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運命
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皇妃の駆け落ち事件から一月が経ち、人々の関心が他に移り始めた頃のことだった。
都の至る場所へ、国民へ向けて触書が貼られ、それを目にした誰もが固まった。口を開いて驚く様は滑稽だ。
困惑しつつも国民が思い出すのは一月前の事件、皇妃の駆け落ちである。愚妻の裏切りに心を痛めたのだろうと憐れむ。
「結婚たぁ……そりゃいいけどよ……」
「相手ってこれ。男だろぉ?」
臣民への挨拶から始まった文面、その内容は彼らの敬愛する皇帝の結婚宣言だった。相手はつい最近支配下に置いた国から連れてきた男奴隷とあれば、普通なら反感を持つものである。あるのだが。
「お可哀想に……きっと女が信じられなくなったのよ」
「そりゃぁそうよ! 自分を謀って他に男作ってそいつと逃げるなんて……あたしの息子が同じ目に合ったら生かしておけないね! そんな女!」
「男に走るのも無理ないか……」
「俺はお祝いのご馳走が貰えるなら何でもいいかねぇ」
好き勝手なことを言いつつリチャードに同情し、結婚を受け入れる者がほとんどだった。
国王最大の義務である世継が既に生まれていたことも要因の一つかもしれない。幼い皇太子は母の失踪を病死と言い聞かせられ、分別のつく年齢になるまで真相は伏せて育てられていく。
一方、皇帝の新たな妻となった奴隷は、触書の内容を本人から伝え聞かされ「ありえないでしょう」と珍しく反論した。
「何がだ」
「奴隷が皇妃になる……よりも、私は男です。ワイアットも確か同性婚は認められていないでしょう」
ワイアットに古くから根付く宗教も、確かに同性間での結婚を認めていない。そもそも、近隣諸国で同性婚を認めている国はなかった。
「ああ。だから正式な妻とはいかないが俺はお前と結婚したつもりでいる。神に認められんから教会で誓えんが、結婚式はするぞ」
「いや。いや。待って。待ってください……」
決定事項だとするリチャードに、ユージーンは懸命に抗おうとする。口で勝てないのは自明の理だが、すんなり受け入れるわけにもいかない。
「宗教改革も考えたんだが、流石にそこまですると国民の反発は大きいかもしれない。許せユージーン」
「違います。そういうことじゃないんです」
内縁の妻など嫌だと思われたのか、見当外れな謝罪を向けられる。頭を振って否定するユージーンに、リチャードは眉を吊り上げた。
「なら何だ。俺と結婚したくないと言うのか」
「そうでもなくて。陛下と」
「リチャード」
「……リチャード様と、その、結婚出来るなら嬉しいけれど……リチャード様が奴隷と、それも男と結婚するなんて……って噂されたり…………馬鹿にされたりしたら、嫌です」
「安心しろ。不敬罪で百発殴る。一人殴れば誰も笑わなくなる」
「そういうのがダメなんですよぉ!」
しゅっしゅっ、と殴る仕種をするリチャードにユージーンが声を上げる。
「リチャード様の結婚は、皆に祝福されてほしいんです。私は結婚なんてしなくても……ただ側に置いていただけたら、それだけで充分です」
「……」
ユージーンの言葉に、リチャードが顔を顰める。至極全うなことを言ったつもりだったユージーンは眉を下げて困惑した。
「…………俺がお前と結婚したのが間違いではなかったと、そう思われたらいいんだな?」
「え? ええ。まぁ。そうかも」
リチャードの結婚を国民が自然と受け入れ、祝福をくれる。それが理想だろうと頷くユージーンに、リチャードは不敵に微笑んだ。
「そう遠くないうちに証明されるだろう。俺はお前と出会って随分と寛容になった」
「……ははっ」
そうかなぁ、と出かけた言葉は飲み込み、代わりに曖昧な愛想笑いを浮かべた頬がつねられる。僅かな痛みは、確かに彼の変化を教えてくれた。
「一月後に城の庭園を解放した祝宴を開く。お前と俺の結婚式だ」
話し始めからリチャードは決定事項としていた。それを覆すことは出来ないし、出来るとも思っていない。ただユージーンとしての考えを伝えただけだ。
「……はい。へい……いいえ。リチャード様の御心のままに」
逆らうつもりではなかった。ユージーンはリチャードの心に従う。それでも、そう決めていても、言うべきことは言っておかねばならない。
