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第三話「『占い研究会』乗っ取り事件」
8.後日談
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「そんでさ。結局どうなったの?」
「何の話だ」
「占い研究会」
「ああ」
小袋谷と真白先輩との対決の日から、既に数日が経っていた。もう六月だというのに、雨が降ったり降らなかったりの、中途半端な天気が続いている。
例によって、舞美は俺の部屋に入り浸り、ベッドに寝転がりながらファミコンに興じている。本日プレイしているのは、変形ロボットを操る横スクロール型シューティングだ。BGMの無い、効果音だけのゲームなので、なんだか物寂しい。
「なんでも、小袋谷のお取り巻きは殆ど辞めたらしいぞ。今は元の、毒にも薬にもならない占いに興じる、ゆるい部活に戻ったらしい」
「ほーん? 小袋谷はどうしてるの?」
「大人しくしてるらしいぞ。少なくとも、今は、な」
一連の騒動の「犯人」である小袋谷は、あれ以来大人しいものだった。
ただ、真白先輩が言うには「あの程度で折れるタマではないわ」だそうで、今後も注視が必要らしい。
「な~んか腑に落ちないんだよね~、今回の件」
「例えば、どんなところが?」
「色々あるヨ~! 真白先輩と岩瀬先輩が入れ替わりトリックの練習してたなんて知らなかったしぃ!」
「あはは、舞美は見事に騙されてたもんな」
「うるさいヨ!」
舞美はおかんむりらしく、枕が飛んできた。……人の枕を邪険に扱わないでもらいたいものだ。
あと、舞美の体の下敷きになっていたからか、枕から何だかいい匂いがした。こいつ、香水でも使い始めたのだろうか? ちょっとドキドキするから、やめてほしいんだが。
「小袋谷はさあ、岩瀬先輩の変装にはすっかり騙されたけど、真白先輩の個人情報は結構言い当ててたんでしょ? どうやって調べたんだろ」
「ああ、それな」
――そうなのだ。あの時、岩瀬先輩扮する偽・真白先輩に対して小袋谷が語ったことの幾つかは、実は当たっていたらしいのだ。
特に、「先輩のご両親が亡くなっている」のは、事実らしかった。
「真白先輩、あんまり自分のこと話さないから、ご両親が亡くなってるの知ってる人、少ないはずなんだよね~。小袋谷はどうやって知ったんだろ?」
「それだけど、どうやら小袋谷は、その事実を知らなかったっぽいぞ」
「ええっ? でも、言い当てたんでしょ? 予め知ってたんじゃないの?」
舞美の言うことは尤もだった。小袋谷の手口を知っていれば、あれは「予め知っていた情報」であるように思える。
けれども、真白先輩が言うには、違うそうだ。
「多分だけど、小袋谷は二年生の名簿を見て、そこから真白先輩のご両親の片方か両方かが亡くなっている当たりを付けたんだろうって」
「え、どういうこと?」
「ほら、学校の名簿ってさ、『保護者』欄があるだろう? 普通は父親か母親の名前が載る、アレ」
「ああ、そんなのあったねー」
「先輩の場合、そこにはお祖父さんの名前が載ってるんだってさ。で、先輩のお父さんは有名な奇術師だったから、名前が知れていて……」
「あ、なるほど! お父さん以外の男の人の名前が載ってたから」
「そういうこと」
珍しく舞美の察しが良かった。しかも、敵の弾幕を華麗に避けながらの受け答えだ。
こいつは時々、謎の器用さを見せる。スポーツ万能な理由も、そういうところにあるのかもしれない。
もう言うまでもないことかもしれないが、一応説明しておこう。
小袋谷は真白先輩のお父さんの名前を知っていた。そして、名簿に載っている先輩の保護者の名前が、お父さんの名前ではないことにも気付いていた。
保護者の名前が父親ではないのは何故か? よくあるのは両親が離婚後、母親が再婚したパターンだが、真白先輩はお父さんの名字を名乗っている。なので、この線は薄い。
ならば、お父さんが亡くなっている可能性が高くなる。その場合、普通は母親の名前が載ることになる。だが、先輩のお祖父さんは「権一郎」という。普通に考えれば女性の名前ではない。
つまり、真白先輩のご両親は亡くなるか親権を失うかしていて、先輩自身は親類の庇護のもとにいる公算が高くなる、という訳だ。
