学校一の美女が学校一の漢に告白される話

狭山雪菜

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リクエスト その後 子供シリーズ③ 学校一の美女と漢

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山崎やまざき!お前あの金メダリストの山崎哲夫てつおの息子なんかっ?」
4月になり進級と新学期が始まったばかりの小学校の廊下で、おじさんの先生に声をかけられて、僕――山崎一哲いってつは、はいと返事をした。
「今は指導者として活躍しているな?」
「そうです、父は今日本代表のチームの監督をしてます」
声を掛けてきた先生に向かいあって、頷きながら返事をすると、先生は感心する。
「は~、まだ小さいのにしっかりしてるなぁ」
「ありがとうございます」
お礼を言うと、まっ頑張れや、と言って先生はどこかに行ってしまった。
「…なんだったんだ」
結局何で声を掛けられたのか分からなかったが、新しくやってきた先生だったと思い出した。毎年先生の入り替えがある度に新任の先生に声を掛けられるから、返答にも慣れたものだ。
父――山崎哲夫は最年少で金メダルを獲ったのを皮切りに、その後何度も世界大会や4年に一度の大会でメダルを獲得し、その名を全国の国民または一部の全世界の柔道選手に名を轟かせた。そんな父も3年前の35歳の時に現役を引退し、指導者へと回った。車で数十分の所の大学生相手に柔道を教える事になり、月単位で不在だったお父さんが毎日家にいる事に慣れてくると、家の中がもっと騒がしくなった。
僕は哲夫お父さんと同い年の白雪お母さんの長男で、今年12歳になる。僕の下に10歳と7歳になる弟と、去年生まれたばかりの弟もいる。男しか居ない兄弟はみな、お父さんにそっくりで、たまに弟の名前で呼ばれたりする。そしてそんな父と同じ柔道を習っているから、身体が大きくて同い年の同級生より年上に見られてしまうのが少しだけ嫌だ。
「山崎っ!次体育行こうぜ」
そんな事を考えていたら、教室から顔を出した同級生に声を掛けられて僕は体育の準備のために教室へと向かった。




***************



「ただいま」
低い声とドスドスと足音がしてしばらくすると、リビングに顔を出したのはお父さんだった。
「お父さんっおかえり!」
「おかえりー!」
リビングで宿題もせずに1歳の弟と遊んでいた弟達は、元気な声を出して、帰ってきた父の元でぴょんぴょん跳ねてる。
「お父さんおかえり」
リビングで宿題をしていた僕もお父さんの元へ行った。
「ただいま…学校はどうだった?」
「普通だよ」
「そうか、何かあったら教えろよ」
決して低くない僕の頭をぽんぽんと撫でる父は、僕がまだ低学年だと思っているのかもしれない。
――それは…ないか
お父さんとは全く住んだ事は無いことはなく、結構丸々ひと月不在がちも多かったけど、長期休暇や怪我をした時にはいつも家にいた。小学校の入学式や誕生日、クリスマスと正月のイベントの時などは、外せない大会以外は居てくれた。一年や二年離れて居た時はないのに、お父さんはいつも僕の頭を撫でてくれるのだ。いや、僕だけじゃなく弟達にもよく頭を撫でるんだけど。
「うん…お母さんならキッチンだよ」
「そうか、ありがとう、ほらお前たちも夕飯前に宿題終わらせろよ」
「「はーい」」
僕の頭を撫でた後はリビングに視線を巡らせたので、お母さんの居場所を言ったら合っていたらしくお礼を言われた。
お父さんに言われて僕たちは宿題をやり始めるのを見届けた後にお父さんは、お母さんのいるキッチンへと向かった。