結婚とはそういうものだろう。
触出しから一月後。ワイアットの城は朝から騒がしかった。
厨房は日の出と共に稼働し、調理人達がせかせか動き回って開く料理を作り上げていく。広い庭園にはいくつかのテーブルが設けられ、侍女達が厨房から料理を運び置く。昼前になると祝砲と共に城門が開かれ、解放を待っていた庶民が庭園へ入り込んでいった。
皇帝の結婚式とあれば庶民は仕事を休み、祝いを述べながら普段は食べられない城のご馳走に手をつけていく。酔っぱらいの歓声と歌声が聞こえる頃、リチャードとユージーンは寝室にいた。
「こら、逃げるなユージーン」
「あっ。あ、いや……いやぁ……」
艶かしい声を上げてベッドの上に転がされたユージーンの体は、布切れ一枚すら身に付けていない。結婚式に向けて体を洗われたばかりの体は、既に礼服に着替えたリチャードの手により、今から飾り立てられていくのだ。
「あっ……」
リチャードを迎え入れる為の器となった尻の孔に、リチャードが手にした小瓶の中身を垂らしていく。
「西の国から取り寄せた媚薬だ。どんなに頑なな淑女も、男を求める淫乱に塗り替えてしまうらしいぞ。お前は既に淫乱だが、ここは濡らしてやらんとならんからな」
「ひっ……あ、ああ……」
透明な液体が下腹から滴り落ち、リチャードの手に誘われ尻孔へ押し込まれていく。リチャードを咥えることを覚えたとはいえ、慣らさなければ硬く慎ましい孔が滑りを帯びた指にほぐし、開かれていった。
「あ……あっ……りちゃ……リチャードぉ……」
少し尻孔を弄られるだけで媚び始めたユージーンに、普段ならすぐに肉茎を突っ込んでやる所だが、今日のリチャードは違った。
「……っ! な、に……」
ひくつく尻孔に押し付けられたものの、人体とは違う固さにユージーンが狼狽える。尻を振って逃げようとする腰を抑えたリチャードは、手にしたものを掲げ見せた。
「これから民への披露目がある。その間はこれで我慢していろ」
終わったらすぐに抱いてやると言いながら、リチャードが見せてきたのは木製の棒だった。ただの棒ではなく、ユージーンがすっかり見慣れたものそっくりに削り、磨かれた棒だ。
「……」
ユージーンの胎を抉る亀頭は大きく肥え、ユージーンの奥深くまで突き進む肉竿は長く太い。リチャードの肉棒そのままの形をした棒、その先端がすりすりと孔へ擦り付けられる。
「やっ……」
蜜薬でしとどに濡れた孔は難なく棒を飲み込んでいく。異物の侵入に拒否反応を見せるユージーンだが、リチャードの意地の悪い命令に固まった。
「職人に作らせた俺の張形だ。式の間は俺だと思って受け入れろよ、ユージーン」
リチャードがそう言うのなら受け入れなくてはならない。頭での理解と心の拒否感が反発し合うが、最後はリチャードが勝つ。
「う……うっ、う、ぐっ…………ぁっ……あ……」
リチャードを模して作られた張形が胎の中へ埋め込まれ、異物感と闘うユージーンの脚に、何かが通される。目を向けるとリチャードが下着を履かせてくれていた。
真っ白い糸で縫われたレース生地の下着は、大切な部分をちっとも隠せていない。
「花嫁は何もかも隠される。大丈夫だ」
ベッドの上に投げ出されていた衣服を手に取り、リチャードが囁く。真っ白いドレスはレースや真珠に飾り立てられ、ユージーンの体を覆い隠してしまう。尻孔から僅かに顔を出す張形の尾も、局部を飾るだけの下着も、いつものように乳首にぶら下がるピアス達も。
「化粧……はいいか。俺はお前のままがいい」
異論なく頷くユージーンの頭に、何層ものレースが重なったベールが掛けられる。視界が白み、ユージーンは外界から隔絶されたような錯覚に陥った。
「花飾り……は、ああ、これでベールを固定するのか。動くなよ」
髪に何かを通される。言葉通りなら花のついた髪飾りなのだろう。ユージーンには見えないけれど、リチャードの満足げな声が聞こえてきたので良しとした。
「行こうか、ユージーン」
白いグローブに包まれた手が、リチャードの手に重ねられる。腰を抱かれ歩き出す姿は、夫に支えられる花嫁そのものだった。
リチャードの私室にはベランダが設けられており、そこからは庭園を一望することが出来る。ユージーンを連れたリチャードがベランダへ現れると庭園の観衆が注目した。
