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その人はクラレンスにとって甘くも苦く、けれど美しく優しい思い出だった。今でもそう。変わりなく。
「クラレンス殿下! お久しぶりです」
耳心地の良い低音が明るく再会を喜ぶ。彼がガーランドを離れて十年以上が経つが、クラレンスは一目でわかった。
クラレンスの護衛をしていた二十代の頃よりは流石に歳を取ったものの、男として熟成された魅力を醸し出していた。
目尻の皺が増えたかな、と思っていたら彼の顔に笑顔が浮かび、皺が大きく刻まれる。
「久しぶり、ブレント」
騎士団詰所の応接室でクレイグを相手に恋愛相談? をしていたら、かつての恩人がクレイグを訪ねてきた。同席しているクラレンスに対し、彼は迷惑ぶる様子はなかった。
クレイグがソファーへ掛けるよう促すとブレントは従い、クラレンスの待つ応接用のソファーセットへ近付いてくる。その足元にくっつく姿を見て。
クラレンスの頬は綻んだ。自然と。
「セド、ご挨拶しろ。クラレンス殿下だぞ」
ブレントと同じくすんだ茶髪が大きな手に混ぜられる。丸く大きな青い瞳はいつものように輝きに溢れ、懸命にクラレンスを見つめ返してくる。
「初めまして。私はクラレンスと申します。きみはセドっていうの?」
クラレンスの問いに小さな子供は固まったまま動かない。
「セド」
父親に名を呼ばれ、子供はようやく口を動かそうとし始めた。
「セドリックです。おとうさ……ちちうえはめんどうくさがってセドとよびます」
「そう。私もめんどくさがりだから、セドって呼んでいいかな」
「はいっ」
ブレントによく似た小さな子供をクラレンスは思った以上に気に入っているようだった。
向かい合った二人掛けのソファーの一対に親子が、向かいにクラレンスとクレイグが座る。父親以外の大人に囲まれた子供は萎縮した様子を見せるが、時折クラレンスと目を合わせると嬉しそうにはにかんだ。
「クレイグに会いに来たのか?」
新たな客の登場により淹れ直された紅茶を一口楽しみ、改まって向かい見たクラレンスの問いにブレントは苦笑した。眉尻を僅かに下げた顔は困った時の笑い方だと覚えている。
「ええ……まぁ」
「正直に言えばいいだろう。殿下、こいつは騎士に復職するんですよ」
え、と声を上げるクラレンスに今度こそブレントは困った顔をして見せた。
「家業を継ぐって」
「色々ありまして。畳むことになりました。安心させる為だった両親が亡くなったんです」
「それは……ご愁傷様。じゃあ奥さんと三人で?」
「いえ。妻とも離縁しました。こちらに移り住むのは私とセドだけです」
思わず目を見張るクラレンスに、それ以上は聞かないでくれと目が語る。
大人達の会話をつまらなそうに流していたセドリックだが、自分の名前が出た途端顔を上げた。大きな目がきょときょとと動く。
「そう……あまり愉快な話ではないだろう。悪かったね」
「いいえ。殿下にはいつかお話したことでしょうから」
「また親衛隊に入るのか?」
「いえ。ブランクもありますし、団長にこき使われます」
「なるほど。覚悟しておけよ。俺はブランクがあろうと使い潰してやるぞ」
短い間だったとはいえ部下が復職したことが嬉しいようで、クレイグの顔は緩んでいる。
クラレンスの護衛をしていたことからわかるようにブレントは若くして親衛隊に抜擢された。庶民の出ながら剣術に光るものがあり、当時の親衛隊長が引き抜き作法を叩き込み、クラレンスの護衛になったのだ。
誰よりも初めにブレントの才能に気付いたクレイグは有能な部下をかっさらっていった親衛隊長とは仲が悪かった。それでも親衛隊入りを選んだブレントをクレイグは応援していたし、クラレンスの護衛になったことを喜んでいた。
「二人で積もる話がしたいなら、私がセドを見ていようか」
