ナイトプールで熱い夜

狭山雪菜

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リクエスト 合コンで熱い夜〜ヒロシとアイコ〜 ナイトプール

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友人に合コンの場を設けて貰って、恋人を作りたかったアイコ――愛子あいこ、27歳同期兼親友の黒髪でハキハキと物事を言う姉御肌の萌香と、おっとりと可愛い雰囲気にいつも癒される美波の美女コンビ(私が名付けた)に挟まれた私は、普段着ないブルーの花柄のワンピースとメイクに気合いをいれ、ブラウン色に染めた髪をポニーテールにして、合コンの開かれるお店にやってきた。

――が、到着してすぐに絶望した。
1人は美波しか見ていない、もう1人は1番強面のゴリラ、もう1人は強面の萌香しか見てないし、後の2人は年下の胡散臭い爽やかくんと眼鏡の男の子にしか見えなかった。
――確かに恋人作りたいけど、この強面ゴリラはマジ無理。メガネ男子は好きだけど、年下は論外。
私は幼い頃からメガネをかけている男性に心惹かれ、好きになる事が多かったけど、この合コンの参加者全員私の好みの対象外なのも初めてだ。
始まって10分で帰りたくなった私は、まだ来ない料理に希望を見出していた。私の前に座る強面の萌香しか見てない男をチラチラと見ながら、先に乾杯したカシスオレンジをちびちびと口にした。
しばらくすると目の前の男が立ったのを合図に、わらわらと席の移動が始まり、気がついたらゴリラが私の横に居た。
「…どうも、初めましてヒロシです」
「アイコです」
さっき軽く自己紹介をしたから名前は覚えていたけど、隣に座られると二の腕や太もも全てのガタイの良さ、キリッと太い眉と、分厚い唇のみが残りただ怖い印象しかない。はっきり言うと、20歳だった頃の私が道端で声を掛けられていたら、泣く…大声で助けを求めてしまうかもしれない。
他愛のない話をしていたら萌香は先に帰ると言って、萌香しか見ていなかった強面を連れて行ってしまった。そして美波も美波しか見ていなかった男と居なくなってしまったし、なんて自由フリーな合コンなんだろうと感心してしまう。
しょうがなく料理が到着するまで、他愛のない話を隣に座る彼――弘司ヒロシさんが38歳の独身で、消防士の隊長を務めている事を知った。
「…それで、アイコちゃんは…」
話してすぐに弘司さんは、女性慣れしていない不器用そうな人と私の中で付け足された項目となった。
「私は愛子です、歳は27歳デザイン系の仕事を…」
と、改めて自己紹介すると、料理が運ばれて話が中断し、それぞれの座る場所へと配られた。
彼の前にあるのは、昔ながらのナポリタンのパスタ、私の前にはカルボナーラのパスタが置かれた。
「…ナポリタン好きなんです…その、珍しいと言われますが」
「そうなんですね」
まるで興味がないので、軽く流すと彼がしょんぼりと肩を落としてナポリタンを食べ始めた。
――なんか…悪い事しちゃったかな…いやいやっ…でも話広げた方が良かったかな…?
などと、思いながらカルボナーラを食べ始めたのだった。



