愛執染着

鳫葉あん

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 雅が家族以外で初めて好感を持ったのは篤史だった。
 昼間は学校に行ってしまう尊が帰宅すると、たいてい篤史もついてくる。尊とその日に出た課題を片付けていく彼らの側で大人しくしている雅の丸い瞳はいつも篤史の姿を追っていた。
 雅の家族ではない篤史には帰る家がある。空が赤く、次いで闇色に染まり始めると篤史は帰ってしまう。

「雅。篤史は明日も来てくれるから」
「また明日な、雅」

 玄関まで見送り、篤史の制服のスラックスを握りしめて名残惜しさを伝える雅の我が儘を尊と篤史が宥めてくれる。
 いつまでも聞き分けない雅を母が低い声で叱りつけるまで。雅が幼いうちはほとんど毎日繰り返された。
 雅は夜になるとすぐに布団に入り、寝てしまう。大好きな篤史にはやく会えるように。



 自堕落な休日を終え平日を迎えた雅は高校へ通う。設立されたばかりの真新しい校舎は最新鋭の設備が整っている。
 篤史に薦められて受験したが、通って一週間の感想としては校舎が綺麗で教師も人柄の良い者が多く、授業もわかりやすいので満足していた。

「佐倉(さくら)くんおはよー」
「……あ、おはよう。芹沢くん」

 佐倉は雅の苗字である。篤史と婚約はしているがまだ籍は入れていないので佐倉のままだ。
 学校のエントランスへ向かっていた雅に後ろから声を掛けてくれたのは芹沢裕也(せりざわ ゆうや)といい、篤史の甥にあたる少年だ。 
 整った顔立ちをしているが篤史とは全く似ていない。裕也の母は篤史の姉の史華(ふみか)だが血の繋がりはなく、史華が結婚した男性の連れ子だった。
 母となった史華は勿論、篤史も新しく出来た甥を可愛がったようで裕也は篤史によく懐き、互いに事情を知らされた雅とも仲良くなった。
 裕也の存在については中学生の頃から篤史に聞いて知っていたが本人に会ったのは高校入学の日だった。クラスメイトの一覧表に雅の名前を見つけて声を掛けてくれたのだ。
 実際に話をしてみると篤史が気に入る通り素直で優しい気性をしていた。幅広い事業展開とそれで得たものを社会に貢献している篤史を尊敬し憧れているらしい裕也は伴侶となった雅にも好意的に接してくれる。

「課題やった? ダラダラしてたら休みがすぐ終わっちゃってさぁ。昨日の夜にどうにか終わらせたんだけど多分ボロボロなんだよね」
「僕も……ダラダラしてたら休みがすぐ終わっちゃって。篤史さんに笑われながら夜に済ませたよ」
「佐倉くんはいいなぁ。叔父さんなら解いて教えてくれるんだろ」
「……ちょっとだけね」

 雅の頭に過るのは課題の存在を思い出し篤史に教えてもらいながら手をつけた昨晩の記憶ではなく。そうなる前まで行われていた貪婪な時間だった。
 篤史に引きずられるまま肉欲に溺れ、初めてのことを山程した。こうするのだと教えられた当初は生まれていた抵抗は篤史に体を嬲られるとすぐになくなってしまう。
 雅を誘う低い声。成長途中の雅とは違う完成された大人の体。雅を貪ろうと体を這う快感を思い出し、頬に熱が集まっていく。

「佐倉くんも慌てて思い出したんだろ」
「……うん。すっかりダラけて。忘れてた」
「だよなぁ」

 何でもないように嘘の混じった会話を続けながらエントランスを抜け、教室へ向かった。



 授業が終わると各々動き始める。入学したばかりの一年生はまだ部活に入っていないので教室に残って新しく出来たばかりの友人と駄弁ったり、雅のようにさっさと帰宅したり。後は図書室などの校内施設を利用する姿が見える程度だ。
 裕也も雅と同じく帰宅組なので途中まで一緒に帰る。高校から徒歩圏内のマンションに住む雅と違い、彼は電車通学だ。

「叔父さんにさ、入学して実績作りに協力しろって言われてんだよね」

 道すがら話をする。何故この高校に入ったのかと尋ねるとそう返ってきた。

「勉強……はまあ、悪くないと思うけど……俺、中学からサッカーやってるからそっちで頑張るかな」
「サッカー部入るんだ」
「部活見学して、良さそうだったらね。佐倉くんは?」 

