旅鉄からの手紙

日豊本線〜大分ー鹿児島〜

真夏の夜の旅〜宮崎〜

列車が２０時頃に宗太郎駅を出て宮崎県に入った時には、すっかり日が暮れて車窓は暗闇がメインに変わっていた。延岡で宮崎駅に向かう快速に乗り換えた。

暗闇の車窓の中で文字通り太陽がギラギラと輝く日向灘の広い海面や、一年で最も寒い２月にプロ野球のキャンプもよく行われる、宮崎ならではの温暖な気候を生かした野菜が栽培されているビニールハウスも広がる宮崎平野の風景を想像しながら、宮崎平野を快走する快速列車に揺られていた。

宮崎と言えばリニアモーターカーである。東京と名古屋、大阪を山梨県などを経由してリニアモーターで走る列車で結ぶ中央新幹線開業に向けて、山梨県にある実験線が使われる前は日向市と都農町との間の実験線が使われていた。あの時は暗闇で実験線跡をよく確認出来なかったがリニアモーターカーとは比較にならない快速列車のスピードからでさえも、

私も小さい頃は図鑑やテレビを通じて見たことのある白のボディーの赤い線の入ったリニアモーターカーが、宮崎県内を疾走していた様子を想像した。

小さい頃の私にとってリニアモーターカーは新幹線の更に上を行く夢の超特急であったが、世の中の事が少しずつわかってきた今では現状の新幹線で東京から名古屋まで二時間弱、更に大阪までは二時間半で行けるだけでも凄い事なのに電磁波の人体（特に妊婦の方々）への影響、建設や開発製造へとてつもなくかかる費用による財政への影響は本当に大丈夫なのか？と思う。

さらに東京と名古屋さらに大阪との間にてビジネスマンなどの行動パターンがどのように変わるかや、中央新幹線沿線の相模原、甲府周辺や長野県の伊那盆地、岐阜県東部はどれだけ変貌するのかなどの不透明感もある。

延岡から乗った快速列車が宮崎駅に着いた時には２２時を少し回っていたが、真夏の週末の夜の宮崎駅前もかなりの人で賑わっていた。それに駅前のフェニックスの並木を加えるだけでも、充分に宮崎の風景をイメージ出来るような気がした。翌日少しでも早く鹿児島に行こうと都城行きの終電に乗った。都城では駅前より安全な誰もいない消灯されたホームに忍び込み寝袋に包まって一夜を明かした。

宮崎県と言えば、青や強い日差しにギラギラと照らされた太平洋の大海原が広がり、南国を思わせるヤシ科の植物であるビロー樹や珊瑚や熱帯魚なども生息して、海沿いの国道はドライブやツーリングにもってこいとも言われている、日南海岸に一度行ってみたい。

しかし私の地元千葉県からは少し距離が離れ過ぎているのと、千葉県から西から南の方向へは鹿児島、熊本、長崎さらに沖縄と、宮崎以外の他県にも旅をするのに魅力的なスポットやエリアが多い。

日南海岸を中心に宮崎県へ旅に行ったら行ったでハマってしまう自分を想像しつつも、宮崎県出身など宮崎とゆかりのある方々には大変申し訳ないが、少しでも旅ができる時間やお金を獲るとついついそれらの他県に足を運んでしまう。日南海岸はこの目ではまだ鹿児島行きの飛行機の中で「鬼の洗濯板」とも呼ばれている波状の岩に囲まれた、宮崎市にも近い青島周辺の一部を上空からだけしか見たことがない。

その青島を含めた日南海岸はかつて温暖な気候を活用した地元企業などの誘致に加えて、昭和３５年にご結婚された、島津家当主の子孫である久永氏と昭和天皇の第五皇女の貴子さまとのお二人が日南海岸に新婚旅行された事により、ハネムーンのメッカとして知られるようになったという。

今は海外旅行をされる方も増えて一時期なブームは去ったと言われているが、青島から安産の神様が祀られている鵜戸神宮、珊瑚や熱帯魚なども見られる海中公園などを経てかつての軍馬が野生化した馬群も生息する日南海岸の果ての都井岬までは今日でもデートの旅をするには充分過ぎるくらいのルートなのかも知れない。

西村京太郎さんの推理小説で、かつて東京と宮崎との間を走っていたブルートレイン（寝台特急）に乗ってあるカップルが日南海岸へサスペンスとロマンスの旅をした様子が描かれているシーンがあった。ハネムーンのメッカであった宮崎にふさわしい物語と言える。

異性に興味を持ち始めたばかりの頃にその小説を読んだ私もあのように彼女と２人で夜汽車に揺られる旅に憧れたものだ。私もその小説を読んでから１０年くらいしてやっと、山形県と秋田県に跨る鳥海山を登りに乗った寝台特急あけぼの号でその憧れを実現できた。