予知系少女

よーほとん

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特殊な出会いです

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【八】
 『都立不可思議高校』とは私の通う学校です。自宅からは近く、最寄り駅からも近いので電車通学の生徒も多いです。 偏差値は都内の中でも中の上くらいで、国立大学の進学率も悪くないです。頭の悪い私がよく入学できたなと、少し感心してしまいます。

 基本週六日で、登校時間は八時半ですが、朝の弱い私にはちょっと苦痛です。

 現在寝室、目覚まし時計は八時二十六分を回りました。遅刻確定です。しかし私はこれでも遅刻の常習犯という訳ではないのです。前科がないので、わりかし気楽に遅刻できます。表現が少しおかしいですけれど。

 ベッドの右隣に置いてある眼鏡ケースから眼鏡を取り出します。そして、寝起きのだらしない格好を姿見で確認します。ボサボサのこの髪型が、よく眠った証です。

「…………うっかり寝過ぎちゃった!てへっ」

 やってる場合か。

 今日の母は仕事の都合で、六時過ぎに家を出てしまいました。どうやら地方の勤め先に業務があるようで。

 なので自分で起きなければなかったのですが。何故でしょう、いつもの目覚まし時計が機能してません。

「昨日の夜は『時間の天才』を読んだ後、目覚ましをセットしたと思ったんだけど…」

読書に時間を割いて、少し夜ふかししたのは事実ですが、まさかここまで寝過ごすとは。まだ昨日の疲れが取れてないのもあるでしょうが。

 まあ何を言っても仕方ありません。遅刻は確定なのですから、もう少しゆっくりしてから登校しましょう。

 時間を刻む感覚から、たまには解放されてもいいではありませんか。

 時刻は午前八時三十二分、十分な睡眠をとった私は今日の朝を肯定的に捉えられます。

カーテンを開け、朝日を浴びる気持ちよさを久々に感じます。

 一階に降りた私は、顔を適当に洗った後、キッチンに向かいました。お腹が空いたので、冷蔵庫を物色します。

「卵とソーセージがあれば十分かな。にしてもお母さんほんとに忙しいんだなぁ」

 あわよくば、母が朝食を用意してくれたらと期待しましたが、キッチンにも冷蔵庫にもそのようなものはありませんでした。普段なら、忙しくても朝食だけは作ってくれた母を思うと少し残念です。

「しゃーない。目玉焼きから作りますか」

 私は簡単な調理に取りかかりました。

「いただきまーす」

 リビングのダイニングテーブルに、質素な朝食が並んでいます。平皿には塩胡椒のかかった目玉焼きと二本のソーセージが、手前には茶碗半分くらいの白米があります。その横には玉子ふりかけ。

 白米の表面を、ふりかけが隠すかのように覆い被さります。いつも母に使い過ぎと怒られますが、今日は気楽に朝食を楽しめそうです。

 ふりかけが多分にかかった白米を一口食べた後、塩胡椒が全体を覆っているソーセージを口に運びます。

 私は基本、味の濃い食べ物が好きなのです。

「ニュースでも見るか。えーとリモコン、リモコン」

 食事中テレビを見るのも、基本家では禁止です。母が家にいないというだけで、なんだか色々と解放された気分になりますね。

 ソファーに転がっていたリモコンを手に取り、テレビを点けます。チャンネルは四でいいかな。

 画面の左上には、『8:51』と表示されていました。どうやら画面の向こうでは論客達が、とあるバンドマンの女性問題に関する持論を、ぶつけあっていたようです。

「大体ですね!浮気した分際でメディアに喧嘩を売るなど論外です。罪に問われないからこそ我々が注意を喚起しているのですよ……寺にでも入れたらいいと思います」

 またネットで叩かれそうなことを。

 今の、過激ともとれる発言をしたのは、西城誠というコメンテーターです。彼の発言は逐一ネットで話題になります。そのほとんどが炎上なんですけれど。

 まあこういう人もいての世の中ですからね。人が言いにくいことをハッキリ言えるのは良い個性だと思いますよ、西城さん。関わりを持ちたいとは思いませんけど。

 ソーセージを平らげて、喉がいてきました。そういえば朝から何も飲んでいません。加えてあれだけ濃厚なものを食べたのですから、当然ですね。

 水をコップに汲み、一気に飲みます。喉の渇きが潤い、お腹から少し水の音がします。

 時刻は午前九時十分を回りました。一時限目の授業はとっくに始まっています。

「さて、着替えるか」

 洗顔と歯磨きを適当に済ませた私は、ようやく制服に着替える決意をし、自分の部屋に戻ります。最早学校に行く気があるのかというくらい、怠けた朝を過ごしていることに、特に驚きは感じません。きっとこれが私の本性なのでしょう。

