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欺瞞
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広く煌びやかな回廊に、規則正しい足音が響く。堂々とした足取りを邪魔出来る存在はいない。
足音の主を視界に収めた兵士は恭しく敬礼の姿勢を取ると、これまで護っていた扉を開く。
「ご苦労」
短く素っ気ない、けれど何より有難い労いの言葉をくれるのは、彼らが仕える皇帝陛下だ。
リチャードが中へ入るとすぐに扉は閉ざされる。主寝室へは更にもう一つ扉が設けられており、中の声は漏れ聞こえないようになっていた。
皇帝が隣国侵攻の際に連れ帰った奴隷の存在を、国の上層部や近辺警護を任された兵士達は知っている。寝室で何が行われているか、予想は出来た。
多くの兵士達にとって、奴隷の存在はリチャードへの忠誠に大きな影響は与えなかった。これまでのリチャードの働きが、それだけ彼らの支えとなっている。噂話から揶揄する者もいるが、ちょっとした雑談の種にする程度だ。
兵士達が役目を果たす中、寝室に入ったリチャードはベッドの上に出来上がった白団子を見て笑った。
「おい。歓迎を忘れたか」
言葉とは裏腹に咎めるつもりはなかった。愉しげな声音がそう語る。そんな態度を取る理由を作ったのはリチャードで、気持ちもわかる。わかりはするがリチャードがそうしたかったから仕方がない。
「ユージーン」
真っ白い掛け布団を掴み剥がせば、服を纏っていないユージーンがベッドの上で丸まって寝ていた。足を山折にして膝に顔をくっつけ、腕で顔を隠している。
腕を引っ張り上げれば泣き腫らした情けない顔が露になる。ベッドに乗り上げたリチャードが縮こまる体ごと引き寄せると、シャラリ、と音がした。
ユージーンが臍を曲げて泣いていた理由。それは両胸につけられたピアスだった。
「美しいな」
赤く色付く乳首は大きな針に貫かれ、細工が揺れる度に雅な音を奏でて耳を楽しませる。鎖に繋がれた赤と青の宝石が両胸で揺れる様も美しい。
「へいか。なんでもします。ピアスとって……はずしてください」
乳首の穴が安定したら思いきり引っ張ってやりたい。数ヵ月後の楽しみに想いを馳せるリチャードは、ユージーンの頼みを笑顔で断った。
「ダメだ。勝手に外したら許さんぞ」
「……う。うぇ……ぇ……」
鼻を啜り、ぼろぼろと涙を溢されてもリチャードの答えは揺るがなかった。泣き続ける奴隷に困ったものだと涙を拭う。
「直に慣れる。何も恐れることはない」
「……へいか。陛下ぁ」
幼子をあやすような声音に、ユージーンは甘え始めた。質の良い衣服を着たままの胸に頬を擦り寄せ、寵を乞う。蜜に爛れた頭は性交に安寧を覚えるように塗り替えられてしまった。
「陛下……」
ピアスの存在を忘れようと、舌を突き出して口付けを迫る。薄く開けてくれたリチャードの口腔へ舌を入れ、夢中になって吸いつく。
「ん。ん。んっ。ん」
ベッドに座るリチャードと向かい合うように跨がり、首へ腕を絡めて口を吸う。肉厚の舌に自分の舌を絡め、媚びる。はしたなく揺れる尻をリチャードの手がやわやわと揉み、探り、孔に触れる。
「あぁ……んっ、ふ、うっ……あ……」
ぴちゃ、くちゅ、と淫らな音が聞こえ始めた。これから犯されるのだと思うだけでユージーンの性器は反応を示していく。
「へ……か……へいかぁ……あ、んっ」
これから掘り進めるのだと告げるように、尻孔の縁を撫でる指へ手を伸ばす。それより性器に触れてほしいと導くと、リチャードは迷いなくユージーンの性器を扱き始めた。
「あっ、あ……あ……あぁ……」