***************



「お母さん、ただいま」
「おかえりなさい、お父さん」
子供達の前では、お父さんお母さんと呼び合う関係になって随分経った。高校時代から変わらず強面の顔は、柔らかくなったかと思いきやそんなことはなく、柔道の指導者として威厳が増した気がする。カウンターのある対面式キッチンは、料理をしている間でも子供達が見れるように設計されていた。一哲がお腹の中にいる事が発覚してから建築士と相談の元、建てられた一戸建は5LDKで、小さい庭と車が2台停められる。小学校も中学校も近く、駅に行くには公共のバスを利用する。私の実家と哲夫の実家の中間にあり、育児中は何度かお世話になった。
チラッと子供達のいるリビングに視線を向けると、3人とも勉強しているのを見て、テツくんが私の唇に自分の唇をさっと当てた。
ふふっと、2人で笑い、テツくんが料理をしている私の手元を見た。
「もうすぐで出来るから」
大きな鍋でぐつぐつと煮込んでいるのは、肉がたくさん入った肉じゃがだ。火が通る間を利用して、その横でサラダを作っていた。
「わかった、チビ助は?」
「リビングでおもちゃで遊んでいたはずだよ?」
「そうか、なら先にお風呂一緒に入る」
「ん、よろしく」
チビ助とは去年生まれた時の一番下の息子だ。名前はちゃんとあるのにテツくんは一番下の息子を可愛がっている。末っ子だからなのか、と最初は思っていたけど一哲が生まれた時もその次の息子達にもチビ助って言っていたから、彼なりの愛称なのかもしれない。子供が生まれてから新しい発見がどんどん出て、呆れてしまう事もあるけど楽しい。
男の子だって事もあるけど、お風呂担当はテツくんと決まっていた。遠征や出張でいない時は私がするが、彼が家にいるときは子供との時間を優先して料理と洗濯以外は彼の担当だ。
「宿題終わった奴からお風呂だからな、ほらチビ助行くぞ」
「あい」
テツくんはおもちゃで遊んでいたチビ助を軽々と持ち歩いてて、リビングから出ていく時に息子達に声を掛けた。
「はーい!」
「僕は一哲兄たら入りたい!いい?」
「…別にいいけど、シャワーで遊ぶなよ」
「うん!遊ばないよっ」
最近では長男の一哲と入りたい弟が、こうしてお兄ちゃんに頼み事をするシーンが増えていて成長したな、と胸に込み上げてくるものがある。

彼との結婚してから行ったハワイから帰ってしばらくすると、体調不良が続いていた私の妊娠が発覚した。悪阻だと分かるとオロオロし始めたテツくんは、子供が生まれる前に家を構える事にした。2人で回ったりしたが、悪阻が最高潮に達してしまったので、テツくんに最終的に色々決めてもらった。悪阻も治ると、今度は外壁塗装は何にするかとか、間取りやら、壁紙の色、コンセントの位置まで事細かく決めなくてはいけなくなり、妊娠をきっかけに退職する事にした。専業主婦になったものの、決めなくちゃいけない事が多すぎててんやわんやしていたら一哲の出産の少し後に家が完成した。―
『ほんと、哲夫そっくりね』
皆が口を揃えていうのは、息子達の姿だ。テツくんの遺伝子が強すぎるのか、ほぼテツくんだ。幼い頃から父が柔道をやっているのを見て、真似したいと近所の柔道教室に通わせているが、最近ではテツくんが息子達の習い事の送迎もしている。
『白雪はすでに結婚しているからな、釘を刺さないとな』
などと、いまだに誰かから好意を持たれてると思っている。
――もう子供が4人もいるし、もうすぐ40になるのにテツくんは大袈裟だよ
ふふっと、もう癖になったアスリート用のササミのサラダを作りながら笑いが込み上げてくる。彼の中では私がまだ一番だと思うと、擽ったくて幸せだ。テツくんは、たまに見当違いなやきもちをする時もあるけど、好きな人に好きと表現されると嬉しい。
「母さん、宿題終わったからお風呂行ってくるっ」
「あっ!片付けていけよっ!」
突然大きな声を出した息子は、終わった宿題を放り出してそのままリビングから出て行ってしまった。
「あっ、洋服は自分で出してね!」
「わかったー!」
テツくんみたいにどたどたと騒がしく2階に行く息子の足音を聞きながら、血は争えないな、と私はそう思った。



金メダリストだった山崎哲夫が引退すると、指導員として活躍した。あと数年すれば、伝説のメダリストの息子達が登場して柔道界をまた盛り上がるのは、また別のお話。

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