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捕縛
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自分の人生とは何だったのだろう。絞首台の前に並べられて、ユージーンは考える。
ユージーンはファロン王国の王子として生を受けた――ものの、その生まれに祝福はなかった。五人の兄と十人の姉を持った末子は王位継承権から遠く、そもそも母は国王が手を出した侍女である。後ろ楯のないユージーンに、初めから継承権の欠片も与えられていない。
王が母を気に入り、妾の一人として城に置いてくれたおかげで衣食住には困らなかったが、高貴な血筋が市井に降りることは、自由を得ることは許されなかった。
城という檻の中。王に、兄に、国に尽くす兵士となる道を選ばされ、生まれから同僚に距離を置かれ、近付く者は無力な庶子と知るや罵って離れていく。親しい人のいないユージーンは孤独に生きていた。
愛嬌のある顔立ちをした母と違い、崩れてはいないが特別整ってもいない。中肉中背、癖のない茶髪と青い瞳のユージーンは、人の記憶に残りにくい。残るような何かがない。
誰かに関心を持たれることもなく、寂しさを埋めるもののないまま成人年齢である十八を迎えたユージーンは、唐突に許嫁を与えられた。血筋しか価値のないユージーンにとって兵士としての働きよりも重要な役目がある。それが政略結婚だった。
姉達の大半は国外へ嫁ぎ国家間の繋がりを生み、少数の姉とユージーンは国内の名家と婚姻を結ぶことになった。ユージーンの相手は公爵家の令嬢で、ユージーンより三つ年下だ。
花のように可憐な少女と初めて顔を合わせた時。ユージーンの胸は喜びに包まれた。長らく孤独に生きてきた自分に、政略結婚とはいえ支え合える人が出来るのだと。
顔見せの席で令嬢へあれこれ話し掛けるユージーンは、純朴な期待などすぐに消え失せることなど知らなかった。
「……あの。勘違いされたら困るので、先に言わせていただきますが」
ユージーンとの会話に笑顔で付き合ってくれていた令嬢が、手にした扇子で口元を隠す。
「私は貴方と結婚しますが、夫婦になるつもりはありません。初夜だって共にしないわ。私には愛する人が既にいますもの」
美しい空色の瞳を伏せながら発せられた言葉はユージーンの心を的確に裂いていった。
王族に対して敬意の欠片もない言葉だが、ユージーンには彼女を非難することは出来ない。第六王子とはいえ庶子のユージーンと由緒正しき公爵家の令嬢では、発言力に差があった。
「……まだスペンサー殿下だったら良かったのに」
スペンサーはユージーンと一番年の近い兄、第五王子である。顔立ちに秀でたもののないユージーンと違って、王と妃の良き点を集めて生まれた、とても美しい顔立ちをしている。
「ユージーン殿下が他に恋人を作るのは、私はどうでもいいけれど……父は許さないでしょうね。私のこと溺愛してますもの。恋人を作るのなら、上手く誤魔化して下さいませ」
王家と公爵家の繋がりを強める、結婚という契約を結びさえすればいい。紙面上は妻となる少女は見目の良い下男に夢中で、ユージーンへの関心は微塵もない。
ユージーンが他に恋人を作っても、令嬢の忠告通り義父となる公爵の逆鱗に触れるだけだろう。ユージーンには許される力がなかった。
死ぬまで続いていくのだと思っていた虚しいだけの日々は、ある日突然終わりを迎えた。土地の所有権を巡ってワイアット帝国との国交に亀裂が走り、攻め入られたのだ。
抵抗は破られ、日に日に国内にワイアットの旗が掲げられていく。そしてつい先日、ファロンの城は陥落し、王族は残らず捕えられ処刑を待つのみになり――今日、その時が訪れていた。
