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初めて篤史を認識したのは思考の欠片も覚えていない、本当に物心つき始めた幼い頃。名前を覚えるのには時間が掛かり、でも会う度に雅に微笑んで構ってくれる彼に小さな手足を動かして駆けていった。
大好きな兄の友達だと教えられて。友達の意味もわからなかった頃だから家族のようにいつも一緒にはいない人だと覚えた。
いつも一緒にいられないなら、たまに会える時に目一杯話し掛けて遊んでもらう。お兄ちゃん達の邪魔をしたらダメよ、と母に抱えられて連れ出されるまで。
篤史を家に呼んで課題を解き合っていた尊は苦笑するばかりで、雅を怒ったり追い出したりはしなかった。胡座をかいた足の上に乗せ、大人しくしてるよう言い聞かせる。
篤史と尊は足の低いテーブルに向かい合って座っていたから尊の足の上に座ると篤史の顔がよく見えた。篤史も同じで、課題を解きながら時折雅に目線を投げてくれる。
篤史と目が合うのが嬉しくて雅は機嫌良く笑っていた。
「……あ、」
懐かしい夢を見た。幼い自分が兄達に構ってもらっている夢だ。余韻に浸るように、一度開いた目を再び閉ざす。
しばらくしてから目を開いた雅は唐突に昨夜を思い出した。寝入ったと思っていた篤史にキスをしたら、起きていた彼に反撃されて。
「……あ、わわ……」
反射的に隣を見る。鳥の囀りが聞こえ始める時分には既に篤史は起きており、寝ていた筈の場所に触れても温もりは残っていない。
寂しい気もするけれど今日はそれで良かったと思う。昨夜のことを思い出しただけで鼓動が速まるのに、何の心構えもなく彼の顔を見れる気がしない。
深呼吸をして、精神を静めて。大丈夫だと何度も自分に言い聞かせて。
寝間着から普段着へ着替えた雅は恐る恐る、寝室の扉へ手を掛ける。雅と休日を合わせている篤史が待つだろうリビングへ繋がる扉をこんなにも重く感じたのは初めてだった。
緊張した雅を待っていたのはテーブルに用意された朝食と書き置きが一枚だけで、篤史の姿は見えなかった。書き置きには用事で出社し昼過ぎには帰ることが記されている。
何だか落胆したような、やはり安堵したような。複雑な思いを抱きながら雅はキッチンへ向かうと戸棚を開け、食パンを一枚取り出してトースターへ入れる。
篤史の用意したスクランブルエッグとハムサラダには焼き立てのパンが一番だ。一緒に暮らし始めてから知ったことは多かった。
高校に入ったばかりの雅にまだ課題らしいものはない。家事も普段から篤史が細々と済ませており、やらなければならないことがないので寝室に用意された机に座り、真新しい教科書を眺めて予習する。
思いの外夢中になっていたようで、雅の耳には玄関から聞こえる解錠の音が聞こえなかった。静かに近付いてくる足音も、寝室の扉を開く音も。
ゆっくりと這い寄る気配など知らず、雅の目は教科書の活字を追っている。
「雅」
肩口に顔を寄せられ、耳元で囁かれる。思わず固まった雅に「ただいま」と続けるのは聞き間違えることはない篤史の声だ。
「お……かえり、なさい。もう仕事終わったの」
「ああ。悪かったな、せっかくの休みなのに一人にさせて」
「ううん。仕事なら仕方ないよ」
いつも通りの篤史を前にすると雅もその通りに返せている。ほっと息をつく雅は促されるままに立ち上がる。
「急ぎの仕事だったんだね」
「……うん。まぁ。今日明日は誰にも邪魔されたくないから」
「何かあるの?」
寝室を出てリビングも通過して玄関へ繋がる廊下に出ると、その途中にある扉を開く。トイレとバスルームに繋がる扉だった。
「雅と過ごすから」
篤史自らの手でこまめに掃除され綺麗に磨かれたバスルームには汚れ一つない。
長身の篤史が入っても足が伸ばせる大きさのバスタブには折り畳み式の蓋がされている。その上には雅の見たことのない道具が並び、何かと問えばすぐにわかるとしか返されなかった。
