満月の夜に

鳫葉あん

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十三歳の父(♡あり版)

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 セシルは獣人である。群れの長の子供に生まれ、双子の姉と共に健やかに育った。
 自分の奇異など知らず、すくすくと大きくなっていったセシルが十を迎えると、いつも穏やかに微笑む母が暗い顔をしてセシルと姉を呼んだ。

「なあに? お母さん」

 姉のクレアが尋ねるが、母は困った顔をして中々口を開かない。何か重大な事件でも起きたのかと顔を見合わせる双子に答えを教えたのは、部屋に入ってきた父だった。

「セシルについて、話しておかないといけないことがある」

 口数の少ない父が自ら話し始めたことに、双子は驚いていた。コミュニケーションが全くないわけではないが、双子へ何か話がある時は母から伝えられることが多い。
 難しい顔をしながら話し始めた父の話は上手く頭に入ってこなかった。

「……セシルは男の子だけど女の子なの?」

 首を傾げながら父の話を要約し反芻するクレアの言葉がなければ、セシルは首を傾げたままだったろう。
 セシルの体は男であり女であり、どちらでもあってどちらでもない。両性具有だった。

「……私も、そうだから。セシルに遺伝したのかな……ごめんね、ごめんね……」

 セシルを抱いて謝る母を見て、セシルはううんと頭を振った。

「お母さんと一緒なの? なら別にいいや。お揃いだね」

 体の作りが少し違う程度だと認識したセシルの無邪気な言葉に、母は泣き出してしまった。母が悲しむと父がとても怒るから、拳骨を喰らうのではないかと怯え、振り返ったセシルは目元を光らせる父を見た。

「えと、あの、ぼく、きにしてないよ……」
「お父さん、お母さん、泣かないでよ。セシルが困ってるじゃない」

 大人に近付く前にセシルは自分の体を知り、成長するにつれ母が謝った理由も何となく察していく。それでも、セシルは自分の体を嫌いにはならないし、母を恨むこともなかった。
 セシルはセシルでしかないのだ。


 獣人達の暮らす集落は深い森の中にある。外界との接触は禁じられてはいないが、特別推奨もされていない。物好きな行商人が月に数回訪ねてくる程度だ。
 狭い社会では人の噂はすぐに広まる。親から聞いたのか、いつからかセシルが両性なのは周知されていた。
 かといって本人がこれといって気にせず、セシルの友人達もセシルを同じ少年のように扱う。溝もなく過ごしていた多感な時期に、セシルは宝物が出来た。

 友人達と狩りに出かけ、集落から少し奥に向かうと、何か鳴き声が聞こえた。
 気になり、声の方へ向かうと、大きな木が見えた。声はその木から聞こえており、近付くと根本に茶色い毛玉が二つ落ちていた。

「狼じゃん」

 生まれたばかりの狼が二匹、助けを乞うようにきゅうきゅう鳴いていた。
 木の根本が狼の巣である筈もなく、毛玉に近付いても親らしきものは出てこない。捨てられたのかと思い、セシルは二匹を抱え上げた。
 鳴き声は止まず、何を言っているのかわからないがとりあえず集落へ戻る。毛玉を抱えるセシルに気付いた友人達にわけを話すと大人に話をしておくと、狼の姿になって集落へ先回りしてくれる。
 毛玉と共に集落に戻ると、集落にいた大人が揃って待っていた。
 二匹の様子を見て腹を空かしているのだろうと判断され、母乳の出る女性が分け与えてくれた。
 お腹が膨れて静かに眠り出した二匹をどうするか、大人達はすぐに相談し始めた。集落の孤児は集落全体で面倒を見るが、この狼は集落の者ではない。
 森の中に獣人が暮らす集落は他にもあり、その住人かもしれないし、獣人ではなくただの狼かもしれない。
 どうしようかと悩む大人達に、セシルは手を上げた。