***************


「ね、ね、愛子っ!今度の土曜日の夜にイベントあるんだけど行かない?」
「イベントぉ?今度は何?」
珍しく積極的な萌香に、熱心に口説かれるお昼休み。外を出てランチをする私と萌香に、熱い視線を向ける男性陣の事など2人は気がつかない。
「今回は!なんと、冬でもやっているナイトプールだよ!室内にあって暖かいし、水温も温泉までとはいかないけど熱いみたいよ?」
「ナイトプールねぇ」
そもそも論冬にプールは、楽しいのか?と自問自答するが、萌香はこういったイベントに積極的に参加して、インスピレーションを湧かせているのだ。
「いいじゃん!この間の合コンは…ダメだったんでしょ?」
「う…ん、というか喧嘩は他所でやってよね!…ご飯奢りだったから良かったけど」
そう結局、あの後何にもなくお店の前で解散した。何度も支払いますと言っても、『いや、年長者の自分が』と言って聞かなかった、あのゴリラを思い出した。
――この間と言っても半年ぐらい前だしなぁ
「…うっ…そんなつもりはなかったけど…でも、本当に愛子のために合コンしたんだけどなぁ」
図星だったのか、真っ赤になる萌香に相変わらず美女やなぁとまじまじと見つめてしまう。
「まっ、しょうがないね」
合コンっていうのは、誰が来るかわからないから、たまたま合わない人がいる回だったと割り切ることにした。
「で…どう?ナイトプール、美波も行くし」
「んー、美女2人に囲まれてハーレムにするか」
改めて考える素振りを見せたが、茶化すように了承すると、何故か萌香はほっと安堵の表情を浮かべたのだった。
「…良かった…美女2人っていつも愛子は言うけど、愛子のダイナマイトボディには誰も敵わないよ?」
しかし、その後にぼそりと言った萌香の言葉は、ナイトプールがどんな所なのだろうと、想い馳せていた私には聞こえなかったのだった。



***************



「おー!可愛い可愛い!」
水着に着替えた私は、ホテルの最上階にある更衣室で美女2人を誉めた讃えていた。上品で高級感溢れる更衣室は、水に濡れてもいいのか?と思うほどの布製のソファーなどがあり、私みたいな平凡な女が居て場違いな感覚を頭の隅へと追いやった。
「でも珍しいね?2人ともワンピースみたいな、露出少ない水着なんて」
萌香は鎖骨が僅かに見える袖なしの首で紐で結ぶ白のハイネックの上に、下は緑のボタニカルのロングスカートでスリットが腰の下から入っている。そして美波は、完全にベビーピンクの膝上15センチのミニワンピースだった。
「いや、これは…それよりも愛子ちゃん、めっちゃいい!」
少し気まずい雰囲気の美波は、私の事も褒めてくれる。
「うんうん!ロリ顔最強じゃん!」
「って顔だけかいなっ!」
と、定番の戯れ合いをして、私は自分の身体を見下ろした。
相変わらず大きな胸と萌香達には劣るが、それなりに細い腰と手脚。カーキ色のクリスクロスビキニタイプの水着といって、通常の水着にバストの下やウエストのラインに沿って何本かの線の生地が交差している水着だ。
「愛子ちゃんってメイクしてる?めちゃくちゃ肌綺麗なんだけど!」
「プールって聞いたから、濃いのはやめたんだけど…2人は普通にいつも通りのメイクって事は水に入らないの?」
「ううん、入るけど…泳がないから」
つまりは、顔を付けなくてもいいのか、なら髪は結ばずに下ろしてしまおうと、肩より少し長い髪をそのままにした。
――本当に取材しに来ただけなのか
「…うーん、メイクした方がいいかなぁ?」
「愛子はどんな姿も可愛いから必要ないよ」
「それもそっか!美女2人に囲まれてハーレムにするぞー!」
薄化粧を気にしていたが、今からメイクするとなると少し時間がかかるので、もう私は楽しむ事だけを考える事にしたのだった。グーの手で片腕を上げて、おー!とすると、萌香も美波も笑いながら、一緒に腕を少しだけ上げて、おー!としてくれた。