「うっ……ひぐ……ぅう……」
「雅泣かないで。大切なことだったんだ」
バスローブに包まれた雅はベッドの上で泣きじゃくっていた。
バスルームに連れられた雅に行われたのは腸内洗浄。浣腸。胎の中を綺麗に洗い流した。
大切なことなのだと宥められても、排泄と変わりない行為を篤史の手によって行われた雅の心は深く抉られた。
今すぐ一人になって引きこもってしまいたいのに、篤史の腕は片時も雅を離さない。
「何も恥ずかしいことはない。雅に俺を受け入れてもらう為には必要なことだったんだ。雅は俺とするのは嫌?」
悲しそうな顔で問われれば雅は頭を振るしかない。彼と繋がることは嫌ではなく、むしろ歓迎している。
固く目を閉ざして啜り泣く雅には何も見えない。自分を抱き締める篤史の腕だけが全てに思えた。
「雅」
慈しむ声で名前を呼ばれるだけで現金な雅の心はゆっくりと落ち着きを取り戻そうとしていく。数度の瞬きの末に開いた視界には微笑む篤史しか映らない。その顔が寄せられ、何をされるのか察した瞼が閉じられる。
「ん……」
唇が重なる。昨日初めて知った触れるだけのキスを雅は気に入っていた。捩じ込まれる舌に口内を荒らされるのも好きだ。
篤史なら何でも良かった。何をされてもいい。
「あ……う……」
紐一つで閉じられていたバスローブはすぐに解かれ、雅の腕から抜け出していく。衣服だった物を下敷きに組み敷かれ、覆い被さる男の艷めいた顔を見て。
ついに、と心臓がうるさく鳴り始めた。
「雅」
雅を見つめる篤史の頬にも僅かに赤みが見えた。
「好きだ」
何度も伝えられ、何度も伝えた言葉を皮切りに。雅の体を男が這う。
「あぁ……」
首筋に顔を埋められ、強く吸われる。こそばゆさに声が漏れた。
「……んぅ」
首筋から上がった舌に耳を舐められながら、空いた指先が雅の胸へ伸びる。慎ましい乳首をすりすりと擦られるが感じるものはない。
「気持ち良くない?」
「……乳首? わかんない。何ともない」
「そう……でもそのうちきっと良くなるよ。良くしてみせるから」
耳元で囁かれる言葉の真意など知らず、雅は頷いた。
篤史の愛撫はゆっくりと下がっていく。耳から再び首筋を吸われ、乳首を舐められながらくったりとしたペニスを握られる。
「あん……」
敏感な性器への接触には自然と声が出た。乳首を舐められながら竿を扱かれ、わかりやすい性感に声の質が変わっていく。
「あっあっあ……んんっ……やだ……ぁ……」
されるがままに声を上げる。ペニスが熱を持って勃ち上がり始めると共に、乳首にも違和感を覚えた。何ともなかった筈なのに舐めしゃぶられる先端に何か感じるものがあった気がする。
小さすぎる変化を掴むことが出来ないまま、篤史の愛撫は下がる。足を手で抱えるよう促され、先走りを垂らし始めたペニスも、ひくひくと収縮するアナルもよく見えた。
篤史は据わった目でそれらを見つめながら、ベッドの脇に用意していたローションボトルと銀色に光る四角形――ゴムの小袋を取った。
「雅。冷たいかもしれないけど我慢してくれ」
「うん…………ひぁ……」
ローションが雅の尻に向かって垂らされる。液体は人肌より低く、驚きから声が出るが篤史の手で肌に塗り込まれていくと温度は気にならなくなった。
「……あっ! あっ……あ……ああっ」
ローションの滑りを帯びて硬く閉じたアナルへ、篤史の指の先端が触れた。
すりすりと縁を擽り、遊ぶようにして入り込もうとしている。いやいやと首を振っても篤史の視界には入れてもらえない。
「あ。あ……あっ……」
ぷちゅ、とローションによる水音を立てながら。篤史の指が縁を、肉を割って入り込んでくる。
ゆっくりと進む指先が肉襞を撫でる。違和感に声を上げる。篤史の指とはいえ異物が入り侵入してくることは正常ではないと雅の体が訴える。
篤史の指を押し出そうと動くが大した抵抗にならない。関節が埋まりこのまま付け根まで、という所で、侵入した道筋を辿るように指が抜け出ていく。