戦死した国王と第一王子、国外に嫁いだ王女以外――ユージーンを含めた王子五人は、城の門前に集められていた。ワイアットの兵に囲まれる中、ユージーン達の前には荒縄の吊るされた絞首台が佇んでいる。
「さて。誰から吊ってやろうか」
兵を束ねる若い男が、長い金髪を揺らしてユージーン達を見る。細められた緑の瞳がこれから死に逝く者達を見やる。冷徹な眼差しに兄王子達は毅然と睨み返すが、ユージーンは恐怖した。教え込まれた王族としての誇りを失う程に、ただ恐ろしかった。
「……うん?」
見開かれた男の目は、ユージーンに向けられた。ユージーンの真ん丸い青い瞳から、雫がぼろぼろと零れ落ちていたのだ。
つかつかと歩み寄る男にユージーンは肩を大きく震わせた。手足を縛られていなければ逃げ出していたことだろう。
「泣いているのか。他の王子達は誰一人、不安の色すら浮かべずに運命を受け入れているぞ」
男の言葉通り兄王子達は毅然とした態度を崩さず、男を睨み返してすらいる。王族としての誇りを持ち、愍然な姿を見せてはならないという強い意思が恐怖に打ち勝っているのだ。
「情けないと思わないのか」
「あ……う、ううっ……」
男に詰られなくとも自覚しているユージーンが呻く。鼻からも涙が流れ出し、惨めな顔を晒す。
「こっ……怖いにぎまっでるっ……」
俯き、両手首を縛られた手で顔を拭う。一度や二度拭った程度で収まる涙ではなかった。
「しぬのはこわい……しにたくないっ……そんなの、あたりまえだろぉっ!!」
価値のない生だったとしても、死の瞬間に直面すれば縋りつきたくなるものだとユージーンは理解した。涙だらけのみっともない顔をくしゃくしゃにして叫ぶユージーンに、兄王子達は憐憫を向ける。
「そうか」
男が俯くユージーンの頭を掴む。涙まみれの汚ならしい顔を無理矢理上げさせられ、緑の瞳と見つめ合う。
「よく見ておくがいい。お前の兄弟達の死に様を」
言い捨て、男はユージーンを腕に捕えた。男の号令と共に兵士達が動き出し、第二王子を荒縄の前へ連行する。
首を括られ、足場を奪われ、首を吊られる兄の姿をユージーンは見させられていた。長い指に目を無理矢理開かれ、兄達の最期の瞬間を逃さず看取る。彼らは最期まで勇敢に、誇りを持って生きていた。泣き言をぶちまけたのはユージーンただ一人だけだった。
スペンサーの死が確認され、縄から外される頃。ユージーンは立っていられなかった。崩れ落ちてしまいたいのに、ユージーンを支える男が許さない。
「お前一人になってしまったな」
上手く息が出来なかった。呼吸がつまり、口から「ひゅっ。こひゅっ」とおかしな音が出ていく。酸素を吸えているのかわからなかった。
兵士達の目がユージーンに、ユージーンの背後の男に向けられる。号令を待っている。命じられるのを待っている。ユージーンを殺すのを待っているのだ。
「ひ。ひっ。ひ。ひぃぃっ」
心臓が破裂しそうな程、強く鼓動を打ちつける。悲鳴と共に息が吐き出ていくばかりで頭に酸素が回らない。息苦しさに泣き、意識を飛ばそうとするユージーンの唇が何かに塞がれた。
「ひ、ひっ、んっんん……」
焦点の合わない視界いっぱいに、男の端正な顔が見えた。口内に生あたたかい空気が吐き出されていく。男から与えられた僅かな酸素が、ユージーンに落ち着きを取り戻させていった。
「…………勝手に死ぬな。お前の生死を決めるのは俺だ」
「……あ。あ」
裁定者を見上げる。端正な顔に表情はない。ユージーンの生死を左右する男にとって、ユージーンの命は羽虫のそれと変わらないのだろう。
「生きていたいか」
頷く。幸福になれないとしても、死にたくはなかった。
「何をしても?」
頷く。何も持たないユージーンには、捧げられるものは自分以外何もない。