リチャードが彼らに向けて挨拶の言葉を掛けている中、ベールの下のユージーンは息を切らせて耐えていた。張形を咥えた尻孔が疼いてたまらないのだ。
張形は肉筒を埋めてくれても、快楽は与えられない。リチャードのようにユージーンの中で暴れ回って性感帯を刺激することはない。
「んっ……ふ、ぅ……」
艶かしい息遣いはベールに遮断されるのか、リチャードは反応してくれない。腕の中で身を捩ってみても甘えているだけだと思われたらしく、腰を抱く腕の力が強まるだけだった。
リチャードの話はまだ続く。かつての皇妃に触れ、彼女の裏切りに傷付いた心を癒してくれたのがユージーンだと語る。民は誰もがリチャードの声に耳を傾けていた。
「ぁ……あ……ぅう……」
張形から刺激を受けることは出来ないかと、肉筒を締め、緩めることを繰り返してみる――が効果はあまりない。僅かに動き、肉襞を押される微量な刺激はさらに飢えを呼ぶだけになった。
リチャードの声すら最早頭に入ってこない。尻孔がひくひくと蠢き、震える足を支えようとリチャードの体へ倒れるようにしがみつく。
「――愛しているよ、我が花嫁」
ベールが僅かに持ち上げられ、ほっそりとした顎と唇が見えた。ユージーンに呪いを振り撒くことがなくなり、蜜より甘い言葉と快楽を与えてくれる、大好きなリチャードの唇が。
触れられるのを待っていられず、ユージーンは飛びついた。リチャードの首筋へ腕を回し、顔を寄せて唇を重ね合わせる。
リチャードの口内に舌を差し入れ、媚び始める。しばらく吸い付き合うと唐突に唇が離され、ユージーンの体が宙に浮く。リチャードに抱き抱えられていた。
幸福に包まれた皇帝とその花嫁に、歓声が上がる。リチャードの演説力に丸め込まれた民衆は、すっかり彼の結婚を祝福していた。
「リチャ……リチャード……」
寝室へ連れ込まれたユージーンは、ドレスを着付けられたベッドの上へ投げ出された。今度は身につけたものを剥ぎ取られていき、総レースの下着だけが残される。
「あぁ……んっ」
仰向けのまま尻だけ掲げ上げる。レースの隙間からリチャードの指が尻を撫で、尻の谷間から僅かに顔を出す張形に触れた。
「こんなものを咥えて興奮したか。淫乱め」
「あ……だ……てぇ……だってぇ……」
ユージーンの股の間でゆらゆらと揺れる性器は芯を持ち始めている。異物を押し込まれただけで感じ入る体と謗られ、理性の残った頭が恥入り始めた。子供のように頭を振って言い訳をする。
「リチャードが……いれたから……」
「張形で興奮できるなら、俺のものはいらないな?」
「いやっ!!」
リチャードが目を見張る程、ユージーンは強く否定した。赤く染まった頬に涙が零れ始める。
「いやぁ……ユージーンの、ユージーンのけつマ○コ……リチャードのおち○ぽでいっぱいにしてぇ……こんなのやだ……」
言いながら起き上がろうとするユージーンは、懸命に手を伸ばす。ベッドへ乗り上がりユージーンの上へ跨がるリチャードの股間へと。ユージーンを犯し可愛がる専用ち○ぽへと。
「これぇ……リチャードじゃないといやだぁ……リチャードの太くて大きくて気持ちいいのがいい……」
「ユージーン……」
レースの狭間に潜り込ませた指が動く。糸で編み作られた繊細な模様が無惨に形を失くす。乱暴に破られたレースの残骸は破瓜を思わせるが、ユージーンはとっくに処女を捧げている。尊厳すら捧げた夫を見つめる目は快楽への期待に蕩け、唇は物欲しげに開かれていた。
「あっ」
咥え込んだ張形がゆっくりと抜き取られていく。先に仕込まれた媚薬を纏い抜き出ていく間、ユージーンは鳴いていた。
「あ。あ。あ。あ……ぁ……っ、あ、あっ」
性具を抜かれるだけで感じ、性器から涙を溢す妻を、リチャードは猛禽のような目で見つめる。ユージーンの中に残るのが偽物の亀頭だけになると、無慈悲な手は一息に抜き去った。
「ああっ……はっ、あっ、あ、あっ……」
張形を飲み込んでいた孔は余韻に浸るようにぽっかりと口を開け、ピンク色の肉襞が見える。喘ぐままに荒げた息を整えようと呼吸を繰り返すユージーンは、礼服を脱ぎ捨てていくリチャードを見て、期待を強めた。
何をしてもらえるのか。考えなくともわかる。
裸になったリチャードはユージーンの腿へ手を掛け、押さえつける。ぐっ、と持ち上がったまろい尻に、高く勃起した肉棒を擦りつける。