「へー、結構人がいるねぇ」
プールの出入口から出ると、広々とした屋根のある天井にはプラネタリウムみたいに星が散らばっている下に、急に異国に迷い込んだ雰囲気が漂った。入ってすぐ目についたのは、大きな壁に付いた簡易シャワー。その先にあるのは薄紫色のライトで照らされた学校のプール程の大きさの長方形のプールだ。プールも水の中が薄紫色と青とエメラルドグリーンでライトアップされ、中には所々白やピンク色の球体が浮かんでいる。プールサイドを囲むのは、ヤシの木と1人用のラタンのビーチサイドベッドが並び、バーカウンターや夜食も取れる海の家みたいなレストランが並んでいた。外は寒いのに程よく混んでいるのは、この暖かい室内のおかげだと思う。
とりあえず乾杯しようとバーカウンターへと向かうと、背後からどこかで聞いた声で呼び止められた。
「おー!美波ちゃん!奇遇だねー!」
と白々しく言ったのは、いつぞやの美波しか見ていなかった合コンの金髪男と、その後ろには萌香しか見ていなかった黒髪の強面の男が居た。
――ちょっと待って…まさか
私の予感は的中し強面の後ろには、多分この会場で1番怖いであろう弘司さんがいた。
「アーウン、キグウダネ」
急にカタコトになった美波と、あちゃーと顔に手をつけた萌香を見て、私は確信に変わった。
「…もしかして、デートするつもりだったの?」
恋人居ない私の前でいちゃいちゃする気だったのか、と口を尖らせ不満を言うと、2人は違う違うと首を横に振った。
「本当に!ただ遊びたかっただけ!」
「そうそう、一応行くとは言ったけどさ、3人で遊ぶつもりだった!」
余りにも2人が真剣な表情でそう言うから、気圧された。
「わかったわかったよ!」
私がそう叫ぶように告げると、萌香はキッと鋭い眼差しを強面の男に向けた。
「今日は3人で遊ぶって言ったよね?」
「だからたまたまだって」
と萌香の静かな声が怒っている事を物語っていたが、強面の男はけろりとしていた。
――普通に考えて、彼女が居ると分かっているプールに来るかな…浮気だとしても最悪だけど…声かけたと言う事はマジでワザと鉢合わせしたな
ふむふむ、と自分なりの推理をしていると、視線を感じたので顔を上げると、弘司さんと目が合った。
あっ、わ、っと言いそうな、漫画みたいな慌て方をして、目を逸らす彼が、不自然で可笑しくなってしまうが、大人なので顔には出さなかった。
「そうだ、みんなで乾杯して…ご飯も食べよう」
と、テキパキとみんなを纏めた美波の男が、いつの間にか決定事項として私たちを引っ張っていった。