「ふん。なら俺のもとで生かしてやろう。惨めに生き続けるといい」
もっとよく考えるべき選択だった。けれどすぐに選ばなければ待っているのは死だ。
ユージーンは縛られたまま、男に担ぎ上げられた。兵士達に撤収を命じた男は迷いなく歩き始める。兵士が一人先導を始め、数人が付き従う。歩みの先、城門の外には白馬二頭の繋がれた立派な馬車が用意されていた。
「……」
馬車にはワイアットの旗が掲げられ、扉には帝国の紋章が刻まれている。兵士によって扉が開かれ、男は抱えていたユージーンを投げ入れた。
「うあ」
足元にはカーペットが敷かれ、座席も柔らかいソファーが設けられている。痛みはそれ程強くないが少なからず衝撃はあり、声を上げるユージーンの隣に男が乗り込むと馬車が動き始めた。
足元へ座り込むユージーンの後頭部へ、男の手が回される。自然と見上げた男の表情は相変わらず冷徹だ。
「しゃぶれ。帰国までの暇潰しになったら生かしてやる」
男の言葉の後半は理解出来た。何をしゃぶるのかわからないユージーンが首を傾げると、男は眉根を寄せる。
「……わからない程ガキじゃないだろう」
「え? え? いや、ほんとに……」
対人関係に疎いユージーンの性知識は最低限のものしかない。男女の営みは教えられたが、男同士で何をするなど考えたことがなかった。
「この小さい口で」
「うえっ」
後頭部を掴んでいた手が離れたかと思うと、ユージーンの両頬を鷲掴む。唇を尖らせたユージーンの口内に男の小指が入り込んだ。
「俺のち○ぽをしゃぶれって言ってんだよ」
「……ぶふぇ?!」
口を窄められたまま吹き出すユージーンに、男は初めて表情を崩した。愉快げに笑うが、その性質は良いものではないと物知らずのユージーンにもわかる。
「何でもすると言ったろう。しないのならお前に用はない。外へ放り出してやろう」
造りの良さからか走行による振動は少ないが、速度が出ているのは伝わってくる。そんな馬車から生身で放り出されれば良くて大怪我、普通は死ぬ。
ユージーンは慌てて男の下履きへ手を掛ける。前を寛げ、晒された下着越しにも性器の大きさが見て取れた。
「……」
下着をずらし、性器を取り出す。竿の太さも、先についた赤黒い亀頭も、ユージーンのものより大きく立派だ。他人のものなんて見るのは初めてだが、自身のものを思い起こして感じたのは敗北感だった。
「いつまで見ているつもりだ」
思わず息を飲み、他人の性器に見入っていたユージーンは声を掛けられて肩を震わせた。目線を性器から男の顔へ戻す。
「二度は言わんぞ」
呆ける唇へ肥えた亀頭が押しつけられる。そろそろと唇から舌を出し、触れるユージーンの頭に男の手が乗った。間違ってはいないのかと恐れながら、ユージーンは舌を出して男の亀頭を舐める。
恐怖が勝ったからか。他人の、それも同性の性器を舐めることに嫌悪感はなかった。飴玉を溶かすようにこりこりとした肉塊を舌で舐め上げる。
夢中になって舐めていると舌先に塩味が広がり、何かと目を向ければ鈴口から我慢汁が垂れている。流石に自慰の経験はあるユージーンは男が快感を得ているのだと知り、安堵し、舌の動きを再開しようとした。
「――舐めろじゃない。しゃぶれって言ったんだよ」
「んぼっ!?」
男の手がユージーンの頭を引き寄せ、開いていた口の中へ大きな亀頭が入り込む。拙い奉仕ながらも膨らみを持ち始めた男性器に口内を圧迫され、反射的に追い出そうとするが「俺のものを勝手に吐き出したり噛みついたら殺す」と釘を刺される。ピタリと固まったユージーンに男は腰を揺すって促した。
「んっ……ん、んっ、んんっ……」
口内を男根が抜き差しされ、舌で追うように舐める。先走りと唾液が混ざり、唇の端から溢れそうになるとユージーンは体液を啜った。不味さに眉を寄せる。
