愛執染着

鳫葉あん

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「……」

 寝付けずにいた雅は篤史の顔を見つめながら長いようで短い回想を終える。いつも雅を見守ってくれた篤史は、雅の淡い恋心にも救いをくれた。
 雅を好きだと言って婚約し、実家を助けてくれた。高校生の雅にはまだわからないことが多いが、それが篤史の考え一つで実行するには難しいことくらいは想像出来る。
 篤史の会社と桜花堂が業務提携をしたというが、それを受諾する判断は篤史一人で行えることではない。会社には内外にも多くの人が関わっているのだから。
 婚約を取り付けた日。本当に大丈夫なのかと心配して何度も尋ねる雅に篤史は何度も何度も大丈夫だと言ってくれた。

「雅の、嫁の実家を守るのは夫の義務だろう」

 雅は何も心配しなくていいのだと宥めてくれる言葉通り、雅と家族の暮らしは守られた。


 中学も問題なく通い、二年生になると篤史は進路相談に乗ってくれた。早めに進学希望先を定めた方が今後の指標になる。
 特に何かしたいことがあるわけでもなく、程々の偏差値の公立高校へ進めればいいと思っていた雅に篤史はとある私立高校のホームページを見せてくれた。
 いつも勉強を見てもらうのに使っているテーブルセットに今日は向かい合わせではなく、椅子を動かして隣り合って座る。テーブル上のパソコンに表示された情報を見ると去年新設されたばかりの学校らしく、掲載された写真に映る校舎や施設は真新しい。

「実はさ、俺の知り合いが設立した学校なんだ。ちょっとばかり融資……いや、寄付もしてる」
「そうなんだ。凄いね」
「特に希望がないなら、一先ずここを目標にしてみないか? 設立して間もないから目立った実績はないが創立者は随分とまぁ教育熱心で生徒のことをよく考えてくれる奴だよ」
「……でも家からちょっと遠いな。電車で一時間くらいかな」

 経路案内を見て、通えないことはないが毎日往復二時間となると雅は難色を示す。隣から小さく笑う気配がした。

「一緒に住まないか」

 声も出せず男の横顔を見上げる雅へ。ゆっくりと篤史が顔を向け、悪戯っぽく笑った。

「雅がここを受験して、合格したら近くへ引っ越す。そこから通えばいいだろう」
「……め、迷惑……」
「雅と暮らすことが迷惑なわけないだろ」
「……父さんと、母さんが……」
「頭を下げて説得する。二人から許してもらえたらいいだろう?」

 うんと頷く。俯いた顔は目を見張り、驚きを表していた。
 高校に合格したら篤史と一緒に暮らせる。それだけが頭の中を支配していく。

「受験勉強頑張ろうな」

 赤べこのように何度も頷いて返す雅の体が逞しい腕に引かれる。成長途中の雅とは違う、育ちきった大人の男に抱きすくめられ、瞳と頬に熱を持たせる雅には篤史の顔は見えなかった。


 両親は篤史と雅の同棲を許した。
 幼い頃から知っている尊の友人であり、雅への愛情を真摯に語り桜花堂を救ってくれた恩人への信頼は強かった。
 雅同様迷惑になるのではと言葉にした二人の懸念を否定し、好青年然とした様子で雅と暮らしたいだけなのだと話す。
 息子へのストレートな好意に母は頬を染め、父は寂しげな笑顔を浮かべて了承してくれた。

 二年生から始めた受験対策の甲斐もあり雅は無事に彼の薦めた高校へ進学が決まり、つまりは同棲も決まった。
 雅と篤史の二人きりの暮らしは少し早いながらも中学卒業の翌日には始まった。





 そうして今。四月の初めから新しい高校での生活が始まり、一日一日をめまぐるしく過ごして金曜日を迎え、一週間目が終わった。
 疲れている筈なのに雅の目は冴え、閉じても一向に眠れない。
 寝返りを打って隣に眠る篤史の姿を目に入れていると、今までの思い出が頭の中を駆けていった。

