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堕落
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数人の兵を引き連れたリチャードが向かったのは皇妃の部屋だった。城の最上階、皇帝の部屋とは対角に設けられた室内は、彼女の好む調度品で飾られている。
華美で可愛らしいそれらを、以前のリチャードは高価なだけだと思っていた。機能性を求めるだけの武骨な男の審美眼はこの頃すっかり変わってしまった。
「あら陛下。いかがなさいました?」
気に入りのテーブルに腰掛け、侍女の注いだ紅茶を楽しんでいたディアナはリチャードの来訪に物怖じしない。優雅に微笑む姿は正しく貴婦人のものだが、リチャードの目にはおぞましく映った。
「俺のものを何処へやった。すぐに答えれば慈悲をやる」
「まぁ。なんのことやら」
寛大な問い掛けにディアナは苦笑する。とぼける態度は火に油を注ぐが、燃え上がる姿は隠している。
「執務室に入ったろう。兵が証言した」
「知りませんわ。私よりそんな者の言うことを信じますの?」
皇室に次ぐ権力を有する公爵家の出身であるディアナは、彼女が望めば黒いものを白に変えてきた。民草と自分の発言は重さが違うと理解している。
「執務室に落ちていた」
長い亜麻色の糸は兵士の言葉を真実とする為の証だ。何より、皇帝であるリチャードはディアナの嘘を黒いままに出来る。
「執務室は毎朝必ず掃除され、紙屑は勿論、俺の髪一本すら残らない」
掃除の後に亜麻色の髪の持ち主が入り込んだのだと語りながら、手にしていた髪を掲げ見せる。ディアナは朗らかな表情を消し、リチャードを見上げた。
「部屋にしまいこんだ俺の宝石を……盗み取ったのはお前だな」
断言されたディアナは目を細め、静かに伏せる。
「何のことか……私にはわからないわ」
ディアナの答えを聞き、リチャードが片手を軽く上げる。それだけでリチャードの背後に控え、成り行きを見守っていた兵達が動く。
皇妃は勿論、彼女が輿入れの際に連れてきた侍女二人も囲うように捕らわれる。
「全員ご同行願おう」
「陛下……」
冷めた美声に促される。城の最下層へと。
広いワイアットの城の中、地下へ続く階段を降りると暗く冷たい牢獄が設けられている。石壁と鉄格子で隔たれた狭い檻の中には罪人が囚われており、恐ろしい皇帝の訪問に怯えたかと思えば、牢獄とは無縁の美女の姿を見てざわめき立つ。格子の隙間から手を伸ばそうとする者もいた。
「喧しいぞ!」
先頭に立ち進んでいた看守が怒鳴り付けると、舌を打って目をそらす。
薄汚れた地下牢の環境も、穢らわしい囚人も、粗野な看守の態度も、全てに嫌悪を抱くディアナの顔は青ざめていた。自分が目にしていい場所ではない。今すぐ階段を駆け上がり正常な城の中へ戻りたいが、背後に控える兵士がそれを許さない。
「陛下。ごめんなさい。私、確かにあの奴隷を執務室から連れ出しました。でも何処へ行ったかわからないのです」
これ以上この場に居たくない。居られないと懺悔を始めたディアナに、リチャードが足を止める。振り向くことはなかった。
「手切れ金を与えたら喜んで城から出ていきました。だから私には行方はわからないのです」
目を潤ませたディアナがリチャードの腕に縋りつく。
「私は陛下の愛を知っています。わかっています。だからこそ、あの奴隷が許せなかった……私の陛下を誑かして……」
「愛?」
リチャードから反応が返ってきたことに希望を感じたディアナは、笑みを浮かべて頷く。
「ええ。これまで陛下は妾も作らず私だけをお側に置いて、私の願いはいつも叶えてくれましたわ。私を愛して下さっているから……」
ゆっくりとリチャードが振り返っていく。冷徹な美貌は殊更冷たくディアナを見下ろし、彼女の理解を鼻で笑った。
「俺を裏切らないのはユージーンだけだ」
リチャードが足を動かし始めると、硬い石の床に足音が大きく響く。それ以上言葉の出てこないディアナは背後の兵士に促されるままリチャードの背を追い、牢の奥に隠された階段を降りてさらに地下へ進む。
最下層の牢獄はさらに暗く、不気味な呻き声が聞こえた。竦み上がって足を止めたディアナの腕がリチャードに掴まれ、歩みを強制される。
「あっ……」
何故自分がこんな場所に居なければならないのか。理解出来ないディアナの視界に呻き声の主が入り込んだ。