少し擦り上げるだけで鈴口から汁が噴き出る。リチャードの胸に頭を預けたユージーンは、頬を赤くして喘ぐしかなかった。
「あー……あっあっあ、あぁっ、へいかっへいかぁ」
美しい手を汚されようと、リチャードははしたなく涎を溢す性器を扱き続けている。
「へいかぁ……おしりっ……ユージーンのケツま○こいじめてぇっ……」
リチャードの逞しいもので尻孔をほじくられ、胎の奥まで亀頭で殴り付けられたい。元気な精子をユージーンの中へ注いで孕ませてほしい。下品な言葉に飾り立ててねだると、竿を扱く速度が増した。褒美だとわかったユージーンは素直に悦んだ。
「陛下、おま○こ弄っ……てクリち○ぽよりおま○こがいいのぉ」
「淫乱」
吐き捨てたリチャードはだらしない鈴口に思いきり爪を立てた。悲鳴を上げて悦ぶユージーンを見て満足気に目を細める。
「這いつくばれ」
命じられれば従うしかないユージーンはリチャードから体を離し、主によく見えるよう尻を向け、四つん這いになった。
尻肉を掴み開き、縦に割れた孔を見せ付ける。ひくひくと蠢く孔に雄を突っ込めばどれだけ気持ちがいいか知っているリチャードは、本能のままに突き入れてしまいたかった。
「ちっ」
舌打ちと共にリチャードが動く。ベッドサイドの棚を漁り、ガラス瓶を取り出したのが見え、ユージーンは刺激に備えた。
「……ひっ」
掲げた尻孔に向けて垂らされたのは油だった。滑りを帯びた指がユージーンの中へ入ってくる。毎晩犯される孔は主人の来訪を悦んで迎え入れ、肉襞が吸い付く。
「そんなに嬉しいか」
「うれひぃれすっへいかに、あっ……されるっ、ことぉぉんっぜんぶっぜんぶすきぃっ」
堕ちた奴隷は施しを悦ぶ。
「ならピアスも気に入ったな?」
「……うっ、うう…………はい……ちくびのピアス、も、うれしい……です」
「いい子だ」
指が抜かれ、代わりに待ち望んだ肉塊が孔の中へ入れられた。
「あっ」
太く肥えた亀頭が肉を割り、続いて逞しい肉竿が狭い肉筒へ侵入していく。根元まで咥え込めば薄い胎が膨れ、腰を動かされると肉筒を擦り上げられ、尻の奥に潜む性感帯を強く刺激される。
「あっ! あ! あっ……あ、あーーっ! あ、あっああっ……!」
ぱんぱんと肉を打つ音と共に後ろから犯され、感じるままに嬌声を上げる。獣そのものだった。
突かれるごとに胎を穿つ勢いが増し、腰を鷲掴みにされたユージーンは口からだらしなく舌を垂らして喘ぎ、揺さぶられるがままに悦んでいた。
「あー……あ。あ。あ。ひぃ……」
尻の奥に隠れたしこりを肉棒に叩かれると、性器から潮が垂れる程気持ちがいい。もっと突いてほしいと尻を振ると、リチャードが動いた。
「……あ、え、あっ……」
雄が抜け出ていく。去り行くリチャードにいかないでくれと襞が吸い付くが、亀頭まであっさりと抜かれてしまった。突然の空虚に呆然とするユージーンの体が、強い力に引っ張られる。
「あ」
四つん這いから起き上がったユージーンに代わるように、リチャードが寝転んでいた。厚い胸板、六つに割れた腹、局部には天を向く肉塔が勃ち、その上へ跨がるように促される。
「好きなように動いてみろ」
最高の褒美だった。
皇帝の寝室を護る兵士は数時間ごとに交代となる。リチャードが戻ってしばらくすると人が代わり、さらに時が経つと一人の女性が寝室を訪れた。
普段なら既に寝間着に着替えているが、今晩は絢爛豪華なドレス姿のまま。髪も綺麗に結い上げられた、何処の誰に会っても恥ずかしくない淑女が目配せすると、兵士は静かに扉を開ける。彼女の配下の者だからだ。
主寝室からは声が漏れ聞こえてきた。獣のように盛る、下品な男の声が。