 もし今から母がいない生活が数日続いたら、このまま学校に行くことを止めてしまうでしょう。将来の不安や心配より、今現在の怠惰を優先してしまうのがニートという存在です。私にもそのニート気質がばっちり備わっています。働き者の母とは似てもにつかないですね。

「全くうちのお父さんは、どれだけだらしない人だったのよ」

 今家に居ない父の話をしても、尚仕方ありません。

 部屋に戻った私は、怠けを祓うため急いで制服に着替えました。最後に自室の姿見で身だしなみを簡単にチェック。

「よし、今日もそれなりに可愛い。行ってきます!」

 スマホをポケットに入れ、学生鞄に例のちらしを入れます。そして勢いよく部屋から飛び出します。そのままの勢いで一階に降り、玄関の扉に向かおうとしました。向かおうとしました。

 つまり扉には向かっていないです。

 どういう事かと言うと、玄関で立ち止まったのです。忘れ物を思い出したのではありません。ガスの元栓を閉め忘れたわけでもありません。

うちの玄関にしては、不自然極まりなかったので、つい見つけてしまったのです。

 私の靴が、ない――――。

 「ない」という発見をしたのです。

 左側にある靴入れを一応調べましたが、やはり見当たりません。ちなみに私のメインシューズだけがない訳ではありません。

 私の全ての靴がないのです───。本当に全て。一足も残らず。

 お化けや幽霊でないなら果たして誰がこんなことを……とか考えるまでもなく見当がつきました。

「うーん、あいつか」

 信じたくはありませんが、やはり一番可能性があるのは、早朝に家を出た、母です。

私の母――明日冷子。先程も述べたように働き者で、家事全般は難なくこなし、おまけに私への説教やお節介までしてくれる、そんな感じで全ての母要素を兼ね備えています。

 基本厳しく、言い換えれば熱心に私を育ててくれました。例えば、私が寝坊しようものなら、容赦なく頬平手打ちで叩き起こし、朝ごはんをちんたら食べようものなら、食器を片付けられます。私にも原因はありますが、朝だけでも結構ストレスが溜まります。門限は五時半で、五分でも遅れるとしつこく理由を訊かれます。食事中の私語は許されますが、テレビは禁止です。夜中に外出した時なんかは、警察を呼ばれてしまいました。

 おそらく私は、これらの反動で怠け者の明日読子になってしまった……いいえ、止めましょう。自身の性格を親の教育のせいにするのは良くないですね。それでもちょっとは恨んでますけれど。

 まあなんだかんだで、私への愛情が強いんだと思います。それが様々なルールや手厳しさになったと考えるなら、しょうがないです。

 学業については厳しく追及されますが、友好関係に関しては目を瞑ってもらっています。友達が極道の一人娘なんて知ったらどんな反応をするか……。

 話を戻して、母が仮に私の全ての靴を持ち去ったのであれば、一番に考えられる理由は、

「私を家から外出させない為。でもそれだけじゃあ強制力には欠ける。靴だけならお母さんのもあるわけだし、最悪それを履いて行けばいい。とりあえず電話してみるか」

 スマホから母の番号に通話をかけ…る前に、着信履歴に目が留まりました。七時五分に一回、七時半に一回、そして八時にもう一回。全て母からのものでした。ちなみに、母の登録名はシンプルに「クソババア」です。

 その「クソババア」の部分をタッチして、通話を掛けます。

「はい、どうしたの読子?」

 呼び出し音が一度だけ鳴った後に、すぐ母の声が聴こえました。私の電話をずっと待っていたのでしょうか。それに仕事中の母が電話にいち早く出られる状況に疑問を感じます。

「うん、読子だけど。お母さん私の靴知らない?どこにも見当たらないんだけど……」

 親子関係の良いところは、こういう質問をストレートに聞けるところにあります。

「あぁ……靴ね……。えっとー、読子、今日は家の家事をやりなさい。あなたもそろそろ料理くらいはまともに出来ないと駄目よ。それに今日お母さん、夜中に帰るから」

 歯切れの悪い回答に加え、話を微妙に逸らしてきましたか。

 しかし、私は退きません。昨日の鳳凰おじさんもそうですが、何かを隠しながら会話をされるのは、余計に好奇心が刺激されます。

「いいから答えてよ。読子の靴が一足もないなんて、正直普通じゃないよ。それでも話を逸らすんだったら、お母さんのスリーサイズをネットに書き込んでやる!」

「や、止めなさい!そんなことは‼分かったから、もう……」

 母が露骨に焦るのを肌で…耳で感じて、私の鼻は高くなります。ざまあみろ。

「あなたの靴が家にないのは、お母さんがやったことなの。驚かせてごめんなさい。でもね、読子にも原因はあるのよ?昨日、どこで何をしてたの?」

 靴を持ち去った理由を聞く前に、こっちが質問されてしまいました。

 未来予知に関することはとりあえず伏せます。

「昨日は街を散歩してただけだよ?何をそんなに不審がってるの。全く、お母さんは心配性だなぁ」

 昨日私は銀行強盗に巻き込まれました。もしかして、母はその件についての情報を握り、私を安全な家で保護しようと……いいえ違うでしょう。あの間抜けな強盗犯はもうとっくに捕まっているのですから。