本来ならクラレンスはこの場にいない筈だった。当人達だけで話したいこともあるかと思って提案すると、小さな体が元気良く頷いた。
クレイグとブレントを応接室に残し、クラレンスは小さなお客様と共に町に出た。城の中ではいつうるさいお姫様に見つかるかわからない。
「セドはガーランドには初めて来たの?」
「はい」
商店の立ち並ぶ一角まで来ると子供も好きそうな菓子を売っており、物珍しげに辺りを見回しているセドリックへ一つ買い与えてやる。初めは子供らしくない遠慮を見せたが「私が食べたいから一緒に食べておくれ」ともう一声掛けると、照れたように笑い、受け取った。
広場に設置されたベンチへ誘い、座って話をしながら菓子を食べさせてやることにした。小さな子供は先にクラレンスが座るのを待ち、騎士の一礼を真似てから隣へ腰掛ける。
「お行儀がいいね」
「……しっかりしないと、しんえいたいにはなれないって。おと……ちちうえからきいています」
「お父さんでいいよ。そう。セドは親衛隊に入りたいのかい」
父親のような騎士になりたいのだろう。そう思って尋ねたクラレンスに、真っ直ぐ輝く瞳が向けられる。
「ぼくはでんかのきしになりたいのです!」
子供の言葉で語られるのは若く凛々しく優しい王子様の武勇譚。脚色されている部分もあるけれど、実際にクラレンスが行ってきたことに子供の感情が付け足されて色付けられていく。
宝石のようにキラキラとした光を放つ青い瞳に見えるのは子供ながらの純粋な好意。憧れ。尊敬。美しいものばかりが散りばめられている。
クラレンスを見上げる瞳はいつだって同じだった。けれどクラレンスは大人に近付くにつれ、それに応えることが心苦しくなっていった。
「……どうして。私の騎士になりたいんだい」
「でんかをおまもりしたいのです」
「どうして?」
「おとうさんがおしえてくれました。クラレンスでんかはとてもやさしくてすてきなおうじさまだって。でんかのきしになれたじぶんはしあわせものだったって」
自分も父のような騎士になりたいと話をせがむ子供に、ブレントが聞かせたのはクラレンスのことばかりだった。弱者の為に身を粉にして駆け回る王子様を語る父親の顔を、目を見て、思い描いた人に抱いた憧れは夢になった。
偶然出会えたクラレンスはセドリックが想像していた以上に綺麗で優しくていい香りがする。憧れはそのまま好意に転じ、それ程も経たないうちにセドリックはクラレンスが大好きになった。
絶対に騎士になってクラレンスを守ってみせるのだと胸を張る小さなセドリック。可愛らしい頭を撫でてやりながら、菓子を食べていいと促すと小さな手は嬉しそうに包装を解き、砂糖で味付けられた焼き菓子を一つ口の中へ放り込んだ。
セドリックはクラレンス本人を目の前にして興奮したのか、クラレンスに聞かれるままに自分の話をしてくれた。大好きな家族のこと、生まれ育った村のこと、そしてやはりクラレンスのこと。
話し疲れたのかいつの間にか寝入ってしまったセドリックを胸に抱え、クラレンスは帰り道を歩き始める。孤児院で子供の相手をするクラレンスの姿はよく見られるが、町中で子供を抱えるクラレンスは希だった。
ざわつく民に何を思われているかなんて自分のことしか考えていないクラレンスにはわからない。
「殿下」
しばらく歩いていると前方から男が近付いてくる。外で見ると尚更懐かしい光景を思い起こさせる彼は、いつもクラレンスに城の外へ連れ出されてはこき使われていた。
「ブレント。どうしたんだ」
「お迎えに上がりました。ああ、殿下。私が」
「構わないよ。私、これでも昔よりは子供の扱いに慣れたんだ」
クラレンスの腕の中で眠る我が子を引き取ろうとするブレントだが、クラレンスはまだ彼を抱いていたかった。懸命にクラレンスを見上げ、想いを語って聞かせてくれた素直な子供を。
「そうでしょうとも。田舎に移っても貴方の話は風に乗って届きました」