本物亀頭の頂からは、我慢汁が溢れていた。
「あん……リチャード……リチャードさまぁ」
尻の狭間に擦り寄り、孔へ入ろうとする素振りはしてもなかなか挿入てくれない。酷薄な笑みを浮かべたリチャードは御馳走を掲げ焦らして愉しんでいる。待っているのだ。
「リチャードぉ……」
すっかりはしたなく堕ちきった妻が、下品に媚びるのを待っている。わかっているユージーンはふりふりと尻を振って自らリチャードち○ぽを孔に擦りつける。
「リチャードさま。ユージーンの皇帝陛下。旦那さまぁ……ここ……リチャード専用ま○こ気持ち良くして……リチャードち○ぽ奥まで突っ込んで、いっっっぱいゴシゴシして……」
尻を振りながら亀頭を誘い込む。花嫁の誘惑は咎められず、雄肉をゆっくりと飲み込み始めた。
「ユージーンの中、おち○ぽでたくさん突いて……お尻の奥をリチャードに叩かれるの大好きなの……」
「……くっ」
殴って。抉って。カリ首まで飲み込むと、ユージーンは腰を揺すり始めた。甘い律動にリチャードが呻く。
「ねっ、いいでしょ……きもちいいでしょぉ……リチャード、おち○ぽ動かしてぇっ」
竿を半分まで咥えると、リチャードの手が勢い良くユージーンの腰を掴む。あはっ、と笑った瞬間、ユージーンの腰が強い力に掴まれる。
「いっ! ひぃぃぃいっ!!」
願い通り動き始めたリチャードは、肉竿を奥まで突き入れると腰を揺さぶり始めた。胎の奥をつつく、優しい刺激はやがて勢いを増していく。
「ああ~っ! あっ! あ! おっ! あ! あ! あっ……ぉ……ぉ……」
獣のように喘ぎ、呻く声。肉が肉を打つ軽快な男。肉壺に満ちた媚薬が奏でる下品な水音。寝室に響く全てが二人の興奮を煽っていく。
「そんなに気持ちがいいかっ……」
「はいっ! あっぉっおっ……いいぃっ! ま○こずぼずぼっ! きもちいのっ」
脚を開いて腹を見せ、尻を振って主人に媚びへつらう姿は浅ましい。けれどリチャードに嫌悪はなく、可愛い奴だと褒美を与える。
「ひあぁあああああっ! ああっ! あーーーーっ!!」
尻の奥に隠れた前立腺を亀頭で殴り続けてやると、ユージーンは悦びの悲鳴を上げながら射精を迎えた。
絶頂に達した体は快楽に酔いしれるまま、尻孔をキュッと締める。
「うっ……ユージーン……! 出すぞっ……」
「あっ、あ、でてるぅっ……あついのでてるっ」
低い呻きと共に、肉壺に精が吐き出される。ユージーンの尻に腰を押し付けて射精するリチャードは、胎の奥まで種を飛ばそうとしているようで、ユージーンは嬉しくて仕方なかった。
「あぁん……おく……あつい……あっ」
蕩けた思考のまま声を垂れ流していた唇がリチャードのもので塞がれる。大きな舌が口内を制圧し、ユージーンの唾液を啜り奪っていく。
「んっ、ん、ん、んっんー……ん、んっ」
リチャードに口を吸われると、全てを支配された気持ちになる。抗う気は全くない。リチャードに飼われ、与えられるものだけで生きていたい。
舌を絡め返して口付けを楽しんでいると、ユージーンの中で吐精し萎んでいたリチャードが再び膨張を始めていく。
「あっ……」
むくむくと育つ様子が、尻肉から伝わってくる。興奮からユージーンの性器も力を取り戻し、震えていた。
「リチャードぉ」
「ユージーン……」
太さと硬度を増したリチャードが、先程吐き出した種を塗り込み始める。ぐちゃぐちゃと音を立てて掻き混ぜながら、肉襞へ擦り込み肉路の奥へ押し込む。
「あぁ……ん……おく……」
「奥まで飲め。孕め。俺のユージーン」
男は妊娠なんてしない。出来ない。そんなことは二人ともわかっている。
ベッドの上の戯言でしかないが、リチャードは本気でユージーンを孕まそうとしていたし、ユージーンも孕みたいと思った。
真っ昼間から始まった濃密な初夜は明け方近くまで続き、従者達が二人の仲に呆れてしまう程だった。
最悪の出会いから結ばれた二人は、まだまだ長い人生を依存し合いながら進んでいくことになる。
その命が終わるまで――死が二人を別とうと、その先も。
***
閲覧ありがとうございました。
こちらの小説は春庭にて同人誌発行予定です。(同人誌には現代転生したリチャードが悩み苦しむものの隣にはユージーンがいる後日談を収録予定です)
良ければ手に取っていただけると嬉しいです。
本編の感想もいただけるととても嬉しいです!