鍵の掛けられた檻の中。両手は石壁に取り付けられた鎖に繋ぎ拘束され、髪を引き抜かれたのだろう頭には僅かな赤毛が残っているだけで、顔面は原型がわからない程に腫れ上がっている。
「うご……ぅ……うぅ~!」
口は猿轡を噛ませられており、喋ることが出来ない男の痩せ細った体は殴打の跡が残り、鞭打ちの傷からは血が滲む。
地べたに這いつくばり、蛆虫のようにうねうねと蠢きながら、腫れ上がった肉の隙間に見える緑の目はディアナだけを見ていた。
「ひぃ……」
おぞましい。気持ちが悪い。嫌悪感だけが胸に募っていく。看守が鍵を外す音が聞こえる。鉄格子の扉が開かれるとディアナの体が放り込まれ、すぐに閉じられてしまう。
「え……ぁ……きゃああああああっ!!」
「お嬢様!」
「ひっ……」
ディアナの悲鳴が地下牢に響き渡る。侍女二人も怯えきっているが、それでもディアナを案じている。
リチャードと兵士達は全く動じず、檻の中を見ていた。
「きゃ……いや……陛下っ、陛下、申し訳ありませんでした! 身勝手な行動を、深く反省しておりますっ!!」
壁から伸びる鎖は囚人が牢の中を歩き回れる程度の長さはあるが、外に出ることは叶わない。扉に縋り情けを乞うディアナへ触れる障害にはならなかった。
「う……う……ふご……ふごごごっ……!」
「いやーーーーっ!!」
囚人がディアナへ手を伸ばす。触れられた場所から腐っていくような幻影に襲われ、思わず目を向けると小さなランプの灯りでもわかる程にドレスが汚れていた。
「ひっ」
囚人の指先から血が滲んでいる。指にある筈の爪が剥ぎ取られていたからだ。
「いや!! いやっ!! いやぁぁぁぁぁあっ!!」
狂ったように喚き出したディアナの上へ醜い男がのし掛かると、リチャードは看守へ命じた。
「口枷を外してやれ」
頷いた看守が牢の中へ入ると、兵士二人も続く。ディアナは逃げ出そうとするが囚人が邪魔で身動きが取れず、そもそも扉は兵士が並び立ち守っている。囚人はディアナしか見ておらず、看守が猿轡を外し始めても気にしない。
「……ぉ……ィ……ナ……さま……」
枷がなくなり、自由になった口から声が吐き出される。それは聞き覚えのあるもので、ディアナの背筋が冷えていく。
「……………………え?」
薔薇色の唇が震える。信じられないものを見つめる瞳は瞬きを忘れた。
役目を果たした看守と兵士は檻から出るが、それが気にならない程ディアナは衝撃を受けていた。
「ディア、ナ、さまぁ……」
はっきりと聞こえた声に、長い悲鳴が響き渡った。
「喉は潰さないでやったぞ」
檻の中をつまらなそうに観察しながら、リチャードが言う。その通りだった。
「ディアナさま、ディアナさま……」
母を求める子のように触れ、縋りついてくるのは、ディアナのよく知る男だった。心の繋がりはリチャードより深いかもしれない。
皇帝の妃、皇太子の母、国民に愛され敬われるべき地位を忘れさせ、甘美な夢を見させてくれる見目麗しく若い恋人――彼の声が、目の前の醜い物体から吐き出されている。
「陛下。国境。北の国境にある未開の森に棄てました。許して。お許しください」
醜い男にあらぬ所を触れられ、暴かれながら、放心したディアナが白状する。
「馬車の用意をしろ。アンディも連れていく」
「はっ!」
リチャードの命令に従い、兵士が一人駆け出していく。
「陛下。何卒、何卒お許しを……」
さめざめと泣き、許しを乞うのはディアナの侍女だ。彼女が幼い頃から仕えている彼女は、役目を果たせていない。
「この女達は上の檻に入れておけ」
兵士に引っ立てられていく彼女達は、何度も振り返ってはディアナを見た。男に辱しめられていく主を。
「愛などないから移り気を許すのだと、俺は最近理解ったよ。お前以外の妾を持たない? 必要と思わなかっただけだ」
淡々とした言葉が地下牢に響く。ディアナの目は格子越しにリチャードを見上げている。
「愛も情も……他人に抱けなかっただけだ。だが今なら理解る。だから、許そう」
結ばれるがいい。そう微笑む。心の底から。慈しむ。嘲笑う。侮蔑する。
「皇妃の立場を、ハリーの母であることを忘れてまで求めた男なのだろう。結ばれるといい。永遠に。死が訪れるその時まで」
「へいか……リチャードへいか……」
肌に絡みつく唇が、体をまさぐる手が、愛を囁き合った男のものだということはディアナを呼び続ける声が裏付ける。認めたくないが耳を塞ぐことが出来ない。
「まって! お待ちになって陛下! 違う!! 私っ、私はっ……!!」
踵を返し去ろうとする背中を、ディアナは懸命に呼び止めるが、リチャードは歩みを止めることなく上階へ戻っていく。
