旅鉄からの手紙

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磐越西線

会津藩による政治〜魂と誇り〜

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会津盆地では盆地らしく夏高温で、磐梯山など盆地の周りを取り囲む山々のブロックにより東北地方では冷たい北東気流の影響を受けにくい気候に加えて、下流の新潟県で日本海に注ぐ阿賀野川に繋がる水系や猪苗代湖などの水にも恵まれて、米づくりなど生産活動が安定して行えた。

会津盆地の中心と言える会津若松はかつて鶴ケ城の城下町である。室町時代の蘆名氏から始まり、東北地方を代表する戦国大名で「独眼竜」でお馴染みの伊達政宗公、信長公の重臣で豊臣家の大名でもあった蒲生氏郷公、謙信公の後を継いだ上杉景勝公など数々の有名な大名が治めた要所の一つとも言える。よく要所とされた理由は先述したように生産活動が安定して行える環境に加えて、上方や関東地方から見て、防衛的に東北地方の壁や蓋にもなり得る位置にあったからであろう。

天下を平定し江戸幕府を開いた家康公は、自分のブレーンの一人であった儒学者の林羅山氏の影響も受け、儒教的な思想も多く取り入れながらの武力によらず、教化・法令などによって世を治める文治的な政治を目指した。
そもそも儒教とは、孔子を始祖とし紀元前の中国で生まれた信仰の体系であり、隣国の日本にも大いに影響を与えた。儒教と言えば五常(仁、義、礼、智、信)という5つの徳性により、五倫(父子、君臣、夫婦、長幼、朋友)関係を維持することを教える。

仁―人を思いやる事。

義―利欲に囚われず、すべきことをすること。

礼―仁を具体的な行動として表したもの。もともとは宗教儀礼での伝統的な習慣・制度を意味していたが、後に人間の上下関係で守るべきことを意味するようになった。

智―学問に励む事。

信―嘘をつかないで真実を告げること、約束を守ること、誠実であること。

会津という要所は、三代将軍家光公の命により松平氏が治めるようになる。松平氏による会津藩の初代藩主保科(松平)正之公は家康公の孫、家光公の異母弟で徳川の一族である。家光公の遺命により、11歳で将軍職に就かれた家綱公の輔弼役いわゆる将軍を補佐する副将軍として、江戸幕府を指導する立場となる。
実質副将軍としての江戸での大きな功績では、江戸が敵に水路伝いで攻められるリスクよりも、天下万民の住みやすさを優先にして江戸、武蔵野やその周辺地域にとって重要な水路となる玉川上水を完成させたことが挙げられる。そして火事が多い江戸にて、特に酷く江戸城の天守閣も含め江戸の大半が消失した「明暦の大火」では、幕府で蓄えてあった米だけでなく、お金も被災された方々に積極的に回した。大火の後に江戸城の天守閣が再建されなかったのもお金の使い道を、町の復興を優先にしたからである。これも正に権力誇示ではなく、領民の為の政治である。領民のみならず、跡取りとしての養子を取ることが出来る領主の年齢を、50歳まで引き上げる「末期養子の禁」の緩和、各大名の正室と長男を人質として江戸に住まわせる「大名証人制度」の廃止、さらに殿の死により家臣までもが自ら死を選ぶ「殉死」の禁止と、徳川家に仕える武士に対しても「仁」「義」を大切にした。
正之公は副将軍としての立場により、23年間も会津を留守にされるが、それが出来たのは家老達を信頼して藩政を任せられたからである。会津藩でも米などの食糧をいざという時に備えて備蓄する「社倉制度」をつくり「殉死」も禁止した。さらに会津藩では社倉制度で備蓄したお米を90歳以上の領民に支給する「高齢者年金制度」「残酷な刑・間引きの禁止」行き、倒れの旅人を救済し治療費がなければ藩が負担する「救急医療制度」など、江戸と同様に自分達に仕える武士や領民に対して「仁」「義」を大切にした政治を行った。そのような政治が自分の代で終わらないようにと正之公は「会津藩家訓」を残した。その筆頭には会津という要所の藩主と副将軍に値する立場にしてくれた家光公に恩を感じ
「会津藩は幕府のためにある」
と示された。これは「仁」「義」を大切にすると自然に「礼」も芽生える事を表しているとも言える。
家訓は続いて
「幕府に忠節を尽くすために上下関係も含めて組織を大切にして武備を整えるなど武士としての責務を果たすように」
と「礼」「義」の大切さを示している。
更に