 一年生はまだ部活動への参加が解禁されていない。予定では今週の水曜日から部活見学が許可され、入部も受け付けてもらえるらしい。
 雅の中学時代は陸上部に所属していた。体を動かすことは嫌いではないが大会に出るような実力はない。高校でも入りたいと迷わず思えるような情熱はなかった。

「部活に入るかわからないな」
「そっか。でもまぁ、叔父さんはその方が喜ぶかもね」

 えっ、と聞き返す雅に裕也が照れた笑顔を浮かべる。

「俺が言ったって秘密ね。佐倉くんと暮らすって決まってから、叔父さんすごい機嫌良かったから」

 雅との同棲に喜び浮かれた篤史は裕也にも太っ腹になり、最新のゲーム機を買ってくれる程だった。

「部活入ると帰るの遅くなるし。家帰って佐倉くん居なかったら寂しいんじゃない?」
「……そうだね。うん。部活はいいかな」

 帰宅しても相手の帰りはまだ遠い。それは雅がよくわかっている。

 そこで二人は十字路に差し掛かった。雅は右へ、裕也は左へ進む。

「また明日な、佐倉くん」
「うん。またね」

 軽く手を振ってくれる彼の顔には親しげな笑みが浮かぶ。顔立ちは違っても、笑い方は篤史に似ていた。




 篤史が雅と暮らすのに選んだマンションはセキュリティがしっかりしている。
 エントランスには常にコンシェルジュが控え、新しく越してきたばかりの雅にも笑顔で「お帰りなさいませ」と出迎えてくれる。頭を下げて挨拶の言葉を返すと篤史宛の小包が届いていると教えられ、忙しい篤史の手間がほんのちょっとでも減るといいと思い受け取った。
 受付を抜けるとエレベーターがあり、住人に渡されるカードキーを刺さないと稼働しない。さらには降りることの出来る場所の決まったものもある。
 篤史の部屋は一つの階をまるごと使った設計になっている。エレベーターを出たらすぐに部屋の扉があり、客を呼ぶこともないのでこの階で降りられるのはマスターキーを持ったマンション管理関係者か篤史と雅だけだ。
 部屋に入った雅は抱えた小包をダイニングのテーブルへ置いた。こうしておけば帰ってすぐに見つけてくれるだろう。何気なく目をやった伝票には機械印刷の文字で雑貨と書かれている。
 そのままキッチンへ向かい、手洗いをして冷蔵庫を開ける。よく冷えたミネラルウォーターのボトルを取り、喉を潤した雅は寝室へ向かった。
 広々とした間取りのマンションには部屋がいくつかあり、篤史は雅の為に一部屋空けてくれたが雅はあまり自室を使わない。
 ベッドは寝室にしかないし、寝室に設けられた机は自由に使えばいいと言われている。自室に用意されたものより小さいがクローゼットもあり、寝室だけで充分だった。
 大きなベッドへ寝転がり、まだ慣れない天井を見上げる。寝返りを打ってカーテンの開けられた窓の外を見ると空はまだ青いが、もう少ししたら赤みが生まれるだろう。

「……篤史さん」

 金曜の夜から昨日までは一日中引っ付いて離れなかった男を呼ぶ。
 篤史と暮らし始めてからというもの、雅は贅沢になっていく。半日以上会えないなんて普通のことなのに、それが酷く寂しくてもどかしい。
 寝そべりながらぼうっとしていると思い出していくのは昨日までの爛れた時間だった。金曜日の夜から昨夜まで一日中篤史と一緒過ごしていた。
 篤史に裸を見られたり体を好きにされるのは恥ずかしいけれど嫌悪はなかった。散々教え込まれた蹂躙される悦楽は大人になり始めようとしている雅の心を快感の虜にする。

「……篤史さん」

 篤史の名残を感じさせる寝室にいると、まるでこの場に彼がいるような錯覚に陥る。
 名前を呼びながら真新しいブレザータイプの制服へ手を掛ける。ゆっくりとシャツのボタンを外し、あまり焼けていない肌が露になる。
 シャツの中へ手を忍ばせると突起に触れた。たった二日間篤史に苛められ続けた結果、慎ましさを忘れてすっかり立ち上がるようになってしまった桃色の乳首は自分で触れても声が上がる。

「あっ……あ、あ、あ……あぁ……」

 くにくにと指先で潰すようにいじる。擽ったいけれどそれだけではない、快感に繋がる感覚が生まれるようになった。
 片手で乳首を弄りながらもう片手はスラックスへ伸びる。バックルを外しジッパーを下げて現れた下着の下では雅のぺニスがくっきりと主張し始めていた。
 下着の中からぺニスを出してやると緩く勃ち始めている。乳首への刺激に引きずられて寝室で行われた情事を思い出し、小さな穴から先走りが垂れていく。

