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相愛
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政宗には小さな頃から何をするでも一緒の幼馴染みがいる。
三歳まで生まれ育ったアメリカから父の母国へ移り住むことになったと教えられた時、小さな政宗は楽しみで仕方なかった。父も母も日本の漫画やアニメが大好きで、政宗も同じように漫画を読みアニメを見て育った。それらで覚えた日本語は多い。
日本行きの飛行機の中で胸を弾ませ目を輝かせる政宗を待っていたのはとても重大な出会いと、異端への偏見だった。
日本での新居に越したその日に母と政宗は近所へ挨拶した。一番初めは隣の家だ。表札の漢字は政宗にはまだ読めなかった。
インターホンを鳴らすと女性の声が聞こえ、母が挨拶にうかがったことを話している。しばらくして玄関の扉が開くのを母の後ろから眺めていた政宗の目に、その子は映りこんだ。
政宗と同じくらいの黒髪黒目の男の子が、政宗と同じように母親の後ろから顔を出して訪問者を観察していた。
お互いに目を合わせていると、男の子が名前を教えてくれた。つきなみあたる。政宗の何より大切な存在になる人の名前だった。
月波家への挨拶を済ませ、他の家にも挨拶に回った母子へ向けられる視線は好意的なものの方が大きかった。理性的な大人の対応としては当然だ。
では子供だけになるとどうなるか。目の色と髪の色は違うのに名前は至って日本人の政宗に、思ったままを口にする子供は変だと笑った。
思想的な差別などではなく、今まで周囲に黒髪黒目の日本人しかいなかった彼らにとって政宗の存在は異質だった。共通意識のある集団の中に異質が紛れれば、生き物の性質として排除的な意識が生まれる。いじめられるのだ。
母と共に公園へ行き、遊んでいる子供達に声を掛けようとしても散らばって逃げてしまう。彼らに付き添う母親達も金髪の母子を遠巻きに見て、愛想笑いはするが話し掛けては来ない。自分の子供に何か話し掛けて、子供が笑って終わる。
歓迎されていないことは伝わった政宗は母の手を引き公園を出た。無言で帰路につく母子の向かいから、黒髪の親子が歩いてくる。
「あ。おかあさん。まさむねくん」
「ああ、ほんとね。日下部さんこんにちは」
駆け寄ってきた丁と挨拶をする。丁も公園に向かう所だったらしい。政宗が帰るのだと知ると、家に誘われた。
「もういそがしい? あそべない?」
「……あたるくんとあそんでいい?」
尋ねる政宗に母が頷く。丁のお母さんに誘われ、母子揃って月波家へお邪魔した。
丁は政宗の容貌を気に入っており、いつもにこにこと政宗のことを見つめていた。屈託なく好意を伝えてくれる彼の目が政宗は好きだ。顔だけなのかと思い悩んだこともあったけど、それだけ強烈に彼の心を掴んだのだと思えば悪くなかった。
政宗と丁の距離感は世間一般的な幼馴染みや親友といった枠組みの中にはめ込まれているようで、どこかはみ出している。と政宗は認識している。
学校は勿論、プライベートも殆ど一緒。どちらかの家に泊まりに行くのはしょっちゅうで、それが日常になる程に互いの家族仲がいい。
丁の家族はちょっと天然気味の優しさで日本の暮らしに慣れない母子を気遣ってくれた。それでも政宗の母は正直、何度か帰国を考えた様子だった。
「差別とまではいかないけど偏見? 無視? なんなのかしらね? 香代子さんがいなかったら、友達全然出来なかっただろうなぁ」
政宗がある程度大きくなった頃。既に日本に慣れ親しみ、丁の母である香代子に誘われて始めたレース編みにハマった母は趣味を通じて友達を作っていた。今度作品を披露し合うのだと言い、張りきってレースを編みながら息子に向けて何ともなしに打ち明ける。
