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足りない言葉(2)

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「アイツが良いのか」
「え?」

息を呑む。いつか見た時のあの顔だ。目に光がない。全てを覆う闇、それから年相応に見えない大人びた表情。

「チッ、何のために時間を戻したと思ってやがる」
「っ!」

今、メルロ様はなんと言った。

「やっぱりディエゴが良いってか。最初はディエゴの騎士だったもんな。俺を捨ててディエゴの元へ戻るって?」
「メルロ様、何を言って!?」
「そんなの許すわけねえだろ」
「ン…ッ」

開いたままの唇に舌を忍びこんできて、反射的に噛みついてしまう。

「廊下ですよ!?」
「へぇ?廊下じゃないなら良いのか」

そういう事を言いたい訳じゃない。確かに誰が見てるかも分からない場所でする事ではないが、それ以上にキスをされた理由が分からない。

「お前は俺のなんだよ。そうだろ?俺の可愛いお人形」

人形

その呼び方は今生では一度もされた事がない。無表情で喋らない俺に対して言ったメルロ様の嫌みだ。でも今は無表情なのは変わらないかも知れないが、それでも前とは比べものにならないくらい会話は交わしてきた。薄々感じてはいたが、どうやらメルロ様にも前の記憶があるらしい。

――神様は意地悪だ。

どうしてメルロ様にも前の記憶を残してしまったんだ。そんなの、どう態度を改めて頑張ったとしても前の俺が邪魔をしてメルロ様が認めてくれる事など一生ある筈ないじゃないか。

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