「あっあっあ、あぁ……へいかのっ……へいかのおち○ぽさいこうなのぉ! ふとくてぇ、おっきくてぇ……あぉっ! おっ!あっ……、あっ…、ふとくてっ……おおぎっ、くてっ、おいしいっ! どれいのクソザコま○こを、とっっってもきもちよくしてくれるのぉっ!」
喘ぎながらリチャードの性器に媚びを売る奴隷は、主の上に跨がっていた。蕩けた尻孔にリチャードを咥え込み、恐れ多くもリチャードの腹に手をついて支え、自ら尻を振って快楽を求めている。
「へいか。へいかぁっ」
胸に飾られたピアスが、奴隷が動く度に揺れる。シャラシャラ奏でられる中、赤と青の宝石が踊っていた。
「…………ん、へいかがすき……すきっ……ユージーンには、リチャード陛下しか、いません」
リチャードが何か告げると、奴隷は頷いて媚びへつらった言葉を返した。途端、奴隷の体が大きく揺れる。
「きゃ……あっ! あぁんっ! あっ、はっ、あ。あっ。あ! あ」
リチャードが下から突き上げ始めた。大口を開けて悦び喘ぐ奴隷は呆気なく射精し、リチャードの腹を汚す。小さな笑いが聞こえるだけで、咎める様子はなかった。
「…………」
薄く開いた扉の隙間から、ディアナは夫と奴隷の睦み合う姿を静かに見つめていた。
◇◇◇
毎日毎晩リチャードに抱かれ、ユージーンは歪ながら満たされていた。恐怖から生まれた拠り所に依存し、いつしか安らぎすら覚えている。支配者へ捧げる愛の言葉の全てが偽りではなくなる程に。
恐ろしい比護者の背後で暮らし始めたユージーンは、だからこそ思い付かなかった。リチャードの寝室は安全地帯ではない。主がいなければ意味がないのだと。
微睡みに身を委ね、日中を怠惰に過ごしたユージーンの目が自然と覚めるのは日が沈み、夜の帳が下がり始める頃のこと。もう少ししたらリチャードが帰ってくる、そう思って起き上がると、胸のピアスが小さく鳴った。
「……」
勝手につけられ、外すことを許されないピアスは初めこそ嫌で仕方なかった。体を異物に貫かれたままでいることに違和感を覚え、銀細工が涼やかな音色を奏でるのも耳障りでしかなかった。
「……」
高価な宝石の価値もわからない。ユージーンにとって疎ましいだけだが、リチャードは毎晩消毒などの処置をしてくれる。一月は決して外してはいけないときつく言い含めてから、穴が安定したらたまになら外すことを許すと約束してくれた。
リチャードが楽しそうに手入れをしてくれるので、いつの間にかピアスへの嫌悪感は薄れてしまっている。
「……陛下」
部屋に備え付けられたランプに火を灯し、リチャードの訪れを待っていると、話し声が聞こえてきた。リチャードのものではない。ユージーンの聖域に聞こえる筈のない他人の声。
「……ら、そろそろ寝室へ戻られる頃だ」
「はいはい。手筈通りにね。ディアナ様の為、何より陛下の為だ」
喧しく開かれた扉から誰かが入ってくる。
「やぁ。陛下お気に入りのドブネズミくん」
部屋へ入ってきたのは端正な顔に軽薄な笑みを浮かべた、若い赤毛の男だった。固まるユージーンを意に介さず、つかつかとベッドへ近付いてくる。
「いい趣味だな。ネズミにくれてやるのは勿体ない」
「いっ……! 触らないでっ」
ユージーンの胸に輝くピアスを男が軽く引っ張る。痛みに呻き男の手を払い除けると、男は気にした様子もなくユージーンの隣に腰掛けた。
「男なんて抱いて楽しいものかと思ってたが、見れない顔でもないし……なかなか良さそうなもんだな。俺はあの方しか欲しいとは思わないが」
好き勝手なことばかり言う男をどうしたらいいのか、そもそも何故この場所にリチャード以外がいるのか。何もわからないユージーンの体が持ち上げられる。
「そろそろか」
寝転んだ男の上へ裸のまま跨がる。まるで男を誘う娼婦のように。
男の行動が何一つ理解出来ない、固まるしかないユージーンの耳に、音が聞こえた。静かな城に響き渡る規則正しい足音。ユージーンの救世主。
