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目覚めの日(2)

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次に目を覚ましたのは雑に開けられた扉の音によってだった。

「な、なんだ!?」
「いつまで寝てんだ、寝坊助」

驚き飛び起きて扉を見ればヴァルガが立っていた。

いつの間にか外の灯りは消えて、代わりに太陽の光が部屋に降り注いでいる。

今、何時だ。

辺りを見回してみても、この部屋には時計がない。


寝ていた事を怒るでも呆れるでもなくて、ただ真っ直ぐにヴァルガは愁玲を見つめてくる。

その瞳に息を詰めた。

「だ、だって何かしろとか言われてないし、する事もないし…」
「お前は今まで何をしてきたんだ」
「っ、」

その言葉にまた息を飲む事になる。それは寝る前に愁玲自身思っていた事だ。

「なに、も…」

拳を作り震えるほどに握りしめた。

愁玲は今まで何もしてこなかった。いや、しなかった訳じゃない。母のいう事に従い、母が認めた家臣のいう言葉も守ってきた。だがそれだけだった。今まで愁玲は自分の意志で何かをした事が一度もなかった。

「勉強は。お前は将来領主になる予定だったんだろ。勉強はしてこなかったのか?」
「母上が、勉強は馬鹿がするものだって。俺には不要だからしなくていいって…」
「なるほどな、お前は傀儡だったって訳だな」
「くぐつ?」

聞いた事ない言葉に眉を寄せる。意味は分からないが、それが誉め言葉ではない事は雰囲気でわかった。

「教えなかった奴が悪いのか、知ろうとしなかった奴が悪いのか。まあそんな事、ここに来た以上はもうどうでもいい」
「いてっ」

頭に衝撃を喰らって、そのまま膝の上に何かが落ちてくきた。叩かれた訳じゃない。反射的に痛いと言ってしまったが、それ程の痛みでもなかった。
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