旅鉄からの手紙

秋田内陸縦貫鉄道（秋田内陸線）

５年越しの希望〜内陸線に乗れた！〜

初めて内陸線に乗った時の鷹ノ巣駅を出発し、流域に鉱山や秋田杉も多く昔から秋田県の経済を支えているとも言えそうな米代川の鉄橋を越えて少ししたら、早くも里の林からなる緑のトンネルがあった。

「これはただのローカル線ではないのかも」 

と、秋田内陸線に乗りたいことの５年越しの希望が叶ったからなのかローカル線でよく見られる山間部に入る前に平野部に広がる水田や点在する集落の車窓とは一味違う印象を受けてしまった。

阿仁川など秋田内陸線沿いに流れる川も米代川の水系で沿線の町村も、かつては秋田杉や鉱山で栄えたであろう。特に金、銀、銅が採れる阿仁鉱山は江戸時代前期には既に採掘されており、特に銀、銅は多く採れ銅の採掘量日本一を記録した事もあるという。内陸線の主要駅の一つとも言える阿仁合駅のある旧阿仁町（今は北秋田市）はかつて阿仁鉱山で栄えた町である。栃木県の足尾銅山跡のような坑道跡を走る観光用のトロッコ列車などは残念ながら存在しないが、駅から徒歩２～３分程の所のかつて明治時代に外国人の鉱山技師をおもてなすためにも建てられ国の重要文化財にも指定されている異人館などを訪れるなど、周辺を散策すると鉱山の町の面影を少しでも味わう事が出来るかも知れない。

列車が駅舎の中に温泉がついている阿仁前田に着いた時に、温泉に入りに来られた地元の年輩の女性の方が何人か温泉に入って行かれるのも見た。これから湯に浸かりながら楽しそうに女性が大好きなお喋り、いわゆる井戸端会議をするんだろうなと羨ましく思えた。

この辺りを地図で見ると内陸線は阿仁川に沿いつつも森吉山麓の西側を走っている。その森吉山は奥羽山脈（那須火山帯）にも属し秋田山とも呼ばれるくらい江戸時代から明治にかけて航行していた北前船など日本海を行く船の目印にもなったし秋田を代表する山とも言えよう。標高が１５００メートル未満（１４５４ｍ）のために日本百名山には選ばれなかったが花の百名山にも指定され夏は高山植物の花々、秋は紅葉、冬は樹氷など四季により見どころが変化しトレッキングやキャンプ、スキーなども楽しめ、阿仁合からもタクシーにしてはリーズナブルな周辺タクシーなどで山頂へのトレッキングにも便利な森吉山阿仁スキー場のゴンドラ乗り場にもアクセス出来る。
周辺では関東地方からも多くの釣り人が訪れる程、ヤマメやイワナなどがよく釣れる。マイタケやナメコ、シメジなど様々な種類の茸が時が経ち日が暮れるのを忘れてしまう程、多く採れるなど麓に多くの自然の恵みを与え続けているがツキノワグマの生息地でもあり、大小無数の滝も存在し結構危ない山でもあり、登山道や林道など人の通る道から外れ山林に入る時は特に注意したいものだ。そういう話を聞くと標高も１５００メートルもなくしかも楯を伏せたような緩やかな山だと言うのに、自然の素晴らしさと厳しさを兼ね備えた不思議な山だと思ってしまう。阿仁前田駅と全国的にヒットした映画「君の名は」の駅風景のモデルにもなったとも言われている前田南駅との間に架かる小又川鉄橋は、森吉山をバックに鉄橋を渡る列車の人気のカメラスポットにもなっているという。

私が内陸線を初めてその乗った時は、阿仁前田－阿仁合間は雨と融雪により路盤崩落の恐れが生じ不通になっており、阿仁前田から代行バスに乗り換え阿仁合に向かった。代行バスに乗っていた時は阿仁合から再び乗る列車で、車窓が満喫出来る良い席に座りたいという気持ちでいっぱいだったのか、雪を枝の上に少しかぶった、濃い緑の秋田杉の壁のような山あいを縫っていたような景色しか覚えていない。近々その間でも汽車に揺られながら車窓を楽しみ内陸線を全区間走破したい。特に先述したように写真のスポットにもなっている小又川鉄橋あたりから森吉山を望みたい。