「俺はね、近衛隊に所属してるんだ。陛下やディアナ様のお側に控える、お二人からの信頼厚い近衛兵なんだよ」
「……?」
「たかが性奴隷と気に入りの兵士。陛下がどちらを信じるかなんて、わかるだろ」
外から声が聞こえる。わざとらしいくらいに狼狽えた様子の兵士の声は一つだけ。皇帝の寝室は常に兵士が二人配置されている。
「あ……」
慌てて男の上から逃れようとするユージーンの腰が、強い力で掴まれる。
寝室の扉が開かれる。救世主ではない。ユージーンを罪人に貶め、制裁する執行者が。
「……何をしている」
底冷えするような声だった。耳にするだけで背筋が凍る。
「ああっ、陛下……お許しを……陛下の寝室をお守りしておりましたら、この方が無理矢理……」
「え」
「陛下が寝室に住まわせる方に逆らえる筈もなく……ああ、どうかお許しを……」
先程までユージーンを馬鹿にしていた笑みを消し、皇帝の愛人に無理矢理連れ込まれた哀れな兵士の役をこなす。ユージーンの腰を掴んでいた手はいつの間にか外されていた。
どうしたらいいのだろう。思考が定まらないユージーンのすぐ側へ、リチャードが立つ。歓迎の言葉所か、その顔すら見えない。声も聞きたくない。
「何処を気に入った?」
何をすればいいのかわからないユージーンに、リチャードは尋ねた。声から感情が読み取れない。何処が何を指すのかわからない。そもそも自分に掛けられた言葉なのかもわからなかった。
「俺よりこの顔がいいか。それとも声か。扉越しに甘言でも囁かれたか? 何を気に入った?」
「ぅえ……」
「へ、陛下……?」
リチャードは存外怒った様子もなく、ユージーンの顎へ手を伸ばすと顔を上げさせた。静かな美貌に感情はなく、ただユージーンに問い掛けている。
「顔なら原型がわからなくなるほど殴り付けよう。声なら喉を潰してしまおう。お前はこの男の何を気に入って部屋に連れ込んだ?」
「陛下?!」
当然ながら男が声を荒げる。言外に、何故自分が罰せられるのだと。自分の言葉を信じないのかと。
「そうだ。俺が悪かったな。俺以外の男を連れ込むな、俺以外の男と寝るななどと言い付けたことはなかった」
ユージーンがそんなことをすると考えていなかった。思い付くと思っていなかった。だからユージーンに罪はないと赦しを与える。
「――だがお前達は言わずともわかっている筈だ。主君の寝室に無断で入るなど言語道断。奴隷に誘われた? こんな細腕、払い除けて持ち場に戻れ。嘆かわしい」
ああ、だが、と。
「『高貴な方』に誘われたとしても、礼節を忘れないのが真の従者というものだろうに」
「……」
表情を消すのは男の番だったが、リチャードしか見ていないユージーンは言葉の意味がわからなかった。
「へ、へいか」
恐る恐るリチャードに手を伸ばし、助けを乞う。
「しらない。かってに。はいってきて」
辿々しい返答しか出来ない。声が出るだけ上出来だった。
「へいか……へいかぁ……」
「今は泣くな」
嗚咽を上げ始めたユージーンの顔を胸に押し付けるように抱き、間抜けな間男へ目を向ける。
「ピアスぅ、ひっぱられてぇ……あんでっ、あんていするまで、うぇっ……さわるなっで……いっだのにぃ……ごめんなざぃ……」
「…………」
眼光が冷め、鋭くなる瞬間を見た男は息を飲んだ。
寝室にはベッドの他にも、リチャードが寝るのに苦しくない程大きなカウチがある。新しく用意された布団に包み寝かされたユージーンは、リチャードが夜明けまで寝るよう命じるとゆっくりと寝入っていった。
「……」
赤く腫れた目元を撫で、立ち上がったリチャードは寝室を後にする。扉を護る兵士の顔は先程と変わっており、さらにもう一人兵士が控え、待っていた。