兵士も看守もいなくなり、最下層の牢には虫のように蠢き合う男女が二人、残された。
華美で可愛らしいそれらを、以前のリチャードは高価なだけだと思っていた。機能性を求めるだけの武骨な男の審美眼はこの頃すっかり変わってしまった。
「あら陛下。いかがなさいました?」
気に入りのテーブルに腰掛け、侍女の注いだ紅茶を楽しんでいたディアナはリチャードの来訪に物怖じしない。優雅に微笑む姿は正しく貴婦人のものだが、リチャードの目にはおぞましく映った。
「俺のものを何処へやった。すぐに答えれば慈悲をやる」
「まぁ。なんのことやら」
寛大な問い掛けにディアナは苦笑する。とぼける態度は火に油を注ぐが、燃え上がる姿は隠している。
「執務室に入ったろう。兵が証言した」
「知りませんわ。私よりそんな者の言うことを信じますの?」
皇室に次ぐ権力を有する公爵家の出身であるディアナは、彼女が望めば黒いものを白に変えてきた。民草と自分の発言は重さが違うと理解している。
「執務室に落ちていた」
長い亜麻色の糸は兵士の言葉を真実とする為の証だ。何より、皇帝であるリチャードはディアナの嘘を黒いままに出来る。
「執務室は毎朝必ず掃除され、紙屑は勿論、俺の髪一本すら残らない」
掃除の後に亜麻色の髪の持ち主が入り込んだのだと語りながら、手にしていた髪を掲げ見せる。ディアナは朗らかな表情を消し、リチャードを見上げた。
「部屋にしまいこんだ俺の宝石を……盗み取ったのはお前だな」
断言されたディアナは目を細め、静かに伏せる。
「何のことか……私にはわからないわ」
ディアナの答えを聞き、リチャードが片手を軽く上げる。それだけでリチャードの背後に控え、成り行きを見守っていた兵達が動く。
皇妃は勿論、彼女が輿入れの際に連れてきた侍女二人も囲うように捕らわれる。
「全員ご同行願おう」
「陛下……」
冷めた美声に促される。城の最下層へと。
広いワイアットの城の中、地下へ続く階段を降りると暗く冷たい牢獄が設けられている。石壁と鉄格子で隔たれた狭い檻の中には罪人が囚われており、恐ろしい皇帝の訪問に怯えたかと思えば、牢獄とは無縁の美女の姿を見てざわめき立つ。格子の隙間から手を伸ばそうとする者もいた。
「喧しいぞ!」
先頭に立ち進んでいた看守が怒鳴り付けると、舌を打って目をそらす。
薄汚れた地下牢の環境も、穢らわしい囚人も、粗野な看守の態度も、全てに嫌悪を抱くディアナの顔は青ざめていた。自分が目にしていい場所ではない。今すぐ階段を駆け上がり正常な城の中へ戻りたいが、背後に控える兵士がそれを許さない。
「陛下。ごめんなさい。私、確かにあの奴隷を執務室から連れ出しました。でも何処へ行ったかわからないのです」
これ以上この場に居たくない。居られないと懺悔を始めたディアナに、リチャードが足を止める。振り向くことはなかった。
「手切れ金を与えたら喜んで城から出ていきました。だから私には行方はわからないのです」
目を潤ませたディアナがリチャードの腕に縋りつく。
「私は陛下の愛を知っています。わかっています。だからこそ、あの奴隷が許せなかった……私の陛下を誑かして……」
「愛?」
リチャードから反応が返ってきたことに希望を感じたディアナは、笑みを浮かべて頷く。
「ええ。これまで陛下は妾も作らず私だけをお側に置いて、私の願いはいつも叶えてくれましたわ。私を愛して下さっているから……」
ゆっくりとリチャードが振り返っていく。冷徹な美貌は殊更冷たくディアナを見下ろし、彼女の理解を鼻で笑った。
「俺を裏切らないのはユージーンだけだ」
リチャードが足を動かし始めると、硬い石の床に足音が大きく響く。それ以上言葉の出てこないディアナは背後の兵士に促されるままリチャードの背を追い、牢の奥に隠された階段を降りてさらに地下へ進む。
最下層の牢獄はさらに暗く、不気味な呻き声が聞こえた。竦み上がって足を止めたディアナの腕がリチャードに掴まれ、歩みを強制される。
「あっ……」
何故自分がこんな場所に居なければならないのか。理解出来ないディアナの視界に呻き声の主が入り込んだ。
鍵の掛けられた檻の中。両手は石壁に取り付けられた鎖に繋ぎ拘束され、髪を引き抜かれたのだろう頭には僅かな赤毛が残っているだけで、顔面は原型がわからない程に腫れ上がっている。
「うご……ぅ……うぅ~!」
口は猿轡を噛ませられており、喋ることが出来ない男の痩せ細った体は殴打の跡が残り、鞭打ちの傷からは血が滲む。