「岩瀬先輩も、真白先輩のご両親のことは知ってたらしいから、小袋谷の言葉に微妙に反応しちゃったんだな。で、小袋谷はそれを見て、自分の推測が当たっていることを確信した――相手が当の真白先輩じゃないことには、全然気付いてなかったから締まらないんだが」
「策士策に溺れる? ってやつだね~」
「だな。あ、でも俺にもちょっと分からないことがあるんだ」
「え、なになに?」
舞美がロボットを飛行機形態に変形させ、華麗に大空を舞わせながら尋ねてくる。
――このゲーム、確か地上の次は洋上、洋上の次は宇宙にステージが移動するんだよな。大昔のゲームの割に、なんだかスケールが大きい。
「小袋谷がさ、真白先輩が影で『名探偵』って呼ばれてることを、知ってたっぽいんだよ。あいつ、どこで聞きつけたんだろう?」
「あー、それね。う~ん、多分単純なことだと思うよ」
「えっ。分かるのか、舞美」
「確信はないけどね~。真白先輩って、アタシらが入学する前から比企高内の事件を解決してたらしいのね。当然、先輩に助けてもらった人は沢山いるんだけど……その逆もあるのかもなーって」
「ああ、なるほど」
つまり、舞美の言わんとすることは、こうだ。
事件があれば、必然、犯人もいる。彼らにとってみれば、自分達の悪事を暴いた「名探偵」は敵だろう。
真白先輩は、事件解決にあたっては極力自らは姿は現さない方針だ。だから、殆どの「犯人」は名探偵の正体が真白先輩だということは知らないはずだ。
だが、中には先輩自らが解決に乗り出すケースもあったかもしれない。そう、例えば高岡さんの事件の時のように……。
「まさか、な」
「どーったの?」
「いや、何でもないよ」
「ふ~ん? ……あ、そだ。他にも分からないことあったや!」
俺が言葉を濁すと、舞美はそれを察したのか、話題を変えてくれた。
なんだかんだ言っても、こいつは気遣い屋なのだ。
「そもそもだけどさ、小袋谷はなんで占い研究会の乗っ取りなんてしたんだろ? 入学早々、学校から目をつけられることやって、なんか得するのかな?」
「ああ、それな」
舞美の疑問は尤もだった。
あんな派手に部活の乗っ取りなんてやっていれば、その内、学校側も問題視するようになっていたはずだ。今回は、顧問の上坂先生が内々に収めようとしたから、大事になっていないだけだ。
もし事が大きく取り扱われていたら、小袋谷は一年生の一学期にして「問題のある生徒」の烙印を押されていたことだろう。
たかだか部活を好き勝手に牛耳れる程度じゃ、割に合わない。デメリットがメリットを上回っているように思える。
だが――。
「その辺りは、小袋谷のお母さんのことを知れば、腑に落ちるぞ」
「お母さん? あの、シューキョーみたいな占い師だっていう人?」
「そっ。そのお母さん。でもな舞美、実はその『宗教みたい』っての、ただの噂らしいんだ」
「ほえ?」
「小袋谷のお母さんは、実際には人を騙したり自分を崇めさせたりするような占い師じゃないのさ」
そう。俺も真白先輩から聞いて知ったのだが、小袋谷の母親は噂とは違い、至極真っ当な占い師なのだそうだ。
法外な料金も取らないし、「信者」を集めて怪しい会を開いたりもしていない。ただ、定期的に「お悩み相談会」のようなものを催して、客同士の交流の場を設けているだけらしい。
「へぇ~。じゃあ、なんでシューキョーだなんて噂が立ったんだろ?」
「さあな? それこそ、さっき舞美が言っていたようなことがあったんじゃないのか」
「ほえ?」
「ほら。超能力でも何でもない、ただの占いなんだったら、的中率だって百パーじゃないだろ? 中には『占いが当たらなかった』って不満を持つ人だっているだろう。そういう人がさ、小袋谷のお母さんを慕っている人達の姿を見たなら……どう感じると思う?」
「あ~、なるへそ」
もし自分にとって「全く当たらない、適当なことを言う占い師」である人物が、多くの人から信頼を得ていたとしたら、こう思うのではないだろうか。「きっと、あの人達は占い師に騙されているんだ」と。
案外と、そんな些細な誤解や悪事が積み重なって、小袋谷のお母さんに対する悪い噂になっていったのではないだろうか。
「まあ、実際のところは分からないけどな。……とにかく、小袋谷のお母さんは善良な占い師でアコギな金儲けもしていないのは、確実らしいんだ」
