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金曜日の昼休みに肇から浮気相手と別れたかどうか確認され、慎悟とのやり取りを白状した優紀は会社の近くにある公園へ連れ出され、対談の席を設けさせられた。電話越しの慎悟、目の前の肇の間に入り、二人の予定を擦り合わせて来週の金曜日に話し合うことが決まってしまう。
『駅前に集合でいいかな』
「……って言ってます」
「いいよ。どこか店の予約する?」
「……って言ってます」
『いや。予約は必要……あるのかな、最近は。こちらで確認しておくよ』
「……って」
「わかった。それでは来週の金曜日。どうぞよろしくお願い致します」
「……って」
『ふふ。怖いな。こちらこそよろしく。優紀もよろしくね』
「えっ、あ、うん」
慎悟の言葉に頷いて返す優紀の手からスマホが奪われる。ポロン、と通話を終える音が聞こえ、目の前の肇は苛立ちを隠さず優紀を見つめていた。
「……ごめん。金曜まで、優紀とちょっと距離置くわ」
スマホを差し出しながら言われ、頷いたまま俯く優紀の顔は――僅かな希望を見出だしていた。
実際に浮気相手とのやり取りを見せたことで肇は失望したのではないか。優紀と付き合い続けることに嫌気がさしたのではないか、と。
先に会社へ戻っていく後ろ姿を見送りながら、優紀は辞表の用意はしておこうと決めた。
翌日の土曜日。別れたと思っていた圭の襲撃を受け、流されるままに抱かれた優紀は他の男の情報を吐くよう脅されながら尻をちんぽで突かれていた。そうなると抗うことなど出来ない。
「ひとりっ♡ ひどりめはぁ……はじめは、かいしゃのどうきでぇっ♡♡♡ たすけてもらって♡ あんっ♡ ばっかりでぇっ♡♡ んほっ♡♡ あ、けい、けいしゃん、や♡ やーっ♡♡♡」
「んっ、はっ、あー……いやって言いながら、僕のこと離さないのは……優紀さんでしょ」
仰向けで足を開いた優紀の上に覆い被さる圭は、優紀の尻へ密着させた腰をゆさゆさと振っている。埋め込まれた肉杭が優紀の中を突き刺しては、性感を刺激していた。
「ほら、教えて。はじめって人はどんな人?」
「んひっ♡♡♡ はじめぇ、しごとできて……ようりょ、よくて……かっこいい……あんっ♡」
「もう一人は?」
「もひとり……しんごさ……ケーキすき……」
「僕の店に来た人だよね。大人の男ってかんじでかっこ良かったね。優紀さんは年上が好き?」
「…………うーん……」
「年は関係ないんだ。そう」
良かった。呟きと共に腰を打つ速度が増す。
「ぎゃっ♡ あ♡ あっ♡ あ、ひ、ひっ、や、あっあっあっあっああっ……!」
快楽の坩堝に突き落とされるように、胎の奥を殴られてただ気持ちが良いとしかわからなくなっていく。自分がどんな顔でどんな声を上げているのかわからないまま、優紀は目の前の男にしがみついた。
「あ、けい、けい、けいぃ……♡」
「……」
頭が馬鹿になっても自分を抱く男が誰なのかはわかっているようで、頻りに圭を呼び、首に腕を、腰に足を絡ませて尻を振る。圭が胎の中を叩きやすいように――もしくは悦い所を突かせる為に。
「優紀さん……」
誑かされた若い男は組み敷く体を押し潰さんばかりに、胎の中を抉ってやる。自分こそが一番だろうと教え込ませるように。
「あーっ♡ あ♡ はっ♡ ひぃ、ひっ……あ、あ、あ、あ、あ……」
胎の中に熱い子種をぶちまけられても、優紀は尻を振っていた。縮んだ雄へ猛りを戻せと鼓舞するように、ゆさゆさと圭へ呼び掛け、擦り寄り、甘えていた。
「参加者が増えました」
月曜の夜。慎悟へ連絡を取り、そう伝えるといつもの穏やかな声は小さく笑いながら『だと思った』と返してきた。優紀は彼が声を荒げる姿を見たことがない。
『若くて綺麗な男の子だろう。土曜日に優紀の部屋へ来ていたね』
「……知ってるの」
『優紀のことならある程度知ってるよ。わかった、金曜日は優紀の恋人三人で話し合いだね』
