ダブルス!

澤田慎梧

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第四話「全国大会開始!」

エピローグ.終わり、そして始まり

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「終わったぁぁぁ!」
「終わったね」
 表彰式の終わった会場の片隅で、アツシとエイジは床にみっともなくひっくり返っていた。その手には「入賞」とだけ書かれた表彰状。一位でも二位でも三位でもないところが、なんともしまらない。
 アツシ達と斎藤ペアの勝負は時間切れ、残り体力差で斎藤ペアの勝ちとなった。最後まで残っていた敵「魔法使い」は弟のキョウスケの方だったそうだ。
 残り時間と残り体力を冷静に把握し、一対一になった時点で逃げの一手を打ったその姿勢は、勇敢ではないかもしれないが競技者としては一流に違いない。果たして、アツシが同じ立場だったなら、そんな冷静な判断ができたかどうか怪しい所だった。
 その後に行われた決勝戦は、斎藤ペアの圧勝に終わった。二人はきっと、全国大会本戦でも活躍し、二年連続の優勝を果たしてくれることだろう。
 表彰式の後、姉のリンの方だけがアツシ達のところに来て、「楽しかったよ! またやろう!」とだけ言って帰っていった。その姿はとても「男前」で、アツシとエイジは不覚にも赤面してしまった。
 負けは負けだが、相手が強かったしカッコよかったので、どこか清々しい気持ちもあった。
 ――だが、そんなことを言っていられない事情が、アツシにはあった。父親との約束だ。
 「結果を残せ」と言われたが、地区予選準決勝止まりでは、納得してもらえないだろう。エイジにも、そのことを伝えなければならない。
「悔しいけど、楽しかった! アツシ、次の大会は秋だ。もちろん、出るんでしょ?」
「ああ、エイジ。そのこと……なんだけど――」
 アツシが重い口を開こうとした、その時だった。
「アツシ、エイジくん。見事な試合だった」
「あ、おじさん!」
「……オヤジ」
 アツシの父親が、突然姿を現した。見ればその後ろには、レイカと小峠の姿もある。二人がアツシの父親を案内してくれたらしい。
「ちぇっ、見てたのかよ、オヤジ」
「ああ、見ていた。しっかりとな」
「そっか。じゃあ、あの約束は――」
「エイジくん。君も知っての通り、アツシは思い込みが強かったり気が短かったりと、色々と迷惑をかけるかもしれないが……今後とも、息子のことをよろしく頼む」
 「約束は約束だ」と覚悟を決めたアツシ。けれども、アツシの父親は、息子の言葉をさえぎるように、エイジに向かって頭を下げていた。――アツシの頭が混乱する。
「お、オヤジ? あの、約束は……?」
「ああ、しっかりと見せてもらったぞ、お前の……お前たちの戦いを。二人とも、これで終わりというタマではないだろう? 次の大会も楽しみにさせてもらうさ」
 それだけ言って、アツシの父はくるりと背を向けて去っていってしまった。
「アツシ、約束って?」
「……いや、『オレとエイジのカッコイイところ見せてやる』って言ったのさ。負けちゃったけど」
 アツシはとっさに嘘を吐いた。父がエイジに例の約束のことを話さなかったのは、恐らく気を使ってくれたのだと気付いたから。流石のアツシも、この時ばかりは「隠しごとは良くない」等とは思わなかった。
「あはは~。じゃあ、次の大会ではちゃんとカッコイイところを見せないとね! え~と、確か次の大会は……」
「って、エイジはその前に手術だろ!」
「あは、今の今まで忘れてたよ~。うん、きちんと手術も終わらせてすぐ帰ってくるから、次こそは勝とうね、アツシ!」
「おうよ! 今度こそオレ達が最強だって証明してやろうぜ!」

 こうして、アツシとエイジの初めての大会は終わった。
 けれども、二人の「ダブルス!」はこれで終わりではない。次の大会が、まだ見ぬ強敵が待っているのだ。それを思うと、アツシの胸は激しく高鳴るのだった。
 エイジと二人で今度こそ「全国」へ、そしてその先へと駆け上がるのだ、と。
 二人でなら、きっとそれができるはずだから。

(了)
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