「この子達は僕が面倒見るよ。見つけたのは僕だもの」

 子供の申し出を大人の大半は嗜めた。生まれたばかりの赤子の面倒を見るのは簡単なことではない。それでも食い下がらないセシルに、両親が手を上げた。

「集落の者が保護したなら集落に迎え入れるべきだろう。俺の責任のもと、セシルが彼らの面倒を見る」

 長の座を継いだ父の決定に逆らう声はなかった。そもそも別に毛玉達を拒んでいたわけでもない。セシル一人で面倒を見るのは難しいと反対していただけなのだ。
 両親は勿論、集落のみんなに助けてもらいながら、セシルは毛玉の世話を始めた。十三歳の出来事だった。



 小鳥の囀りが聞こえる。朝の知らせに、セシルはゆっくりと意識を覚醒させていく。懐かしい夢を見た気がした。
 上体を起こし、うん、と伸びをする。大きな欠伸をして、ベッドから起き上がる。

「ふぁ……今日も天気良さそー……」

 窓の外から見える空はよく晴れている。良い日取りになったことだと思いながら自室を出ようとすると。

「セシル、起きてる? おはよー」

 扉が勝手に開けられ、端正な顔立ちの青年が尻尾を振りながら入ってきた。頭に生えた耳も、獣人のものだった。

「アラン、おはよう」

 挨拶を返すと青年は嬉しそうに笑った。居間へと向かうともう一人、アランとよく似た風貌の青年が待っていた。

「ダリルもおはよう。あ、ご飯作ってくれたの?」

 テーブルに用意された朝食を見て尋ねると、ダリルは小さく頷く。礼を言って席に着くとアランもそれに倣う。
 すっかり頼もしく成長した彼らはかつてセシルの拾った毛玉達だった。

 彼らの親は他の集落の者だったのか、ただの狼だと思っていた二人は物心ついた頃に人の形を取り、セシルを驚かせた。やがて鳴き声でも人の言葉でもコミュニケーションが取れるようになり、同じ年頃の子供と遊ぶようになると、残酷な疑問を抱くようになる。

「どうしておとうさんとぼくたちはにてないの?」

 セシルを見上げる真ん丸の四つの瞳は淡い金色をしているが、父譲りのセシルの目は真っ黒い。茶色く柔らかな毛並みの二人と違い、これも父に似たセシルの毛並みは灰色だ。
 類似点を探す方が難しかった。
 いつかは話すべきことだと思ってはいたが、まだ幼い彼らに今教えるべきか迷った。しかしそれも父と信じるセシルの答えを待つ二人の眼差しを受けては、誠実になるしかなかった。

「……お前達と僕に、血の繋がりがないからだよ」

 真ん丸の目をこぼれ落ちそうな程に見開いて、驚く二人の頭を撫でる。

「お前達の本当の両親は病気で亡くなられたんだ」

 実際の所はセシルにもわからないが、彼らを傷付けたくなくてついた嘘だった。黙っていたことを謝り、セシルと暮らすのは嫌か尋ねると二人は勢いよく首を振って否定する。

「……おとうさんとくらしたい」
「ぼくも、ぼくもおとうさんといっしょがいい!」

 口数の少ないダリルは必要な言葉はきちんと発する。明るいアランは大きな声で叫ぶ。どちらも小さな手でセシルの服を掴んでいた。
 二人が嫌がらない限り、セシルは二人の世話をすると決めていた。彼らが無事に大人になるまで。成人の儀を迎えるまで。

 いよいよ今夜、その日が来たのだ。



 セシルの家は群れの長を担っている。代々受け継がれ、セシルの代は姉のクレアが次期長になった。
 番を見つけられるかもわからなかった上に、成人する前から孤児を引き取って世話を焼く自分より姉の方が向いていると言って家を出たのだ。
 母の知人が使っていたという家を貰い、周囲に助けられながらアランとダリルを育てる。幼い内から境遇を知ったものの、二人は健やかに成長していった。
 優しくて仲間思いで、養父を慕い、その家族を敬う。好青年に。
 成長するにつれて、いつの間にか呼び名が『おとうさん』から『セシル』に変わってしまったのは悲しかったけれど、彼らからしたら本当の父ではないのだから仕方ない。
 彼らは確実に大人に、一人前の男になっていった。
 セシルだけが取り残されているのだろう。

