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歩み寄り
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『今夜は、一緒に夕飯を トラヴィス・ジョンソン』
貰った手紙は短い文と名前だけだけど、私の気持ちは天にも昇る気持ちだった。
ーー嬉しいっ
この文章だけでは、彼は怒っているのか、面倒だと思っているのか、はたまた嬉しいのか、見当も付かないけど、少なくとも彼との関係性に一歩足を踏み込める。
ーー沢山謝って…彼の気持ちも知りたい
**************
ーートラヴィス様は、お肉が好き…か
カチャカチャと静かな食事をする場所で、ステーキ肉を切る2人分のカトラリーの音しかしない。
スープと前菜もゆったりとしたスピードだったのに、ステーキが置かれると豪快に食べていて、見ていて気持ちがいい。もちろん、彼と私のお肉の大きさは2倍くらい違う。
トラヴィス様を屋敷の玄関で出迎え、室内着に着替えた彼にエスコートされ食堂みたいに広い所へと向かった。10人は座れそうな長机と椅子が並び、椅子を引いてくれた彼に感謝を述べて座ると、彼も私の斜め右横の上座に座った。
そのまま食事が運ばれて、お互い無言のままご飯を食べている。
ーー何か…話した方がいいと…思うけど、ご飯の時くらいはゆっくり食べたいよ…ね…?
そんな事を思いながら食事を進めていると、あっという間に食べ終わってしまい、またエスコートされながら自室へと向かう。静まり返った廊下を2人で歩く。彼の腕に手を添えただけの触れ合いは、シンプルだけど緊張する。
「…今日は、私の願いを叶えてくださり、ありがとうございます」
「…いや…こちらこそ不在ばかりで申し訳ない」
何となくこのまま離れたくない気持ちが溢れて来て、歩みが遅くなってしまうと、彼の歩く速度も遅くなる。
「私こそ…」
「…少し話をしましょうか」
完全に歩みを止めた私を見下ろす眼差しは優しくて、お互い無言のまま視線が絡むと、そんなに暑くない外のテラスへと、進路を変えて歩き始めた。
日中のように強い日差しがない、夜風が吹いて涼しくなったテラス。1人分しかない白くて丸い鉄のテーブルと2人分のテーブルと同じデザインの鉄のチェアに座り、侍女のスミレと数人のメイドがお茶の準備をしている。
目の前に置かれた紅茶が入ったカップとソーサーは、シンプルな白とピンクの花柄の可愛らしいデザインで、それを持って飲むトラヴィス様が可愛い。
侍女もメイド達もサロンから居なくなると、2人きりになる。
「…私の顔に何か?」
じーっと見すぎていたのか、トラヴィス様に聞かれて、頭を横に振った。
「いえっ!…何にも、ついていません」
なんとかそう言って、私も紅茶を飲もうとカップを手にした。ひと口飲み、彼の方を向いた。
「…私…トラヴィス様に酷い事ばかり…してます…ね」
「皇女様…?」
「もし…その…トラヴィス様の地位や名誉を脅かす…存在となっていたら…教えて欲しいのです」
「…何か…皇女様を不快にさせている者がいるのですか?ならそやつを…」
先程まで和やかな雰囲気だったのに、急に不機嫌になってしまったトラヴィス様にびっくりしてしまう。
「ちっ、違いますっ!これはっ、私が勝手にっ」
「…勝手に…?」
「えっ…ええ…こうしてトラヴィス様が、私のせいで大変な立場と知っております、申し訳ありません…その…言葉だけしか…今は言えないのが…とても心苦しいのですが」
改めて彼に向かって頭を下げると、2人の間に奇妙な沈黙が続く。
「…皇女様のお気持ちも…分からないでもないです…貴方様は国王陛下に命じられて嫁いで来て」
「いいえ、政略結婚は今の時代当たり前ですし、私の不注意でトラヴィス様の名誉に泥を塗ってしまいましたので、トラヴィス様のお怒りは」
「皇女様、もうこの話はこの辺でやめましょう」
この身体に転生した今、サーシャの意識も意思もない私の記憶しかない。ーー過去の記憶はあるけど。
どうしても彼のせいではないとはっきりと告げる。だから自分のせいだと気に病んで欲しくなかった。私のわがままだし、自分勝手だと痛いほどわかる。
「…本当に申し訳ありません…トラヴィス様」
もう一度頭を下げて謝罪をした。
「トラヴィと、皇女様」
「…え…?」
優しい声とまさかの言葉に聞き間違いかと思い、思わず顔があがってしまう。優しい眼差しのトラヴィス様と目が合った。
「私の事は、トラヴィと呼んで下さい…貴方様の夫ですので」
胸に手を置いてそう告げる声は優しくて、心が洗われ胸に込み上げるものが湧く。
「…でしたら…私の事も皇女様じゃなくて、サーシャと…貴方様の妻ですので」
涙が溢れるのを我慢しているので、少し変な声が出てしまった。
「分かった…サーシャ」
「はい…トラヴィ様」
「…様はいらないんだが…」
ムッとしたトラヴィ様が、まるで拗ねているみたいで可愛くて胸がドキドキとしてしまう。
「…いいえ、コイタ王国の最強の騎士団長様を呼び捨てに出来ませんわ」
涙も引っ込んでしまい、思わずクスクスと笑ってしまうと、トラヴィ様は目を見開き私の顔を呆然と見る。
しばらくすると、ハッと我に返り、
「…何か…不便があったら、すぐに」
「はい」
そう言って、私達は良好な関係を築く事にしたのだった。
貰った手紙は短い文と名前だけだけど、私の気持ちは天にも昇る気持ちだった。
ーー嬉しいっ
この文章だけでは、彼は怒っているのか、面倒だと思っているのか、はたまた嬉しいのか、見当も付かないけど、少なくとも彼との関係性に一歩足を踏み込める。
ーー沢山謝って…彼の気持ちも知りたい
**************
ーートラヴィス様は、お肉が好き…か
カチャカチャと静かな食事をする場所で、ステーキ肉を切る2人分のカトラリーの音しかしない。
スープと前菜もゆったりとしたスピードだったのに、ステーキが置かれると豪快に食べていて、見ていて気持ちがいい。もちろん、彼と私のお肉の大きさは2倍くらい違う。
トラヴィス様を屋敷の玄関で出迎え、室内着に着替えた彼にエスコートされ食堂みたいに広い所へと向かった。10人は座れそうな長机と椅子が並び、椅子を引いてくれた彼に感謝を述べて座ると、彼も私の斜め右横の上座に座った。
そのまま食事が運ばれて、お互い無言のままご飯を食べている。
ーー何か…話した方がいいと…思うけど、ご飯の時くらいはゆっくり食べたいよ…ね…?