「ふむふむ。そのことが、小袋谷が占い研究会乗っ取りをしたことと、どう繋がるの?」
「うん。真白先輩が言うには、『練習』なんじゃないかって」
「練習? なんの?」
「噂の中の小袋谷のお母さんみたいな、『悪い占い師』になる為の、さ」
「……はい~?」
舞美が素っ頓狂な声を上げると同時に、画面の中の戦闘機が急上昇を始め、宇宙空間へと辿り着いていた。
確か、この後は宇宙空間に浮かぶ大陸で戦うんだったか。
「わるわるな占い師になる為って、なにさ?」
「だからさ、占いを利用して他人を心酔させて、カルト宗教みたいな団体を作ろうとしてたんじゃないかって話」
「ナニソレ!?」
「さっきも言ったけど、小袋谷のお母さんは客からあまり金を取らないらしいんだ。無料ではないけど、相場通り? ってことらしい。だから、小袋谷の家は特別裕福でもないんだってさ。――あいつのお母さんが言うには、そこが不満だったんじゃないかって」
「ええと……つまり、小袋谷は占いを利用して自分の信者を増やして、ショーライ的にお金儲けに利用しようとしてたってこと?」
「少なくとも、真白先輩はそう言ってたよ」
「はえ~」
感心したような、それでいて呆れ果てたような声を上げる舞美。それはそうだろう、俺だって真白先輩からこの話を聞いた時は、同じような反応をしたものだ。
まさか、学校の部活の乗っ取りが、将来的にカルト団体を作る為の練習だなんて。普通はそんなこと、思い付きさえしないだろう。
「幸い、今回は誰も金をとられたりはしてないみたいだけどな」
「そっか~。それなら良かったね」
「でも、小袋谷のお取り巻きは何人も残ってるからな。俺達も気を付けておこうな」
「ダイジョーブ、頼まれたってあの子には近付かないヨ~!」
――そんなこんなで、占い研究会を巡るごたごたは、一次幕を下ろすことになった。
小袋谷はその後、学校では大人しくしていたらしい。が、風の噂では、隣町の藤沢市で、良からぬ連中とつるんで色々と悪さをしたらしい。
ただ、悪さをする度に何者かの妨害を受けて、お灸をすえられていた、とも。
その何者かには、とっても心当たりがあるのだが……言わぬが花なのだろう。
「何の話だ」
「占い研究会」
「ああ」
小袋谷と真白先輩との対決の日から、既に数日が経っていた。もう六月だというのに、雨が降ったり降らなかったりの、中途半端な天気が続いている。
例によって、舞美は俺の部屋に入り浸り、ベッドに寝転がりながらファミコンに興じている。本日プレイしているのは、変形ロボットを操る横スクロール型シューティングだ。BGMの無い、効果音だけのゲームなので、なんだか物寂しい。
「なんでも、小袋谷のお取り巻きは殆ど辞めたらしいぞ。今は元の、毒にも薬にもならない占いに興じる、ゆるい部活に戻ったらしい」
「ほーん? 小袋谷はどうしてるの?」
「大人しくしてるらしいぞ。少なくとも、今は、な」
一連の騒動の「犯人」である小袋谷は、あれ以来大人しいものだった。
ただ、真白先輩が言うには「あの程度で折れるタマではないわ」だそうで、今後も注視が必要らしい。
「な~んか腑に落ちないんだよね~、今回の件」
「例えば、どんなところが?」
「色々あるヨ~! 真白先輩と岩瀬先輩が入れ替わりトリックの練習してたなんて知らなかったしぃ!」
「あはは、舞美は見事に騙されてたもんな」
「うるさいヨ!」
舞美はおかんむりらしく、枕が飛んできた。……人の枕を邪険に扱わないでもらいたいものだ。
あと、舞美の体の下敷きになっていたからか、枕から何だかいい匂いがした。こいつ、香水でも使い始めたのだろうか? ちょっとドキドキするから、やめてほしいんだが。
「小袋谷はさあ、岩瀬先輩の変装にはすっかり騙されたけど、真白先輩の個人情報は結構言い当ててたんでしょ? どうやって調べたんだろ」
「ああ、それな」
――そうなのだ。あの時、岩瀬先輩扮する偽・真白先輩に対して小袋谷が語ったことの幾つかは、実は当たっていたらしいのだ。
特に、「先輩のご両親が亡くなっている」のは、事実らしかった。
「真白先輩、あんまり自分のこと話さないから、ご両親が亡くなってるの知ってる人、少ないはずなんだよね~。小袋谷はどうやって知ったんだろ?」