小さな圧迫から解放されていく雅は呆けたまま、生まれた安堵から息をつき強張っていた体の力を抜いて――いった所で、再び孔の縁へ指の腹が擦りついてきた。
「えっ」
ローションに濡れた指先は二本。ぐっ、と孔へ押しつけられる。
本数が増えたというのに一本目よりもスムーズに、アナルの皺がほぐされていく。ローションが追加で垂らされたがそんなものを気にしている余裕はなかった。
「くっ……んんんっ、あっあ……」
先程よりも水音が増す。長い指が二本、肉を割って入ってくる。侵入して肉襞を抉り、雅の官能を探していく。
篤史の人差し指と中指はぴったりくっついて入り込んできた。入りやすいようになるべく細めて、そう思ってのことだったのだろう。
入り込んだら関係ないとばかりに、二本の指が離れていく。本当に肉を割り開くように、指の側面同士が別れていく。
「ひぃ……あっ……ぁあっ!?」
指の離別によって僅かに生まれた孔の隙間へ向けてローションが垂らされる。アナルでの直飲みは雅には刺激が強く、驚いて声を上げると別れていた指がくっつき直し、再び抜け出ようとしていく。
まさかまた指を増やされるのか、と蕩けた頭で推察する雅だが、ちょっと惜しかった。指は増やされるがそれにはまだ早い。
抜け出ようとした指は寸前で止まり、ゆっくりと……ではなくローションに滑りを借りて勢い良く突いてきた。
「あっあっあっあっあっ……ぁあっ……!」
雅の中へ入り込んだローションが指に押し込まれ、ぐっぽぐっぽと大きな音を立てている。
しばらく続いた抜き差しは唐突に終わり、今度こそ指が出ていく。
息を荒げる雅の孔へ指の腹が擦り寄る。今度は三本。ぐぐっ、と力を込められる。
ほぐされてはいても新たな質量をすんなりと受け入れる程ではなく、雅はただ声を上げた。鳴いて泣いて、それでも雅は篤史を受け入れようとする。
何をされてもいいのだと。
「あ、あ、ああ、あっ……んぅ……」
長い前戯が終わればついに繋がりの時が来る。篤史の指を三本、苦もなく受け入れられるようになる程慣らされた孔の待つ雅の尻へ、篤史の股が吸い寄せられるように密着していく。雅の艶姿に興奮した篤史のペニスが擦り付けられる。
ゴムに包まれていても伝わってくる熱さが雅の体を溶かしていくようだった。たっぷりとローションを塗り込められ、指でほぐされた蜜壷の中へ突き入れながら、篤史の体も雅へ覆い被さる。
篤史をきつく包み込む肉筒を思いきり抉る。肉襞をごりごりと擦ると器官が集中し性感帯となっている場所を叩いていく。
快感を得た雅は目を見開き、口を大きく開けて悦びに鳴いた。
「あっあっ……ああっ……あぁあっ!」
いつの間にか手を離してしまい、されるがままに揺さぶられて宙に浮いていた雅の両足が篤史の腰に絡む。与えられる快楽の奔流に溺れそうで、すがりつく支えが欲しかった。
自由な両腕が篤史に向けて伸ばされる。これまで無言で雅を嬲っていた篤史は上体を寄せ、雅の腕が首へ回ると顔を寄せて口付けた。
尻の孔を犯されながら、口の中も犯されていく。長い舌が歯列をなぞり、奥に潜む雅の舌へ会いに来る。
唾液を吸われる。雅のものなら何でも寄越せとばかりに。
雅には潜めていた舌を動かし、篤史へ絡ませ恭順の姿勢を示すしか出来なかった。
キスをして遊びながら、篤史の腰は休まず雅を追い詰めていく。腹の上で踊る雅のペニスは芯を持っているが射精には至らない。
「ひっ……もう、もういや……」
「……流石に初めては無理か。ほら雅。出せ」
俺も出すから。そう囁いて、片腕だけで体を支えた篤史は自由な手で雅のペニスを握った。竿を扱かれ、声を上げて喜ぶ雅はやがて緩やかな射精を迎える。
自分の中に入り込む雄もゴム越しに精を吐き出したのは顔を歪めて呻く篤史を見て察せられた。
篤史が雅の中から抜け出ていく。頬に何度もキスされて、行為の終わりを悟った雅は長いようで短かったような気のする時間を思い出し、頭の中が渦巻いている。