地べたに這いつくばり、蛆虫のようにうねうねと蠢きながら、腫れ上がった肉の隙間に見える緑の目はディアナだけを見ていた。
「ひぃ……」
おぞましい。気持ちが悪い。嫌悪感だけが胸に募っていく。看守が鍵を外す音が聞こえる。鉄格子の扉が開かれるとディアナの体が放り込まれ、すぐに閉じられてしまう。
「え……ぁ……きゃああああああっ!!」
「お嬢様!」
「ひっ……」
ディアナの悲鳴が地下牢に響き渡る。侍女二人も怯えきっているが、それでもディアナを案じている。
リチャードと兵士達は全く動じず、檻の中を見ていた。
「きゃ……いや……陛下っ、陛下、申し訳ありませんでした! 身勝手な行動を、深く反省しておりますっ!!」
壁から伸びる鎖は囚人が牢の中を歩き回れる程度の長さはあるが、外に出ることは叶わない。扉に縋り情けを乞うディアナへ触れる障害にはならなかった。
「う……う……ふご……ふごごごっ……!」
「いやーーーーっ!!」
囚人がディアナへ手を伸ばす。触れられた場所から腐っていくような幻影に襲われ、思わず目を向けると小さなランプの灯りでもわかる程にドレスが汚れていた。
「ひっ」
囚人の指先から血が滲んでいる。指にある筈の爪が剥ぎ取られていたからだ。
「いや!! いやっ!! いやぁぁぁぁぁあっ!!」
狂ったように喚き出したディアナの上へ醜い男がのし掛かると、リチャードは看守へ命じた。
「口枷を外してやれ」
頷いた看守が牢の中へ入ると、兵士二人も続く。ディアナは逃げ出そうとするが囚人が邪魔で身動きが取れず、そもそも扉は兵士が並び立ち守っている。囚人はディアナしか見ておらず、看守が猿轡を外し始めても気にしない。
「……ぉ……ィ……ナ……さま……」
枷がなくなり、自由になった口から声が吐き出される。それは聞き覚えのあるもので、ディアナの背筋が冷えていく。
「……………………え?」
薔薇色の唇が震える。信じられないものを見つめる瞳は瞬きを忘れた。
役目を果たした看守と兵士は檻から出るが、それが気にならない程ディアナは衝撃を受けていた。
「ディア、ナ、さまぁ……」
はっきりと聞こえた声に、長い悲鳴が響き渡った。
「喉は潰さないでやったぞ」
檻の中をつまらなそうに観察しながら、リチャードが言う。その通りだった。
「ディアナさま、ディアナさま……」
母を求める子のように触れ、縋りついてくるのは、ディアナのよく知る男だった。心の繋がりはリチャードより深いかもしれない。
皇帝の妃、皇太子の母、国民に愛され敬われるべき地位を忘れさせ、甘美な夢を見させてくれる見目麗しく若い恋人――彼の声が、目の前の醜い物体から吐き出されている。
「陛下。国境。北の国境にある未開の森に棄てました。許して。お許しください」
醜い男にあらぬ所を触れられ、暴かれながら、放心したディアナが白状する。
「馬車の用意をしろ。アンディも連れていく」
「はっ!」
リチャードの命令に従い、兵士が一人駆け出していく。
「陛下。何卒、何卒お許しを……」
さめざめと泣き、許しを乞うのはディアナの侍女だ。彼女が幼い頃から仕えている彼女は、役目を果たせていない。
「この女達は上の檻に入れておけ」
兵士に引っ立てられていく彼女達は、何度も振り返ってはディアナを見た。男に辱しめられていく主を。
「愛などないから移り気を許すのだと、俺は最近理解ったよ。お前以外の妾を持たない? 必要と思わなかっただけだ」
淡々とした言葉が地下牢に響く。ディアナの目は格子越しにリチャードを見上げている。
「愛も情も……他人に抱けなかっただけだ。だが今なら理解る。だから、許そう」
結ばれるがいい。そう微笑む。心の底から。慈しむ。嘲笑う。侮蔑する。
「皇妃の立場を、ハリーの母であることを忘れてまで求めた男なのだろう。結ばれるといい。永遠に。死が訪れるその時まで」
「へいか……リチャードへいか……」
肌に絡みつく唇が、体をまさぐる手が、愛を囁き合った男のものだということはディアナを呼び続ける声が裏付ける。認めたくないが耳を塞ぐことが出来ない。
「まって! お待ちになって陛下! 違う!! 私っ、私はっ……!!」
踵を返し去ろうとする背中を、ディアナは懸命に呼び止めるが、リチャードは歩みを止めることなく上階へ戻っていく。
兵士も看守もいなくなり、最下層の牢には虫のように蠢き合う男女が二人、残された。
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