「こちらです」
「ああ」
裁定者は堂々と、夜の回廊を進む。罪人に罰を与える為に。
足音の主を視界に収めた兵士は恭しく敬礼の姿勢を取ると、これまで護っていた扉を開く。
「ご苦労」
短く素っ気ない、けれど何より有難い労いの言葉をくれるのは、彼らが仕える皇帝陛下だ。
リチャードが中へ入るとすぐに扉は閉ざされる。主寝室へは更にもう一つ扉が設けられており、中の声は漏れ聞こえないようになっていた。
皇帝が隣国侵攻の際に連れ帰った奴隷の存在を、国の上層部や近辺警護を任された兵士達は知っている。寝室で何が行われているか、予想は出来た。
多くの兵士達にとって、奴隷の存在はリチャードへの忠誠に大きな影響は与えなかった。これまでのリチャードの働きが、それだけ彼らの支えとなっている。噂話から揶揄する者もいるが、ちょっとした雑談の種にする程度だ。
兵士達が役目を果たす中、寝室に入ったリチャードはベッドの上に出来上がった白団子を見て笑った。
「おい。歓迎を忘れたか」
言葉とは裏腹に咎めるつもりはなかった。愉しげな声音がそう語る。そんな態度を取る理由を作ったのはリチャードで、気持ちもわかる。わかりはするがリチャードがそうしたかったから仕方がない。
「ユージーン」
真っ白い掛け布団を掴み剥がせば、服を纏っていないユージーンがベッドの上で丸まって寝ていた。足を山折にして膝に顔をくっつけ、腕で顔を隠している。
腕を引っ張り上げれば泣き腫らした情けない顔が露になる。ベッドに乗り上げたリチャードが縮こまる体ごと引き寄せると、シャラリ、と音がした。
ユージーンが臍を曲げて泣いていた理由。それは両胸につけられたピアスだった。
「美しいな」
赤く色付く乳首は大きな針に貫かれ、細工が揺れる度に雅な音を奏でて耳を楽しませる。鎖に繋がれた赤と青の宝石が両胸で揺れる様も美しい。
「へいか。なんでもします。ピアスとって……はずしてください」
乳首の穴が安定したら思いきり引っ張ってやりたい。数ヵ月後の楽しみに想いを馳せるリチャードは、ユージーンの頼みを笑顔で断った。
「ダメだ。勝手に外したら許さんぞ」
「……う。うぇ……ぇ……」
鼻を啜り、ぼろぼろと涙を溢されてもリチャードの答えは揺るがなかった。泣き続ける奴隷に困ったものだと涙を拭う。
「直に慣れる。何も恐れることはない」
「……へいか。陛下ぁ」
幼子をあやすような声音に、ユージーンは甘え始めた。質の良い衣服を着たままの胸に頬を擦り寄せ、寵を乞う。蜜に爛れた頭は性交に安寧を覚えるように塗り替えられてしまった。
「陛下……」
ピアスの存在を忘れようと、舌を突き出して口付けを迫る。薄く開けてくれたリチャードの口腔へ舌を入れ、夢中になって吸いつく。
「ん。ん。んっ。ん」
ベッドに座るリチャードと向かい合うように跨がり、首へ腕を絡めて口を吸う。肉厚の舌に自分の舌を絡め、媚びる。はしたなく揺れる尻をリチャードの手がやわやわと揉み、探り、孔に触れる。
「あぁ……んっ、ふ、うっ……あ……」
ぴちゃ、くちゅ、と淫らな音が聞こえ始めた。これから犯されるのだと思うだけでユージーンの性器は反応を示していく。
「へ……か……へいかぁ……あ、んっ」
これから掘り進めるのだと告げるように、尻孔の縁を撫でる指へ手を伸ばす。それより性器に触れてほしいと導くと、リチャードは迷いなくユージーンの性器を扱き始めた。
「あっ、あ……あ……あぁ……」
少し擦り上げるだけで鈴口から汁が噴き出る。リチャードの胸に頭を預けたユージーンは、頬を赤くして喘ぐしかなかった。
「あー……あっあっあ、あぁっ、へいかっへいかぁ」
美しい手を汚されようと、リチャードははしたなく涎を溢す性器を扱き続けている。