頭を動かして男の性器を口内で擦り、舌で舐め回し、喉を絞めて吸いつく。ユージーンに思いつくのはそれくらいで、男が咎めることもなかった。懸命に奉仕を続けていると性器はどんどん膨れ上がり、顎が疲れ始めるが、男の許しがなければ性器から口を離すことが出来ない。愚直なユージーンに、男は唇を開く。
「初めてのわりには良く出来た。褒美をやろう」
「ん……ぐっ、ほっ、お、おぼっ!」
男の両手がユージーンの後頭部を掴み、無遠慮に揺する。咥え込む性器に喉を突かれ、呻く口内に生あたたかいものが吐き出され、瞬時に形容し難い苦味が広がっていく。精液だと理解するのに時間はかからなかった。
吐き出そうとする体を理性で留めていると、男の手がユージーンの頭を引き剥がしていく。男根が抜けても精液を溢さないよう口を窄めるユージーンを、男は「それでいい」と褒めた。
「顔を上げて口を開け。溢すなよ」
言葉に従う。口を開いても精液が溢れない角度で男を見上げた。
口内に溜まった白濁の中から、赤い舌が浮き出る。その先も白が絡む様を見た男は目を細めた。
「口の中のもの。よーく噛んで味わってみろ」
固まるユージーンに「液体だから噛む真似をしろってことだ」と補足をくれるが、固まった理由はそれではない。
「何でもするんだろう」
それを言われてしまうとユージーンは逆らえない。精液の味を思い知るのと馬車から放り出される痛みなら、前者を選ぶ。
「う……」
口を閉じる。自然と溜まる空気が咀嚼を拒む。
「……う。う。うぅ…………んっ!」
決意のまま歯を噛み合わせると、ぐちゃり、と音を立てて白濁が口内に散った。無事だった口蓋まで精液に塗れる。
「……ん。ぐ。ぅ、うう~……」
一度目が過ぎれば躊躇がなくなる。二度三度と精液を噛み締め、口内が苦味に満たされていく。嘔吐感と戦いながら咀嚼を続けるユージーンは、ついに許された。
「良し。飲んでいいぞ」
進んで飲みたくなどないが、口内から消えれば咀嚼の苦しみはなくなる。食道を通過させなければならないが、先程までと比べたら一瞬の出来事だ。
「んっ、くっ」
喉の動きが嚥下を教える。男は再度口内を見せるよう求め、ユージーンは素直に従い口を開いた。ねばついて残ったものもあるが、精液溜まりはなくなっている。
「良し」
口内を確認した男は、ユージーンの両脇へ手を伸ばし、差し込む。軽々と持ち上げられたユージーンは男の膝の上へ座らされた。
「長生きしたければ俺の言葉に逆らうな」
ユージーンのシャツの釦が、男の手によって外されていく。前開きのシャツの下には何も着けておらず、顔や手と違って日に焼けていない肌が晒される。
男はユージーンの右胸に顔を寄せた。形のいい唇が、小さな乳首を緩く食む。
「あ、う……んっ……!」
左胸には男の指先が伸び、乳首をくりくりと撫で回し始める。男にとって用途はない、飾りでしかない器官にあえて触れることのなかったユージーンは男の意図がわからなかった。
「……ん。ん……ん……」
舌で舐め、吸われる。指先に摘ままれ、引っ張られ、押し潰される。弄られても何も感じず、触れられる感覚から僅かに呻くだけのユージーンだったが、それに変化が訪れたのはしばらく男に嬲られてからだった。
「…………んっ……? ぁ……」
ぺろぺろと乳首を舐められ続け、何度目かの吸いつきは強かった。僅かな痛みを感じたユージーンは、それだけでないことに気付く。
胸の奥に痺れたような感覚が走った気がした。
不思議そうなユージーンの胸を、男はもう一度吸う。
「ぁんっ……ん……?」
くすぐったいような、それとはまた違うような感覚に、ユージーンは疑問符を浮かべる。
男の頭と手に遮られ、自身の乳首がふくふくと浮かび育て上げられていくことに気付かないまま、ユージーンは運ばれていく。