政宗が小学校時代にからかわれたように、外国人の美女というだけで良くも悪くも目立つ母にも悩みがあったようだった。
「父さんと別れようと思ったりした?」
「離婚は嫌だけどあんた連れて二人でアメリカで暮らして、たまに日本に会いに行くのは真剣に考えてたわよ。あの人もアメリカで仕事探そうかって言ってくれたし。でもあんたが――」
おそらく隣に住んでいたのが月波家ではなかったら――隣でなくとも、近所に彼ら一家がいなければ政宗は日本で暮らしていなかっただろう。
政宗にとって丁は精神的な支え、柱、酸素。なくてはならない存在だから可能な限り引っ付いて過ごす。
距離感はほぼゼロに等しく、遠慮のない間柄だった。素っ裸を見ることだっていくらでもある。
政宗と丁は約束をしていた。丁が漫画家になり政宗が声優を目指し始めた頃、丁の漫画がアニメ化などのメディア展開をしたら主人公役は必ず政宗が演じてみせると。
青臭い約束だが政宗は本気だった。そして約束を果たしたら丁を抱くとも決めていた。こちらは承諾どころか丁に何も伝えてはいなかったけれど、断られるとは微塵も思っていなかった。
政宗は丁が大好きだけど、丁だって政宗が大好きだとわかりやすく表に出していた。
告白の前にキスをしたら丁は怒ったり恥じたりせず、ただ当然のように受け入れた。それが答えだった。
「なんでこれだけで勃ってんの?」
シャワーを浴びたいと言い出し浴室へ向かう丁を追い、狭い浴室の中に一緒に入ろうと服を脱いだ政宗の体を見た丁は呆れた目を向けてくる。言葉の通りだった。
丁の体に変化はない。軽くキスして服を脱いだだけだ。
「やっとだぞ」
「やっと?」
不思議そうな丁を引っ張り浴室へ入る。シャワーの温度を調節しながら、腕の中の丁へキスする。可愛かったからだ。
「丁の漫画がアニメ化して、俺が主演になれたら告白するって。ずっと決めたんだよ」
「……ずっと? いつから?」
「お前のデビュー決まった時。カッコつけないでさっさと告れば良かった」
話をしている間にも丁の体は大きな手にまさぐられ、いつの間にか泡だらけになって洗われていく。お返しとばかりに泡まみれの体で抱き着くと顔中に唇が降ってきた。
「そんなの用意してたの?」
頭から足の指まで綺麗に洗われた丁をベッドに寝かせた政宗はクローゼットを漁り始めた。何をしているのかと見ていると、新品未開封のローションやゴムの箱が出てくる。
「主演に決まるって信じてたから」
「自信家だなぁ」
本来なら単身者向けの1Kに政宗が転がり込んできたことにより、一つしか置けないベッドサイズはダブルになった。漫画を描くには問題ないけれどやはり部屋は手狭で、仕事が安定したらもう少し広めの部屋に引っ越そうと思っている。
二人で寝転んでも問題ないベッドの上で、いつもと違うことをする。丁は政宗に促されるまま開いた足を手で抑え、尻を掲げるような姿勢を取る。
「ひっ……あっ……」
尻に垂らされた冷たいローションに声が上がる。指先が粘液を纏って孔に触れた。
「うう……まっ、政宗ぇ……」
ぐぷ、と音を立てながらゆっくりと、政宗の指が丁の中へ入ってくる。一本だったものが二本、三本と増え。第二関節を目安に抜き差しされていたのに、いつの間にか指の付け根までずっぷりと入り込んでいる。
異物の入り込む違和感に苛まれ、変だ、おかしいと口に出す。いつもなら丁が困ったり嫌がったりすれば助けてくれる政宗はそれを無視した。
「あ」
ただ出し入れされるだけだった指が動き始める。異物を追い出そうと動く肉筒の中で指を曲げ、呻くだけだった丁の声の艶が変わる場所があった。
「あっ……いやっやめて……ああっ……」