「それだけど、どうやら小袋谷は、その事実を知らなかったっぽいぞ」
「ええっ? でも、言い当てたんでしょ? 予め知ってたんじゃないの?」
舞美の言うことは尤もだった。小袋谷の手口を知っていれば、あれは「予め知っていた情報」であるように思える。
けれども、真白先輩が言うには、違うそうだ。
「多分だけど、小袋谷は二年生の名簿を見て、そこから真白先輩のご両親の片方か両方かが亡くなっている当たりを付けたんだろうって」
「え、どういうこと?」
「ほら、学校の名簿ってさ、『保護者』欄があるだろう? 普通は父親か母親の名前が載る、アレ」
「ああ、そんなのあったねー」
「先輩の場合、そこにはお祖父さんの名前が載ってるんだってさ。で、先輩のお父さんは有名な奇術師だったから、名前が知れていて……」
「あ、なるほど! お父さん以外の男の人の名前が載ってたから」
「そういうこと」
珍しく舞美の察しが良かった。しかも、敵の弾幕を華麗に避けながらの受け答えだ。
こいつは時々、謎の器用さを見せる。スポーツ万能な理由も、そういうところにあるのかもしれない。
もう言うまでもないことかもしれないが、一応説明しておこう。
小袋谷は真白先輩のお父さんの名前を知っていた。そして、名簿に載っている先輩の保護者の名前が、お父さんの名前ではないことにも気付いていた。
保護者の名前が父親ではないのは何故か? よくあるのは両親が離婚後、母親が再婚したパターンだが、真白先輩はお父さんの名字を名乗っている。なので、この線は薄い。
ならば、お父さんが亡くなっている可能性が高くなる。その場合、普通は母親の名前が載ることになる。だが、先輩のお祖父さんは「権一郎」という。普通に考えれば女性の名前ではない。
つまり、真白先輩のご両親は亡くなるか親権を失うかしていて、先輩自身は親類の庇護のもとにいる公算が高くなる、という訳だ。
「岩瀬先輩も、真白先輩のご両親のことは知ってたらしいから、小袋谷の言葉に微妙に反応しちゃったんだな。で、小袋谷はそれを見て、自分の推測が当たっていることを確信した――相手が当の真白先輩じゃないことには、全然気付いてなかったから締まらないんだが」
「策士策に溺れる? ってやつだね~」
「だな。あ、でも俺にもちょっと分からないことがあるんだ」
「え、なになに?」
舞美がロボットを飛行機形態に変形させ、華麗に大空を舞わせながら尋ねてくる。
――このゲーム、確か地上の次は洋上、洋上の次は宇宙にステージが移動するんだよな。大昔のゲームの割に、なんだかスケールが大きい。
「小袋谷がさ、真白先輩が影で『名探偵』って呼ばれてることを、知ってたっぽいんだよ。あいつ、どこで聞きつけたんだろう?」
「あー、それね。う~ん、多分単純なことだと思うよ」
「えっ。分かるのか、舞美」
「確信はないけどね~。真白先輩って、アタシらが入学する前から比企高内の事件を解決してたらしいのね。当然、先輩に助けてもらった人は沢山いるんだけど……その逆もあるのかもなーって」
「ああ、なるほど」
つまり、舞美の言わんとすることは、こうだ。
事件があれば、必然、犯人もいる。彼らにとってみれば、自分達の悪事を暴いた「名探偵」は敵だろう。
真白先輩は、事件解決にあたっては極力自らは姿は現さない方針だ。だから、殆どの「犯人」は名探偵の正体が真白先輩だということは知らないはずだ。
だが、中には先輩自らが解決に乗り出すケースもあったかもしれない。そう、例えば高岡さんの事件の時のように……。
「まさか、な」
「どーったの?」
「いや、何でもないよ」
「ふ~ん? ……あ、そだ。他にも分からないことあったや!」
俺が言葉を濁すと、舞美はそれを察したのか、話題を変えてくれた。
なんだかんだ言っても、こいつは気遣い屋なのだ。
「そもそもだけどさ、小袋谷はなんで占い研究会の乗っ取りなんてしたんだろ? 入学早々、学校から目をつけられることやって、なんか得するのかな?」
「ああ、それな」
舞美の疑問は尤もだった。
あんな派手に部活の乗っ取りなんてやっていれば、その内、学校側も問題視するようになっていたはずだ。今回は、顧問の上坂先生が内々に収めようとしたから、大事になっていないだけだ。