「街を散歩?へぇ、街を散歩しただけで、知らないおじさんの家にお邪魔になるんだぁ」

 鳳凰おじさんのことでしたか。何故母がその事について知っているのかはともかく、少し言い訳しにくいですね。

 事実を少し変えて述べましょう。

「昨日の放課後ね、読子そのおじさんの車に轢かれかけたの。危なかったんだよ?でもね、おじさんが後日、謝罪をしたいからうちに来たいと言ったんだけど……うちに来られるとお母さんが鬼の説教をして余計面倒なことになるだろうから、私からおじさんのお家に赴 くことにしたの。なんかおかしい?」

「でも怪我はなかったのでしょう?ならその日に謝罪くらいは済ませられた筈よ」

 しつこいなこのババアは。早く靴を持ち去った理由を尋問したいというのに。

「勿論、その日すぐに謝罪をしてくれたよ。でもそれだけじゃあ不十分だから、後日、日を改めてってことなんじゃないかな。多分詫びの品かなんかを準備するのに、時間がかかったんだと思うよ。それにしてもどうして、鳳凰おじさんのことを知ってるの?」

 よくもまあ、これだけ出鱈目を並べられたものです。事実を少しどころか大部変えてしまいました。

 そして、新しく湧いた疑問を母にぶつけます。

「古い知り合いよ。近所に越してきた時は少し驚いたけれど……。それと靴を持ち去った理由だけど、それもそのおじさん絡みよ。十五の女子高生が、知らないおじさんの家に一人で上がるなんて危険すぎる。変なことでもされたらどうするの?読子の身になにかあったらと思っての行動なの。分かって頂戴」

「私が外出したら、鳳凰おじさんにいやらしいことでもされると?いやいや、再びおじさんの家に行くならまだしも、今日は平日、学校だよ?だから困ってるの!」

「じゃあ、私のスニーカーを履いて行きなさい。もう遅刻してるでしょ?」

 さっきと言ってることが矛盾してるんですけど。何を焦っているんですかね。

 それに、靴を持ち去った理由にどうも説得力が感じられません。昨晩、鳳凰おじさんと母の間に何らかのやり取りがあったのは確定でしょう。鳳凰おじさんの話しを聞いた後、母は私の靴を持ち去ることに決めた。

 思い出すのです。昨日のおじさんと私の会話で母が特に気にかけそうなキーワードを。

『すみません、気になることが多い性格なので。ではこの質問を最後にします。このちらしに見覚えはありますか?』 

『知りませんよ。何ですか、それ』

 やはりこの部分でしょうか。私、元々は母がかけていた眼鏡が載っているちらし。私とのやり取りで、おじさんがそこに疑問に感じ、そしてその疑問を保護者である母に投げかけるのは、鳳凰おじさんのとる行動としては不思議ではないでしょう。

 このちらしの存在を鳳凰おじさんから伝えられた母は、私の靴を全て持ち去るという行動に出た。

 鳳凰おじさんから、例のちらしの細かい情報を伝えられたのなら、今私の鞄の中に眠るこのちらしが、二十年前のものということも、私の、母がかけていた眼鏡が載っているということも知っているでしょう。

 そして明日冷子は、そのちらしを仕掛けた第三者に危機感を感じ取った。その人物から私が危害を加えられることを懸念して、母は間接的に私を家から外出させるのを防ごうとしたのかもしれませんね。

 偶然ではない、母は私とは段違いにそう悟ったのでしょう。でも今回に関しては、母がいつも以上に過剰で大胆な行動に出たのも頷けるんです。

 断固として、その答えに没頭し過ぎるつもりは無いですが、母という立場を除いても、明日冷子にとっては他人事で片付けられないのです。

 ちなみにスマホからは母の声以外に、工事現場のような音がはっきりと聴こえます。事務職の母に相応しくない場所にいるとしか思えません。

「そういうお母さんこそ、実はもう遅刻してるんじゃない?今どこにいるの?」

「昨日の夜、地方の勤務先に行くって言ったでしょ。たまたま、工事現場の近くの所だけれど……。もう仕事に戻るから、じゃあね」

 ここで通話が途切れました。というより、一方的に切られました。未来予知に関して、もう少し問い詰めるべきでしたね。最後の最後まで誤魔化されましたが、まあ今のところはいいでしょう。