「ここがいいんだろ? 突くときゅうきゅう締め付けてくる。突っ込んだら気持ち良さそう」
言われる通り、政宗の指に触れられる度に強い快感が与えられる。喘ぐ丁を見つめる政宗は男の顔をしていた。
何を言っても何をしても。政宗は自分を抱くのだと。そう確信するものを感じ取る。
丁としては行為に対する恥ずかしさと恐怖に似た未知の不安があるだけで嫌悪はない。
「政宗……」
名前を呼ぶと熱のこもった青い瞳が丁を射抜く。視線だけで先を促す男に、丁は頼むしかない。
「なるべく痛くしないでね」
上がった唸りは了承か否か。どちらにしてもあまり変わらなかった。
「んひっ! あっぉっ……あっ……」
指の動きが再開され、丁の中を掻き乱していく。孔の中に注がれたローションが立てる水音は先程よりも明らかに激しさを増していた。
強い視線を向けられながら、丁の体は貪欲に快楽を追い始め、自分から尻を振り始める。腹の上で揺れていたペ◯スが緩く芯を持ち、鈴口からは透明な雫が溢れていく。
「あ……あ…………んっ、え?」
突然指を引き抜かれた丁の孔は物足りなげにひくつく。蕩けた目が政宗を探す。すぐに見つかるその姿は自身を握り、あてがっていた。
よく肥えた雄の頭が丁の尻に、孔に入り込もうとしている。
「あ」
口角がひくつく。恐怖と期待があった。
丁の胎の中に入るとは思えない長大なそれで中を掻き回られたらどうなるのか。政宗の指だけでも今までにない快感があった。
「怖い?」
聞きながら先端が肉を割る。指より太いものを受け入れる痛みは長くは続かず、丁の体は慣れていく。
「あっ……まさむねぇ……」
両腕を伸ばせば丁の大好きな顔が寄ってくる。小さな頃から可愛くて、大人に近付く程美しく磨き上げられた政宗が。
そうするのが当然のように政宗と唇を重ねた。入り込む舌を拒まず絡ませる。丁の唾液を啜るように吸い付かれながら、腰が打ち込まれる。
「んんんんんんっ! ん、んん、ん……!」
隘路を硬い雄に抉られ、拓かれていく痛みから上がる悲鳴は政宗に食われてしまう。指よりも深く、奥まで侵入される。
指で教え込まれた場所――前立腺より奥にある、精嚢を力強く刺激され、痛みが書き換えられる。
「おっ。あっ。ああっ……」
塞がれていた唇を離し、声が上がる。舌を突き出して喜び、よがる。煽られるように雄の律動が激しくなっていく。
いつの間にか丁の腹は自分の出した精液で濡れている。吐精の自覚がなくなる程、政宗から与えられる刺激に夢中になっていた。
「丁、あたる……出す。中に出すから……」
「うんっ……出して……中に政宗の……出して」
再び口付けられながら、丁の胎が熱いものに満たされていく。充足を感じながら、丁の意識がゆっくりと閉ざされていく。
「丁。最高。生きてて良かった……」
頬に柔らかいものが何度も触れてくる。感極まった声で囁いてくる政宗の声が聞こえると丁の唇に笑みが浮かび、眠りについた。
『あんたが泣いて嫌がったのよ。丁くんと離れたくないって。一人で日本に残るって。大人の私より子供だったあんたの方が嫌な思いしてるのに、そう言われたらアメリカに戻れなかったわよ』
そう苦笑し、自分も辛かっただろうに我が子の意思を尊重してくれた母。
『政宗ってすごいかっこいい声してるよね。声優になれそう』
声優を目指したきっかけはただそれだけ。丁の何気ない言葉はいつだって政宗の原動力になった。
ようやく結ばれ、政宗の腕の中で眠る彼がいなければ今の政宗はいなかった。声優なんて目指さず、そもそも日本にいない。両親と共に海の彼方で違う人生を歩んでいたのかもしれないと、そう考えるだけでゾッとする。
けれどきっと、どんなことがあっても政宗は丁と結ばれていただろうとも考える。
月並みな言葉だけれど、丁は政宗の運命の人なのだ。