「……」

 音を立てないように気を付けながら、篤史へにじり寄る。端正な寝顔を見つめているうちに、欲望が芽を出した。
 雅と篤史はどこに出ても恥ずかしくない、プラトニックな関係だ。手を繋いだり抱き締めてもらえることはあるけれど、恋人がするようなこと――キスはしたことがない。
 篤史に比べたらまだまだお子様の雅相手では仕方ないかもしれないが、大人に憧れる年齢の雅は興味ばかりが募っていた。
 至近距離まで顔を寄せ、じっと顔を見つめる。穏やかな寝息を紡ぐ唇へ、そっと自分を重ねてみる。
 触れるだけのキスはよくわからなかった。ちょっと硬めの唇の感触が男らしさを感じさせる。
 起こしてしまわないうちに離れようとした雅だが、それは叶わなかった。
 突然動き出した篤史の腕が背に、腹に回る。もう片手は頭の後ろを包むように引き止め、驚きから開いた口の中に篤史の舌が入り込んでくる。

「んんんんんっ!! んっ……ふぅ……ぁ……」

 肉厚の舌が上下の歯の間を潜り、雅の舌へ絡み付いてくる。押し出そうとしても構わず舌の上から喉へ向けて突き進まれる。物理的な限界から喉まで犯されることはないが、それでも雅の口内を蹂躙されていることに変わりない。
 ちゅうちゅうと唾液を吸われる。鼻にかかった甘い声が自分の口から漏れ出ていく。篤史の舌先が雅の舌の腹を撫でてくる。

「んは……あっ……ふぅっ……」

 しばらく好きにされていたものの、力強い拘束が緩んだかと思えば篤史の上に半身だけ乗り上がっていた体がゆっくりとベッドの上へ寝かされる。ようやく解放された雅が情けない声を出す。息を整えながらぼんやりと見上げた視界にはまだ慣れない天井と。

「雅」

 いやに静かな声で雅を呼ぶ、無表情の男の顔が見えた。あ、と漏れ出た声に反応するように、篤史が動く。
 割られた両足が雅の下腹を跨ぐ。覆い被さると雅の首筋へ顔を埋め、寝間着の隙間から肌を吸われる。

「あっ」

 強い吸い付きに小さな痛みが走り、上擦った声が上がる。途端、篤史の動きが止まった。
 何か声に出そうとするより先に、もう一度雅の名前が呼ばれた。

「いいよな?」

 何を指しているのか。わからない程初ではない。具体的なことは知らないけれど、何をしようとしているのかはわかる。

「……うん。篤史さんならいい。篤史さんがいいんだ」

 僅かに目を伏せ、恥じらいを隠しながら伝える。本当に、篤史になら何をされても良かった。
 雅の返事を聞き、篤史はしばらく固まっていた。何か間違えたのかと心配になった雅が口を開きかけた瞬間、唸った。

「雅っ!!」
「えっはい……んんっ!」

 怒鳴り付けるように名前を呼ばれ、優しい姿と声音しか知らずに戸惑う雅の唇が再び塞がれる。
 先程よりも強く舌を、口内を吸われ、逃げ惑う舌を舐められる。舌はすぐに解放されたが唇まで舐め回され、混乱する雅の寝間着に篤史の片手が伸びていく。
 片腕で体を支え、空いた手で雅の衣服を剥ぎながら肌に触れる。守る服のなくなり晒された胸、赤く色付く乳首に触れられ、雅がかん高い声を上げた。

「ああっ……んっ、あっあっ……」

 くりくりと指先で弄られる度に声を上げる。篤史の手で体を触られている感覚から声が出てしまうだけで、乳首に触れられることには何も思うことはなかった。

 大きな手に促され上体を起こし、されるがままに寝間着の袖から腕を抜く。誘導に従い尻を浮かすと下着と共にズボンも脱がされ、生まれたままの姿になった。
 中学時代は陸上部に所属していたので足の筋肉はそれなりについた。大会に出場する程の才能はなかったが、それなりに楽しく体を動かしたおかげで背丈は平均近く伸びた。
 しなやかな足を撫でられ、いつもより一段と甘さの滲む声が雅を呼んだ。

「雅。雅……大人になったな」
「……篤史さんに比べたら、まだガキでしょ」
「ああ。ああ。そう。まだ高校生だもんな。でも……ああ、雅……」

 ベッドの上へ胡座をかく男に背をもたれさせ、裸の雅は包み込まれるように座っている。

「……んっ、」

 篤史の指は飽きもせず雅の乳首を弄る。何もなかった筈なのに、強く摘まみ上げられた雅は思わず声を上げた。
 乳首の先に何か、痛みとは違う痒みのようなものが走った気がした。