「雅」
混乱していても篤史の声は絶対で、雅は彼を見た。まだ興奮の冷めない様子の彼は雅の頬を撫で、言った。
「少しだけ休もうか」
水を取ってくると言って寝室を出ていく彼はまだ終わっているつもりはないようで、雅は目をしばたかせた。
大好きな兄の友達だと教えられて。友達の意味もわからなかった頃だから家族のようにいつも一緒にはいない人だと覚えた。
いつも一緒にいられないなら、たまに会える時に目一杯話し掛けて遊んでもらう。お兄ちゃん達の邪魔をしたらダメよ、と母に抱えられて連れ出されるまで。
篤史を家に呼んで課題を解き合っていた尊は苦笑するばかりで、雅を怒ったり追い出したりはしなかった。胡座をかいた足の上に乗せ、大人しくしてるよう言い聞かせる。
篤史と尊は足の低いテーブルに向かい合って座っていたから尊の足の上に座ると篤史の顔がよく見えた。篤史も同じで、課題を解きながら時折雅に目線を投げてくれる。
篤史と目が合うのが嬉しくて雅は機嫌良く笑っていた。
「……あ、」
懐かしい夢を見た。幼い自分が兄達に構ってもらっている夢だ。余韻に浸るように、一度開いた目を再び閉ざす。
しばらくしてから目を開いた雅は唐突に昨夜を思い出した。寝入ったと思っていた篤史にキスをしたら、起きていた彼に反撃されて。
「……あ、わわ……」
反射的に隣を見る。鳥の囀りが聞こえ始める時分には既に篤史は起きており、寝ていた筈の場所に触れても温もりは残っていない。
寂しい気もするけれど今日はそれで良かったと思う。昨夜のことを思い出しただけで鼓動が速まるのに、何の心構えもなく彼の顔を見れる気がしない。
深呼吸をして、精神を静めて。大丈夫だと何度も自分に言い聞かせて。
寝間着から普段着へ着替えた雅は恐る恐る、寝室の扉へ手を掛ける。雅と休日を合わせている篤史が待つだろうリビングへ繋がる扉をこんなにも重く感じたのは初めてだった。
緊張した雅を待っていたのはテーブルに用意された朝食と書き置きが一枚だけで、篤史の姿は見えなかった。書き置きには用事で出社し昼過ぎには帰ることが記されている。
何だか落胆したような、やはり安堵したような。複雑な思いを抱きながら雅はキッチンへ向かうと戸棚を開け、食パンを一枚取り出してトースターへ入れる。
篤史の用意したスクランブルエッグとハムサラダには焼き立てのパンが一番だ。一緒に暮らし始めてから知ったことは多かった。
高校に入ったばかりの雅にまだ課題らしいものはない。家事も普段から篤史が細々と済ませており、やらなければならないことがないので寝室に用意された机に座り、真新しい教科書を眺めて予習する。
思いの外夢中になっていたようで、雅の耳には玄関から聞こえる解錠の音が聞こえなかった。静かに近付いてくる足音も、寝室の扉を開く音も。
ゆっくりと這い寄る気配など知らず、雅の目は教科書の活字を追っている。
「雅」
肩口に顔を寄せられ、耳元で囁かれる。思わず固まった雅に「ただいま」と続けるのは聞き間違えることはない篤史の声だ。
「お……かえり、なさい。もう仕事終わったの」
「ああ。悪かったな、せっかくの休みなのに一人にさせて」
「ううん。仕事なら仕方ないよ」
いつも通りの篤史を前にすると雅もその通りに返せている。ほっと息をつく雅は促されるままに立ち上がる。
「急ぎの仕事だったんだね」
「……うん。まぁ。今日明日は誰にも邪魔されたくないから」
「何かあるの?」
寝室を出てリビングも通過して玄関へ繋がる廊下に出ると、その途中にある扉を開く。トイレとバスルームに繋がる扉だった。
「雅と過ごすから」
篤史自らの手でこまめに掃除され綺麗に磨かれたバスルームには汚れ一つない。
長身の篤史が入っても足が伸ばせる大きさのバスタブには折り畳み式の蓋がされている。その上には雅の見たことのない道具が並び、何かと問えばすぐにわかるとしか返されなかった。
「うっ……ひぐ……ぅう……」