「王子様の綺麗事が? 脚色しすぎだ。セドは私をまるで物語の聖人のように思っているぞ」
「違いないでしょう」
どこか誇らしげに微笑んで見せるブレントは悪びれもしない。
「私はそんな素晴らしい存在じゃない。優しくもない。自分のことしか考えていないよ」
「いいえ。貴方はとても優しい方ですよ」
「何にも知らないくせに」
思わず憎まれ口を叩くクラレンスに対し、ブレントは気分を害した様子もなく小さく笑った。
「いえ。結構わかってると思いますよ。例えば今。何か思い悩んでいらっしゃる」
「クレイグから聞き出したか」
「いいえ。団長が怒られますから。殿下が話したくなければ聞きません」
「……」
城への帰り道を彼と並んで歩きながら話していると昔に帰ったような気持ちになる。ふと見上げた横顔が若かりし日のそれに見えて、クラレンスはつい口走っていた。
「結婚したいと言われた」
「……それは。おめでとうございます」
「でも私は……怖い。そう。怖いんだ。本当の私なんて、つまらない男だから」
善人のふりをしてきただけの男。自分をそう評価するクラレンスは婚約者候補達の姿を脳裏に描き、ため息をついた。
「そんなことないですよ」
いやに強い口調で否定される。思わず足を止め、顔を向けたクラレンスへブレントは続けた。
「つまらないなんてことはない。貴方は、クラレンス様はとても魅力的な方です」
クラレンスへ向けられた顔は穏やかで優しい。どれだけ時間が経ってしまっても彼に変わりなかった。
「私。貴方のことが好きだったよ。今も好きだけどね」
「はい。存じております」
真意が伝わったかはわからないけれど、ずっと心に残り続けた言葉を伝える。何も考えず、ただ口から出てきてしまっただけだった。
嫌悪などなく嬉しそうな顔がどこか少しだけ寂しげに見えるのはクラレンスの願望だろうか。
その後は言葉もなく、ただ二人で並んで帰る。腕の中のセドリックは幸せそうな顔で眠り続けていた。
「クラレンス殿下! お久しぶりです」
耳心地の良い低音が明るく再会を喜ぶ。彼がガーランドを離れて十年以上が経つが、クラレンスは一目でわかった。
クラレンスの護衛をしていた二十代の頃よりは流石に歳を取ったものの、男として熟成された魅力を醸し出していた。
目尻の皺が増えたかな、と思っていたら彼の顔に笑顔が浮かび、皺が大きく刻まれる。
「久しぶり、ブレント」
騎士団詰所の応接室でクレイグを相手に恋愛相談? をしていたら、かつての恩人がクレイグを訪ねてきた。同席しているクラレンスに対し、彼は迷惑ぶる様子はなかった。
クレイグがソファーへ掛けるよう促すとブレントは従い、クラレンスの待つ応接用のソファーセットへ近付いてくる。その足元にくっつく姿を見て。
クラレンスの頬は綻んだ。自然と。
「セド、ご挨拶しろ。クラレンス殿下だぞ」
ブレントと同じくすんだ茶髪が大きな手に混ぜられる。丸く大きな青い瞳はいつものように輝きに溢れ、懸命にクラレンスを見つめ返してくる。
「初めまして。私はクラレンスと申します。きみはセドっていうの?」
クラレンスの問いに小さな子供は固まったまま動かない。
「セド」
父親に名を呼ばれ、子供はようやく口を動かそうとし始めた。
「セドリックです。おとうさ……ちちうえはめんどうくさがってセドとよびます」
「そう。私もめんどくさがりだから、セドって呼んでいいかな」
「はいっ」
ブレントによく似た小さな子供をクラレンスは思った以上に気に入っているようだった。
向かい合った二人掛けのソファーの一対に親子が、向かいにクラレンスとクレイグが座る。父親以外の大人に囲まれた子供は萎縮した様子を見せるが、時折クラレンスと目を合わせると嬉しそうにはにかんだ。
「クレイグに会いに来たのか?」
