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指宿枕崎線
開聞岳〜薩摩富士〜
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指宿枕崎線は鹿児島中央から指宿を経て山川までとはうって変わって、山川から開聞岳の麓や、枕崎駅方面への列車の本数は1日10本にも満たずに激減する。
地図を見ると枕崎から鹿児島までの指宿枕崎線は山川と指宿との間で大まかに言えば直角に曲がるようにして100km弱の線が描かれているが、枕崎から鹿児島まで薩摩半島を斜めにつきるように走る路線バスではその約半分の50kmくらいである。
枕崎と鹿児島との間の客足が路線バスに多く持っていかれているのはそれだけでも明らかであろう。
私が最果てとも言える指宿枕崎線の終点である枕崎駅にたどり着いたのは、開聞岳に登頂して10年近く経った後の鹿児島への一人旅の時であった。小学校4年生の時に列車の旅を初めて30年ちょっとで、ようやく北海道の稚内駅と枕崎駅とのJR線さいはての駅両端に足を踏み入れたが、その片方である枕崎駅のすぐ近くにある鹿児島市内や鹿児島空港に向かうバス乗り場があるのを見て
「陸上の乗り物の主役は鉄道ではなくやはり自動車なのか。」
と改めて思い、個人的に何だか複雑な気持ちになった。
かみさんと鹿児島に来た時はその指宿からの列車の本数激減により、バスに乗り替えて開聞岳登山口へ向かった。開聞岳は薩摩半島の南端に聳え、日本百名山にも選ばれている。標高924mであるが容姿がとても綺麗で薩摩富士とも呼ばれている。麓にはさつま芋などの畑が広がり、開聞岳と合わせた鹿児島県らしい景色が見事である。
バスを降りて少し歩いて麓の集落を抜けると畑が広がっていた景色とはうって変わって山の林の中に入っていく。標高924mという1000mも満たない数字から簡単に登れそうな感じがするが、もう少しよく考えれば開聞岳の登山口は海に近く標高は0mに近い。本州の標高1000m以上の高原から2000m級の山に登るのと、それほど標高差は変わらないのでなめてかかると登るのに結構きつい山だ。地図を見ると山頂付近で山頂を中心に時計周りに渦を4分の3回転くらい巻くような登山道にあたる線が描かれているのも、山頂付近を中心に真っ直ぐ登れないくらい結構急である事を表している。5合目付近からまるで富士山の青木ヶ原の樹海のように、緑の木々の下には溶岩が露出しているのをよく目にするようになり、その分歩きづらくなるが標高が高くなるにつれて木々の間の視界も開けてくる。山頂直前のハシゴなど渦を巻いている部分の急な箇所を登り切るといよいよ登頂する。
山頂付近も火山らしく岩がごつごつしていた。昨日の雨模様から天気が回復に向かっていたので雲の下に広がる麓の畑や東シナ海やその海岸線にあたるビーチなどが望めた。
「また一つ(日本百名山を)登ったぞ!」
と達成感に浸っていた。
その頃開催されていたWBC(ワールドベースボールクラシック)いわゆる近年始まった野球のワールドカップみたいな大会で、アメリカでプレーしていたイチロー選手も含めたプロ野球の選手達が日本代表として戦っていた。山頂でそのうちの1試合をラジオで聴いているおじさん達が日本代表が何とか勝ち進みそうな様子の話をしていた。
その大会は後日の決勝で日本代表が宿敵で良きライバルと言える韓国と対戦して、延長戦でイチロー選手の打った打球がライナーでセンターへ抜けた。これが決勝のタイムリーヒットとなり日本代表が優勝した。
「イチローのように人一倍努力する人間がここ一番で結果を出す!」
と改めて感じた大会であった。
山頂でしばらく休んだ後再び山に覆いかぶさる林の中を下山した。下山後登山道へ通じる道沿いに絵に描いたような緑の天然芝の広場があった。下山後の達成感から広場の中で芝生に寝転んだのが凄く心地よかった。少しして広場から集落に入り指宿枕崎線の踏切から線路の上を歩き開聞岳登山口の最寄駅であるJR開聞駅にたどり着いた。線路と集落とを隔てる柵もなく一緒に歩いていたかみさんも
「スタンドバイミーみたい!」
と喜んでいた。すでに開花していた麓の桜がそんな私達を温かく迎えてくれているようであった。
かみさんと開聞岳を下山した後は、最寄りである開聞駅から少ない本数の中でもタイミングよく時間が合う列車があったのでそれに乗りその日泊まる予定であった指宿へ向かった。
途中でJR線最南端の駅西大山駅を通った。西大山駅も初めてのツーリングの時に駅前テントを張り泊まって以来12年ぶりであった。あの時は西大山駅に着く直前にバイクに跨って見た夜闇に映える開聞岳をバックにした小さかったけれど綺麗な花火がとても印象に残っている。もちろんJR最南端駅を表す標柱はあの時のままであった。あの辺りの畑の向こうに聳える開聞岳の車窓はやはり見事であった。