大きな円形のテーブルに並んだ料理は、伊勢海老のロブスターと骨つきチキン、魚介のパエリアと人数分の色とりどりのアルコールと、取り皿と食器が運ばれた。必然的に弘司さんの横に座る事になり、私の左手に座るのは萌香の彼氏だ。
――解せない…何故男2人に囲まれてるの…美女に囲まれていたいのに…ぅぅっ
甲斐甲斐しく取り皿にパエリアをよそって、私の前に差し出すゴリラ――いや弘司さんは、ギクシャクと動きが怪しい。
「ありがとう…ございます」
「いや、ははっ、他に欲しいものある?」
「…大丈夫です」
瞳をキョロキョロと動かし、ビールグラスを持っては飲まずにテーブルに置いたり、何度も私に欲しいものがあるかどうかを聞いてくる挙動不審な彼に、笑いが込み上げてくる。
――この人なんで、いつもこうなの?めちゃくちゃ面白いんだけどっ
少しだけ笑うのを耐えられなくて、ニコッと笑ってしまうと、ボンッと頭が爆破したみたいな音と共に真っ赤になった弘司さんが、あ、とか、うっ、とか言葉を発し、テーブルの上にあるビールを取ろうとしてグラスを倒して、ビールまみれになったテーブルを片付けるために店員さんを呼ぶ羽目になった。
と、今まで会った事ないタイプの人に興味が湧き、彼を観察する事にした。めちゃくちゃに挙動不審なんだけど、男性陣と話ている時も、美波と萌香にも普通なのに、私にはまるで初心な男子中学生の態度を取る弘司さんは、やっぱり可笑しな人だった。お会計の時もサッと自分の更衣室のキー番号を告げたし、普通の人かと思ったら可笑しい。
「じゃー、どうしようか」
と、お店を出て相変わらずリーダーシップを取る金髪の男は、チラチラと美波を見ているし、美波は美波でずっと彼氏を見てる。さりげなく萌香を見ると、萌香の横にいる強面の男はじっと萌香を見つめていて、萌香はその熱い視線に華麗にスルーしていたけど。
「…私…は、少し弘司さんと話したいかも」
とぼそりと言ったつもりだったのに、みんなに聞こえたらしく、一斉に私に視線が集まる。隣にいた弘司さんなんて、目を見開き驚愕の表情で固まっている。
「え…へ…は…?」
その顔も最高に面白いなぁ、と思いながらも、もう一度口を開いた。
「少しだけ、分かれて行動する?」
私が首をコテンと横に倒すと、美波も萌香も顔を見合わせる。
「…ん、そうしよう…か、じゃあ1時間後にココで」
「うん!そうだね」
そう言ってゾロゾロと彼氏を連れて行ってしまう。
残ったのは私と弘司さんだけで、彼は信じられない眼差しのまま、まだ固まっていた。
彼の顔の前に手をかざし左右に振ると、ハッと我に返った弘司さんがぱくぱくと口を開けたり閉じたりしている。
「…嫌でした…か?」
「っ……いやっ!…そのっ、そんな事ないっ」
無理矢理過ぎたかな、と反省しようとして、彼が慌てて否定してくれた。
「じゃ…じゃあ、その…プールに行く?」
「うん」
彼の後ろに付いていくと、チラチラとうしろを振り向き、私がちゃんと付いて来ているか確認する。人とぶつかる程混んでいないので、迷子になる必要がないのだ。プールサイドに着くと、貝殻の形をした白いフロートと真珠の代わりに丸いボールの浮き輪のレンタルがあったので、私の方を一度見た彼は浮き輪のレンタル店員に声をかけて借りた。プールに置いて彼はプールの中に入ると、私に手を差し出した。
当たり前のように彼の手を取りプール水に足がつくと、そのまま抱き上げられ、フロートの上に座らされる。
――わっわっ、凄い軽々と私を持ち上げるっ
足を曲げて座ると、弘司さんはフロートを背後から押してプールの中央へと歩き始めた。
プールの中央に着くと、やっぱりぎこちない雰囲気だったけど、ポツポツと他愛のない話からお互いの近況みたいな話になって、気がついたらじっと見つめ合う時間が長くなっていく。足を曲げた私のそばで両腕を置いて、私を見上げる彼の姿が急に可愛く映った。いやらしい視線でも、不快を感じる視線でもなく、ただじっと見つめられる。私も彼をただ純粋に見つめ返していると、背後から急に押されてバランスを崩した私が前のめりになると、彼と手がパッと動き私の肩を支える。
「あっ、ごめん」
顔を上げると思いの外、弘司さんの顔が近くにあって、ぱさりと肩に掛かったブラウンの髪が私の頬に当たるのを合図にお互いの顔が近づき唇が重なり、すぐに離れた。