新たな客の登場により淹れ直された紅茶を一口楽しみ、改まって向かい見たクラレンスの問いにブレントは苦笑した。眉尻を僅かに下げた顔は困った時の笑い方だと覚えている。
「ええ……まぁ」
「正直に言えばいいだろう。殿下、こいつは騎士に復職するんですよ」
え、と声を上げるクラレンスに今度こそブレントは困った顔をして見せた。
「家業を継ぐって」
「色々ありまして。畳むことになりました。安心させる為だった両親が亡くなったんです」
「それは……ご愁傷様。じゃあ奥さんと三人で?」
「いえ。妻とも離縁しました。こちらに移り住むのは私とセドだけです」
思わず目を見張るクラレンスに、それ以上は聞かないでくれと目が語る。
大人達の会話をつまらなそうに流していたセドリックだが、自分の名前が出た途端顔を上げた。大きな目がきょときょとと動く。
「そう……あまり愉快な話ではないだろう。悪かったね」
「いいえ。殿下にはいつかお話したことでしょうから」
「また親衛隊に入るのか?」
「いえ。ブランクもありますし、団長にこき使われます」
「なるほど。覚悟しておけよ。俺はブランクがあろうと使い潰してやるぞ」
短い間だったとはいえ部下が復職したことが嬉しいようで、クレイグの顔は緩んでいる。
クラレンスの護衛をしていたことからわかるようにブレントは若くして親衛隊に抜擢された。庶民の出ながら剣術に光るものがあり、当時の親衛隊長が引き抜き作法を叩き込み、クラレンスの護衛になったのだ。
誰よりも初めにブレントの才能に気付いたクレイグは有能な部下をかっさらっていった親衛隊長とは仲が悪かった。それでも親衛隊入りを選んだブレントをクレイグは応援していたし、クラレンスの護衛になったことを喜んでいた。
「二人で積もる話がしたいなら、私がセドを見ていようか」
本来ならクラレンスはこの場にいない筈だった。当人達だけで話したいこともあるかと思って提案すると、小さな体が元気良く頷いた。
クレイグとブレントを応接室に残し、クラレンスは小さなお客様と共に町に出た。城の中ではいつうるさいお姫様に見つかるかわからない。
「セドはガーランドには初めて来たの?」
「はい」
商店の立ち並ぶ一角まで来ると子供も好きそうな菓子を売っており、物珍しげに辺りを見回しているセドリックへ一つ買い与えてやる。初めは子供らしくない遠慮を見せたが「私が食べたいから一緒に食べておくれ」ともう一声掛けると、照れたように笑い、受け取った。
広場に設置されたベンチへ誘い、座って話をしながら菓子を食べさせてやることにした。小さな子供は先にクラレンスが座るのを待ち、騎士の一礼を真似てから隣へ腰掛ける。
「お行儀がいいね」
「……しっかりしないと、しんえいたいにはなれないって。おと……ちちうえからきいています」
「お父さんでいいよ。そう。セドは親衛隊に入りたいのかい」
父親のような騎士になりたいのだろう。そう思って尋ねたクラレンスに、真っ直ぐ輝く瞳が向けられる。
「ぼくはでんかのきしになりたいのです!」
子供の言葉で語られるのは若く凛々しく優しい王子様の武勇譚。脚色されている部分もあるけれど、実際にクラレンスが行ってきたことに子供の感情が付け足されて色付けられていく。
宝石のようにキラキラとした光を放つ青い瞳に見えるのは子供ながらの純粋な好意。憧れ。尊敬。美しいものばかりが散りばめられている。
クラレンスを見上げる瞳はいつだって同じだった。けれどクラレンスは大人に近付くにつれ、それに応えることが心苦しくなっていった。
「……どうして。私の騎士になりたいんだい」
「でんかをおまもりしたいのです」
「どうして?」
「おとうさんがおしえてくれました。クラレンスでんかはとてもやさしくてすてきなおうじさまだって。でんかのきしになれたじぶんはしあわせものだったって」
自分も父のような騎士になりたいと話をせがむ子供に、ブレントが聞かせたのはクラレンスのことばかりだった。弱者の為に身を粉にして駆け回る王子様を語る父親の顔を、目を見て、思い描いた人に抱いた憧れは夢になった。