 時刻は九時四十一分。一時限目がとっくに終わり、今頃生徒たちは休憩時間にはいっています。

 今日は遅刻しても学校には行く予定です。

 そう、Fの手がかりを少しでも探るために。 

 
【九】
 学校に着いたのは、十時十分頃でした。もう二時限目が始まって二十分が経過しています。授業中に教室に入るのは、若干アウェーな感じがしますが、それも自業自得です。先生には寝坊して遅刻したと、答えておきました。

「おはよう、読子。随分遅れたわね。何してたの?」

 遅刻したときのこういう質問は答えるのが面倒臭かったりしますが、情ちゃんなので、あまり不快感はないです。

「別に、ただの寝坊だよ。にしたって今日は数学がないのが救いだね」

 今、教鞭をとっているのは、このクラスの世界史担当の中島 秀才先生です。

私の遅刻にも居眠りにも無関心な、とても良い先生です。それと正反対なのが竜桜先生なわけですが。

「では、まず」

 私は眼鏡を外し、中島先生を見つめます。中島先生はそんな私を見向きもしません。

 時刻は午前十時十二分。

 予知―――――。

 目に浮かぶ映像は正しく、五分後の未来のそれです。

 そう断言できるのも昨日の実証結果からもそうですが、黒板の右上の位置にある時計が、今から五分後の十時十七分を指しているのです。

 黒板に書かれている文字数も増えています。黒板の右上には、アレキサンダー大王の説明が書かれています。しかし肝心の中島先生は、特に大きな、面白い変化はありません。

 五秒が経過し、映像が途切れます。

 しかし、授業の内容が先読みできるのは結構なメリットかもしれません。

「読子どうしたの?眼鏡なんか外しちゃって。余計見えなくない?」

 一つ後ろに座る情ちゃんが、さらりと指摘してきます。

「情ちゃんが似合わないとか言うから外したのに」

「別に私に言われたからって外す必要はないじゃない。昨日のはただの冗談よ。もしかして真に受けちゃった?」

 訂正、やっぱこいつうざいわ。そして昨日の放課後を思い出して更に腹が立ちます。

「あーっ、分かった!あんた中島先生に気があるんでしょう?大好きな先生のお姿は直で見たいんですぅ、的な?」

 授業中によく喋るなこのクソ眼鏡は。

 いけません、いけません。情ちゃんの冗談にまた踊らされてどうするんですか。しっかりしなさい、明日読子。

 眼鏡を一旦もとに戻し、後ろの勘違いさんに懇切丁寧に説明します。

「そういう気はないよ。ただ、眼鏡なしでどのくらいの視力なのかなあって。それに先生のほぼ正面に座ってるんだから、視界に入っちゃうのは仕方ないでしょ?」 

「それもそうね。だけど読子、あんたノートとらなくていいの?」

 あっ……そうですね。ご指摘どうも。

 時刻は十時十七分を回りました。予知した映像の通り、黒板の右上にはアレキサンダー大王の説明が書き終わっていました。 成功と言えるでしょう。

 授業の途中からノートをとる私に、授業内容が頭に入る訳もなく、結局二時限目の世界史は、アレキサンダー大王の名前だけ覚えて終了です。  

 二時限目が終わり、十分の休憩時間です。私は下の階の購買に、昼食用のパンでも買いにいくつもりです。

「あっ、待ちなさいよ。つれないわねぇ」

 情ちゃんも一緒に来るようで。私と情ちゃん、共にいる時間が長いだけに、いつも側にいるのが当たり前の感覚になっていました。長いといっても一ヶ月ですけどね。

 しかし今回に限っては少し邪魔です。言い方が悪いですね。夏場の蚊並みに厄介です。

 校内の生徒や教室に対して未来予知を行使するには、休憩時間は絶好の機会です。だからこそ、私の行動の変化に敏感な彼女は、近くにいてほしくないのです。

 かといって変に断るのも、余計面倒になりそうです。

 いや、いっそのこと未来予知の事を話してみるのもいいかもしれません。事情を話せば良き理解者になってくれるかも……。

「あんたは何にするの?私はシナモンパン」

 購買機の前まで来た私達は、それぞれパンを選びます。

 この購買機は食堂に含まれていて、食堂料理の値段に悩む生徒達の、救いの場でもあります。それにうちの食堂のおばさん、量多めにサービスしてくれるのはいいんですけれど、女子からしたらありがた迷惑です。