よろしくお願いいたします。
都の至る場所へ、国民へ向けて触書が貼られ、それを目にした誰もが固まった。口を開いて驚く様は滑稽だ。
困惑しつつも国民が思い出すのは一月前の事件、皇妃の駆け落ちである。愚妻の裏切りに心を痛めたのだろうと憐れむ。
「結婚たぁ……そりゃいいけどよ……」
「相手ってこれ。男だろぉ?」
臣民への挨拶から始まった文面、その内容は彼らの敬愛する皇帝の結婚宣言だった。相手はつい最近支配下に置いた国から連れてきた男奴隷とあれば、普通なら反感を持つものである。あるのだが。
「お可哀想に……きっと女が信じられなくなったのよ」
「そりゃぁそうよ! 自分を謀って他に男作ってそいつと逃げるなんて……あたしの息子が同じ目に合ったら生かしておけないね! そんな女!」
「男に走るのも無理ないか……」
「俺はお祝いのご馳走が貰えるなら何でもいいかねぇ」
好き勝手なことを言いつつリチャードに同情し、結婚を受け入れる者がほとんどだった。
国王最大の義務である世継が既に生まれていたことも要因の一つかもしれない。幼い皇太子は母の失踪を病死と言い聞かせられ、分別のつく年齢になるまで真相は伏せて育てられていく。
一方、皇帝の新たな妻となった奴隷は、触書の内容を本人から伝え聞かされ「ありえないでしょう」と珍しく反論した。
「何がだ」
「奴隷が皇妃になる……よりも、私は男です。ワイアットも確か同性婚は認められていないでしょう」
ワイアットに古くから根付く宗教も、確かに同性間での結婚を認めていない。そもそも、近隣諸国で同性婚を認めている国はなかった。
「ああ。だから正式な妻とはいかないが俺はお前と結婚したつもりでいる。神に認められんから教会で誓えんが、結婚式はするぞ」
「いや。いや。待って。待ってください……」
決定事項だとするリチャードに、ユージーンは懸命に抗おうとする。口で勝てないのは自明の理だが、すんなり受け入れるわけにもいかない。
「宗教改革も考えたんだが、流石にそこまですると国民の反発は大きいかもしれない。許せユージーン」
「違います。そういうことじゃないんです」
内縁の妻など嫌だと思われたのか、見当外れな謝罪を向けられる。頭を振って否定するユージーンに、リチャードは眉を吊り上げた。
「なら何だ。俺と結婚したくないと言うのか」
「そうでもなくて。陛下と」
「リチャード」
「……リチャード様と、その、結婚出来るなら嬉しいけれど……リチャード様が奴隷と、それも男と結婚するなんて……って噂されたり…………馬鹿にされたりしたら、嫌です」
「安心しろ。不敬罪で百発殴る。一人殴れば誰も笑わなくなる」
「そういうのがダメなんですよぉ!」
しゅっしゅっ、と殴る仕種をするリチャードにユージーンが声を上げる。
「リチャード様の結婚は、皆に祝福されてほしいんです。私は結婚なんてしなくても……ただ側に置いていただけたら、それだけで充分です」
「……」
ユージーンの言葉に、リチャードが顔を顰める。至極全うなことを言ったつもりだったユージーンは眉を下げて困惑した。
「…………俺がお前と結婚したのが間違いではなかったと、そう思われたらいいんだな?」
「え? ええ。まぁ。そうかも」
リチャードの結婚を国民が自然と受け入れ、祝福をくれる。それが理想だろうと頷くユージーンに、リチャードは不敵に微笑んだ。
「そう遠くないうちに証明されるだろう。俺はお前と出会って随分と寛容になった」
「……ははっ」
そうかなぁ、と出かけた言葉は飲み込み、代わりに曖昧な愛想笑いを浮かべた頬がつねられる。僅かな痛みは、確かに彼の変化を教えてくれた。
「一月後に城の庭園を解放した祝宴を開く。お前と俺の結婚式だ」
話し始めからリチャードは決定事項としていた。それを覆すことは出来ないし、出来るとも思っていない。ただユージーンとしての考えを伝えただけだ。
「……はい。へい……いいえ。リチャード様の御心のままに」
逆らうつもりではなかった。ユージーンはリチャードの心に従う。それでも、そう決めていても、言うべきことは言っておかねばならない。
結婚とはそういうものだろう。
触出しから一月後。ワイアットの城は朝から騒がしかった。
