旅鉄からの手紙

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山形新幹線

霊峰「月山」〜息子との初めての登山〜

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山形を代表する曲とも言える「花笠音頭」の発車メロディを聴いた後に、山形駅を北へ発車すると、車窓からも山形城址の立派な石垣とお堀が近くで見られる。

松尾芭蕉

「閑さや岩にしみ入る蝉の声」 

で有名な山寺へも向かう仙山線とも分かれる。

さくらんぼやラフランスなどの果樹園もあちこちに点在する山形盆地の西側に車窓からも遠くに優雅に聳えるのが月山である。湯殿山、羽黒山も含めて聖徳太子も政治の舞台に登場する飛鳥時代のあたりに(1000年以上も前に)開山したともいわれる程、古くから出羽三山として信仰及び修験の山として知られ、今でも白装束を着ての登山など信仰にまつわる行事が数々受け継がれているという。松尾芭蕉も月山に登頂し

「雲の峯 幾つ崩れて 月の山」

と俳句を詠んでいる。

私も4歳だった息子を連れて7月に月山に一度登った事がある。山形駅からレンタカーを借りて、月山スキー場まで行き、スキー場近くの駐車場に車を止めて、リフト乗り場までの坂道もかなり急で、4歳には歩いて登るのはきつそうだったが、何とかリフトに乗り換えた。リフトを降りてから多くの黄色いニッコウキスゲが私達迎えてくれたようにあちこちに点在していた。

4歳ながら体重が20kg近い息子を抱っこ紐を使って背負った。冒険家や山岳部の学生などが行うような本格的な登山の経験がない私にとっては、20kgを少し背負っただけかハードな登山となった。しかもコースの真ん中くらいから雨が降り出しその雨足が強くなった。傘を差しながらの20kgの息子と強い雨の中での急な登りで、しかも我々の前に大きな緑色の壁のように緑の山の斜面が立ちはだかった。それらの緑の鮮やかさなど周りの景色を見る余裕なんてなかった。ただただ登頂した後であろう降りてくる登山者を羨ましいと思うのみであった。その登山者の中には信仰登山と思われる白装束と和傘と杖を身につけた方や夏スキーのついでに登られたのかスキーを担いでいる方もいた。月山ならではと思いつつ途中で何回も引き返そうと思い

「もう嫌だ」

とかなり激しい雨音に紛れて、何回も大きめな声で呟いた。背負っていた4歳の息子は差してあった傘の下で雨具にとカッパは着ていた。それでも降りしきる雨の中でさすがに風邪を引かれたら大変だと内心ヒヤヒヤしながら登っていた。そんな私を

「子供がかわいそう」

と非難される方もいらっしゃるではと思える程であった。

そんな心配をよそに4歳の息子は私の背中でイビキをかいて昼寝をしていた。すれ違った年配の女性の登山者達もそんな息子を見て笑っていた。それに勇気を貰い

「ここまで来たら引き返すわけにはいかない」

と改めて強く思えた。
昨年の夏にもさくらんぼ東根で借りたレンタカーで最上川沿いを廻って車中泊した、月山に対して南側斜面にあるスキー場とは反対の北側にある月山8合目駐車場から、一年前は3歳であった息子を抱っこ紐で抱っこして月山登頂を目指したが雨のために断念した。もしあの時と同様に息子が起きていて

「寒い寒い」

と連呼していたらさすがに登頂は断念していたかもしれない。息子の気持ち良さそうないびきと

「今年こそは!」

という気持ちに助けられてとにかくがむしゃらに自分の足を動かした。登るのが途中で嫌になってもただ足を動かし続けていれば頂上など目的地に着くのが山登りの良いところで、しばらくしたら山頂付近と思われる山小屋が見えてきた。気がついたら雨も弱まっていた。

「やっと着いた!」

と山小屋近くの休憩所のような小屋に入って真っ先にかなり濡れていた息子の服を着替えさせた。本当に着替えを持って来て良かった。着替えさせているうちに山頂に着いた達成感が湧いてきて何だか嬉しくなった。目が覚めた息子も着替えたばかりの濡れていない服が気持ち良かったのか笑顔が見られるようになった。山頂に建てられている月山神社も参拝しお守りも買った。今思えば晴れていればもっと良かったが、あの時はとにかく登頂出来ただけでも本当に嬉しかった。午後2時ぐらいだったし山小屋に泊まろかなとも思ったが、うちで待っているお母さんが恋しいのか息子が