 なので、この購買機は女子生徒から結構な人気があります。

「私もシナモンがよかったのに……。後一個しかないじゃん。メロンパンでいいや」

 不満を漏らしつつ、適当に選んだやつで妥協します。

「ジュース。読子の分も買ったげるから先戻ってなさいよ」

「あら優しい⁉流石人道に生きる乙女だね」

「買わないわよ」

「冗談です。素直に感謝します」

 くだらない会話を後に、情ちゃんの元を去ります。これはついてますね。情ちゃんの心遣いに、今回は救われました。

 これで心置きなく未来予知ができます。といっても次の授業まで四分もないんですけど。

 食堂を抜けてすぐ右に曲がると、大きな踊り場があります。ここを通る人は多いので、片っ端から試していきましょう。

 一人目、ジャージ姿の体育教師、斎藤先生。

 予知―――――。

 人通りの多い所で予知をする時は、きちんと対象を一人に絞らなければ昨日の二の舞になります。

 予知終了。

 次は、私と夫人同じおかっぱ頭の男子生徒です。可愛らしい顔をしています。

 はい、再び予知―――――。

 今までで一番有意義な四分間だったと思います。

 私はその後も未来予知を続け、三十二人もの教師及び生徒の未来を視ました。

 ジュースを買い終わった情ちゃんがやって来る前に、眼鏡をかけ直しておきます。

 「まだ残ってたの?授業遅れるわよ。ほれっ」

 情ちゃんに投げ渡されたジュースを片手に、私達は教室に急ぎ足で向かいました。 

「ギリギリなので、許します」

 チャイム寸前で教室に滑り込むことに成功したからといって、先生に怒られないとは限りません。

 しかしこの人の場合は少し事情が違います。三時限目は、校内屈指の人気者、母羅々堵[ははららど]先生の現国です。この先生は、怒りのボーダーラインが高くて滅多なことでは怒りません。というより怒っても怖くないので、そう認識されているだけかもしれませんが……。

「んじゃ、はっじめっるよー!」

 そんな母羅々堵先生の軽快な挨拶で、授業はスタートしました。

 現国の授業が始まって十五分が経過しました。チョークと黒板のぶつかる音が教室中に響き渡ります。母羅々堵先生は、チョークで綴るときの音がとても大きいのです。正直五月蝿いです……。

 お世辞にも字は綺麗とは言えず、加えて書くスピードが早いので、生徒たちはついていくのがやっとです。

 まあこのテンポの良さが、母羅々堵先生の授業の良さでもあるんですけれど。

 のろまな私は勿論、ノートを書くペースが遅いです。やる気の問題ですね。私のやる気スイッチを誰か押してください!

 ひとまず書き終わったのか、母羅々堵先生がこれまた大きな声で、クラスの生徒たちに呼びかけます。

「みんなー、書けたかなー?まだの人は急いじゃってくださいなっ。早くとれた人には飴をあげますよっ!」

 飴は別に欲しくないので、たらたらノートをとり続けます。 唐突ですが、先生の授業中の行動って、人によってパターンが分かれますよね。例えば、教科書に載ってる事項をノートにとるよう指示する派と、しない派。大事なところは黄色のチョークで書く派と、赤いチョークで書く派。教科書の文章を生徒に音読させる派と、させない派。授業中の居眠りを完全無視する派と、激昂する派。叱りつけた生徒を廊下に立たせる派と、後ろに立たせる派。等々……。

 個性の強い母羅々堵先生も、派閥にしっかりと属しています。

 それは教室を巡り、生徒のノート状況を確認する派です。

 このパターンの先生が教鞭をとっている時は、サボりがバレやすいのですが、この先生はやはり一味も二味も違うのです。

 母羅々堵先生が私の席に接近します。

「はい、はい」

 何故かこのような軽い反応で流すのです。私のノートは黒板の半分も書けていないです。

 私の前の生徒も大雑把に流します。母羅々堵先生の巡回はしばらく続きますが、まあそれもしっかりしたものではないでしょう。

 ちなみに居眠りをしていても、特に叱られたことはありません。

 生徒により近い距離で接するスタイルの母羅々堵先生は、意外な所で適当だったりします。こういう適当さが、彼女の一番の人気要素かもしれません。

 ノート巡りの旅が終了したのか、先生は黒板の前へと早足で向かいます。

「はーい、今日の飴ちゃんは名原さんのものでーす!授業中に食べちゃっても平気だからねっ。あっ、竜桜先生の時はダメよ?命に関わるからね」

 クラスから笑い声が漏れます。こういう冗談も言える先生なのであまり授業は飽きません。二十分くらいは。

 そろそろ私の限界値の二十分が過ぎようとしています。あぁ、眠い……。重力が瞼に重くのしかかり、目に全く力が入りません。

「読子、起きてなさいよ。あんたただでさえ教師からのイメージ悪いんだから。母羅々堵先生にまで嫌われたらまずいわよ」

 情ちゃんの必死の説得も私には届きません。彼女の正論が、いつの日か私のまどろみに討ち勝つことを祈って、

 おやすみなさい────────。

 
【十】
 キーンコーンカーンコーン。チャイムらしいチャイムで、というかただのチャイムで目を覚ました時には、十一時四十分でした。三時限目が終了し、休憩時間が五分過ぎたところです。結局、授業の内容は一片も記憶にありません。私の海馬曰く、名原さんが飴を貰ったことは覚えているようです。どうでもいいですね。