もし事が大きく取り扱われていたら、小袋谷は一年生の一学期にして「問題のある生徒」の烙印を押されていたことだろう。
たかだか部活を好き勝手に牛耳れる程度じゃ、割に合わない。デメリットがメリットを上回っているように思える。
だが――。
「その辺りは、小袋谷のお母さんのことを知れば、腑に落ちるぞ」
「お母さん? あの、シューキョーみたいな占い師だっていう人?」
「そっ。そのお母さん。でもな舞美、実はその『宗教みたい』っての、ただの噂らしいんだ」
「ほえ?」
「小袋谷のお母さんは、実際には人を騙したり自分を崇めさせたりするような占い師じゃないのさ」
そう。俺も真白先輩から聞いて知ったのだが、小袋谷の母親は噂とは違い、至極真っ当な占い師なのだそうだ。
法外な料金も取らないし、「信者」を集めて怪しい会を開いたりもしていない。ただ、定期的に「お悩み相談会」のようなものを催して、客同士の交流の場を設けているだけらしい。
「へぇ~。じゃあ、なんでシューキョーだなんて噂が立ったんだろ?」
「さあな? それこそ、さっき舞美が言っていたようなことがあったんじゃないのか」
「ほえ?」
「ほら。超能力でも何でもない、ただの占いなんだったら、的中率だって百パーじゃないだろ? 中には『占いが当たらなかった』って不満を持つ人だっているだろう。そういう人がさ、小袋谷のお母さんを慕っている人達の姿を見たなら……どう感じると思う?」
「あ~、なるへそ」
もし自分にとって「全く当たらない、適当なことを言う占い師」である人物が、多くの人から信頼を得ていたとしたら、こう思うのではないだろうか。「きっと、あの人達は占い師に騙されているんだ」と。
案外と、そんな些細な誤解や悪事が積み重なって、小袋谷のお母さんに対する悪い噂になっていったのではないだろうか。
「まあ、実際のところは分からないけどな。……とにかく、小袋谷のお母さんは善良な占い師でアコギな金儲けもしていないのは、確実らしいんだ」
「ふむふむ。そのことが、小袋谷が占い研究会乗っ取りをしたことと、どう繋がるの?」
「うん。真白先輩が言うには、『練習』なんじゃないかって」
「練習? なんの?」
「噂の中の小袋谷のお母さんみたいな、『悪い占い師』になる為の、さ」
「……はい~?」
舞美が素っ頓狂な声を上げると同時に、画面の中の戦闘機が急上昇を始め、宇宙空間へと辿り着いていた。
確か、この後は宇宙空間に浮かぶ大陸で戦うんだったか。
「わるわるな占い師になる為って、なにさ?」
「だからさ、占いを利用して他人を心酔させて、カルト宗教みたいな団体を作ろうとしてたんじゃないかって話」
「ナニソレ!?」
「さっきも言ったけど、小袋谷のお母さんは客からあまり金を取らないらしいんだ。無料ではないけど、相場通り? ってことらしい。だから、小袋谷の家は特別裕福でもないんだってさ。――あいつのお母さんが言うには、そこが不満だったんじゃないかって」
「ええと……つまり、小袋谷は占いを利用して自分の信者を増やして、ショーライ的にお金儲けに利用しようとしてたってこと?」
「少なくとも、真白先輩はそう言ってたよ」
「はえ~」
感心したような、それでいて呆れ果てたような声を上げる舞美。それはそうだろう、俺だって真白先輩からこの話を聞いた時は、同じような反応をしたものだ。
まさか、学校の部活の乗っ取りが、将来的にカルト団体を作る為の練習だなんて。普通はそんなこと、思い付きさえしないだろう。
「幸い、今回は誰も金をとられたりはしてないみたいだけどな」
「そっか~。それなら良かったね」
「でも、小袋谷のお取り巻きは何人も残ってるからな。俺達も気を付けておこうな」
「ダイジョーブ、頼まれたってあの子には近付かないヨ~!」
――そんなこんなで、占い研究会を巡るごたごたは、一次幕を下ろすことになった。
小袋谷はその後、学校では大人しくしていたらしい。が、風の噂では、隣町の藤沢市で、良からぬ連中とつるんで色々と悪さをしたらしい。
ただ、悪さをする度に何者かの妨害を受けて、お灸をすえられていた、とも。
その何者かには、とっても心当たりがあるのだが……言わぬが花なのだろう。
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