「……ちがう……えすえすれあは……それじゃなくてぇ……」
「何だそれ」
おかしな寝言に吹き出す政宗の顔は幸福に満ち足りていた。
三歳まで生まれ育ったアメリカから父の母国へ移り住むことになったと教えられた時、小さな政宗は楽しみで仕方なかった。父も母も日本の漫画やアニメが大好きで、政宗も同じように漫画を読みアニメを見て育った。それらで覚えた日本語は多い。
日本行きの飛行機の中で胸を弾ませ目を輝かせる政宗を待っていたのはとても重大な出会いと、異端への偏見だった。
日本での新居に越したその日に母と政宗は近所へ挨拶した。一番初めは隣の家だ。表札の漢字は政宗にはまだ読めなかった。
インターホンを鳴らすと女性の声が聞こえ、母が挨拶にうかがったことを話している。しばらくして玄関の扉が開くのを母の後ろから眺めていた政宗の目に、その子は映りこんだ。
政宗と同じくらいの黒髪黒目の男の子が、政宗と同じように母親の後ろから顔を出して訪問者を観察していた。
お互いに目を合わせていると、男の子が名前を教えてくれた。つきなみあたる。政宗の何より大切な存在になる人の名前だった。
月波家への挨拶を済ませ、他の家にも挨拶に回った母子へ向けられる視線は好意的なものの方が大きかった。理性的な大人の対応としては当然だ。
では子供だけになるとどうなるか。目の色と髪の色は違うのに名前は至って日本人の政宗に、思ったままを口にする子供は変だと笑った。
思想的な差別などではなく、今まで周囲に黒髪黒目の日本人しかいなかった彼らにとって政宗の存在は異質だった。共通意識のある集団の中に異質が紛れれば、生き物の性質として排除的な意識が生まれる。いじめられるのだ。
母と共に公園へ行き、遊んでいる子供達に声を掛けようとしても散らばって逃げてしまう。彼らに付き添う母親達も金髪の母子を遠巻きに見て、愛想笑いはするが話し掛けては来ない。自分の子供に何か話し掛けて、子供が笑って終わる。
歓迎されていないことは伝わった政宗は母の手を引き公園を出た。無言で帰路につく母子の向かいから、黒髪の親子が歩いてくる。
「あ。おかあさん。まさむねくん」
「ああ、ほんとね。日下部さんこんにちは」
駆け寄ってきた丁と挨拶をする。丁も公園に向かう所だったらしい。政宗が帰るのだと知ると、家に誘われた。
「もういそがしい? あそべない?」
「……あたるくんとあそんでいい?」
尋ねる政宗に母が頷く。丁のお母さんに誘われ、母子揃って月波家へお邪魔した。
丁は政宗の容貌を気に入っており、いつもにこにこと政宗のことを見つめていた。屈託なく好意を伝えてくれる彼の目が政宗は好きだ。顔だけなのかと思い悩んだこともあったけど、それだけ強烈に彼の心を掴んだのだと思えば悪くなかった。
政宗と丁の距離感は世間一般的な幼馴染みや親友といった枠組みの中にはめ込まれているようで、どこかはみ出している。と政宗は認識している。
学校は勿論、プライベートも殆ど一緒。どちらかの家に泊まりに行くのはしょっちゅうで、それが日常になる程に互いの家族仲がいい。
丁の家族はちょっと天然気味の優しさで日本の暮らしに慣れない母子を気遣ってくれた。それでも政宗の母は正直、何度か帰国を考えた様子だった。
「差別とまではいかないけど偏見? 無視? なんなのかしらね? 香代子さんがいなかったら、友達全然出来なかっただろうなぁ」
政宗がある程度大きくなった頃。既に日本に慣れ親しみ、丁の母である香代子に誘われて始めたレース編みにハマった母は趣味を通じて友達を作っていた。今度作品を披露し合うのだと言い、張りきってレースを編みながら息子に向けて何ともなしに打ち明ける。