男の国へ。ユージーンの国を討ち滅ぼしたワイアット帝国へと。
ユージーンはファロン王国の王子として生を受けた――ものの、その生まれに祝福はなかった。五人の兄と十人の姉を持った末子は王位継承権から遠く、そもそも母は国王が手を出した侍女である。後ろ楯のないユージーンに、初めから継承権の欠片も与えられていない。
王が母を気に入り、妾の一人として城に置いてくれたおかげで衣食住には困らなかったが、高貴な血筋が市井に降りることは、自由を得ることは許されなかった。
城という檻の中。王に、兄に、国に尽くす兵士となる道を選ばされ、生まれから同僚に距離を置かれ、近付く者は無力な庶子と知るや罵って離れていく。親しい人のいないユージーンは孤独に生きていた。
愛嬌のある顔立ちをした母と違い、崩れてはいないが特別整ってもいない。中肉中背、癖のない茶髪と青い瞳のユージーンは、人の記憶に残りにくい。残るような何かがない。
誰かに関心を持たれることもなく、寂しさを埋めるもののないまま成人年齢である十八を迎えたユージーンは、唐突に許嫁を与えられた。血筋しか価値のないユージーンにとって兵士としての働きよりも重要な役目がある。それが政略結婚だった。
姉達の大半は国外へ嫁ぎ国家間の繋がりを生み、少数の姉とユージーンは国内の名家と婚姻を結ぶことになった。ユージーンの相手は公爵家の令嬢で、ユージーンより三つ年下だ。
花のように可憐な少女と初めて顔を合わせた時。ユージーンの胸は喜びに包まれた。長らく孤独に生きてきた自分に、政略結婚とはいえ支え合える人が出来るのだと。
顔見せの席で令嬢へあれこれ話し掛けるユージーンは、純朴な期待などすぐに消え失せることなど知らなかった。
「……あの。勘違いされたら困るので、先に言わせていただきますが」
ユージーンとの会話に笑顔で付き合ってくれていた令嬢が、手にした扇子で口元を隠す。
「私は貴方と結婚しますが、夫婦になるつもりはありません。初夜だって共にしないわ。私には愛する人が既にいますもの」
美しい空色の瞳を伏せながら発せられた言葉はユージーンの心を的確に裂いていった。
王族に対して敬意の欠片もない言葉だが、ユージーンには彼女を非難することは出来ない。第六王子とはいえ庶子のユージーンと由緒正しき公爵家の令嬢では、発言力に差があった。
「……まだスペンサー殿下だったら良かったのに」
スペンサーはユージーンと一番年の近い兄、第五王子である。顔立ちに秀でたもののないユージーンと違って、王と妃の良き点を集めて生まれた、とても美しい顔立ちをしている。
「ユージーン殿下が他に恋人を作るのは、私はどうでもいいけれど……父は許さないでしょうね。私のこと溺愛してますもの。恋人を作るのなら、上手く誤魔化して下さいませ」
王家と公爵家の繋がりを強める、結婚という契約を結びさえすればいい。紙面上は妻となる少女は見目の良い下男に夢中で、ユージーンへの関心は微塵もない。
ユージーンが他に恋人を作っても、令嬢の忠告通り義父となる公爵の逆鱗に触れるだけだろう。ユージーンには許される力がなかった。
死ぬまで続いていくのだと思っていた虚しいだけの日々は、ある日突然終わりを迎えた。土地の所有権を巡ってワイアット帝国との国交に亀裂が走り、攻め入られたのだ。
抵抗は破られ、日に日に国内にワイアットの旗が掲げられていく。そしてつい先日、ファロンの城は陥落し、王族は残らず捕えられ処刑を待つのみになり――今日、その時が訪れていた。
戦死した国王と第一王子、国外に嫁いだ王女以外――ユージーンを含めた王子五人は、城の門前に集められていた。ワイアットの兵に囲まれる中、ユージーン達の前には荒縄の吊るされた絞首台が佇んでいる。