プールサイドにあるラタンの1人用のベッドチェアに背もたれに背を預け横になっていると、タオルを頭に掛けた、浮き輪を返しに行くと言っていた弘司さんが戻って来た。
私の腰の横に座ると、ギシッと軋むチェアを気にしない彼が私を見下ろした。
「………冷たっ」
ひと泳ぎしてきたのか、彼の頭から落ちる雫が私の胸やお腹に落ちて、全身が濡れていた。
落とされた水滴から、弘司さんを見ると、タオルの下で彼が苦しそうに眉を寄せていた。
どうしたの?と口にする前に、私から視線を外さない彼が口を開いた。
「…俺…もう分かってると思うけど…あっ…アイコちゃんが好きだっ、俺」
「…うん」
何となくわかっていた事…だと思う。彼の態度を見たら、どんな鈍感な人でも気がつくと思う。だって他の人にする態度と私にする態度は180度違うから。
「俺っ…好きなんだっ、だから付き合って欲しいっ大事にするっうおっ!っ」
なおも私に告白を続ける彼の頭の両脇に垂れるタオルを掴み、引っ張っるとバランスを崩した彼が私の上へと覆い被さる様に倒れ、私の肩の横にある背もたれのチェアに左手をついた。タオルの両端を離し、弘司さんの頬を両手で挟み自分の唇を押しつけると、一瞬固まった彼が次の瞬間、息もまともにさせてくれない程の荒々しい口づけを始めた。唇を丁寧に舐めて、口内に侵入した彼の舌を絡めようとするが、大きすぎる彼の舌が私の舌を押し退け、口内を蹂躙する。甘噛みする様にお互いの下に刺激を与えては、宥めるように舌を這わす。溢れる唾液がお互いの口から零れるのも気にせず、お互いの舌に夢中になる。
2人の吐息がタオルに挟まれ籠る。
「ん、っ」
甘い声が漏れてしまうと、彼の左手が私の左肩に移動して撫で始めた時、
「…お客様、申し訳ありません」
急に声をかけられてびっくりした私と、すぐに我に返った弘司さんは、後頭部に手をつけて私の顔を自分の胸へと押しつけて隠してくれた。
「…はい?」
「ひっ…申しありません、こちらは」
「ああ、すいません気をつけます」
振り返った彼に驚いて従業員らしき男性が何か言う前に、弘司さんが潔く謝った。
従業員がいなくなると、私を抱きしめる腕の力を抜いた。
「…悪い」
バツの悪そうにそう告げた彼に、私は首を横に振った。
「ううん…私がしたかったから…私こそごめん」
恐る恐る見上げると、タオルで隠れた彼の顔が真っ赤になっている事に気がついた。その唇は、濡れていてなんだかいやらしい。
「俺も、したかった」
それだけやっと口にした彼はそのまま黙り込んでしまい、私は彼の腕の中に戻り、彼の胸に頬を付けて右腕を上げた。彼の唇にある濡れた唇のラインを親指で拭うと、その手を取られた。
「……今、それはヤバいから」
と彼の必死な声に、私は
「なら…2人きりになりたい」
と自分の気持ちを素直に告げた。




***************



更衣室で私服の赤いV字のニットと黒いズボン着替えを済ませて、水着など入った大荷物を持って更衣室から出ると、リュックを背負った黒いジャンパーと黒の色褪せたジーンズ姿の弘司さんが従業員と話し込んでいた。
そっと彼のそばに寄ると、
「お客様、こちらは女性更衣室の前ですので…」
「ぅ…いや、待ち合わせを」
しどろもどろに答える弘司さんは、益々怪しい男となっている。
「だとは、思いますが、他のお客様のご迷惑となりますので」
全く弘司さんの話を信じていないのを感じ、背後から彼の腕に自分の腕を絡めて、彼の横に立つと、私を見た従業員がギョッとした。
「…すいません、私がこの前で待って居て欲しいと言ったんです」
「さ…左様でございましたか…こちらこそ申し訳ありません」
とさっきまでの弘司さんの態度とは違う、一流ホテルの対応をされ、従業員は踵を返した。
「すまん」
しょんぼりする彼に、
「ううん、私が遅いからだよね…ごめんね」
私はさっき守ってくれたから、お返しだよと告げた。


後は無言でタクシーに乗り込み向かったのは、彼のマンションだった。1階にあるコンビニに寄り、飲み物――主にビールやおつまみだったけど、たまたま日用品が売っているコーナーに差し掛かると、化粧品や下着や靴下が置いてある棚にも目がいった。
「…どうした?」
私の背後に立ちカゴいっぱいの荷物を持つ彼を振り返った。
「……歯ブラシと…下着…必要かな…?」
暗にお泊まりになるのかと聞いたら、彼の顔がみるみる真っ赤になり、あっ、ゔ、あ、と短い声を上げる。
「……なる…泊まって欲しい」
しばらくすると、顔を真っ赤にしたままそう言ったから、私まで真っ赤になってしまって、
「うん泊まる」
私も何とかそれだけ言って返事をして、飲食でいっぱいのカゴに下着と歯ブラシを入れて、Tシャツにも手を伸ばすと彼の手が私の手を取った。
「シャツは…俺のあるから」
それだけ言って手を繋いだまま、見つめ合った。
「…俺が会計するから待っててくれ」
「一緒に行くよ?支払いもあるし」
会計する時になって、弘司さんにそう言われ戸惑ったが、
「いや、その…あの」
弘司さんはバツの悪そうな顔をしてカゴを自分の背後に隠すように回したので、チラッと見ると長方形の濃い紫色の小箱を見てしまった。
「あ…うん、イートインの前に居るね」
その・・小箱が何なのか分かってしまった私は、真っ赤になってしまい、無理矢理笑顔を作った。