「んー、よく寝たぁ」

 休憩時間のざわつきに便乗し、そこそこ大きな声を出して、同時に伸びをします。

 さて……頭が冴えたところで、先程の二時限目と三時限目の間の休憩時間に、私がどんな未来予知をしたのかを頭で整理しようと思います。

 まず予知した三十二人の内、二十人が自身の教室に戻り、授業の用意をしていました。そして残りの十二人の内五名が教員で、内二名が職員室に向かい、三名が四時限目担当のクラスに向かいました。職員室に向かった二名の教員は、体育教師の斎藤先生と音楽教師の涼風先生です。

 担当のクラスに向かった教員は、あの竜桜先生と数学の矢田先生、それと英会話のマルムレット・トトントン先生です。ちなみにこの先生、国籍は不明です。いや、私が知らないだけだと言われればそうなんですが、興味を持ったクラスメート数人が、本人や別の教員に問いただしてもはぐらかされてしまったようで。

 やがて、本当に誰もマルムレット先生の国籍を知らない――つまり不明では?、みたいな噂が面白半分に、広まってしまったのです。不明というのは大袈裟だと思いますけれど、そのほうが流行りやすかったんでしょう。

 この先生の授業は私も集中しています。授業内容ではなく、マルムレット先生を観察して、いつかこの先生の正体を見破るのです。生徒ではなく、探偵のような気分になれます。

 そして残りの七名の内三名はトイレへと向かいました。男子が一人いたので、少しどぎまぎしましたよ。立ちションってああやるんですね……。

 最後の四名に関してはそれぞれ行動が違いました。

 一人目は男子生徒で、早退なのかサボりなのか分かりかねますが、学校の門を出ていました。

 二人目は、一Bの速見さんの未来です。彼女は授業中にも関わらず、陸上の練習のためグラウンドへと向かっていました。全国レベルの足の速さを誇る彼女は、学校でも優遇されているので、こういったことはよくあります。

 三人目は、二回目に予知したおかっぱ頭の男子生徒です。可愛らしい顔をした彼は、授業前にも関わらず、女子生徒に囲われて右往左往していました。

 そして四人目、最後の一人に関しては―――――視えませんでした。

 今生勇人[こんせいゆうと]君、私のクラスメートで野球部に所属しています。筋肉質な男の子で、学級委員という誰もやりたがらないような仕事を、率先してやってくれるくらいには、責任感が強いです。女子からも一定の人気を得られる程の、爽やかなルックスです。

 そんな彼の未来を予知した私ですが、正直自分でも理解が追い付いていません。

 彼を予知した時に視えたものは、真っ暗で真っ黒な、無音な映像。映像とは言えませんね、最早あれはただの闇です。

 時刻は十一時四十四分。

 四時限目の授業は物理です。物理担当の先生は、授業中の居眠りを許してはくれません。それが当然といえばそうですが、二時間連続で天国を味わったので、どうも厳しく感じてしまいます。

 鞄から物理の教科書、ノートを取りだしたところでチャイムが鳴り響きます。と、同時に四時限目担当教師が一Aの教室にずかずかと入ってきます。せっかちなのに、時間にはいつもギリギリなのがこの先生の特徴です。

「はい、挨拶」

 号令係の今生君が、いち早く大きな声で唱えます。

「きりーつ、気をつけ、礼!」

 よろしくお願いします。

 クラス中がこの言葉で一杯になったところで、退屈な四時限目の始まりです。

 物理の膝踵[ひざかかと]先生は、授業中に生徒のノートを確認しない派なので、気楽といえば気楽ですが、教科書の内容を生徒に音読させる派なので油断は禁物です。今日は幸いにも、私のところには回って来ないのでラッキーですが。

 ラッキーと言えば、もう一つありますね。

 私の右斜め後ろの席に座っている、今生勇人君。私が予知能力を以てして、初めて未来が視えなかった人物。その彼と同じクラスにいるという事実はとても幸運でしょう。

 今のところは未来が視えなかった、ということにしていますが、本当は違うかもしれません。

 真っ暗で真っ黒で無音の闇。もし、あれが人の死を表しているものだったら、と心配しましたが、この見当は的外れだったようです。死を表しているのなら、彼は、今生勇人君は予知した五分後に天に召されている筈ですから。

 未来予知が出来るようになって、初めてのイレギュラーというのに、しかし湧いてくるのは好奇心より不安の方です。

 彼は私の予知能力を既に把握していて、未来を視られまいと、何らかの防御索をとり私を監視している……。そして未来予知機構本部(※私の勝手な妄想です)の役員にその都度、私の状況を報告し、時が来たら始末するように言われてたらどうしようっ⁉