「さて。誰から吊ってやろうか」
兵を束ねる若い男が、長い金髪を揺らしてユージーン達を見る。細められた緑の瞳がこれから死に逝く者達を見やる。冷徹な眼差しに兄王子達は毅然と睨み返すが、ユージーンは恐怖した。教え込まれた王族としての誇りを失う程に、ただ恐ろしかった。
「……うん?」
見開かれた男の目は、ユージーンに向けられた。ユージーンの真ん丸い青い瞳から、雫がぼろぼろと零れ落ちていたのだ。
つかつかと歩み寄る男にユージーンは肩を大きく震わせた。手足を縛られていなければ逃げ出していたことだろう。
「泣いているのか。他の王子達は誰一人、不安の色すら浮かべずに運命を受け入れているぞ」
男の言葉通り兄王子達は毅然とした態度を崩さず、男を睨み返してすらいる。王族としての誇りを持ち、愍然な姿を見せてはならないという強い意思が恐怖に打ち勝っているのだ。
「情けないと思わないのか」
「あ……う、ううっ……」
男に詰られなくとも自覚しているユージーンが呻く。鼻からも涙が流れ出し、惨めな顔を晒す。
「こっ……怖いにぎまっでるっ……」
俯き、両手首を縛られた手で顔を拭う。一度や二度拭った程度で収まる涙ではなかった。
「しぬのはこわい……しにたくないっ……そんなの、あたりまえだろぉっ!!」
価値のない生だったとしても、死の瞬間に直面すれば縋りつきたくなるものだとユージーンは理解した。涙だらけのみっともない顔をくしゃくしゃにして叫ぶユージーンに、兄王子達は憐憫を向ける。
「そうか」
男が俯くユージーンの頭を掴む。涙まみれの汚ならしい顔を無理矢理上げさせられ、緑の瞳と見つめ合う。
「よく見ておくがいい。お前の兄弟達の死に様を」
言い捨て、男はユージーンを腕に捕えた。男の号令と共に兵士達が動き出し、第二王子を荒縄の前へ連行する。
首を括られ、足場を奪われ、首を吊られる兄の姿をユージーンは見させられていた。長い指に目を無理矢理開かれ、兄達の最期の瞬間を逃さず看取る。彼らは最期まで勇敢に、誇りを持って生きていた。泣き言をぶちまけたのはユージーンただ一人だけだった。
スペンサーの死が確認され、縄から外される頃。ユージーンは立っていられなかった。崩れ落ちてしまいたいのに、ユージーンを支える男が許さない。
「お前一人になってしまったな」
上手く息が出来なかった。呼吸がつまり、口から「ひゅっ。こひゅっ」とおかしな音が出ていく。酸素を吸えているのかわからなかった。
兵士達の目がユージーンに、ユージーンの背後の男に向けられる。号令を待っている。命じられるのを待っている。ユージーンを殺すのを待っているのだ。
「ひ。ひっ。ひ。ひぃぃっ」
心臓が破裂しそうな程、強く鼓動を打ちつける。悲鳴と共に息が吐き出ていくばかりで頭に酸素が回らない。息苦しさに泣き、意識を飛ばそうとするユージーンの唇が何かに塞がれた。
「ひ、ひっ、んっんん……」
焦点の合わない視界いっぱいに、男の端正な顔が見えた。口内に生あたたかい空気が吐き出されていく。男から与えられた僅かな酸素が、ユージーンに落ち着きを取り戻させていった。
「…………勝手に死ぬな。お前の生死を決めるのは俺だ」
「……あ。あ」
裁定者を見上げる。端正な顔に表情はない。ユージーンの生死を左右する男にとって、ユージーンの命は羽虫のそれと変わらないのだろう。
「生きていたいか」
頷く。幸福になれないとしても、死にたくはなかった。
「何をしても?」
頷く。何も持たないユージーンには、捧げられるものは自分以外何もない。
「ふん。なら俺のもとで生かしてやろう。惨めに生き続けるといい」
もっとよく考えるべき選択だった。けれどすぐに選ばなければ待っているのは死だ。