 朝食を済ませた二人は狩りへ出ていった。今夜の儀式で振る舞う獲物を探しに行ったのだ。セシルの父の時は大きな猪を捕ったと聞いた二人は、猪を持ち帰ると意気込んでいた。
 普段ならセシルも狩りに行く所だが、今日は成人を迎える彼らが主役なのだ。狩り場を荒らすものではない。集落に残り、他の仕事をする気にもなれず、ぼうっと散策する。
 集落の外れに来ると、目についた木を登る。大きく育った枝に座り、何ともなしに景色を眺める。木々しか見えない。

 十三で孤児の世話を始めたセシルは、それからあまり遊ばなくなった。両親や集落の大人は世話を代わるから遊んでおいでと言ってくれたが、セシルは大丈夫だと断っていた。
 狩りに行く時は面倒を見てもらっていたが、それ以外は二人に付きっきりだった。
 本当の父親だと思われていた頃は、ただ傍にいてやりたかった。孤児だと知られた後も、二人を大切に思っているのだと、そんな存在がいるのだと、わかっていてほしかった。
 見返りを求める心は全くない。けれど、それが終わったら。どうしたらいいのか、わからなかった。



 日が暮れ、月の訪れが近付くと二人は広場へ出かけていった。
 きっと今夜は帰って来ないだろう。儀式の後に開かれる宴で気分の盛り上がった新成人達はその夜結ばれる。実際、クレアがそうだった。
 見目も良く、狩りの腕も良く、性根の優しい二人なら番はすぐに出来るだろう。
 一人きりの家に残るのは寂しく、儀式の邪魔にならないように広場には近付かないよう気を付けながら集落を散歩する。目についた背の高い木を登ると、雲のない夜空に浮かぶ満月がよく見えた。
 双子の瞳のような月を見ていると、彼らとの日々が思い返される。
 小さな毛玉達のか弱い鳴き声は何を言っているのかわからなかった。赤ん坊の世話は想像以上に大変だったし、嫌なこともあったけれど、可愛い毛玉達が安らかな寝息を聞かせてくれるだけで全てが報われる気がした。

 セシルの集落では十六で成人となる。二人を拾った三年後、成人の年を迎えたセシルは成人の儀に参加しなかった。
 母が二人を見てくれると言うし、流石に成人の儀には参加するつもりでいたが、セシルが家から出ようとするとまだまだ幼い二人は揃って泣き出した。抱える母の手から這い出そうとし、セシルへ向けて懸命に手を伸ばす二人を見て、置いていけないと頭を抱えた。
 寝かしつけて途中からでも行けないかと思ったが、その日の二人は大好きな子守唄もセシルの両腕に包まれた揺りかごごっこも効かなかった。
 ようやく二人が眠る頃にはあやし疲れたセシルも一緒になって眠ってしまった。

 セシルの短い人生の大半は彼らだった。彼らへの献身。何処から来るのか自分でもわからない無償の愛だけだった。

「……そんなもんなのかもね」

 セシルは自分の体を嫌ってはいない。けれど、母のように番が出来るとも思っていない。卑屈な思考ではなく、客観的な意見だ。
 男とも女とも判断出来ない体の上に、成人する前から孤児を引き取って世話を焼くセシルと一緒になりたいと思う者はいないだろう。
 行き場のなかった愛を受け止めさせられた二人がいなくなったら、その愛はどこへ行くのか。集落だろう。
 集落の次世代を繋ぐ手助けをしていけばいい――かつて、赤ん坊の世話に右往左往するセシルを助けてくれた大人達のように。