 なんだか手汗がもの凄いことになってきたので、妄想を一旦止めます。頭を冷やします。

 時刻は十一時五十五分。まだ、四時限目が始まってから十分しか経っていません。

 この緊張状態から解放されるまで、しばらく時間がかかりそうです。かといって居眠りができる状況でもないので……。

「先生、トイレに行ってもいいですか?」

 膝踵先生の元に向かい、小声で訊きます。

「おう、行ってらっしゃい」

 この辺の融通が利くのは助かります。極たまに、トイレに行くのも許してくれない先生とかいますからね。竜桜とか竜桜とか竜桜とか。

 ひとまず女子トイレに駆け込んだ私は、冷静さを取り戻すために、深呼吸をします。鼻から吸って、鼻から吐くの動作を数回繰り返します。

「何なのよ、全く……」

 落ち着けません。彼の存在が頭から離れなくて仕方ありません。

 どうして、今生勇人の未来が視えないのか。授業内容そっちのけで、その疑問ばかりが頭の中で暴走しています。授業内容がそっちのけなのはいつも通りですけれど。

 未来予知という摩訶不思議能力を、昨日ようやく血肉化してきたのに、その翌日には例外の発覚ですか。神様は少し気が早くないですかね。

 それに血肉化したと言っても、このような存在を認識してしまうと、やはり予知能力の実態は知れたもんじゃないと懐疑的になりますよ。

 根拠の乏しい空想に囚われすぎるのは良くないですけれど、そんな考えが意外と、予知能力の真実やFへと通ずる道だったりするでしょう。『未来機構』は、少しありきたり過ぎると思いますけれど。

 昼休み……昼休みです。四時限目が終った後の昼休みに、再び今生君の未来を予知し、その結果がどうであれ、彼に直接問いただすのです。

 結局私は用を足すことなく、トイレから出ました。

 途中、洗面台の鏡にやつれた顔が映っていました。気になる男子のことを考えているというのに、この美意識の低さはちょっと問題ですね。

 四時限目の地獄、もとい授業を乗り越えた私は、いち早く眼鏡を外しました。

 後ろの情ちゃんは、大事な昼休みを睡眠に使っています。彼女に起きられたら、また質問攻めに遭うかもなので、やるべきことはちゃっちゃっと済ませましょう。

 筋肉質な背中を凝視して、予知。

 一、二、三、四、五。

 映像が途切れます。いいえ、闇から解放されます。

 結局、先程と同じように何も視えませんでした。まあ、この再確認のお陰で中途半端な迷いは振り切れそうです。

 念の為にもう一度予知をします。今度は…そうですね。今生君と仲の良いクラスメート東西君を視ます。頬杖をついて、頭を空にしているようです。

 予知―――――。

 私の視界を支配する映像は、過去最低の画質です。景色は東西君がポッケトに手を突っ込みながら廊下を歩いています。初めてです、こんな真上からの映像は。まるで監視カメラのようです。

 黒い影。それが教室の入り口から出た途端、映像は強制ダウンさせられました。プツリと電源が切れ、砂嵐が頭の中を渦巻いています。

「ぐっ…が、あっ…」

 今のうめき声は幸い聞かれていなかったようです。

 これは成功とも失敗とも言えない微妙な結果でした。黒い影は未来から拒否されているのでしょう。視るものを容赦なく苦しめるそれは、護りの呪いです。

 五分後に今生君と一緒にいそうな生徒を対象にすることで、間接的に今生勇人の未来予知を可能にする。頭はまだざわついています。あまりやらない方がいいですね。

 教室を出た今生君の後をつけます。この時の彼を私は視たのでしょう。

 彼が一人になるところを見計って、色々問いただしたいのですけれど、中々一人にさせてくれません。彼は男子からも女子からも人気があるので、彼が歩く所はすぐ人溜まりになってしまいます。

「勇人、昼飯は?」

 現在、私の前を歩く今生君に、三人の男子生徒が群がっています。今、今生君に声をかけたのは男子生徒Aです。すみません、名前が分からないもので……。

「まだ、今買いに行くとこ」

「あ~俺もだわ。下の食堂にするか?」

「えぇ?食堂かよ……。俺金ないわー」

 男子生徒B、Cが立て続けに口を挟みます。

 このままじゃ、普通に食事をとられてしまいます。一人になる機会を周りが与えてくれません。

「読子~、あんたどこ行くの?」

 この悩める状況でもう一つ、課題が増えそうです。なんて最悪なタイミングで声をかけるのでしょう。あいつは。

 寝起きなのか、まだ少し顔がぼやけています。

「やっぱり、食堂で食べようかなぁと。たまにはしっかり栄養摂らないと……ね?」

「ふーん。じゃあ、私も行くわ。一人で食べるなんて寂しいもの」

「へぇ、明日と人道ってやっぱり仲いいんだな」

 と、私たちのやりとりが気になったのか、男子生徒Aが食いついてきました。コミュニケーション能力が低い私にとって、あちら側から声をかけて貰うのはありがたいですが、今、A君の事は心底どうでもいいのです。