ユージーンは縛られたまま、男に担ぎ上げられた。兵士達に撤収を命じた男は迷いなく歩き始める。兵士が一人先導を始め、数人が付き従う。歩みの先、城門の外には白馬二頭の繋がれた立派な馬車が用意されていた。
「……」
馬車にはワイアットの旗が掲げられ、扉には帝国の紋章が刻まれている。兵士によって扉が開かれ、男は抱えていたユージーンを投げ入れた。
「うあ」
足元にはカーペットが敷かれ、座席も柔らかいソファーが設けられている。痛みはそれ程強くないが少なからず衝撃はあり、声を上げるユージーンの隣に男が乗り込むと馬車が動き始めた。
足元へ座り込むユージーンの後頭部へ、男の手が回される。自然と見上げた男の表情は相変わらず冷徹だ。
「しゃぶれ。帰国までの暇潰しになったら生かしてやる」
男の言葉の後半は理解出来た。何をしゃぶるのかわからないユージーンが首を傾げると、男は眉根を寄せる。
「……わからない程ガキじゃないだろう」
「え? え? いや、ほんとに……」
対人関係に疎いユージーンの性知識は最低限のものしかない。男女の営みは教えられたが、男同士で何をするなど考えたことがなかった。
「この小さい口で」
「うえっ」
後頭部を掴んでいた手が離れたかと思うと、ユージーンの両頬を鷲掴む。唇を尖らせたユージーンの口内に男の小指が入り込んだ。
「俺のち○ぽをしゃぶれって言ってんだよ」
「……ぶふぇ?!」
口を窄められたまま吹き出すユージーンに、男は初めて表情を崩した。愉快げに笑うが、その性質は良いものではないと物知らずのユージーンにもわかる。
「何でもすると言ったろう。しないのならお前に用はない。外へ放り出してやろう」
造りの良さからか走行による振動は少ないが、速度が出ているのは伝わってくる。そんな馬車から生身で放り出されれば良くて大怪我、普通は死ぬ。
ユージーンは慌てて男の下履きへ手を掛ける。前を寛げ、晒された下着越しにも性器の大きさが見て取れた。
「……」
下着をずらし、性器を取り出す。竿の太さも、先についた赤黒い亀頭も、ユージーンのものより大きく立派だ。他人のものなんて見るのは初めてだが、自身のものを思い起こして感じたのは敗北感だった。
「いつまで見ているつもりだ」
思わず息を飲み、他人の性器に見入っていたユージーンは声を掛けられて肩を震わせた。目線を性器から男の顔へ戻す。
「二度は言わんぞ」
呆ける唇へ肥えた亀頭が押しつけられる。そろそろと唇から舌を出し、触れるユージーンの頭に男の手が乗った。間違ってはいないのかと恐れながら、ユージーンは舌を出して男の亀頭を舐める。
恐怖が勝ったからか。他人の、それも同性の性器を舐めることに嫌悪感はなかった。飴玉を溶かすようにこりこりとした肉塊を舌で舐め上げる。
夢中になって舐めていると舌先に塩味が広がり、何かと目を向ければ鈴口から我慢汁が垂れている。流石に自慰の経験はあるユージーンは男が快感を得ているのだと知り、安堵し、舌の動きを再開しようとした。
「――舐めろじゃない。しゃぶれって言ったんだよ」
「んぼっ!?」
男の手がユージーンの頭を引き寄せ、開いていた口の中へ大きな亀頭が入り込む。拙い奉仕ながらも膨らみを持ち始めた男性器に口内を圧迫され、反射的に追い出そうとするが「俺のものを勝手に吐き出したり噛みついたら殺す」と釘を刺される。ピタリと固まったユージーンに男は腰を揺すって促した。
「んっ……ん、んっ、んんっ……」
口内を男根が抜き差しされ、舌で追うように舐める。先走りと唾液が混ざり、唇の端から溢れそうになるとユージーンは体液を啜った。不味さに眉を寄せる。
頭を動かして男の性器を口内で擦り、舌で舐め回し、喉を絞めて吸いつく。ユージーンに思いつくのはそれくらいで、男が咎めることもなかった。懸命に奉仕を続けていると性器はどんどん膨れ上がり、顎が疲れ始めるが、男の許しがなければ性器から口を離すことが出来ない。愚直なユージーンに、男は唇を開く。
