松前、燃ゆ

澤田慎梧

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五.顛末

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 その後の松前の顛末は悲惨なものであった。
 徳川残党軍の勢いは止まらず、松前城が落ちた十日後、江差の陣は降伏した。当主の徳広らは館城を捨てて逃げ続け、最終的には海を越えた津軽へと亡命を果たしていた。
 その際、小さな舟だったにも拘らず、徳広一家や下国安芸だけなく鈴木ら正議隊までもが同乗していたことが、家臣達の中に大きな不満となって残ったという。

 徳広が津軽に保護されたという知らせを受けてから、各地に潜伏していた松前家臣達は徳川残党軍へ降伏を申し入れた。十一月二十日のことと伝わる。彼らは残党軍に監視されながら積雪の中を松前へと帰着し、焦土と化した故郷の無残な姿に絶句したという。

 家臣達はそのまま、戦火を免れていた正行寺と法華寺に分かれて虜囚の身となった。良太郎ら少年義勇兵達も命を拾い、法華寺に監禁されたという。
 時を同じくして、弘前の薬王院にて保護されていた当主・徳広の身に異変が起こった。大量に喀血し危篤状態となり、十一月二十九日にこの世を去ったのだ。享年二十五の、あまりにも早すぎる死であった。一説には敗戦の責を取って自刃したとも伝わる。

 松前家臣達は十二月に入ると解放された。徳川残党軍は彼らを武士として丁重に扱い、自らの陣営に勧誘さえした。それを断られても「再び戦場で会おう」と固い約束を交わしたという逸話まで伝わっている。それでも、解放された家臣の多くは残党軍に靡くことはなく、当主を慕って海を渡り津軽を目指した。既に当主が身罷っているとは知らずに。

 この頃の小藤太の動向を記す資料は少ない。ただこの後、小藤太は新政府軍の一員として函館戦争に従軍し、勇猛果敢に戦ったと伝わっている。
 しかし、その功績とは裏腹に、戦後の小藤太の扱いは劣悪なものであったようだ。
 版籍奉還が行われ、松前は館藩と呼ばれるようになった。藩政は正議隊の面々が掌握、焼け野原になった松前の復興を名目に重い税を課し、その一方で自分達の私腹を肥やすという暴挙に出た。

 見かねた小藤太ら譜代の家臣達は、正議隊を弾劾すべく政府に訴え出たが藩の内紛と受け取られ、政府の介入は見送られた。正議隊は小藤太達に逆恨みを向け、彼らの士族としての身分を剥奪したという。
 こうして、正議隊の暴挙により多くのものを失った松前こと館藩は、明治四年の廃藩置県によって遂にその存在すら失うことになった。

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