「雅泣かないで。大切なことだったんだ」
バスローブに包まれた雅はベッドの上で泣きじゃくっていた。
バスルームに連れられた雅に行われたのは腸内洗浄。浣腸。胎の中を綺麗に洗い流した。
大切なことなのだと宥められても、排泄と変わりない行為を篤史の手によって行われた雅の心は深く抉られた。
今すぐ一人になって引きこもってしまいたいのに、篤史の腕は片時も雅を離さない。
「何も恥ずかしいことはない。雅に俺を受け入れてもらう為には必要なことだったんだ。雅は俺とするのは嫌?」
悲しそうな顔で問われれば雅は頭を振るしかない。彼と繋がることは嫌ではなく、むしろ歓迎している。
固く目を閉ざして啜り泣く雅には何も見えない。自分を抱き締める篤史の腕だけが全てに思えた。
「雅」
慈しむ声で名前を呼ばれるだけで現金な雅の心はゆっくりと落ち着きを取り戻そうとしていく。数度の瞬きの末に開いた視界には微笑む篤史しか映らない。その顔が寄せられ、何をされるのか察した瞼が閉じられる。
「ん……」
唇が重なる。昨日初めて知った触れるだけのキスを雅は気に入っていた。捩じ込まれる舌に口内を荒らされるのも好きだ。
篤史なら何でも良かった。何をされてもいい。
「あ……う……」
紐一つで閉じられていたバスローブはすぐに解かれ、雅の腕から抜け出していく。衣服だった物を下敷きに組み敷かれ、覆い被さる男の艷めいた顔を見て。
ついに、と心臓がうるさく鳴り始めた。
「雅」
雅を見つめる篤史の頬にも僅かに赤みが見えた。
「好きだ」
何度も伝えられ、何度も伝えた言葉を皮切りに。雅の体を男が這う。
「あぁ……」
首筋に顔を埋められ、強く吸われる。こそばゆさに声が漏れた。
「……んぅ」
首筋から上がった舌に耳を舐められながら、空いた指先が雅の胸へ伸びる。慎ましい乳首をすりすりと擦られるが感じるものはない。
「気持ち良くない?」
「……乳首? わかんない。何ともない」
「そう……でもそのうちきっと良くなるよ。良くしてみせるから」
耳元で囁かれる言葉の真意など知らず、雅は頷いた。
篤史の愛撫はゆっくりと下がっていく。耳から再び首筋を吸われ、乳首を舐められながらくったりとしたペニスを握られる。
「あん……」
敏感な性器への接触には自然と声が出た。乳首を舐められながら竿を扱かれ、わかりやすい性感に声の質が変わっていく。
「あっあっあ……んんっ……やだ……ぁ……」
されるがままに声を上げる。ペニスが熱を持って勃ち上がり始めると共に、乳首にも違和感を覚えた。何ともなかった筈なのに舐めしゃぶられる先端に何か感じるものがあった気がする。
小さすぎる変化を掴むことが出来ないまま、篤史の愛撫は下がる。足を手で抱えるよう促され、先走りを垂らし始めたペニスも、ひくひくと収縮するアナルもよく見えた。
篤史は据わった目でそれらを見つめながら、ベッドの脇に用意していたローションボトルと銀色に光る四角形――ゴムの小袋を取った。
「雅。冷たいかもしれないけど我慢してくれ」
「うん…………ひぁ……」
ローションが雅の尻に向かって垂らされる。液体は人肌より低く、驚きから声が出るが篤史の手で肌に塗り込まれていくと温度は気にならなくなった。
「……あっ! あっ……あ……ああっ」
ローションの滑りを帯びて硬く閉じたアナルへ、篤史の指の先端が触れた。
すりすりと縁を擽り、遊ぶようにして入り込もうとしている。いやいやと首を振っても篤史の視界には入れてもらえない。
「あ。あ……あっ……」
ぷちゅ、とローションによる水音を立てながら。篤史の指が縁を、肉を割って入り込んでくる。
ゆっくりと進む指先が肉襞を撫でる。違和感に声を上げる。篤史の指とはいえ異物が入り侵入してくることは正常ではないと雅の体が訴える。
篤史の指を押し出そうと動くが大した抵抗にならない。関節が埋まりこのまま付け根まで、という所で、侵入した道筋を辿るように指が抜け出ていく。