1LDKの彼の6帖部屋は、オレンジ色の制服や紺色か黒のシャツが無造作に置かれていた。床に直接置かれた布団が、朝起きた時のままになっている。布団の前には焦茶のローテーブルがあって、その上には朝食なのか食べたお弁当が置いてあった。女の"お"の字の雰囲気もない部屋の入り口で固まる私を彼は不審に思って、私の背後に立ち部屋の中を見て、慌て始めた。
「わっ、悪い」
部屋の中に入って片付ける弘司くんに続いて、片付けを手伝おうと入って中に入ると、振り返った彼とぶつかった。時が止まったかのような錯覚を覚え、ゆるゆると視線を上げて、彼を見上げると突然真っ暗になり、口が塞がれている事に気がついた。痛いほど強く吸われた私の舌を何度も何度も求める弘司さんに、応えようと彼の胸に手を添えると、腰を引かれ身体が密着する。上からのし掛かる彼の口づけを感じながら、彼の鼻から出る息を顔に感じる。
「ん、っん」
ぴたりと隙間なく重なったキスは、私の鼻から漏れる声に反応する。私の頬に彼の右手が添えられると、ゴツゴツした大きな手のひらがすっぽりと私の顔半分を覆う。鼻先をくっつけたまま何度か啄むキスをすると、上唇を喰まれる。
瞼を開けると、目の前に厳しそうな眼差しを私に向ける弘司さんの視線に気が付き、
「なぁに?」
自分でお思ったよりも甘い声が漏れて、恥ずかしくなる。
「好きだ…初めて会った時からずっと…きょ…今日も2人に協力してもらって」
「協力…?ああ、あの萌香の彼氏の」
そうだ、と掠れた声でわなわな唇を震わせる弘司さんは、私の頬に付けた手を離そうとする。彼の大きな手が無くなってしまうのが寂しくて、ドサッと持っていた荷物を床に下ろすと、彼の右手首を掴み、また自分の頬に付けた。
「…タイプ…じゃなかったんだけど…」
素直な気持ちがスルッと口から零れてしまうと、彼は分かっていたのか、眉をしかめている。
「でも…今日一緒にいて楽しかったよ」
元はと言えば、最初にキスをした私が悪いんだけど、キスしたいと思っちゃったのだ。
「アッ、アイコちゃん…」
少しだけ目元を和らげて嬉しそうに告げる弘司さんに、今度は私から触れるだけのキスをした。
「私も好き…多分」
酷い言葉を言っているのに、彼は感動したように目を見開きキラキラと瞳が輝いている。鼻先から重なった私達の鼻はズレて、瞼を閉じると深い口づけになる。彼の大きな舌が私の口内の半分以上を占めて息苦しくなっても、お互いの気持ちを確かめるように、ねっとりと絡んだ舌は離れようとしない。彼の手首から手を放し、彼の胸へと手を置き、彼の胸を辿るように首に回せば自然と踵が上がり、彼の腕が私の腰に回る。
私の口から頬へ、首へと口づけで移動した彼は、私のウエストを撫でて、ニットの中へと手を入れた。徐々に上がっていく彼の手によって脱がされていき、私の身体から離れた彼がニットを脱がすと、ひゅっと息を呑んだ。
「…あんまり…見ないで」
寒いこの季節に水着姿の私を見て、彼はハッとしてエアコンのリモコンを探して付けた。その間にズボンのボタンを外す私を見ながら、彼もジャンパーやズボンを脱ぎ始めた。
私は水着姿、彼はボクサーパンツのみの姿でお互い向き合っている。ナイトプール会場とは違い、電灯の下にいる私に幻滅しないかと不安になる。
「…すごく綺麗だ」
不安な気持ちを察したのか、そう言って私に手を伸ばす弘司さんは、私を抱きしめる。
「…暖かい」
鳥肌が立った私は、彼の素肌に頬を押しつけてポツリと零すと、私を抱きしめる彼の力が強くなった。
どのくらい抱きしめ合っていたのか、離れた彼に手を引かれ胡座をかいて座る彼は、クロスした足首を少しだけ伸ばして彼の足の間に出来た隙間に腰をかけた。座るとすぐに彼は私を背後から抱きしめ、背中に彼の熱が私に移る。振り向くと口を塞がれた。彼の手が私のウエストを撫でて、胸へと上がり水着の上から揉み始める。自他共に認める大きいと思っていた胸を、いとも簡単に包み込み大きな手のひらにすっぽりと埋まってしまう。
「はっ、あ、んっ、っ」
口づけに夢中になりたいのに、胸への愛撫に気が散ってしまう。腕を上げて彼の髪に指を絡めると、彼の胸に背中を押しつけてしまうと、胸を突き出してしまう形になってしまい、彼が私の胸を揉みやすく手助けしてしまう。
彼の髪から私の胸を揉む彼の手の甲に自分の手を重ねると、口がやっと離れた。息苦しくて、はぁ、はぁっ、と荒い息を整えていると、弘司さんは私の肩に舌を這わし、ちゅっ、ちゅっ、とリップ音を立てていく。
バストの下のクラスしたカーキ色の水着の隙間に指を入れて持ち上げると、ぷるんぷるんと揺れる乳房が露わになる。腕を上げて水着を脱いでいるのに、彼の手が口が私を可愛がるのを止めない。
「ん、っ、あっ、はんっぁっ」
何とか腕まで脱げた水着を彼は乱暴に私の手から取ると、何処かへ投げてしまう。手持ち無沙汰になった私の両手を、彼の手が上から重なり私の乳房へと置かれる。上から彼の手で押し付けられて、自分で乳房を愛撫しているみたいだ。
「あっ、や、ぁっ」
耳朶を甘噛みされ耳の中に舌を這わす彼に、ゾクゾクする。ツンとしたコリコリした感触が手のひらに出て、それに気がついた彼は、私の指の間から器用に指を立てて、カリカリと引っ掻ける。
「あっ!」
指に力が入らなくて、だらんと彼の太ももの上に置いてしまうと、そっと下から掬うように持ち上げ、宝物に触れるようにゆっくりと揉んでいく。乳房を自由自在に可愛がる彼の息遣いを、直接耳元に吹きかけられる。身体が少し動いてしまうと、腰に当たる固いものの存在を強く感じた。
彼の太ももに手を撫でつけると、ぴくっと動く彼の方を振り向くと、視線が絡まり自然と重なる唇。手のひらが彼のボクサーパンツに触れ、その先にある私の背後に当たる彼の昂りを下着の上から撫でた。私の乳房を愛撫していた手が止まったので、身体の位置をずらして横向きに座ると、クロスしていた彼の足が大股に開いた。彼の胸に自分の左胸を押し当てて、右手を彼の下着の中に入れて、固い昂りを直接触れると、生き物みたいにピクピクと反応する。ぬるぬると昂りの先端から溢れるツユが指に手のひらにつき、大きすぎるサイズの昂りを握るのを諦めて緩々と上下に動かすと、ぐんと手のひらで更に大きくなる。
ぐっと唸る弘司さんは、私の右の乳房に左手を伸ばし、私の乳房の愛撫を始める。見上げると彼の首がすぐそばにあり、無意識にペロリと舐めると、荒々しい口づけをされた。
「あっ、ふっ、んんっ」
終わらない口づけと、彼の左手のひらが私のヘソに触れながら水着の中に入り、下生えの生えてる箇所を揉みマッサージをする。自然と脚が開くと、動きやすくなった彼の手が下生えの奥にある蜜壺の入口に触れた。くちゅっと聞こえた気がする水音に、頬が熱くなっていく。
「感じてる」
嬉しそうに囁く彼が少しだけ憎らしくなって、キッと睨むが彼の顔が破顔する。
「嬉しい」
私の額に一度キスを落とし、彼の手の動きが再開した。