「へいかぁ……おしりっ……ユージーンのケツま○こいじめてぇっ……」
リチャードの逞しいもので尻孔をほじくられ、胎の奥まで亀頭で殴り付けられたい。元気な精子をユージーンの中へ注いで孕ませてほしい。下品な言葉に飾り立ててねだると、竿を扱く速度が増した。褒美だとわかったユージーンは素直に悦んだ。
「陛下、おま○こ弄っ……てクリち○ぽよりおま○こがいいのぉ」
「淫乱」
吐き捨てたリチャードはだらしない鈴口に思いきり爪を立てた。悲鳴を上げて悦ぶユージーンを見て満足気に目を細める。
「這いつくばれ」
命じられれば従うしかないユージーンはリチャードから体を離し、主によく見えるよう尻を向け、四つん這いになった。
尻肉を掴み開き、縦に割れた孔を見せ付ける。ひくひくと蠢く孔に雄を突っ込めばどれだけ気持ちがいいか知っているリチャードは、本能のままに突き入れてしまいたかった。
「ちっ」
舌打ちと共にリチャードが動く。ベッドサイドの棚を漁り、ガラス瓶を取り出したのが見え、ユージーンは刺激に備えた。
「……ひっ」
掲げた尻孔に向けて垂らされたのは油だった。滑りを帯びた指がユージーンの中へ入ってくる。毎晩犯される孔は主人の来訪を悦んで迎え入れ、肉襞が吸い付く。
「そんなに嬉しいか」
「うれひぃれすっへいかに、あっ……されるっ、ことぉぉんっぜんぶっぜんぶすきぃっ」
堕ちた奴隷は施しを悦ぶ。
「ならピアスも気に入ったな?」
「……うっ、うう…………はい……ちくびのピアス、も、うれしい……です」
「いい子だ」
指が抜かれ、代わりに待ち望んだ肉塊が孔の中へ入れられた。
「あっ」
太く肥えた亀頭が肉を割り、続いて逞しい肉竿が狭い肉筒へ侵入していく。根元まで咥え込めば薄い胎が膨れ、腰を動かされると肉筒を擦り上げられ、尻の奥に潜む性感帯を強く刺激される。
「あっ! あ! あっ……あ、あーーっ! あ、あっああっ……!」
ぱんぱんと肉を打つ音と共に後ろから犯され、感じるままに嬌声を上げる。獣そのものだった。
突かれるごとに胎を穿つ勢いが増し、腰を鷲掴みにされたユージーンは口からだらしなく舌を垂らして喘ぎ、揺さぶられるがままに悦んでいた。
「あー……あ。あ。あ。ひぃ……」
尻の奥に隠れたしこりを肉棒に叩かれると、性器から潮が垂れる程気持ちがいい。もっと突いてほしいと尻を振ると、リチャードが動いた。
「……あ、え、あっ……」
雄が抜け出ていく。去り行くリチャードにいかないでくれと襞が吸い付くが、亀頭まであっさりと抜かれてしまった。突然の空虚に呆然とするユージーンの体が、強い力に引っ張られる。
「あ」
四つん這いから起き上がったユージーンに代わるように、リチャードが寝転んでいた。厚い胸板、六つに割れた腹、局部には天を向く肉塔が勃ち、その上へ跨がるように促される。
「好きなように動いてみろ」
最高の褒美だった。
皇帝の寝室を護る兵士は数時間ごとに交代となる。リチャードが戻ってしばらくすると人が代わり、さらに時が経つと一人の女性が寝室を訪れた。
普段なら既に寝間着に着替えているが、今晩は絢爛豪華なドレス姿のまま。髪も綺麗に結い上げられた、何処の誰に会っても恥ずかしくない淑女が目配せすると、兵士は静かに扉を開ける。彼女の配下の者だからだ。
主寝室からは声が漏れ聞こえてきた。獣のように盛る、下品な男の声が。
「あっあっあ、あぁ……へいかのっ……へいかのおち○ぽさいこうなのぉ! ふとくてぇ、おっきくてぇ……あぉっ! おっ!あっ……、あっ…、ふとくてっ……おおぎっ、くてっ、おいしいっ! どれいのクソザコま○こを、とっっってもきもちよくしてくれるのぉっ!」