翌日夕方の帰京する飛行機まで時間がたっぷりあったので、泊まった宿から列車とバスを乗り継いで薩摩半島最南端である長崎鼻に立ち寄った。長崎鼻から見た太平洋と東シナ海との間にある海越しに見た青空をバックにした開聞岳は、登り切っただけに余計に綺麗に見えた。やはり
「山頂まで登った山はその分美しく見える。」
海はとても綺麗で岩場もあり迫力があった。
帰りの気持ち良さそうに走る指宿から乗った鹿児島中央行きの快速列車からは、だんだん近づいて大きく見えてくる桜島を中心とした鹿児島ならではの車窓を楽しめた。
地図を見ると枕崎から鹿児島までの指宿枕崎線は山川と指宿との間で大まかに言えば直角に曲がるようにして100km弱の線が描かれているが、枕崎から鹿児島まで薩摩半島を斜めにつきるように走る路線バスではその約半分の50kmくらいである。
枕崎と鹿児島との間の客足が路線バスに多く持っていかれているのはそれだけでも明らかであろう。
私が最果てとも言える指宿枕崎線の終点である枕崎駅にたどり着いたのは、開聞岳に登頂して10年近く経った後の鹿児島への一人旅の時であった。小学校4年生の時に列車の旅を初めて30年ちょっとで、ようやく北海道の稚内駅と枕崎駅とのJR線さいはての駅両端に足を踏み入れたが、その片方である枕崎駅のすぐ近くにある鹿児島市内や鹿児島空港に向かうバス乗り場があるのを見て
「陸上の乗り物の主役は鉄道ではなくやはり自動車なのか。」
と改めて思い、個人的に何だか複雑な気持ちになった。
かみさんと鹿児島に来た時はその指宿からの列車の本数激減により、バスに乗り替えて開聞岳登山口へ向かった。開聞岳は薩摩半島の南端に聳え、日本百名山にも選ばれている。標高924mであるが容姿がとても綺麗で薩摩富士とも呼ばれている。麓にはさつま芋などの畑が広がり、開聞岳と合わせた鹿児島県らしい景色が見事である。
バスを降りて少し歩いて麓の集落を抜けると畑が広がっていた景色とはうって変わって山の林の中に入っていく。標高924mという1000mも満たない数字から簡単に登れそうな感じがするが、もう少しよく考えれば開聞岳の登山口は海に近く標高は0mに近い。本州の標高1000m以上の高原から2000m級の山に登るのと、それほど標高差は変わらないのでなめてかかると登るのに結構きつい山だ。地図を見ると山頂付近で山頂を中心に時計周りに渦を4分の3回転くらい巻くような登山道にあたる線が描かれているのも、山頂付近を中心に真っ直ぐ登れないくらい結構急である事を表している。5合目付近からまるで富士山の青木ヶ原の樹海のように、緑の木々の下には溶岩が露出しているのをよく目にするようになり、その分歩きづらくなるが標高が高くなるにつれて木々の間の視界も開けてくる。山頂直前のハシゴなど渦を巻いている部分の急な箇所を登り切るといよいよ登頂する。
山頂付近も火山らしく岩がごつごつしていた。昨日の雨模様から天気が回復に向かっていたので雲の下に広がる麓の畑や東シナ海やその海岸線にあたるビーチなどが望めた。
「また一つ(日本百名山を)登ったぞ!」
と達成感に浸っていた。
その頃開催されていたWBC(ワールドベースボールクラシック)いわゆる近年始まった野球のワールドカップみたいな大会で、アメリカでプレーしていたイチロー選手も含めたプロ野球の選手達が日本代表として戦っていた。山頂でそのうちの1試合をラジオで聴いているおじさん達が日本代表が何とか勝ち進みそうな様子の話をしていた。
その大会は後日の決勝で日本代表が宿敵で良きライバルと言える韓国と対戦して、延長戦でイチロー選手の打った打球がライナーでセンターへ抜けた。これが決勝のタイムリーヒットとなり日本代表が優勝した。
「イチローのように人一倍努力する人間がここ一番で結果を出す!」
と改めて感じた大会であった。
山頂でしばらく休んだ後再び山に覆いかぶさる林の中を下山した。下山後登山道へ通じる道沿いに絵に描いたような緑の天然芝の広場があった。下山後の達成感から広場の中で芝生に寝転んだのが凄く心地よかった。少しして広場から集落に入り指宿枕崎線の踏切から線路の上を歩き開聞岳登山口の最寄駅であるJR開聞駅にたどり着いた。線路と集落とを隔てる柵もなく一緒に歩いていたかみさんも
「スタンドバイミーみたい!」
と喜んでいた。すでに開花していた麓の桜がそんな私達を温かく迎えてくれているようであった。
かみさんと開聞岳を下山した後は、最寄りである開聞駅から少ない本数の中でもタイミングよく時間が合う列車があったのでそれに乗りその日泊まる予定であった指宿へ向かった。
途中でJR線最南端の駅西大山駅を通った。西大山駅も初めてのツーリングの時に駅前テントを張り泊まって以来12年ぶりであった。あの時は西大山駅に着く直前にバイクに跨って見た夜闇に映える開聞岳をバックにした小さかったけれど綺麗な花火がとても印象に残っている。もちろんJR最南端駅を表す標柱はあの時のままであった。あの辺りの畑の向こうに聳える開聞岳の車窓はやはり見事であった。
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