「雅……」
「あっ……あ、い、いれるの……?」

 雅の尻は篤史の足先に触れていたが、脇から持ち上げられ股座の上へ座らされる。篤史の着ている寝間着越しに興奮した雄を尻に押しつけられ、思わず尋ねた。
 詳しい行程は知らないけれど、男同士のセックスは主に尻を使うのだと。それくらいの知識はあった。

「……今日は素股にしておく」
「すまた?」

 知らない単語に首を傾げる雅を見て篤史は笑った。見たことのない笑い方は何だか意地が悪く感じられた。

「雅のここに」
「ひぇっ」
「俺のち○ぽを挟んで扱いてもらうんだ」

 大人しく閉じていた太腿の間に篤史の手が入り込んでくる。すりすりと敏感な場所を擦り、縮こまる雅の淫茎に手が伸びる。

「あんっ」
「雅……」

 使われたことのない。今後も使われることのない、桃色に色付く可愛らしい亀頭が撫でられる。鈴口を指の腹で優しく擦られる。

「ああっいやっ……あっ……ん……」

 もう片方の手が頭に回り、後ろを向くよう促され大人しく従うと篤史の顔が寄せられる。自然と唇が重なり、雅は甘えるように吸い付いた。
 篤史とキスしていると雅の心にはじんわりとあたたかい波に満たされる。気持ちが良くて心地好い。きっとそれは篤史のことが好きだからだろう。

「あ……きもちぃ、きもちぃよぉ……」

 雅に快感を与えてくれるのは気がしただけではない。大きな手に優しく包まれるように、竿を擦り扱かれ、わき上がる喜びから雅の足の指がぐっと丸まる。

「出せ」

 鈴口を爪で掻かれ、短い悲鳴を上げた雅は言われるままに昇り詰め、吐き出した。小さな穴から白濁が散る。
 息を荒げる雅の唇が舐められた。頬に吸い付かれる。閉ざした瞼にもキスされる。雅に構いまくる男の動き全てが慈しみを滲ませる。
 ゆっくりと、体を頭から倒されていく。四つん這いになった雅の閉じられた足を跨ぐように篤史が位置取り、太腿の間に硬いものが割り込んでくる。

「あ」

 先がよく肥えた長いもの。男の手によって乱れた雅に興奮し硬く勃ち上がった雄が、雅の太腿を使おうとしている。

「ん、ひっ」

 頭を垂れて自分の太腿を見つめていた雅は、突き進んだ亀頭が顔を出す所を見た。

「雅……雅っ!!」
「あ。やっ、あ、ぁあ……」

 雅の腰を掴んだ篤史が雅を呼びながら腰を動かし始める。太腿の中の雄が挟み込まれ擦り付けられる刺激で先走りを垂らし、雅の腿へ擦り付けていく。
 蟻の門渡りが抜き差しされる亀頭に殴られ快感を広い集めていく。先程吐き出して萎えていた淫茎が芯を持ち始める。
 ぱんぱんと肉を打つ音や雅を呼ぶ声にも耳を犯され、理性の溶けた雅は声の出るままに喘ぐしかない。

「くっ……みやび、雅!」
「……あっ、ああっ……」

 腿の間で擦り動いていた雄が抜け出していく。刹那、太腿にびしゃびしゃと熱い液体がかけられた。射精したのだ。
 荒い息遣いが聞こえる。篤史も息を整えているのだろう。

 二人とも射精したのでこれで終わりだと思い、篤史も気持ち良くなってくれたという達成感に似た安堵の表情を浮かべ、そのまま寝入ってしまおうとした雅だったが。

「……え」

 尻を両手で掴まれ、慎ましく閉じていた孔が左右に割られひくつく。強い視線を感じ、恐る恐る後ろへ顔を向けようとするが角度が足りず篤史の顔は見えなかった。

「明日」
「え?」
「明日。最後までする。ここを使って気持ち良くなろうな」

 ここ、と言った時に孔の縁をなぞられ、雅の背にぞくりとした感覚が走る。それは嫌悪ではなく、むしろ興味や期待に満ちていた。
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