肇にも参加者が増えたことを伝えたかったが、宣言通り会社内で優紀は避けられてしまっている。落ちこぼれがついに見捨てられたと噂が立っても、肇は何も言わなかった。
「……実質二人だよ」
『どういうことかな』
それ以上話す気になれず、慎悟もまだ会社に残って残業している所らしく、通話を切った優紀は淡々と日々を過ごした。そうして迎えた金曜日。
駅前に集まった優紀達は慎悟に先導されるがまま繁華街を進み、一つのビルへ入り受付を済ませて通された。
「はい優紀。大人しく歌っててね」
すっ、と手渡されたのはカラオケ用のマイクだった。
狭くはないが広くもない室内。壁際に設けられたソファー。窓の代わりに取り付けられた鏡や絵画。大型テレビの中では流行りのアーティストが何か喋っている。
「あ、ユリカだ。優紀さんユリカ歌って」
ピッピッ、と軽い電子音が鳴る。テレビの前に設置されていたデンモクを手にし、ソファーに腰掛けた圭が勝手に曲を入れている。
「え? いや。ユリカ難しいのばっかりだし」
テレビ画面に映っていた男の娘アイドルを見て、彼の曲を歌えと言う圭だが、彼の楽曲はどれもこれも難しい。テンポが速くてキーも高めだ。
「ていうか」
何でカラオケなの、と。尋ねる優紀に慎悟は笑った。
「ここなら第三者の目があるからね」
他人の存在感は意外と抑止力になる。そして万が一が起こった際、カラオケなら監視カメラがあり、出入口も施錠されていない。
「誰かの家とか密室空間はプライバシーが守られる代わりに危険だよ。ほら優紀歌って。男四人でカラオケに来て、歌いもせずにテーブルでガン付け合ってたらおかしいだろ?」
テレビ画面はアーティストインタビューから風景画面へ切り替わる。画面右上にポップなフォントで本人映像とテロップが出た。
おろおろしながらも始まった優紀の歌声をバックに、三人の男は四角いテーブルを挟み込む形でソファーに腰掛けた。
「……さて。改めまして、私は山城慎悟。優紀の恋人です」
ニコッ、とお手本のような笑顔で自己紹介する慎悟を、二人は黙って睨み付けた。最後の一言が気に入らない。気に入るわけがない。
「俺は都築肇。優紀の同僚で恋人です」
「僕は成瀬圭。僕が優紀さんの恋人です」
張り合う肇達を慎悟は一笑する。
どう切り出していくのか考え合う三人のうち、初めに動いたのは圭だった。ソファーから立ち上がると床に座り込み、二人に向けて深く頭を下げる。
「僕は、僕には優紀さんが必要です。僕はパティシエをしています。僕の作ったケーキを食べて、喜んでくれる人はたくさんいました。でも喜びの言葉を貰って、僕が嬉しいと思えた人は……優紀さん以上の人はいません。どうか優紀さんを諦めて下さい。僕には優紀さんしかいないんです」
言葉の終わりに頭を下げる角度を増した圭の姿を、優紀は口を止めて見つめた。
「優紀。真面目に歌って」
「え? や、でも圭が今真面目に……」
「優紀は歌ってて」
ピッピッとデンモクが操作され、次の曲が入る。テレビ画面の上側に受信表示されたのはユリカのラブソングだった。これはまだ歌いやすい。
「圭くん。頭を上げてくれるかい。土下座されても靴を舐められても私の考えは変わらないよ」
「……」
顔を上げた圭は苦虫を噛んだような顔をしていた。舌打ちをして立ち上がり、軽く膝を叩いてソファーへ戻る。
圭の様子に鼻を鳴らした肇が口を開いた。
「俺だって今日まで優紀と距離置いてみて……改めてわかったよ。優紀と話したらいけないと思うとそこら辺殴りまくってやりたくなったし、一緒じゃないと生きていけない」
「そんなことないでしょ……」
「優紀は真面目に歌ってて」
優紀が口を挟むと慎悟から注意される。彼らの話し合いに優紀を入り込ませるつもりはないらしい。
「土下座してあんたらが諦めるなら毎日だってしてやるよ」
「いや、無理だね」
「結構です」
そもそもね、と今度は慎悟が口を開く。
「私はきみ達と争うつもりはないんだ。優紀と別れるつもりはないけれど、きみ達にも別れろとは言わない。優紀のことが嫌になったらご自由に、とは思うけどね」