厨房は日の出と共に稼働し、調理人達がせかせか動き回って開く料理を作り上げていく。広い庭園にはいくつかのテーブルが設けられ、侍女達が厨房から料理を運び置く。昼前になると祝砲と共に城門が開かれ、解放を待っていた庶民が庭園へ入り込んでいった。
皇帝の結婚式とあれば庶民は仕事を休み、祝いを述べながら普段は食べられない城のご馳走に手をつけていく。酔っぱらいの歓声と歌声が聞こえる頃、リチャードとユージーンは寝室にいた。
「こら、逃げるなユージーン」
「あっ。あ、いや……いやぁ……」
艶かしい声を上げてベッドの上に転がされたユージーンの体は、布切れ一枚すら身に付けていない。結婚式に向けて体を洗われたばかりの体は、既に礼服に着替えたリチャードの手により、今から飾り立てられていくのだ。
「あっ……」
リチャードを迎え入れる為の器となった尻の孔に、リチャードが手にした小瓶の中身を垂らしていく。
「西の国から取り寄せた媚薬だ。どんなに頑なな淑女も、男を求める淫乱に塗り替えてしまうらしいぞ。お前は既に淫乱だが、ここは濡らしてやらんとならんからな」
「ひっ……あ、ああ……」
透明な液体が下腹から滴り落ち、リチャードの手に誘われ尻孔へ押し込まれていく。リチャードを咥えることを覚えたとはいえ、慣らさなければ硬く慎ましい孔が滑りを帯びた指にほぐし、開かれていった。
「あ……あっ……りちゃ……リチャードぉ……」
少し尻孔を弄られるだけで媚び始めたユージーンに、普段ならすぐに肉茎を突っ込んでやる所だが、今日のリチャードは違った。
「……っ! な、に……」
ひくつく尻孔に押し付けられたものの、人体とは違う固さにユージーンが狼狽える。尻を振って逃げようとする腰を抑えたリチャードは、手にしたものを掲げ見せた。
「これから民への披露目がある。その間はこれで我慢していろ」
終わったらすぐに抱いてやると言いながら、リチャードが見せてきたのは木製の棒だった。ただの棒ではなく、ユージーンがすっかり見慣れたものそっくりに削り、磨かれた棒だ。
「……」
ユージーンの胎を抉る亀頭は大きく肥え、ユージーンの奥深くまで突き進む肉竿は長く太い。リチャードの肉棒そのままの形をした棒、その先端がすりすりと孔へ擦り付けられる。
「やっ……」
蜜薬でしとどに濡れた孔は難なく棒を飲み込んでいく。異物の侵入に拒否反応を見せるユージーンだが、リチャードの意地の悪い命令に固まった。
「職人に作らせた俺の張形だ。式の間は俺だと思って受け入れろよ、ユージーン」
リチャードがそう言うのなら受け入れなくてはならない。頭での理解と心の拒否感が反発し合うが、最後はリチャードが勝つ。
「う……うっ、う、ぐっ…………ぁっ……あ……」
リチャードを模して作られた張形が胎の中へ埋め込まれ、異物感と闘うユージーンの脚に、何かが通される。目を向けるとリチャードが下着を履かせてくれていた。
真っ白い糸で縫われたレース生地の下着は、大切な部分をちっとも隠せていない。
「花嫁は何もかも隠される。大丈夫だ」
ベッドの上に投げ出されていた衣服を手に取り、リチャードが囁く。真っ白いドレスはレースや真珠に飾り立てられ、ユージーンの体を覆い隠してしまう。尻孔から僅かに顔を出す張形の尾も、局部を飾るだけの下着も、いつものように乳首にぶら下がるピアス達も。
「化粧……はいいか。俺はお前のままがいい」
異論なく頷くユージーンの頭に、何層ものレースが重なったベールが掛けられる。視界が白み、ユージーンは外界から隔絶されたような錯覚に陥った。
「花飾り……は、ああ、これでベールを固定するのか。動くなよ」
髪に何かを通される。言葉通りなら花のついた髪飾りなのだろう。ユージーンには見えないけれど、リチャードの満足げな声が聞こえてきたので良しとした。
「行こうか、ユージーン」
白いグローブに包まれた手が、リチャードの手に重ねられる。腰を抱かれ歩き出す姿は、夫に支えられる花嫁そのものだった。
リチャードの私室にはベランダが設けられており、そこからは庭園を一望することが出来る。ユージーンを連れたリチャードがベランダへ現れると庭園の観衆が注目した。
リチャードが彼らに向けて挨拶の言葉を掛けている中、ベールの下のユージーンは息を切らせて耐えていた。張形を咥えた尻孔が疼いてたまらないのだ。
張形は肉筒を埋めてくれても、快楽は与えられない。リチャードのようにユージーンの中で暴れ回って性感帯を刺激することはない。