政宗が小学校時代にからかわれたように、外国人の美女というだけで良くも悪くも目立つ母にも悩みがあったようだった。
「父さんと別れようと思ったりした?」
「離婚は嫌だけどあんた連れて二人でアメリカで暮らして、たまに日本に会いに行くのは真剣に考えてたわよ。あの人もアメリカで仕事探そうかって言ってくれたし。でもあんたが――」
おそらく隣に住んでいたのが月波家ではなかったら――隣でなくとも、近所に彼ら一家がいなければ政宗は日本で暮らしていなかっただろう。
政宗にとって丁は精神的な支え、柱、酸素。なくてはならない存在だから可能な限り引っ付いて過ごす。
距離感はほぼゼロに等しく、遠慮のない間柄だった。素っ裸を見ることだっていくらでもある。
政宗と丁は約束をしていた。丁が漫画家になり政宗が声優を目指し始めた頃、丁の漫画がアニメ化などのメディア展開をしたら主人公役は必ず政宗が演じてみせると。
青臭い約束だが政宗は本気だった。そして約束を果たしたら丁を抱くとも決めていた。こちらは承諾どころか丁に何も伝えてはいなかったけれど、断られるとは微塵も思っていなかった。
政宗は丁が大好きだけど、丁だって政宗が大好きだとわかりやすく表に出していた。
告白の前にキスをしたら丁は怒ったり恥じたりせず、ただ当然のように受け入れた。それが答えだった。
「なんでこれだけで勃ってんの?」
シャワーを浴びたいと言い出し浴室へ向かう丁を追い、狭い浴室の中に一緒に入ろうと服を脱いだ政宗の体を見た丁は呆れた目を向けてくる。言葉の通りだった。
丁の体に変化はない。軽くキスして服を脱いだだけだ。
「やっとだぞ」
「やっと?」
不思議そうな丁を引っ張り浴室へ入る。シャワーの温度を調節しながら、腕の中の丁へキスする。可愛かったからだ。
「丁の漫画がアニメ化して、俺が主演になれたら告白するって。ずっと決めたんだよ」
「……ずっと? いつから?」
「お前のデビュー決まった時。カッコつけないでさっさと告れば良かった」
話をしている間にも丁の体は大きな手にまさぐられ、いつの間にか泡だらけになって洗われていく。お返しとばかりに泡まみれの体で抱き着くと顔中に唇が降ってきた。
「そんなの用意してたの?」
頭から足の指まで綺麗に洗われた丁をベッドに寝かせた政宗はクローゼットを漁り始めた。何をしているのかと見ていると、新品未開封のローションやゴムの箱が出てくる。
「主演に決まるって信じてたから」
「自信家だなぁ」
本来なら単身者向けの1Kに政宗が転がり込んできたことにより、一つしか置けないベッドサイズはダブルになった。漫画を描くには問題ないけれどやはり部屋は手狭で、仕事が安定したらもう少し広めの部屋に引っ越そうと思っている。
二人で寝転んでも問題ないベッドの上で、いつもと違うことをする。丁は政宗に促されるまま開いた足を手で抑え、尻を掲げるような姿勢を取る。
「ひっ……あっ……」
尻に垂らされた冷たいローションに声が上がる。指先が粘液を纏って孔に触れた。
「うう……まっ、政宗ぇ……」
ぐぷ、と音を立てながらゆっくりと、政宗の指が丁の中へ入ってくる。一本だったものが二本、三本と増え。第二関節を目安に抜き差しされていたのに、いつの間にか指の付け根までずっぷりと入り込んでいる。
異物の入り込む違和感に苛まれ、変だ、おかしいと口に出す。いつもなら丁が困ったり嫌がったりすれば助けてくれる政宗はそれを無視した。
「あ」
ただ出し入れされるだけだった指が動き始める。異物を追い出そうと動く肉筒の中で指を曲げ、呻くだけだった丁の声の艶が変わる場所があった。
「あっ……いやっやめて……ああっ……」
「ここがいいんだろ? 突くときゅうきゅう締め付けてくる。突っ込んだら気持ち良さそう」