ぐちゅぐちゅと激しくなる指の動きに耐えきれずに、軽く何度か達したのに、彼は指の動きを止めてくれない。蜜が溢れて水着はびちょびちょに濡れている。彼の昂りを負けじと握ろうとするが、彼のくれる快感に抗えなくてもう、掴んでいた手を放して彼の私の蜜壺なかにいる手の左腕に置いた。
何度も何度も繰り返し執拗に攻められ、いつのまにか布団に仰向けになってしまった私。彼はズレた水着を膝まで一気に下ろすと、私から離れて部屋の入り口へと向かって床に置いたコンビニの袋から何かを探している。中断された私は、膝に引っかかっている水着を脱ごうと脚を動かしていると、私の元に帰ってきた弘司さんが、私の手首を掴んだ。
「…俺が脱がすから」
と、有無を言わせず掠れた声の彼の雰囲気に、掴んでいた水着を放すと、仰向けに寝かされる。彼はふくらはぎに止まった水着を丁寧に脱がせ、持ち上げたままの脛に舌を這わす。
ゆっくり開けられる脚の間に身体を入れた彼が、手にした小箱のビニールパックを取って、乱暴に開けた小箱の紙は潰されビリビリに破かれる。中にある一枚の正方形の銀色の包みに入ってる封を開けると、円形のゴムを取り出した。