「んっ……ふ、ぅ……」
艶かしい息遣いはベールに遮断されるのか、リチャードは反応してくれない。腕の中で身を捩ってみても甘えているだけだと思われたらしく、腰を抱く腕の力が強まるだけだった。
リチャードの話はまだ続く。かつての皇妃に触れ、彼女の裏切りに傷付いた心を癒してくれたのがユージーンだと語る。民は誰もがリチャードの声に耳を傾けていた。
「ぁ……あ……ぅう……」
張形から刺激を受けることは出来ないかと、肉筒を締め、緩めることを繰り返してみる――が効果はあまりない。僅かに動き、肉襞を押される微量な刺激はさらに飢えを呼ぶだけになった。
リチャードの声すら最早頭に入ってこない。尻孔がひくひくと蠢き、震える足を支えようとリチャードの体へ倒れるようにしがみつく。
「――愛しているよ、我が花嫁」
ベールが僅かに持ち上げられ、ほっそりとした顎と唇が見えた。ユージーンに呪いを振り撒くことがなくなり、蜜より甘い言葉と快楽を与えてくれる、大好きなリチャードの唇が。
触れられるのを待っていられず、ユージーンは飛びついた。リチャードの首筋へ腕を回し、顔を寄せて唇を重ね合わせる。
リチャードの口内に舌を差し入れ、媚び始める。しばらく吸い付き合うと唐突に唇が離され、ユージーンの体が宙に浮く。リチャードに抱き抱えられていた。
幸福に包まれた皇帝とその花嫁に、歓声が上がる。リチャードの演説力に丸め込まれた民衆は、すっかり彼の結婚を祝福していた。
「リチャ……リチャード……」
寝室へ連れ込まれたユージーンは、ドレスを着付けられたベッドの上へ投げ出された。今度は身につけたものを剥ぎ取られていき、総レースの下着だけが残される。
「あぁ……んっ」
仰向けのまま尻だけ掲げ上げる。レースの隙間からリチャードの指が尻を撫で、尻の谷間から僅かに顔を出す張形に触れた。
「こんなものを咥えて興奮したか。淫乱め」
「あ……だ……てぇ……だってぇ……」
ユージーンの股の間でゆらゆらと揺れる性器は芯を持ち始めている。異物を押し込まれただけで感じ入る体と謗られ、理性の残った頭が恥入り始めた。子供のように頭を振って言い訳をする。
「リチャードが……いれたから……」
「張形で興奮できるなら、俺のものはいらないな?」
「いやっ!!」
リチャードが目を見張る程、ユージーンは強く否定した。赤く染まった頬に涙が零れ始める。
「いやぁ……ユージーンの、ユージーンのけつマ○コ……リチャードのおち○ぽでいっぱいにしてぇ……こんなのやだ……」
言いながら起き上がろうとするユージーンは、懸命に手を伸ばす。ベッドへ乗り上がりユージーンの上へ跨がるリチャードの股間へと。ユージーンを犯し可愛がる専用ち○ぽへと。
「これぇ……リチャードじゃないといやだぁ……リチャードの太くて大きくて気持ちいいのがいい……」
「ユージーン……」
レースの狭間に潜り込ませた指が動く。糸で編み作られた繊細な模様が無惨に形を失くす。乱暴に破られたレースの残骸は破瓜を思わせるが、ユージーンはとっくに処女を捧げている。尊厳すら捧げた夫を見つめる目は快楽への期待に蕩け、唇は物欲しげに開かれていた。
「あっ」
咥え込んだ張形がゆっくりと抜き取られていく。先に仕込まれた媚薬を纏い抜き出ていく間、ユージーンは鳴いていた。
「あ。あ。あ。あ……ぁ……っ、あ、あっ」
性具を抜かれるだけで感じ、性器から涙を溢す妻を、リチャードは猛禽のような目で見つめる。ユージーンの中に残るのが偽物の亀頭だけになると、無慈悲な手は一息に抜き去った。
「ああっ……はっ、あっ、あ、あっ……」
張形を飲み込んでいた孔は余韻に浸るようにぽっかりと口を開け、ピンク色の肉襞が見える。喘ぐままに荒げた息を整えようと呼吸を繰り返すユージーンは、礼服を脱ぎ捨てていくリチャードを見て、期待を強めた。
何をしてもらえるのか。考えなくともわかる。
裸になったリチャードはユージーンの腿へ手を掛け、押さえつける。ぐっ、と持ち上がったまろい尻に、高く勃起した肉棒を擦りつける。
本物亀頭の頂からは、我慢汁が溢れていた。
「あん……リチャード……リチャードさまぁ」
尻の狭間に擦り寄り、孔へ入ろうとする素振りはしてもなかなか挿入てくれない。酷薄な笑みを浮かべたリチャードは御馳走を掲げ焦らして愉しんでいる。待っているのだ。