偶然出会えたクラレンスはセドリックが想像していた以上に綺麗で優しくていい香りがする。憧れはそのまま好意に転じ、それ程も経たないうちにセドリックはクラレンスが大好きになった。
絶対に騎士になってクラレンスを守ってみせるのだと胸を張る小さなセドリック。可愛らしい頭を撫でてやりながら、菓子を食べていいと促すと小さな手は嬉しそうに包装を解き、砂糖で味付けられた焼き菓子を一つ口の中へ放り込んだ。
セドリックはクラレンス本人を目の前にして興奮したのか、クラレンスに聞かれるままに自分の話をしてくれた。大好きな家族のこと、生まれ育った村のこと、そしてやはりクラレンスのこと。
話し疲れたのかいつの間にか寝入ってしまったセドリックを胸に抱え、クラレンスは帰り道を歩き始める。孤児院で子供の相手をするクラレンスの姿はよく見られるが、町中で子供を抱えるクラレンスは希だった。
ざわつく民に何を思われているかなんて自分のことしか考えていないクラレンスにはわからない。
「殿下」
しばらく歩いていると前方から男が近付いてくる。外で見ると尚更懐かしい光景を思い起こさせる彼は、いつもクラレンスに城の外へ連れ出されてはこき使われていた。
「ブレント。どうしたんだ」
「お迎えに上がりました。ああ、殿下。私が」
「構わないよ。私、これでも昔よりは子供の扱いに慣れたんだ」
クラレンスの腕の中で眠る我が子を引き取ろうとするブレントだが、クラレンスはまだ彼を抱いていたかった。懸命にクラレンスを見上げ、想いを語って聞かせてくれた素直な子供を。
「そうでしょうとも。田舎に移っても貴方の話は風に乗って届きました」
「王子様の綺麗事が? 脚色しすぎだ。セドは私をまるで物語の聖人のように思っているぞ」
「違いないでしょう」
どこか誇らしげに微笑んで見せるブレントは悪びれもしない。
「私はそんな素晴らしい存在じゃない。優しくもない。自分のことしか考えていないよ」
「いいえ。貴方はとても優しい方ですよ」
「何にも知らないくせに」
思わず憎まれ口を叩くクラレンスに対し、ブレントは気分を害した様子もなく小さく笑った。
「いえ。結構わかってると思いますよ。例えば今。何か思い悩んでいらっしゃる」
「クレイグから聞き出したか」
「いいえ。団長が怒られますから。殿下が話したくなければ聞きません」
「……」
城への帰り道を彼と並んで歩きながら話していると昔に帰ったような気持ちになる。ふと見上げた横顔が若かりし日のそれに見えて、クラレンスはつい口走っていた。
「結婚したいと言われた」
「……それは。おめでとうございます」
「でも私は……怖い。そう。怖いんだ。本当の私なんて、つまらない男だから」
善人のふりをしてきただけの男。自分をそう評価するクラレンスは婚約者候補達の姿を脳裏に描き、ため息をついた。
「そんなことないですよ」
いやに強い口調で否定される。思わず足を止め、顔を向けたクラレンスへブレントは続けた。
「つまらないなんてことはない。貴方は、クラレンス様はとても魅力的な方です」
クラレンスへ向けられた顔は穏やかで優しい。どれだけ時間が経ってしまっても彼に変わりなかった。
「私。貴方のことが好きだったよ。今も好きだけどね」
「はい。存じております」
真意が伝わったかはわからないけれど、ずっと心に残り続けた言葉を伝える。何も考えず、ただ口から出てきてしまっただけだった。
嫌悪などなく嬉しそうな顔がどこか少しだけ寂しげに見えるのはクラレンスの願望だろうか。
その後は言葉もなく、ただ二人で並んで帰る。腕の中のセドリックは幸せそうな顔で眠り続けていた。
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