ヌプッとゴムのジェルで滑らかに私の蜜口に入る彼の昂り。
余りの大きさに背がのけ反り、未知の質量に怖くなり弘司さんに右手を伸ばすと、私の手に彼の左手が重なり指が絡まった。
ふんっ、と息を荒げズズッと蜜壺の奥へと入っていく昂りに、頭の中が何にも考えられなくなっている。
「あっ…ん、っはっ…あっ」
ちゃんと奥まで入っていないのに、軽く抽送を繰り返して少しずつ蜜壺の内側に刺激を与える彼の昂りは、私をすぐに夢中にさせてくれる。
「あっ、気持ちっ、あっん、っあ」
蜜壺の最奥まで彼の昂りが届くと、休む事なく揺さぶる彼の動きに私の身体も一緒に動き、布団の上で背中が擦れる。
ズンッと重いひと突きをされると、全身が快感で満たされていく。
「はっ、あっ!気持ちぃって、あっ!あっ」
「最高だっはっ!あっぐっ、ぐっ」
私の肩の横に右手をついた彼が、本能の赴くままに本格的に抽送を始めると、2人の息と甘い声、唸る声が部屋に響く。あまりにも甘い声を出しすぎてしまったのか、弘司さんの顔が近づき揺さぶられながらも、舌の絡まる濃厚なキスが始まる。彼の首のうしろへと腕を回し指先を彼の髪に絡めると、お互い絶頂へと向けて一気に抽送が加速し、ぷるんぷるんと揺れる乳房を彼の両手が包み込み粒をぎゅうぎゅうと潰された。
「んっ、んんんっ!」
強く潰された粒に、もうイキたくて限界だった私の身体は、絶頂へと達した。ぎゅぅぅぅっと下半身に力が入り、蜜壺の中にいる彼の昂りを締め付けると、弘司さんも短い唸り声を出したのだった。
まだ中にいる彼を感じながら、淡く口づけを繰り返す私たちは、それだけじゃ足りない事を知っていた。
「あっ、好きっ、これっ」
「こうかっ!」
「あっ、ん、んっぁうんっ、あっ」
どちらかともなく求め合い、お互いの好きな所を探していると、コンビニで購入したモノが部屋の入り口にあるのを思い出したのは、随分経ってからだった。

次の日、ヘロヘロになった身体を起こし帰ろうとする頃には、身体の相性が良すぎた弘司さんの事を好きになってしまった愛子であった。
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