喘ぎながらリチャードの性器に媚びを売る奴隷は、主の上に跨がっていた。蕩けた尻孔にリチャードを咥え込み、恐れ多くもリチャードの腹に手をついて支え、自ら尻を振って快楽を求めている。
「へいか。へいかぁっ」
胸に飾られたピアスが、奴隷が動く度に揺れる。シャラシャラ奏でられる中、赤と青の宝石が踊っていた。
「…………ん、へいかがすき……すきっ……ユージーンには、リチャード陛下しか、いません」
リチャードが何か告げると、奴隷は頷いて媚びへつらった言葉を返した。途端、奴隷の体が大きく揺れる。
「きゃ……あっ! あぁんっ! あっ、はっ、あ。あっ。あ! あ」
リチャードが下から突き上げ始めた。大口を開けて悦び喘ぐ奴隷は呆気なく射精し、リチャードの腹を汚す。小さな笑いが聞こえるだけで、咎める様子はなかった。
「…………」
薄く開いた扉の隙間から、ディアナは夫と奴隷の睦み合う姿を静かに見つめていた。
◇◇◇
毎日毎晩リチャードに抱かれ、ユージーンは歪ながら満たされていた。恐怖から生まれた拠り所に依存し、いつしか安らぎすら覚えている。支配者へ捧げる愛の言葉の全てが偽りではなくなる程に。
恐ろしい比護者の背後で暮らし始めたユージーンは、だからこそ思い付かなかった。リチャードの寝室は安全地帯ではない。主がいなければ意味がないのだと。
微睡みに身を委ね、日中を怠惰に過ごしたユージーンの目が自然と覚めるのは日が沈み、夜の帳が下がり始める頃のこと。もう少ししたらリチャードが帰ってくる、そう思って起き上がると、胸のピアスが小さく鳴った。
「……」
勝手につけられ、外すことを許されないピアスは初めこそ嫌で仕方なかった。体を異物に貫かれたままでいることに違和感を覚え、銀細工が涼やかな音色を奏でるのも耳障りでしかなかった。
「……」
高価な宝石の価値もわからない。ユージーンにとって疎ましいだけだが、リチャードは毎晩消毒などの処置をしてくれる。一月は決して外してはいけないときつく言い含めてから、穴が安定したらたまになら外すことを許すと約束してくれた。
リチャードが楽しそうに手入れをしてくれるので、いつの間にかピアスへの嫌悪感は薄れてしまっている。
「……陛下」
部屋に備え付けられたランプに火を灯し、リチャードの訪れを待っていると、話し声が聞こえてきた。リチャードのものではない。ユージーンの聖域に聞こえる筈のない他人の声。
「……ら、そろそろ寝室へ戻られる頃だ」
「はいはい。手筈通りにね。ディアナ様の為、何より陛下の為だ」
喧しく開かれた扉から誰かが入ってくる。
「やぁ。陛下お気に入りのドブネズミくん」
部屋へ入ってきたのは端正な顔に軽薄な笑みを浮かべた、若い赤毛の男だった。固まるユージーンを意に介さず、つかつかとベッドへ近付いてくる。
「いい趣味だな。ネズミにくれてやるのは勿体ない」
「いっ……! 触らないでっ」
ユージーンの胸に輝くピアスを男が軽く引っ張る。痛みに呻き男の手を払い除けると、男は気にした様子もなくユージーンの隣に腰掛けた。
「男なんて抱いて楽しいものかと思ってたが、見れない顔でもないし……なかなか良さそうなもんだな。俺はあの方しか欲しいとは思わないが」
好き勝手なことばかり言う男をどうしたらいいのか、そもそも何故この場所にリチャード以外がいるのか。何もわからないユージーンの体が持ち上げられる。
「そろそろか」
寝転んだ男の上へ裸のまま跨がる。まるで男を誘う娼婦のように。
男の行動が何一つ理解出来ない、固まるしかないユージーンの耳に、音が聞こえた。静かな城に響き渡る規則正しい足音。ユージーンの救世主。
「俺はね、近衛隊に所属してるんだ。陛下やディアナ様のお側に控える、お二人からの信頼厚い近衛兵なんだよ」
「……?」
「たかが性奴隷と気に入りの兵士。陛下がどちらを信じるかなんて、わかるだろ」
