【完結】逆行騎士は己の意志を貫きたい

意志の疎通(4)

「何かを欲しいと思った事はなかった。望んでも手に入らない事のが多いからな。欲しがるのも疲れた」

自嘲するみたいに呟かれる言葉にメルロ様はお前が傷ついた顔しなくて良いんだよと慰めてくれる。辛いのはメルロ様の方なのに主にそんな事をさせてしまった上に、励ます言葉も浮かばない自分が不甲斐ない。


もっとメルロ様の役に立ちたいのに。

そう思っていれば、いつかの時みたいな不敵な笑みを浮かべられる。最近分かってきたが、この顔をするメルロ様はろくな事を考えてない。


「初めて欲しいと思ったんだ。今さら手離すかよ。まずは、そうだな。その一人称直しから始めるか」
「っ、！」


パシッと音が響く勢いで自分の口を押さえた。普段から公私で一人称を使い分けていた。メルロ様の前で俺なんて一度も使った事がなかったのに。取り乱しすぎて気づかぬ内に戻ってしまっていたらしい。いつ出てしまったのかも覚えてない。


忘れて欲しいと念を込めながら見上げてみたが、ニヤニヤ笑うメルロ様はどう足掻いてもなかった事にはしてくれなさそうだ。


【完】