「まずは二人のお嫁さんと、もうちょっとしたら生まれる子供達を可愛がらせてもらおうっと。ああでも、あんまり干渉すると鬱陶しいか……」

 求められたら惜しみなく助け、見守ればいい。
 十六年越しに迎えた成人の儀で、セシルはようやく大人になれた気がして――満足して、家に戻った。誰もいない家は静かだけど、きっとすぐに慣れていくのだろう。

「……あの子達、家どうするんだろ。父さんに相談してんのかな」

 セシルの集落では成人の儀と共に番を作るのが殆どで、兄弟がいなければそのまま夫の家族と共に暮らす。弟は家を出て自立することになり、新たな家は両親か、長に相談することが多い。
 二人は明確な兄と弟の判断がつかないが、便宜的にアランが兄となっている。アランとお嫁さんがこの家で暮らすのなら、セシルは出ていくつもりでいた。
 セシルとしては血は繋がっていなくても彼らを本当の家族のように大切に思っているが、彼らからしたら養父でしかない。彼らのお嫁さんだってセシルがいない方がいいだろう。

「……明日。明日、二人……四人? が帰って来たら考えよ……」

 くぁ、とあくびをして自室に戻り、寝床に入り込んだセシルはすぐに眠りについた。



 小さな物音がセシルを引き戻した。微睡む意識の中でも、扉を開ける音が聞こえる。
 足音が近付いてくる。迷いなく近付いてくるそれに、もう朝なのかとうっすら瞼を開けてみるが、窓の外は真っ暗だ。
 セシルの部屋の扉が開き、見慣れた顔が入ってくる。アランだった。持ち上げるのが辛くなってきた瞼を数回瞬かせ、我慢出来ずに寝入っていく。
 上手く思考していない頭は儀式の存在を忘れていた。

 何かが体を這っている。滑った何か。誰かの手。荒い息遣い。
 流石に何かおかしいと感じ、意識の浮上したセシルの瞼が開く。視界に入り込むのはセシルを見下ろすアランだった。
 長年使い込んだベッドに寝転ぶセシルの体をアランが覆い被さっている。
 ここでようやくその異常を思い出した。

「アラン? 何でここにいるんだ?」

 アランが家にいるのは何らおかしなことではないが、今夜は儀式の夜だ。長の祝福を受け、宴で騒ぎ、番と契る。
 夜が明けるまで、家に帰ってくる筈がなかった。

「何でって、番になるためだろ?」

 何を言われたのかわからなかった。肝心の番はどこにいるというのか。
 眼差しでそう語るセシルに答えが返される。

「僕はセシルと番になるんだよ」

 何を言っているのか。セシルはアランの父親だ。番になんてなれない。

「アラン、そういう冗談は笑えないからやめなさい。酔ってるのか?」
「酔ってない。冗談でもない。ねぇセシル。セシルに本当の父親じゃないって、血の繋がりを否定された時。僕、悲しかったよ」

 それはそうだろう。あの時は五歳になったばかりの頃で、しばらくはセシルに引っ付いて離れず、なかなか狩りに行けなかった。

「セシルがお父さんじゃないって……嫌われたら、捨てられちゃうんじゃないかって。優しいセシルがそんなことするわけないのにね」

 でも、と付け足される。アランの顔は宝物を見つめるように、恍惚に熔けていた。

「大きくなったら、血が繋がってなくて良かったと思ったよ。大好きなセシルと番になれるからね」
「……なれないよ。番なんて。僕とアランは親子だよ。たとえ血を分けてなくても。それに、僕は男だ」

 セシルの最後の言葉にアランが笑った。見たことのない嫌な笑い方だ。

「セシルは男だけど女だろ」

 アランの手がセシルの服を剥ぐ。膨らみのない胸が、薄い腹が。その下に隠された男の象徴が露にされる。両足を掴まれて開かされ、呻くセシルの陰裂が晒される。
 アランの頬に赤みが増した。

「やめろっ離せ!」
「セシル、暴れないで」

 恥じらいを思い出し、可愛い我が子同然の存在から受ける無体に悲しみながら、拘束から逃れようとする。アランを受け入れるつもりなどなかった。
 狩りや力仕事をこなしているというのに、セシルの手ではアランの指一つ動かすことが出来ない。セシルの抵抗を笑って流すアランに苛立ちすら覚え始めた頃、足音が聞こえてきた。どたどたと大きな音を立てて、誰かが走って来る。