外から声が聞こえる。わざとらしいくらいに狼狽えた様子の兵士の声は一つだけ。皇帝の寝室は常に兵士が二人配置されている。
「あ……」
慌てて男の上から逃れようとするユージーンの腰が、強い力で掴まれる。
寝室の扉が開かれる。救世主ではない。ユージーンを罪人に貶め、制裁する執行者が。
「……何をしている」
底冷えするような声だった。耳にするだけで背筋が凍る。
「ああっ、陛下……お許しを……陛下の寝室をお守りしておりましたら、この方が無理矢理……」
「え」
「陛下が寝室に住まわせる方に逆らえる筈もなく……ああ、どうかお許しを……」
先程までユージーンを馬鹿にしていた笑みを消し、皇帝の愛人に無理矢理連れ込まれた哀れな兵士の役をこなす。ユージーンの腰を掴んでいた手はいつの間にか外されていた。
どうしたらいいのだろう。思考が定まらないユージーンのすぐ側へ、リチャードが立つ。歓迎の言葉所か、その顔すら見えない。声も聞きたくない。
「何処を気に入った?」
何をすればいいのかわからないユージーンに、リチャードは尋ねた。声から感情が読み取れない。何処が何を指すのかわからない。そもそも自分に掛けられた言葉なのかもわからなかった。
「俺よりこの顔がいいか。それとも声か。扉越しに甘言でも囁かれたか? 何を気に入った?」
「ぅえ……」
「へ、陛下……?」
リチャードは存外怒った様子もなく、ユージーンの顎へ手を伸ばすと顔を上げさせた。静かな美貌に感情はなく、ただユージーンに問い掛けている。
「顔なら原型がわからなくなるほど殴り付けよう。声なら喉を潰してしまおう。お前はこの男の何を気に入って部屋に連れ込んだ?」
「陛下?!」
当然ながら男が声を荒げる。言外に、何故自分が罰せられるのだと。自分の言葉を信じないのかと。
「そうだ。俺が悪かったな。俺以外の男を連れ込むな、俺以外の男と寝るななどと言い付けたことはなかった」
ユージーンがそんなことをすると考えていなかった。思い付くと思っていなかった。だからユージーンに罪はないと赦しを与える。
「――だがお前達は言わずともわかっている筈だ。主君の寝室に無断で入るなど言語道断。奴隷に誘われた? こんな細腕、払い除けて持ち場に戻れ。嘆かわしい」
ああ、だが、と。
「『高貴な方』に誘われたとしても、礼節を忘れないのが真の従者というものだろうに」
「……」
表情を消すのは男の番だったが、リチャードしか見ていないユージーンは言葉の意味がわからなかった。
「へ、へいか」
恐る恐るリチャードに手を伸ばし、助けを乞う。
「しらない。かってに。はいってきて」
辿々しい返答しか出来ない。声が出るだけ上出来だった。
「へいか……へいかぁ……」
「今は泣くな」
嗚咽を上げ始めたユージーンの顔を胸に押し付けるように抱き、間抜けな間男へ目を向ける。
「ピアスぅ、ひっぱられてぇ……あんでっ、あんていするまで、うぇっ……さわるなっで……いっだのにぃ……ごめんなざぃ……」
「…………」
眼光が冷め、鋭くなる瞬間を見た男は息を飲んだ。
寝室にはベッドの他にも、リチャードが寝るのに苦しくない程大きなカウチがある。新しく用意された布団に包み寝かされたユージーンは、リチャードが夜明けまで寝るよう命じるとゆっくりと寝入っていった。
「……」
赤く腫れた目元を撫で、立ち上がったリチャードは寝室を後にする。扉を護る兵士の顔は先程と変わっており、さらにもう一人兵士が控え、待っていた。
「こちらです」
「ああ」
裁定者は堂々と、夜の回廊を進む。罪人に罰を与える為に。
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