「初めてのわりには良く出来た。褒美をやろう」
「ん……ぐっ、ほっ、お、おぼっ!」
男の両手がユージーンの後頭部を掴み、無遠慮に揺する。咥え込む性器に喉を突かれ、呻く口内に生あたたかいものが吐き出され、瞬時に形容し難い苦味が広がっていく。精液だと理解するのに時間はかからなかった。
吐き出そうとする体を理性で留めていると、男の手がユージーンの頭を引き剥がしていく。男根が抜けても精液を溢さないよう口を窄めるユージーンを、男は「それでいい」と褒めた。
「顔を上げて口を開け。溢すなよ」
言葉に従う。口を開いても精液が溢れない角度で男を見上げた。
口内に溜まった白濁の中から、赤い舌が浮き出る。その先も白が絡む様を見た男は目を細めた。
「口の中のもの。よーく噛んで味わってみろ」
固まるユージーンに「液体だから噛む真似をしろってことだ」と補足をくれるが、固まった理由はそれではない。
「何でもするんだろう」
それを言われてしまうとユージーンは逆らえない。精液の味を思い知るのと馬車から放り出される痛みなら、前者を選ぶ。
「う……」
口を閉じる。自然と溜まる空気が咀嚼を拒む。
「……う。う。うぅ…………んっ!」
決意のまま歯を噛み合わせると、ぐちゃり、と音を立てて白濁が口内に散った。無事だった口蓋まで精液に塗れる。
「……ん。ぐ。ぅ、うう~……」
一度目が過ぎれば躊躇がなくなる。二度三度と精液を噛み締め、口内が苦味に満たされていく。嘔吐感と戦いながら咀嚼を続けるユージーンは、ついに許された。
「良し。飲んでいいぞ」
進んで飲みたくなどないが、口内から消えれば咀嚼の苦しみはなくなる。食道を通過させなければならないが、先程までと比べたら一瞬の出来事だ。
「んっ、くっ」
喉の動きが嚥下を教える。男は再度口内を見せるよう求め、ユージーンは素直に従い口を開いた。ねばついて残ったものもあるが、精液溜まりはなくなっている。
「良し」
口内を確認した男は、ユージーンの両脇へ手を伸ばし、差し込む。軽々と持ち上げられたユージーンは男の膝の上へ座らされた。
「長生きしたければ俺の言葉に逆らうな」
ユージーンのシャツの釦が、男の手によって外されていく。前開きのシャツの下には何も着けておらず、顔や手と違って日に焼けていない肌が晒される。
男はユージーンの右胸に顔を寄せた。形のいい唇が、小さな乳首を緩く食む。
「あ、う……んっ……!」
左胸には男の指先が伸び、乳首をくりくりと撫で回し始める。男にとって用途はない、飾りでしかない器官にあえて触れることのなかったユージーンは男の意図がわからなかった。
「……ん。ん……ん……」
舌で舐め、吸われる。指先に摘ままれ、引っ張られ、押し潰される。弄られても何も感じず、触れられる感覚から僅かに呻くだけのユージーンだったが、それに変化が訪れたのはしばらく男に嬲られてからだった。
「…………んっ……? ぁ……」
ぺろぺろと乳首を舐められ続け、何度目かの吸いつきは強かった。僅かな痛みを感じたユージーンは、それだけでないことに気付く。
胸の奥に痺れたような感覚が走った気がした。
不思議そうなユージーンの胸を、男はもう一度吸う。
「ぁんっ……ん……?」
くすぐったいような、それとはまた違うような感覚に、ユージーンは疑問符を浮かべる。
男の頭と手に遮られ、自身の乳首がふくふくと浮かび育て上げられていくことに気付かないまま、ユージーンは運ばれていく。
男の国へ。ユージーンの国を討ち滅ぼしたワイアット帝国へと。
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