何か返そうとする二人の言葉が出てくる前に慎悟は続ける。
「それにね、きみ達も見たらわかると思うよ。他の男に媚び売って抱かれてる優紀の姿の」
穏やかに語っていた微笑みに別の感情が混じる。それは。
「憎ったらしいこと」
気に入った年下の男に愛を告げ、受け入れられて結ばれて。手中の珠よと大切に愛でていた所に他の男の存在を知り、しかも自分が浮気相手だと悟った時。温厚な慎悟も怒りで我を忘れそうになった。
「でもね、私と会う時は私だけを見ているんだ。優紀真面目に歌え。肇くんに懸命に擦り付けてた尻を、私に向けて振るんだよ。私しかいませんって顔をして。それもね、少しずつ顔が違うんだ。甘え方を変えている。小賢しい。それが本当に可愛いんだよ。優紀、歌えって言ってるだろ」
可愛い可愛いと言いながら、時折混じる短い恨み言じみたものに二人は口を閉ざした。怖かったのだ。
優紀は聞こえてくる慎悟の本心に、時折黙り込んで顔を覆っている。その度に歌えと怒られ、歌う。
「……ああ。恨んだり憎んだりなんてないよ。もうね、それでも離れたくないんだもの。優紀と私は一生一緒。邪魔する男がいるとしたら、そっちをどうにかしてしまおうね…………って、ね」
穏やかに笑う男は狂っている。普通ならこんな人間に関わりたくなんかない。優紀さえ絡んでいなければ、勝手にどうぞと降りていたことだろう。
「……わかりました。俺は山城さんの存在を否定しません。だから貴方も、ってことですよね」
「うん。仲良くやっていこうね、肇くん」
肇は折れた。闘うには向かない相手だと、妥協しかないと折れて手を組んだ。交わした握手の力強さはこれからの絆を表しているようだった。
「…………僕も。とりあえずは、三人協定ということで」
かなり迷ったが圭も手を組むことにし、三人はそれぞれの片手でそれぞれと握手した。スリーマンセル。対談による締結のピラミッドが今、築かれた。
「じゃあ情報共有として優紀のハメ撮り見る?」
慎悟の問いに二人は頷いた。やめてくれと悲鳴を上げる優紀には「歌っててね」と言葉と共に次の曲を詰められていき、三人がスマホの中身を見せ合う中で優紀はただ歌っていることしか出来なかった。
『駅前に集合でいいかな』
「……って言ってます」
「いいよ。どこか店の予約する?」
「……って言ってます」
『いや。予約は必要……あるのかな、最近は。こちらで確認しておくよ』
「……って」
「わかった。それでは来週の金曜日。どうぞよろしくお願い致します」
「……って」
『ふふ。怖いな。こちらこそよろしく。優紀もよろしくね』
「えっ、あ、うん」
慎悟の言葉に頷いて返す優紀の手からスマホが奪われる。ポロン、と通話を終える音が聞こえ、目の前の肇は苛立ちを隠さず優紀を見つめていた。
「……ごめん。金曜まで、優紀とちょっと距離置くわ」
スマホを差し出しながら言われ、頷いたまま俯く優紀の顔は――僅かな希望を見出だしていた。
実際に浮気相手とのやり取りを見せたことで肇は失望したのではないか。優紀と付き合い続けることに嫌気がさしたのではないか、と。
先に会社へ戻っていく後ろ姿を見送りながら、優紀は辞表の用意はしておこうと決めた。
翌日の土曜日。別れたと思っていた圭の襲撃を受け、流されるままに抱かれた優紀は他の男の情報を吐くよう脅されながら尻をちんぽで突かれていた。そうなると抗うことなど出来ない。
「ひとりっ♡ ひどりめはぁ……はじめは、かいしゃのどうきでぇっ♡♡♡ たすけてもらって♡ あんっ♡ ばっかりでぇっ♡♡ んほっ♡♡ あ、けい、けいしゃん、や♡ やーっ♡♡♡」
「んっ、はっ、あー……いやって言いながら、僕のこと離さないのは……優紀さんでしょ」
仰向けで足を開いた優紀の上に覆い被さる圭は、優紀の尻へ密着させた腰をゆさゆさと振っている。埋め込まれた肉杭が優紀の中を突き刺しては、性感を刺激していた。
「ほら、教えて。はじめって人はどんな人?」