「リチャードぉ……」
すっかりはしたなく堕ちきった妻が、下品に媚びるのを待っている。わかっているユージーンはふりふりと尻を振って自らリチャードち○ぽを孔に擦りつける。
「リチャードさま。ユージーンの皇帝陛下。旦那さまぁ……ここ……リチャード専用ま○こ気持ち良くして……リチャードち○ぽ奥まで突っ込んで、いっっっぱいゴシゴシして……」
尻を振りながら亀頭を誘い込む。花嫁の誘惑は咎められず、雄肉をゆっくりと飲み込み始めた。
「ユージーンの中、おち○ぽでたくさん突いて……お尻の奥をリチャードに叩かれるの大好きなの……」
「……くっ」
殴って。抉って。カリ首まで飲み込むと、ユージーンは腰を揺すり始めた。甘い律動にリチャードが呻く。
「ねっ、いいでしょ……きもちいいでしょぉ……リチャード、おち○ぽ動かしてぇっ」
竿を半分まで咥えると、リチャードの手が勢い良くユージーンの腰を掴む。あはっ、と笑った瞬間、ユージーンの腰が強い力に掴まれる。
「いっ! ひぃぃぃいっ!!」
願い通り動き始めたリチャードは、肉竿を奥まで突き入れると腰を揺さぶり始めた。胎の奥をつつく、優しい刺激はやがて勢いを増していく。
「ああ~っ! あっ! あ! おっ! あ! あ! あっ……ぉ……ぉ……」
獣のように喘ぎ、呻く声。肉が肉を打つ軽快な男。肉壺に満ちた媚薬が奏でる下品な水音。寝室に響く全てが二人の興奮を煽っていく。
「そんなに気持ちがいいかっ……」
「はいっ! あっぉっおっ……いいぃっ! ま○こずぼずぼっ! きもちいのっ」
脚を開いて腹を見せ、尻を振って主人に媚びへつらう姿は浅ましい。けれどリチャードに嫌悪はなく、可愛い奴だと褒美を与える。
「ひあぁあああああっ! ああっ! あーーーーっ!!」
尻の奥に隠れた前立腺を亀頭で殴り続けてやると、ユージーンは悦びの悲鳴を上げながら射精を迎えた。
絶頂に達した体は快楽に酔いしれるまま、尻孔をキュッと締める。
「うっ……ユージーン……! 出すぞっ……」
「あっ、あ、でてるぅっ……あついのでてるっ」
低い呻きと共に、肉壺に精が吐き出される。ユージーンの尻に腰を押し付けて射精するリチャードは、胎の奥まで種を飛ばそうとしているようで、ユージーンは嬉しくて仕方なかった。
「あぁん……おく……あつい……あっ」
蕩けた思考のまま声を垂れ流していた唇がリチャードのもので塞がれる。大きな舌が口内を制圧し、ユージーンの唾液を啜り奪っていく。
「んっ、ん、ん、んっんー……ん、んっ」
リチャードに口を吸われると、全てを支配された気持ちになる。抗う気は全くない。リチャードに飼われ、与えられるものだけで生きていたい。
舌を絡め返して口付けを楽しんでいると、ユージーンの中で吐精し萎んでいたリチャードが再び膨張を始めていく。
「あっ……」
むくむくと育つ様子が、尻肉から伝わってくる。興奮からユージーンの性器も力を取り戻し、震えていた。
「リチャードぉ」
「ユージーン……」
太さと硬度を増したリチャードが、先程吐き出した種を塗り込み始める。ぐちゃぐちゃと音を立てて掻き混ぜながら、肉襞へ擦り込み肉路の奥へ押し込む。
「あぁ……ん……おく……」
「奥まで飲め。孕め。俺のユージーン」
男は妊娠なんてしない。出来ない。そんなことは二人ともわかっている。
ベッドの上の戯言でしかないが、リチャードは本気でユージーンを孕まそうとしていたし、ユージーンも孕みたいと思った。
真っ昼間から始まった濃密な初夜は明け方近くまで続き、従者達が二人の仲に呆れてしまう程だった。
最悪の出会いから結ばれた二人は、まだまだ長い人生を依存し合いながら進んでいくことになる。
その命が終わるまで――死が二人を別とうと、その先も。
***
閲覧ありがとうございました。
こちらの小説は春庭にて同人誌発行予定です。(同人誌には現代転生したリチャードが悩み苦しむものの隣にはユージーンがいる後日談を収録予定です)
良ければ手に取っていただけると嬉しいです。
本編の感想もいただけるととても嬉しいです!
よろしくお願いいたします。
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