小さな圧迫から解放されていく雅は呆けたまま、生まれた安堵から息をつき強張っていた体の力を抜いて――いった所で、再び孔の縁へ指の腹が擦りついてきた。
「えっ」
ローションに濡れた指先は二本。ぐっ、と孔へ押しつけられる。
本数が増えたというのに一本目よりもスムーズに、アナルの皺がほぐされていく。ローションが追加で垂らされたがそんなものを気にしている余裕はなかった。
「くっ……んんんっ、あっあ……」
先程よりも水音が増す。長い指が二本、肉を割って入ってくる。侵入して肉襞を抉り、雅の官能を探していく。
篤史の人差し指と中指はぴったりくっついて入り込んできた。入りやすいようになるべく細めて、そう思ってのことだったのだろう。
入り込んだら関係ないとばかりに、二本の指が離れていく。本当に肉を割り開くように、指の側面同士が別れていく。
「ひぃ……あっ……ぁあっ!?」
指の離別によって僅かに生まれた孔の隙間へ向けてローションが垂らされる。アナルでの直飲みは雅には刺激が強く、驚いて声を上げると別れていた指がくっつき直し、再び抜け出ようとしていく。
まさかまた指を増やされるのか、と蕩けた頭で推察する雅だが、ちょっと惜しかった。指は増やされるがそれにはまだ早い。
抜け出ようとした指は寸前で止まり、ゆっくりと……ではなくローションに滑りを借りて勢い良く突いてきた。
「あっあっあっあっあっ……ぁあっ……!」
雅の中へ入り込んだローションが指に押し込まれ、ぐっぽぐっぽと大きな音を立てている。
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「あ、あ、ああ、あっ……んぅ……」
長い前戯が終わればついに繋がりの時が来る。篤史の指を三本、苦もなく受け入れられるようになる程慣らされた孔の待つ雅の尻へ、篤史の股が吸い寄せられるように密着していく。雅の艶姿に興奮した篤史のペニスが擦り付けられる。
ゴムに包まれていても伝わってくる熱さが雅の体を溶かしていくようだった。たっぷりとローションを塗り込められ、指でほぐされた蜜壷の中へ突き入れながら、篤史の体も雅へ覆い被さる。
篤史をきつく包み込む肉筒を思いきり抉る。肉襞をごりごりと擦ると器官が集中し性感帯となっている場所を叩いていく。
快感を得た雅は目を見開き、口を大きく開けて悦びに鳴いた。
「あっあっ……ああっ……あぁあっ!」
いつの間にか手を離してしまい、されるがままに揺さぶられて宙に浮いていた雅の両足が篤史の腰に絡む。与えられる快楽の奔流に溺れそうで、すがりつく支えが欲しかった。
自由な両腕が篤史に向けて伸ばされる。これまで無言で雅を嬲っていた篤史は上体を寄せ、雅の腕が首へ回ると顔を寄せて口付けた。
尻の孔を犯されながら、口の中も犯されていく。長い舌が歯列をなぞり、奥に潜む雅の舌へ会いに来る。
唾液を吸われる。雅のものなら何でも寄越せとばかりに。
雅には潜めていた舌を動かし、篤史へ絡ませ恭順の姿勢を示すしか出来なかった。
キスをして遊びながら、篤史の腰は休まず雅を追い詰めていく。腹の上で踊る雅のペニスは芯を持っているが射精には至らない。
「ひっ……もう、もういや……」
「……流石に初めては無理か。ほら雅。出せ」
俺も出すから。そう囁いて、片腕だけで体を支えた篤史は自由な手で雅のペニスを握った。竿を扱かれ、声を上げて喜ぶ雅はやがて緩やかな射精を迎える。
自分の中に入り込む雄もゴム越しに精を吐き出したのは顔を歪めて呻く篤史を見て察せられた。
篤史が雅の中から抜け出ていく。頬に何度もキスされて、行為の終わりを悟った雅は長いようで短かったような気のする時間を思い出し、頭の中が渦巻いている。
「雅」
混乱していても篤史の声は絶対で、雅は彼を見た。まだ興奮の冷めない様子の彼は雅の頬を撫で、言った。
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