「アラン!! お前!!!」

 ばん、と音を立てて扉を開けて入って来たのはアランの片割れであるダリルだった。セシルの顔は見るからに安堵していた。救世主の訪れだと思っていたのだ。
 そんなことあるわけないのに。

「何? うるさいんだけど」
「女どもに何か吹き込んだな! 囲まれたせいで帰れない所だった!!」
「知らなぁい。ダリルが人気なだけでしょ。誰か捕まえて番にして来たら?」
「ふざけんなよ」

 怒りを露に歩いてくるダリルと目が合う。助けてくれと口を動かすと、ダリルも嫌な笑い方をした。
 何も言ってくれず、足を開いて寝ているセシルの傍らに座られる。セシルの裸を見て目を細めても、片割れが養父を組み敷く異常な光景を止めてはくれない。
 それどころか動きを制限されるセシルの体に触り始める。小さな乳首を摘まみ、薄い腹を撫で、その下の秘部へ入り込もうとする手を掴んで引き止める。

「やめろ」

 拒絶が受け入れられることはなかった。


 若さか、それとも男性との差なのか。セシルの抵抗は二人に全く通じなかった。

「んぶ、んひっ……ぁあ……あ……」

 セシルが寝るだけなら広いくらいなのに、双子が揃って乗り上げると狭いベッドの上でセシルは弄ばれていた。
 寝そべるアランの上に重なるように乗り、後ろに控えるダリルに秘部を解されながらアランとキスをする。口の中から食べられているようだった。
 使われる筈のなかった場所はダリルの指を咥え込む喜びを植え付けられ、肉を掻き回す指を締め付け、愛液の立てる水音と下腹で揺れ動く芯を持ったセシルの淫茎が快感を示している。

「んんっ、いや……いやだ……ぁあ……んんっ……」

 アランの指がセシルの薄い胸を揉む。彼らと同年代の娘達のような柔らかさのないそれを。楽しくもないだろうに熱心に揉まれ、乳首にかする指先に喘ぐ。

「嫌じゃないだろ。セシル、初めはおっぱい揉まれても何ともなさそうだったのに、ちょっと乳首触っただけできゃんきゃん言ってんじゃん」
「いっでなんぁぁぁあっ!?」

 反射的に言い返そうとしたセシルの秘部に痛みが走る。太くて大きな何かに体を引き裂かれたような感覚。
 よく濡れた秘部に、ずっぷりと雄が入り込んでいた。

「くっ……」
「何勝手に入れてんの。先にいいよなんて言ってないだろ」

 呻くダリルを詰るアラン。そんなやり取りも聞こえず、セシルは初めての衝撃に混乱し、麻痺していた。

「うあっ」

 腹の奥を雄に殴られる。ダリルが動いただけだが、それほどの衝撃に思えた。

「うごかないでぇっ」

 涙の混じった情けない声を聞いて、双子の動きがぴたりと止まる。

「セシル、ダリルの馬鹿がごめんね。大丈夫? 痛い? 抜く? 抜けよ馬鹿」

 子供をあやすような声をセシルに、最後の罵声を片割れへ向ける。当のダリルはそんなもの意に介さず、セシルの反応だけを見ていた。

「……あつい、あついよぉ……あついのが、中にある……」

 セシルのものではない体温が、逞しい存在感が股を割り入って腹の中に収まっている。その異物感に驚き、怯えていた。

「セシル、大丈夫だ。怖くない。気持ち良くするから」

 ダリルの声に何かを返す前に、セシルの中で大人しくしていた雄が動いた。セシルの中から抜き出ていく――と思ったら、勢いをつけて戻ってくる。

「んおっ♡」

 嬌声と共に突き出された舌がアランに食われる。そのまま口を塞がれ、惨めな声も食われていく。
 くぐもった悲鳴を聞きながら、ダリルはセシルの中を開拓した。とにかく男に、男から与えられる刺激に慣れさせた。男が胎の中を突き進むのは良いことなのだと教え込む。


