだ、こーだいいながら食べる食事は、思いの外楽しくて、一人で済ませていた食事にも楽しみが出てきた。
お互い夫婦としてやっていこうと、決めた時から始まった一緒に食事をする時間。お互いを知るために過ごす時間がぐんと増えて嬉しい反面、幻滅されたらどうしようと、女々しい気持ちも現れ出していた。彼女がリハビリをしていた時は、報告を聞いてこっそり覗くくらいしか出来ない自分に、歯痒い思いばかりしていたーーが、今こうして彼女と過ごしていると、キツかった眼差しも柔らかくなったと部下達にも、ちょくちょく言われ始めている。
「こちらです、トラヴィ様」
と彼女に手を引かれ、一緒に食事を摂る食堂へと向かう。執事のロヨが先頭に移り、彼のあとに2人で並んで続く。
今日あった事、感じた事を告げる彼女の話を聞いていると、あっという間に食堂に到着してしまった。
そのまま彼女をいつも座る席へと座らせると、斜め横の席の上座へと座り食事が運ばれ始めた。
**************
「んっ」
小さな声は俺が舌を彼女の口内へと入ると、消えてしまった。夜着に着替えた俺たちは使用人を下がらせて、しばらくしてからいつもの寝る前の夜の儀式を始めた。
啄むように何度か唇を触れ合うと、舌を絡めたキスへと変わる。ついつい執拗に彼女の唇を求めてしまうのも、仕方がない事だった。
ーーやっと…彼女を感じれる
溢れる想いを彼女にぶつけたい気持ちと、慎重に動きたい気持ちが頭の中をぐるぐると駆け巡り、結局行き着く先はとりあえず口づけに想いをぶつける。
一生懸命俺の舌に自分の舌を絡めようと、動く彼女が愛おしい。
ちゅうっ、と名残惜しく離れる頃には、彼女の息も上がりきっていて、俺の腕の服を握っていた。
「っ…あっ」
彼女の甘い声に頭が沸騰して、どうにでもなりそうになる。
いやいや手を出せないと、頭の中の煩悩を追いやり、2人の唾液で濡れた彼女の唇を親指の腹で拭った。
「おやすみ」
「…はい、おやすみ…なさい」
掠れた彼女の声を出す小さくて可愛い口を俺の口で塞ぎたかったのだが、口づけだけじゃ終わらないと確信している俺は、彼女と眠るベッドを軽く整え横になって電気を消した。
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