旅鉄からの手紙

小海線（高原列車）

小淵沢発高原列車

小淵沢駅には美味しい駅弁が数々揃っているが、筆者が勧めたいのは「高原野菜とカツの弁当」である。駅弁では珍しく生野菜が多く入っており、特に八ヶ岳山麓でおなじみの高原野菜レタスによりシャキシャキ感が味わえてヘルシーな感じがする。カツも試行錯誤の上冷めた時硬くなってしまう豚カツではなく、冷めても美味しいチキンカツが採用されているという。

小海線に乗って小淵沢を出発すると八ヶ岳連峰の山麓へ吸い込まれるようにカーブを描き、登りのエンジン音を響かせながら中央本線から離れて行く。そのカーブは小海線は当初中央本線の富士見駅が起点（終点）の予定であったのを、用地買収や工事などの都合により小淵沢駅にルート変更した為に造られた。そのカーブにさしかかると計画及び建設当時の苦労を想像するよりも、いよいよ高原列車（小海線）の始まりだと胸がワクワクしてしまう。大きなカーブを過ぎると列車は山麓の森に囲まれた緑のトンネルに入って行く。小淵沢から甲斐小泉、甲斐大泉、清里とまるで森のトンネル中を走る地下鉄の駅のように、ホームと線路が緑の中できれいに映えている。八ヶ岳山麓の地形に沿ってカーブを描き、森に囲まれた緑の木々による自然のもののみならず、山の下に掘られた地面の下を貫くトンネルもくぐりながら、清里へ向かって登っていく。

列車は駅の標高が１２７４ｍでＪＲ線弟２位である清里に到着した。小海線といえば「高原列車」の愛称らしく、ＪＲ線で最も標高が高いところを通っているが、駅の標高の１位～９位までの全てを小海線の駅で占めている。駅から山側には森を思わせる木々が並んでいるが、反対側には八ヶ岳山麓の代表的な観光地清里高原らしく、駅前にはお土産屋や飲食店などが並んでいる。

一見華やかに見えるが、実際に駅前通りやその周辺を歩いて見ると、１９７０～８０年代に訪れた清里ブームが去った後に、休業や廃業に追いこまれたように思える店舗の跡などの建物も数々見られる。その清里ブームは若者向けの雑誌が若者の旅先として清里を取り上げた事がきっかけで始まりで、清里が一時は「高原の原宿」と呼ばれた程であった。１９９０年代前半のバブルの崩壊とともにブームが去り現在に至っている。ブームがとっくに去った現在も「高原の原宿」までは行かずとも、週末や夏の観光シーズンを中心に多くの観光客が訪れている。清里ブーム「高原の原宿」を教訓に、あくまでも清里の魅力の原点は八ヶ岳山麓で育まれた自然や景観である事をこれからも見失わないで欲しい。

森が広がる山側には、山麓の美しい自然や涼しさを求める方々向けのペンションなどの宿泊施設や美術館などが森の間に建っている。少し足を延ばせば八ヶ岳牧場や吐龍の滝など、ピクニックやハイキングなどで八ヶ岳山麓の自然を満喫できる。

清里と言えば「清泉寮」という看板を見かけたことがある。その「清泉寮」は１９３８年にアメリカ人で立教大学教授であったポール・ラッシュ氏により、青少年訓練キャンプの拠点として開設された。以来食糧難の戦後間もない頃には酪農により清里の開拓を進めて行き、１９５０年代から始まった清里の観光地化に合わせるようにキャンプ場、コテージ、ロッジ、自然学校など研修施設、レストランなどもあり農業体験などもできる、清里を代表する観光研修施設として進化して行き現在に至っている。清泉寮ソフトクリームも清里を代表する名物の一つである。

八ヶ岳山麓の自然を大切にする原点を見失わずに進化して行った「清泉寮」は、清里も含めてこれからのかけがえのない自然を活かしての発展への良き道しるべになるのではないかと思う。