「親孝行など家族を大切にする事こそ国造りの礎」 

「賄いを行い、媚を求めてはいけない」 

「えこひいきはしてはいけない」 

「心のねじ曲がった者は取り立ててはいけない」 

「人の世は利害よりも道理を優先すべし」 

「社倉米(備蓄米)民を使う以外に使ってはならない」 

などとある。それらの内容だけでも

「家族を大切にしてより良い家庭を築く事が、仕事に集中し易い環境をつくる事や、命を粗末にするような凶悪な犯罪が起きないような、社会を築く礎になる事」

「汚職事件を起こしてはならない」

「会社等の人事などにてえこひいきはしてはならないし、曲がったものを取り立ててはならない」

「社倉米にように大地震などの大災害に備えて、食糧などを備蓄する事も大切である」

など、現代風にもう少し判りやすく解釈する事も出来る。
会津松平藩は代々家訓を守りながら、徳川幕府とともに安定した平和な時代を築き会津若松を中心に会津地方もそれに伴い繁栄した。農民など人口も増えて、新田開発も進めて23万石の石高も実収は30万石くらいであったという。

江戸時代中期の頃からの貨幣経済の発展に伴う、米をベースとしていた経済の行き詰まり、さらに後期にて近世では最大の被害を出した天明の大飢饉などの国難も、儒教の精神を基にした家訓を守りながらの藩政改革で乗り切った。それらの藩政改革の一環で「智」「信」も大切にした教育改革にも力を入れて、明治時代になって以降の数々の著名人も輩出し、トップクラスの学力のレベルで有名な会津藩校「日新館」が創立された。日新館開校にとどまらずに、藩校に入る前の幼児教育にも力を入れた。子供達は毎日のように組毎に集合し、今日でも地元を中心に受け継がれている「什(じゆう)の誓い」(什とは会津藩の軍の最小戦闘単位いわゆる小隊)を朗唱したという。

1.年長者の言うことにそむいてはなりませぬ。

2.年長者にはお辞儀をしなければなりませぬ。

3.虚言を言う事はなりませぬ。

4.卑怯な振舞をしてはなりませぬ。

5.弱い者をいじめてはなりませぬ。

6.戸外で物を食べてはなりませぬ。

7.戸外で婦人と言葉を交へてはなりませぬ。

その最後に、今日でもよく知られている標語
「ならぬことはならぬものです」
と厳しく戒める。

「1」「2」は決して先輩(年長者)だから偉いとか、先輩の言いなりになることではなく、自分よりも少しでも多く人生経験を積んでいる先輩を敬いながら、先輩の意見や忠告にはしっかり耳を傾ける。そして先輩は後輩の面倒をしっかり見るべきという意味で、今日の親子関係も含めた社会でもしっかり当てはまると思う。

「3」は「嘘も方便」と多少の例外はあるものの、基本的にウソをつくようでは、より良い人間関係が築けない事をよく表している。

「4」も卑怯な真似をすると必ず自分自身にしっぺ返しが来る。例えば他人への批判以上の陰口を叩くと「自分が他人からどう思われているのか」を必要以上に気にしたり「自分はよく思われたい」と必要以上に思ってしまう事で、必要以上に周りの目を気にして、周りのペースに合わせて雰囲気に流されてばかりで、自分のやりたい事をおろそかにしてしまうことも含めていると思う。

「5」もいじめはいじめられる側の人権や人格に対して、言葉も含めた暴力をふるう犯罪である。いじめる側の心の貧しさもよく表しているのではないか。いじめられる側にも問題があるなんてあるという話をよく聞くが、それはとんでもない間違いである。

「6」もピクニック、ハイキング、山登りやキャンプも含めたアウトドア活動以外などで行う事は行儀が良いものではない。

「7」も戸外と言うよりは、異性に対して思いやりも持って心から慕う事が無い状態で、下心を抱いて異性と接してもろくな事が無いことをよく表していると言える。

これらは

「目標に向かってやるべき事はやる。やってはいけない事はやるな。」

と今日の小さい頃から教育にも十分当てはまると思える。

また国難を乗り切る一環として、藩の財政を立て直すための米、蕎麦以外の日本酒、漆器、陶磁器、蝋燭、松茸、山塩、朝鮮人参などの、多くの地場産業はこの時に興されたもので、今日でも有名な特産品も数々ある。また日本海へと流れる阿賀川(阿賀野川)下流の日本海からの水運の発達により、会津の特産品やお米や山の幸のみならず海の幸も取り入れた、豊富な食材を使った郷土料理も数多く作られた。

一人でも多くの方が、会津名物や郷土料理を味わい会津特産品を手に取りながら、かつて現代風に解釈できる程、私たちの身の回りにも十分なくらい当てはまる「家訓」や「什の誓い」の意味をも含めて、会津藩の歴史を噛みしめる旅をできればと思う。

「家訓」や「什の誓い」の内容の殆どが、明るくて平和な時代をこれからもっと築いて行くべき、私たちの身の回りも含めた現代社会にも通じる事からも「儒教」も含めて世界各地の民族や部族がそれぞれ持っている「人としてどう生きるべきか」の「教え」いわゆる「信仰」が、政治も含めた人間社会においていかに大切であるのかをよく表していると感じる。
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