「んひっ♡ ……あへ、ぁあん……♡♡」

 肉を打ち付ける度にぐぽぐぽと音が鳴る程、セシルの秘部は濡れていた。ダリルの懸命な訴えによって、一晩と経たず男を咥える喜びを覚えていた。漏れ出る声にも甘さが滲む。

「……これならいいかな。ダリル」

 目を合わせるだけでどうしたいのかがわかる。双子だからではなく、事前にある程度決めていたからだ。
 セシルについて。譲歩しただけで諦めたわけではなく、群れの娘達を唆しダリルにけしかけたアランに対し、ダリルは初めてを奪った。セシルからも、アランからも。
 二人はセシルの番になるのは自分だと思っている。片割れには仕方なく、自分の番であるセシルを少しだけ譲ってやっている。そう、思い合っていた。

 セシルの腹へ手を回し、後ろから抱いて体を座る。背面座位の形となり、自重でさらに奥まで男を受け入れ、セシルの口から喜びの声が上がった。
 セシルを奪われたアランはセシルと向かい合い、涙で濡れた頬に軽く口付ける。

「僕も受け入れてね、セシル」

 蕩けた頭が意味を察する前に、セシルの秘部へ雄をあてがう。片割れを飲み込み、きゅうきゅう締め付けるそこへ。
 え、と目を見開くセシルが正気を取り戻す前に、アランはセシルの中へ入り込んでいく。上がる筈だった悲鳴は顔を振り向かせ口を塞ぐダリルの中へ奪われていった。

「せまっ……きっつ……」

 言葉通り二人を受け入れるには狭く、雄をきつく締め付けるセシルの中はあたたかかった。

「ひ……ひ、ぁ……♡」

 出るままに声を上げているセシルの姿は哀れであったが、やめてやろうとは思わなかった。
 しばらくすると声に甘さが滲み出し、セシルの腰が揺れた。体の奥まで入り込んできたくせに、動かない雄に焦れたのだ。
 ダリルへ後ろに倒れるよう目で指示すると、セシルを抱いたまま体が倒れていく。驚くセシルに覆い被さると、アランは腰を振った。ダリルが居座るせいで狭いセシルの隘路を、奥の奥まで突き進む。

「あっ……ああっ♡♡ あー! あぁあっ♡」
「んっ、ぐっ……ああ、セシルの中、すげっ……」

 雄への締め付けと、片割れに擦られる刺激と、何よりも気持ち良さそうに喘ぐセシルに煽られ、二人は仲良く射精した。セシルの中へ、奥の奥へ。自分の子供を孕むようにと。
 セシルの淫茎もつられるように、透明な体液を吐き出していた。


「じいちゃんとばあちゃんに話さないとね。じいちゃんは何か察してそうだけど、ばあちゃんは驚くだろうなぁ」

 疲れて気を失ったセシルの体を清めると、狭いベッドに三人揃って寝転ぶ。セシルを挟んだ両端から、二人の手は愛しい番の体を愛でる。
 灰色の髪をすき、痩せた頬を撫で、薄い胎に手を当てる。自分との子供が生まれているかもしれないと。

「反対されるかもな」
「されたら、出てけばいい。セシルが養父だなんて誰も知らない所に」

 可愛がっていた養子を番にしたと、群れから奇異の目を向けられたら。優しいセシルは耐えられないだろう。

「仕方ないからダリルもついて来ていいよ」
「……逆だろう。アラン、お前が俺とセシルに引っ付いてくるんだ」
「お前が。僕と。セシルに。ついて来るんだよ」

 不毛な言い合いはいつの間にか寝入ってしまうまで続いた。
 二人の腕はセシルの体に絡み付いていた。逃がさないとばかりに。大切にしまい込むように。
 引き離されないように。
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