「うちに帰る」

と言っていたので結局下山する事にした。下りも息子を背負わないといけないのかなと思ったが、なんと息子は手を繋いで一緒に歩いてくれた。あれは本当に助かった。きついのが一気に楽しい山登りへと変わった。雨も弱まり霧も晴れて、特にきつかった登りの後の下りは遠くの所々雪渓が残る緑の山並みの眺めも良くとても気持ち良かった。緑の壁のような急斜面をパラグライダーで飛んで降りている自分を想像してしまうくらいに心地よく降りた。中腹には白いチングルマが正にお花畑のようにほぼ一面に広がっていた。ひたすら登山口に向かう下りがあれだけ楽しくて気持ちよかったのは本当に久しぶりであった。雨水や雪解け水を集めた小川のせせらぎを聞きながら、の緑の葉っぱ達がじゅうたんのように広がったチングルマのお花畑にも本当に心が癒された。山道の斜度が緩くなり木道の箇所が増えてきて、当時列車が好きであった息子は木道を線路として自分が列車に乗っているように楽しそうに歩いていた。無事に下りのリフト乗り場に着いた。4歳の息子が父ちゃんと2時間の下りの山道を完歩!その逞しさに驚いた。雨上がりの晴れた帰りのリフトに乗りながら、子供が出したクイズの問題に父ちゃんが答えるまた楽しいひと時を過ごした。今回のように天候の急変など夏山シーズンでも危険が潜んでいる山で一つまた思い出が作れて正直ほっとした。山登りの直後も無事に息子が風邪を引くなどで体調を崩さないで良かった。そんな子連れでは初で私にとっては28個目の日本百名山登頂であった。

また月山は残雪が多く春スキーのメッカとしても知られ、最長で7月の海の日のあたりまで滑れる。私も息子が生まれる一年前に7月の海の日に一度行った事あるが、その時は平地では連日30度を超す暑さが続いていた。行きの真夏の新幹線で一人だけ季節外れのスキーを担ぐのに違和感を覚えながらも、スキー場に向かったが下界で連日の暑さが続く気候の影響で、リフト沿いのゲレンデも既に閉鎖されており滑れたのはリフト降り場から更に周りにはニッコウキスゲなどがいくつも咲いていた登山道を5分程登った雪渓であった。そこではリフトの代わりに自分の手でロープに捕まって斜面を登るTバーが設置されていた。しかも夏でもスキーをやりたい方々が集まるのか上級者も多く雪渓の殆どの箇所にコブが出来ていた。当時まだその年の3月に基礎スキーの一級を獲ったばかりでコブを滑るのにあまり慣れていなかった私にはかなり厳しいコンディションだった。コブ斜面克服という宿題を持ち帰った旅でもあった。スキー場は4月中旬くらいにオープンするがリフト沿いのゲレンデが滑走できるオープン後1~2ヶ月の間が最も滑りやすい時季なのかも知れない。

また同じ出羽三山であり宗派(真言密教)の関係なのか古来より「語るなかれ、聞くなかれ」山中の詳細を他言する事を禁止されてきた、月山のお隣りの湯殿山では芭蕉は

「語られぬ 湯殿にぬらす 袂かな」

という面白い句も残している。しかもこの句は一見季語が無さそうだが、江戸時代に夏の行事の一つとして知られていた「湯殿詣」から「湯殿」そのものが季語になっているという。夏山登山好きの私には出羽三山と言えば、日本百名山にも選ばれ高山植物の花々が広がる華やかな月山に目や足が行ってしまうが「語るな!」「聞くな!」と言われれば一度どのような場所か見たくなるのが人の心である。浦島太郎が「開けるな!」と言われて玉手箱を開けたくなるように、その神秘的とも言える湯殿山にも一度足を延ばしたい。
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