「んひっ♡♡♡ はじめぇ、しごとできて……ようりょ、よくて……かっこいい……あんっ♡」
「もう一人は?」
「もひとり……しんごさ……ケーキすき……」
「僕の店に来た人だよね。大人の男ってかんじでかっこ良かったね。優紀さんは年上が好き?」
「…………うーん……」
「年は関係ないんだ。そう」
良かった。呟きと共に腰を打つ速度が増す。
「ぎゃっ♡ あ♡ あっ♡ あ、ひ、ひっ、や、あっあっあっあっああっ……!」
快楽の坩堝に突き落とされるように、胎の奥を殴られてただ気持ちが良いとしかわからなくなっていく。自分がどんな顔でどんな声を上げているのかわからないまま、優紀は目の前の男にしがみついた。
「あ、けい、けい、けいぃ……♡」
「……」
頭が馬鹿になっても自分を抱く男が誰なのかはわかっているようで、頻りに圭を呼び、首に腕を、腰に足を絡ませて尻を振る。圭が胎の中を叩きやすいように――もしくは悦い所を突かせる為に。
「優紀さん……」
誑かされた若い男は組み敷く体を押し潰さんばかりに、胎の中を抉ってやる。自分こそが一番だろうと教え込ませるように。
「あーっ♡ あ♡ はっ♡ ひぃ、ひっ……あ、あ、あ、あ、あ……」
胎の中に熱い子種をぶちまけられても、優紀は尻を振っていた。縮んだ雄へ猛りを戻せと鼓舞するように、ゆさゆさと圭へ呼び掛け、擦り寄り、甘えていた。
「参加者が増えました」
月曜の夜。慎悟へ連絡を取り、そう伝えるといつもの穏やかな声は小さく笑いながら『だと思った』と返してきた。優紀は彼が声を荒げる姿を見たことがない。
『若くて綺麗な男の子だろう。土曜日に優紀の部屋へ来ていたね』
「……知ってるの」
『優紀のことならある程度知ってるよ。わかった、金曜日は優紀の恋人三人で話し合いだね』
肇にも参加者が増えたことを伝えたかったが、宣言通り会社内で優紀は避けられてしまっている。落ちこぼれがついに見捨てられたと噂が立っても、肇は何も言わなかった。
「……実質二人だよ」
『どういうことかな』
それ以上話す気になれず、慎悟もまだ会社に残って残業している所らしく、通話を切った優紀は淡々と日々を過ごした。そうして迎えた金曜日。
駅前に集まった優紀達は慎悟に先導されるがまま繁華街を進み、一つのビルへ入り受付を済ませて通された。
「はい優紀。大人しく歌っててね」
すっ、と手渡されたのはカラオケ用のマイクだった。
狭くはないが広くもない室内。壁際に設けられたソファー。窓の代わりに取り付けられた鏡や絵画。大型テレビの中では流行りのアーティストが何か喋っている。
「あ、ユリカだ。優紀さんユリカ歌って」
ピッピッ、と軽い電子音が鳴る。テレビの前に設置されていたデンモクを手にし、ソファーに腰掛けた圭が勝手に曲を入れている。
「え? いや。ユリカ難しいのばっかりだし」
テレビ画面に映っていた男の娘アイドルを見て、彼の曲を歌えと言う圭だが、彼の楽曲はどれもこれも難しい。テンポが速くてキーも高めだ。
「ていうか」
何でカラオケなの、と。尋ねる優紀に慎悟は笑った。
「ここなら第三者の目があるからね」
他人の存在感は意外と抑止力になる。そして万が一が起こった際、カラオケなら監視カメラがあり、出入口も施錠されていない。
「誰かの家とか密室空間はプライバシーが守られる代わりに危険だよ。ほら優紀歌って。男四人でカラオケに来て、歌いもせずにテーブルでガン付け合ってたらおかしいだろ?」
テレビ画面はアーティストインタビューから風景画面へ切り替わる。画面右上にポップなフォントで本人映像とテロップが出た。
おろおろしながらも始まった優紀の歌声をバックに、三人の男は四角いテーブルを挟み込む形でソファーに腰掛けた。
「……さて。改めまして、私は山城慎悟。優紀の恋人です」
ニコッ、とお手本のような笑顔で自己紹介する慎悟を、二人は黙って睨み付けた。最後の一言が気に入らない。気に入るわけがない。
「俺は都築肇。優紀の同僚で恋人です」
「僕は成瀬圭。僕が優紀さんの恋人です」
