旅鉄からの手紙

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小海線(高原列車)

初めての高原列車~涼しい風が一番!~

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私が初めて小海線に乗ったのは1990年(中学2年)の夏休みに、母親と我々4人兄弟で長野の親せきの所へ遊びに行く時あった。当時北陸新幹線の開業はおろか建設すら始まっておらず、高崎から信越本線に乗って、当時、鉄道で日本一急勾配な線路を通るために、機関車2両と協調運転をしていることで知られていた碓氷峠(横川-軽井沢間)も通り、小諸で小海線に乗り替えた。

高原列車の涼しいイメージとは違い、盆地の中にある小諸駅の夏の昼間はとても暑かった。当時の列車は冷房も効いておらず、しかも我々も含めてかなりの乗客が乗っていた。その暑さは窓を開けても列車が北陸新幹線の佐久平駅が開業するまで佐久市の中心駅であった中込駅の辺りまで続いていたような記憶がある。やはり佐久も小諸と同様に盆地特有の気候で、夏の昼間は暑いのだろう。中込駅で小海線を生活の足にされていると思われる、多くの方々が降りて車内は空き始めた。列車の走る標高が少しずつ高くなるに連れて、涼しい風が車内に入るようになって来た。小海線の小諸~小海間は佐久盆地の田園地帯や集落の中を縦断する。「しーなーのーのくには~♪」から始まる、長野県歌「信濃の国」の1番で「松本・伊那・佐久・善光寺 四つの平は肥沃の地」と、佐久平(佐久盆地)も肥沃の地と歌われているのがよくわかる気がする。その間の駅と駅との間の距離も短い。小諸-小海間は開業当初は国鉄ではなく私鉄(佐久鉄道)であった。JR(旧国鉄)よりも隣の駅同士が近い傾向があるJR以外の私鉄であった面影も残っていると言える。

小海線が高原列車の雰囲気を漂わせるのは、小海を野辺山、清里方面に出発してからである。小海は高原列車の北側の始発駅(ターミナル)と思えるのは私だけであろうか?ホームのつくりもどこか、時々テレビなどでみるアンデス山脈やロッキー山脈などの高原鉄道の駅のような雰囲気を感じる。

小海駅を野辺山、清里方面へ出発すると、小海駅に着くまでの田園や集落の風景とは打って変わって、真夏らしい緑の山々や木々、さらに日本一長い千曲川上流の川の流れもよく目にするようになった。列車が八ヶ岳の山麓である野辺山原に向かって、ゆっくりとしかも何回もくねくねと曲がり、時々千曲川沿いに登って行く。窓を開けて風に当たると、他の事は全て忘れてしまうくらい涼しくて心地良かった。ディーゼルカーのみ走っている小海線では、架線の柱が等間隔に密に並ぶ電化区間とは違い、線路沿いに立っている柱がまばらであった。それをいいことに一緒に乗っていた弟達と時々窓の外を覗きながら、夢中になって窓の外から吹いてくる風で涼んでいた。冷房がついていない国鉄時代から活躍していた、ディーゼルカーキハ58系ならではの貴重な旅とも言える。

今日の気動車の多くは冷暖房が付いていて快適にはなった。しかし車内の冷房が効いている時、外の空気に当たって涼みたくても窓を開けづらくなるケースが多くなり、しかも窓を開けられない列車も増えたように思える。だからこそ真夏の高原とその近くで、窓を開けて外の涼しい空気を感じながらの列車の旅は本当に貴重な思い出である。

千曲川上流ならではの清流が涼しさを一層引き立ててくれた。小さい頃よく川遊びをした川のような狭い川幅を見て

「これが日本一長い川なんだ。」

と何だか不思議な気分にもなった。信濃川上駅に到着。川上という地名は千曲川上流にちなんでいるのだろう。その信濃川上駅は標高1135mでJR線にて駅の標高第4位。次は第1位の野辺山で

「いよいよJR最高(標高)の駅に行けるぞ!」

とワクワクして来た。
信濃川上を出発すると、車窓に小学校の社会科の授業の「高いところでの人々の暮らし」でも習った、野辺山のキャベツ、レタス、白菜などの高原野菜の畑も登場してくる。野辺山に近づくにつれてその頻度も増えて、広さも大きくなっていくような感じだ。夏は丁度収穫の時期で畑の方も忙しそうだ。中学2年の私には仕事の忙しいさを知らないどころか想像すら出来ずに、ただ野辺山付近ならではの高原野菜畑が広がっている車窓に夢中だった。夏には特に午後の山の天気が変わりやすいが、晴れていれば八ヶ岳連峰も望める。列車は野辺山駅に到着した。普段は一度降りてしまうと次の列車まで1時間以上間が空いてしまう事はよくあるが、夏の観光シーズンは野辺山から清里、小淵沢方面には臨時列車が運転されるので次の列車まで15分くらいあり、JR最高標高(1345m)を表す標柱で一緒に来た母親と4人兄弟で記念撮影をする時間が充分あった。記念撮影などで空に一番近い駅野辺山に到着した満足感を味わった。15分くらいして皆で小淵沢行きの列車に乗って野辺山を出発した。1kmくらい走ると列車はJR線最高地点(標高1375m)の木標や石標が見えた。近くのロッジ風のテラスには結構人がいた。その中に私達が乗っている列車に手を振ってくれている人も見えた。彼らも高原の涼しい空気を満喫していたに違いない。JRで一番空に近い最高標高の駅である野辺山で途中下車できたのと、最高地点の木標や石標が見られて、当時私にとっての高原列車の旅の目的は達成した。小淵沢に着く直前に小海線と交差する中央自動車道を見ながら

「今年はお盆の帰省ラッシュによる渋滞に、巻き込まれないで良かったなあ。」

と思えた。

 初めて小海線に乗った翌年の秋以降には、窓は開けられないが、冷暖房が完備されたディーゼルカーが小海線にも走るようになった。あれ以来何回も小海線に乗って旅を楽しんでいるが、これまでこの章で記述した、初めて乗った高原列車で走行中に窓を開けて、高原ならではの爽やかな涼しい風を感じることが、小海から野辺山までの間で列車の中に居ながらにしてずっとできたあの時の貴重な旅に勝る思い出は、未だに私の中ではない。
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