そんな事を思いながら食事を進めていると、あっという間に食べ終わってしまい、またエスコートされながら自室へと向かう。静まり返った廊下を2人で歩く。彼の腕に手を添えただけの触れ合いは、シンプルだけど緊張する。
「…今日は、私の願いを叶えてくださり、ありがとうございます」
「…いや…こちらこそ不在ばかりで申し訳ない」
何となくこのまま離れたくない気持ちが溢れて来て、歩みが遅くなってしまうと、彼の歩く速度も遅くなる。
「私こそ…」
「…少し話をしましょうか」
完全に歩みを止めた私を見下ろす眼差しは優しくて、お互い無言のまま視線が絡むと、そんなに暑くない外のテラスへと、進路を変えて歩き始めた。
日中のように強い日差しがない、夜風が吹いて涼しくなったテラス。1人分しかない白くて丸い鉄のテーブルと2人分のテーブルと同じデザインの鉄のチェアに座り、侍女のスミレと数人のメイドがお茶の準備をしている。
目の前に置かれた紅茶が入ったカップとソーサーは、シンプルな白とピンクの花柄の可愛らしいデザインで、それを持って飲むトラヴィス様が可愛い。
侍女もメイド達もサロンから居なくなると、2人きりになる。
「…私の顔に何か?」
じーっと見すぎていたのか、トラヴィス様に聞かれて、頭を横に振った。
「いえっ!…何にも、ついていません」
なんとかそう言って、私も紅茶を飲もうとカップを手にした。ひと口飲み、彼の方を向いた。
「…私…トラヴィス様に酷い事ばかり…してます…ね」
「皇女様…?」
「もし…その…トラヴィス様の地位や名誉を脅かす…存在となっていたら…教えて欲しいのです」
「…何か…皇女様を不快にさせている者がいるのですか?ならそやつを…」
先程まで和やかな雰囲気だったのに、急に不機嫌になってしまったトラヴィス様にびっくりしてしまう。
「ちっ、違いますっ!これはっ、私が勝手にっ」
「…勝手に…?」
「えっ…ええ…こうしてトラヴィス様が、私のせいで大変な立場と知っております、申し訳ありません…その…言葉だけしか…今は言えないのが…とても心苦しいのですが」
改めて彼に向かって頭を下げると、2人の間に奇妙な沈黙が続く。
「…皇女様のお気持ちも…分からないでもないです…貴方様は国王陛下に命じられて嫁いで来て」
「いいえ、政略結婚は今の時代当たり前ですし、私の不注意でトラヴィス様の名誉に泥を塗ってしまいましたので、トラヴィス様のお怒りは」
「皇女様、もうこの話はこの辺でやめましょう」
この身体に転生した今、サーシャの意識も意思もない私の記憶しかない。ーー過去の記憶はあるけど。
どうしても彼のせいではないとはっきりと告げる。だから自分のせいだと気に病んで欲しくなかった。私のわがままだし、自分勝手だと痛いほどわかる。
「…本当に申し訳ありません…トラヴィス様」
もう一度頭を下げて謝罪をした。
「トラヴィと、皇女様」
「…え…?」
優しい声とまさかの言葉に聞き間違いかと思い、思わず顔があがってしまう。優しい眼差しのトラヴィス様と目が合った。
「私の事は、トラヴィと呼んで下さい…貴方様の夫ですので」
胸に手を置いてそう告げる声は優しくて、心が洗われ胸に込み上げるものが湧く。
「…でしたら…私の事も皇女様じゃなくて、サーシャと…貴方様の妻ですので」
涙が溢れるのを我慢しているので、少し変な声が出てしまった。
「分かった…サーシャ」
「はい…トラヴィ様」
「…様はいらないんだが…」
ムッとしたトラヴィ様が、まるで拗ねているみたいで可愛くて胸がドキドキとしてしまう。
「…いいえ、コイタ王国の最強の騎士団長様を呼び捨てに出来ませんわ」
涙も引っ込んでしまい、思わずクスクスと笑ってしまうと、トラヴィ様は目を見開き私の顔を呆然と見る。
しばらくすると、ハッと我に返り、
「…何か…不便があったら、すぐに」
「はい」
そう言って、私達は良好な関係を築く事にしたのだった。
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