張り合う肇達を慎悟は一笑する。
どう切り出していくのか考え合う三人のうち、初めに動いたのは圭だった。ソファーから立ち上がると床に座り込み、二人に向けて深く頭を下げる。
「僕は、僕には優紀さんが必要です。僕はパティシエをしています。僕の作ったケーキを食べて、喜んでくれる人はたくさんいました。でも喜びの言葉を貰って、僕が嬉しいと思えた人は……優紀さん以上の人はいません。どうか優紀さんを諦めて下さい。僕には優紀さんしかいないんです」
言葉の終わりに頭を下げる角度を増した圭の姿を、優紀は口を止めて見つめた。
「優紀。真面目に歌って」
「え? や、でも圭が今真面目に……」
「優紀は歌ってて」
ピッピッとデンモクが操作され、次の曲が入る。テレビ画面の上側に受信表示されたのはユリカのラブソングだった。これはまだ歌いやすい。
「圭くん。頭を上げてくれるかい。土下座されても靴を舐められても私の考えは変わらないよ」
「……」
顔を上げた圭は苦虫を噛んだような顔をしていた。舌打ちをして立ち上がり、軽く膝を叩いてソファーへ戻る。
圭の様子に鼻を鳴らした肇が口を開いた。
「俺だって今日まで優紀と距離置いてみて……改めてわかったよ。優紀と話したらいけないと思うとそこら辺殴りまくってやりたくなったし、一緒じゃないと生きていけない」
「そんなことないでしょ……」
「優紀は真面目に歌ってて」
優紀が口を挟むと慎悟から注意される。彼らの話し合いに優紀を入り込ませるつもりはないらしい。
「土下座してあんたらが諦めるなら毎日だってしてやるよ」
「いや、無理だね」
「結構です」
そもそもね、と今度は慎悟が口を開く。
「私はきみ達と争うつもりはないんだ。優紀と別れるつもりはないけれど、きみ達にも別れろとは言わない。優紀のことが嫌になったらご自由に、とは思うけどね」
何か返そうとする二人の言葉が出てくる前に慎悟は続ける。
「それにね、きみ達も見たらわかると思うよ。他の男に媚び売って抱かれてる優紀の姿の」
穏やかに語っていた微笑みに別の感情が混じる。それは。
「憎ったらしいこと」
気に入った年下の男に愛を告げ、受け入れられて結ばれて。手中の珠よと大切に愛でていた所に他の男の存在を知り、しかも自分が浮気相手だと悟った時。温厚な慎悟も怒りで我を忘れそうになった。
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可愛い可愛いと言いながら、時折混じる短い恨み言じみたものに二人は口を閉ざした。怖かったのだ。
優紀は聞こえてくる慎悟の本心に、時折黙り込んで顔を覆っている。その度に歌えと怒られ、歌う。
「……ああ。恨んだり憎んだりなんてないよ。もうね、それでも離れたくないんだもの。優紀と私は一生一緒。邪魔する男がいるとしたら、そっちをどうにかしてしまおうね…………って、ね」
穏やかに笑う男は狂っている。普通ならこんな人間に関わりたくなんかない。優紀さえ絡んでいなければ、勝手にどうぞと降りていたことだろう。
「……わかりました。俺は山城さんの存在を否定しません。だから貴方も、ってことですよね」
「うん。仲良くやっていこうね、肇くん」
肇は折れた。闘うには向かない相手だと、妥協しかないと折れて手を組んだ。交わした握手の力強さはこれからの絆を表しているようだった。
「…………僕も。とりあえずは、三人協定ということで」
かなり迷ったが圭も手を組むことにし、三人はそれぞれの片手でそれぞれと握手した。スリーマンセル。対談による締結のピラミッドが今、築かれた。
「じゃあ情報共有として優紀のハメ撮り見る?」
慎悟の問いに二人は頷いた。やめてくれと悲鳴を上げる優紀には「歌っててね」と言葉と共に次の曲を詰められていき、三人がスマホの中身を見せ合う中で優紀はただ歌っていることしか出来なかった。
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