「篤史さぁん……」

 この場にいない男を呼びながら雅は制服を脱いでいく。隠す物のなくなった体をシーツの上に泳がせて、もっと自分を慰めていく。
 両手で乳首を撫でると甲高い声が漏れ出ていき、先走りも止まらなかった。もっと気持ち良くなりたいと考えると、向かう先は下になる。

「あっ……うっ……んんっ、んっ……」

 先走りで濡れたぺニスを握り、竿を扱く。単調な動きは快楽を刺激し続け、雅の性感を高めていく。自然と後ろの孔に力が入った。

「……ん……ん……」

 昇り詰めそうな予感に喘ぎながらも意識は後ろへ向かっていく。今は閉じたそこを雄に犯されるとどうなるのか。思い出してそわそわとした気分になる。
 気付いたら雅は自身を慰める手を止め、起き上がるとベッドサイドテーブルへにじり寄る。篤史がそこに何をしまっているのか二日間で覚えてしまった。
 ローションボトルとゴムの小箱がいくつか入っており、雅はボトルを手に取った。再び寝そべると足を開いて立たせ、ローションを掌に垂らす。

「…………んっ」

 指先に塗りつけ纏わせるとしばしの逡巡の末、おそるおそる双丘の奥へ――アナルへ入り込ませていく。

「うう……」

 異物感に慣れず拒否の色を滲ませる。けれどその先に何があるのかも知ってしまった雅は指を進ませた。

「うー……」

 昨夜まではただねだれば良かった。甘ったるい声を上げて気持ち良くしてほしいと頼むと篤史は喜んで雅の体を犯してくれた。
 舐められるのが気持ちいいといえば身体中舐め回され、胎の奥を突かれて悦ぶと気を失うまで突き上げられた。

「ああ……篤史さん……ほしいよぉ……」

 雅の指なんかではなく、猛った雄に胎をかき回されたい。肉襞を逞しいぺニスで思いきり擦られたい。気持ち良くなったら胎の中に種を蒔かれたい。
 指で肉筒を擦りながらあられもない声を上げるか男の名前を呼ぶしか出来ない雅は時間の感覚が狂っていく。窓の外を見る余裕もなく、玄関から聞こえる物音も荒い足音も聞こえていない。
 寝室の扉が乱暴に開かれてようやく篤史の帰宅に気付いた。

 あ、と口を開けた雅が何か言うより早く、篤史はベッドへ乗り上げてきた。

「雅」

 表情のない篤史が覆い被さってくる。

「…………篤史さんも。僕に会いたかったの?」

 ようやく出てきたのはそれだった。いつもスマートで落ち着いた彼らしくない、何かに焦ったような様子の原因は自分なのだと自惚れる。実際そうだった。

「ああ」

 雅の頬に唇が触れる。唇が重なり、間髪置かずに舌が入り込んでくる。口内を犯されながら長い腕が雅に伸ばされていく。

「んんーーーーっ!!」

 アナルへ伸ばした手を掴まれ、入り込んだ指が篤史の力で抜き差しされる。遠慮のない動きは自分の指すら性具に変えられたかのように乱雑で、我慢出来ずに声が上がる。

「ああっ! あーっ! あっあっあっ……あぁん……やぁっ……」
「何が嫌だ。こないだまで処女だったくせにいきなり指オナ始めたエロガキが!!」
「だって! だってぇ……篤史さんいなくて寂しかったんだもん……」

 篤史がいるならこんなのじゃ嫌だ。そう言って指を引き抜き、雅はただねだった。逞しい体に腕を回して抱き着き、言うだけでいい。

「お願い、気持ち良くして……」



 パンッパンッパンッパンッ!
 ズチュッズチュッズチュッグポッ

 肉を打ち肉を犯す音を聞きながら雅は快楽を与えられ、悦んでいた。

「きもちぃっ! ああっ! おんっ……!」
「雅……雅っ!!」

 雅のねだりに理性を飛ばし、衣服を脱ぎ捨てた篤史は既に勃起していた。興奮のままアナルの中へ突き入れられ、隘路を開かれ胎の奥まで犯される。太く大きなカリ首に肉筒を擦られ、雅は快感のままに喘いでいる。
 雅を呼びながら腰を振る篤史を見つめながら舌を出す。それだけで伝わった彼は顔を寄せ、キスをして舌を絡ませてくれる。
 奥の奥まで雄に殴り付けられながらのディープキスは充足感があり、篤史の腰へ足を絡めて喜びを伝える雅の中で暴れる雄の太さが増した気がした。
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