言われる通り、政宗の指に触れられる度に強い快感が与えられる。喘ぐ丁を見つめる政宗は男の顔をしていた。
何を言っても何をしても。政宗は自分を抱くのだと。そう確信するものを感じ取る。
丁としては行為に対する恥ずかしさと恐怖に似た未知の不安があるだけで嫌悪はない。
「政宗……」
名前を呼ぶと熱のこもった青い瞳が丁を射抜く。視線だけで先を促す男に、丁は頼むしかない。
「なるべく痛くしないでね」
上がった唸りは了承か否か。どちらにしてもあまり変わらなかった。
「んひっ! あっぉっ……あっ……」
指の動きが再開され、丁の中を掻き乱していく。孔の中に注がれたローションが立てる水音は先程よりも明らかに激しさを増していた。
強い視線を向けられながら、丁の体は貪欲に快楽を追い始め、自分から尻を振り始める。腹の上で揺れていたペ◯スが緩く芯を持ち、鈴口からは透明な雫が溢れていく。
「あ……あ…………んっ、え?」
突然指を引き抜かれた丁の孔は物足りなげにひくつく。蕩けた目が政宗を探す。すぐに見つかるその姿は自身を握り、あてがっていた。
よく肥えた雄の頭が丁の尻に、孔に入り込もうとしている。
「あ」
口角がひくつく。恐怖と期待があった。
丁の胎の中に入るとは思えない長大なそれで中を掻き回られたらどうなるのか。政宗の指だけでも今までにない快感があった。
「怖い?」
聞きながら先端が肉を割る。指より太いものを受け入れる痛みは長くは続かず、丁の体は慣れていく。
「あっ……まさむねぇ……」
両腕を伸ばせば丁の大好きな顔が寄ってくる。小さな頃から可愛くて、大人に近付く程美しく磨き上げられた政宗が。
そうするのが当然のように政宗と唇を重ねた。入り込む舌を拒まず絡ませる。丁の唾液を啜るように吸い付かれながら、腰が打ち込まれる。
「んんんんんんっ! ん、んん、ん……!」
隘路を硬い雄に抉られ、拓かれていく痛みから上がる悲鳴は政宗に食われてしまう。指よりも深く、奥まで侵入される。
指で教え込まれた場所――前立腺より奥にある、精嚢を力強く刺激され、痛みが書き換えられる。
「おっ。あっ。ああっ……」
塞がれていた唇を離し、声が上がる。舌を突き出して喜び、よがる。煽られるように雄の律動が激しくなっていく。
いつの間にか丁の腹は自分の出した精液で濡れている。吐精の自覚がなくなる程、政宗から与えられる刺激に夢中になっていた。
「丁、あたる……出す。中に出すから……」
「うんっ……出して……中に政宗の……出して」
再び口付けられながら、丁の胎が熱いものに満たされていく。充足を感じながら、丁の意識がゆっくりと閉ざされていく。
「丁。最高。生きてて良かった……」
頬に柔らかいものが何度も触れてくる。感極まった声で囁いてくる政宗の声が聞こえると丁の唇に笑みが浮かび、眠りについた。
『あんたが泣いて嫌がったのよ。丁くんと離れたくないって。一人で日本に残るって。大人の私より子供だったあんたの方が嫌な思いしてるのに、そう言われたらアメリカに戻れなかったわよ』
そう苦笑し、自分も辛かっただろうに我が子の意思を尊重してくれた母。
『政宗ってすごいかっこいい声してるよね。声優になれそう』
声優を目指したきっかけはただそれだけ。丁の何気ない言葉はいつだって政宗の原動力になった。
ようやく結ばれ、政宗の腕の中で眠る彼がいなければ今の政宗はいなかった。声優なんて目指さず、そもそも日本にいない。両親と共に海の彼方で違う人生を歩んでいたのかもしれないと、そう考えるだけでゾッとする。
けれどきっと、どんなことがあっても政宗は丁と結ばれていただろうとも考える。
月並みな言葉だけれど、丁は政宗の運命の人なのだ。
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