「あっ、そ、そうでもないよ?彼女、私が居ないと生きていけないだけだから」

 無視は失礼なので慣れないジョークで返すには返したのですが、AとBには受けが良かったようでなによりです。

 肝心の今生君は、早足に食堂へと向かってしまいましたが。軽いノリでできた輪は、あっさりと崩れるものです。

 私もそれに追い付こうと、ABCの横を抜け、今生君を追います。

「読子~、席とっといてねー」

 情ちゃんは私の後を追うつもりがない、ABCは駄弁りながらタラタラ歩いている、これはまたとないチャンスだ。

 食堂へ向かう下りの階段で、今生君の背中を間近に捉えます。

 そして、

「あの、こんせ――」

「あ、勇人君!これ今週の練習メニューだよ。はいっ」

 態度と行動からして女子マネージャーでしょう。見事に先を越されてしまいました。言葉通り、練習メニューが書かれたプリントを手渡して、彼女は階段を上り、私の視界から消えました。

「ん、何?明日さん」

 私の、あの中途半端な呼び掛けにしっかり答えてくれるところは、彼の長所でしょう。しかし、ABCがすぐそこまで迫って来ています。折角向こうから聞き返してくれた訳ですが、あまり悠長に会話もできないでしょう。会話のテーマが未来予知なら尚更、他の誰かに聴かれたくはありません。

 一言、たった一言で十分です。

「私、未来が視えるの。誰にも言わないでね」

 男子生徒ABCに辺に怪しまれる前に、急ぎ足で食堂へと逃げ込みました。 

 結局、昼の食事は食堂で済ませました。先程買ったメロンパンは、間食の為にでもとっておきましょうか。

 私の気になる今生勇人君は、同じ食堂で食事をとっていました。カレーのようなものを召し上がっていた記憶がありますが、まあそれはどうでもいいのです。

 食事中、彼は私のことを頻繁に気にかけていました。私が彼を気にしている以上に、彼は私を気にしていました。

 それもある意味当然でしょう。同じクラスでも、特に関わりのない女子から未来予知等という意味不明な単語が発せられたら、誰だって不思議に感じます。

 彼が未来予知を理解しているか、していないか、この二択を一つに絞れたわけではありませんが、掴みは上等でしょう。私が男の子だったら、こんな反応はしてくれなかったと思います。

『おい明日!さっきのどういう意味だよー。取り敢えず野球しようぜ!』

 こんなキャラでもないと思いますが、女子の秘密を他人に話すのは、少しでも抵抗はあると思います。軽いノリで日々を生きているような輩なら、あっさり周囲にばらしてしまいそうですが、それが責任感の強い彼のことならそうはいかないでしょう。無論、今生勇人という人間を断言できる程、私は彼のことを知りませんが。

 ついでに言うと、今は五時限目の授業中です。食事をとった後の授業というのは、睡魔に襲われやすいです。

「読子、起きてなさい」

 はいはい。

 胃の中のものを消化する為に、副交感神経が活性化し、そのせいで眠気があるのです。決して私の意思ではありません。生物学的観点からすれば私の反応はごく自然なものではないでしょうか。

 生物は嫌いではありません。人や生き物の体内を細かく勉強できるのは、時に楽しかったりもします。生物の構造や、生理現象を客観的に学ぶ学問だというのに、生物担当の原山先生は、居眠りを許してはくれません。

 ちなみにこの先生は特徴的な声と喋り方をするので、生徒(主に男子)の物真似の対象によくされます。今生君がやってるのも見たことあります。

「つまりだねぇ、このミトコンドリアを活性化させることによって、免疫力の強化、老化の予防につながるんだねぇ」

 そうですねぇ。

 何が面白いんだよ。やって後悔したよ。心の中だけど。

 じっと座学に取り組む集中力が皆無の私は、ころころ脚を組み替えたり、あくびをしたり、下手くそなペン回しにあくせくします。

 その甲斐あってか五時限目の授業もそろそろ終わりそうです。時刻は午後二時十分。この睡魔という魔物の猛攻から、私は後五分で開放されます。

 暇なので未来予知でもしますか。原山先生を対象に、

 予知―――――。

 五分後の未来は果たしてどのようなものなのか、期待で胸を膨らませてしまう訳ないでしょう。しかも熟年教師の原山先生ですから、きっとこんな感じなのでしょう。

『明日君、今日遅刻したんだってぇ?最近職員室での評判悪いよぉ。ほどほどにねぇ』

 予知した映像の内容をざっくりまとめると、授業終了直後に原山先生が私の席まで来て、警鐘を鳴らすといったような感じです。

 映像は途切れてしまいましたが、私は少し焦っていたようです。

 私の未来予知は、基本私視点の映像です。一人称視点とも言いますね。なので、自分の顔は鏡などがない限り見えませんが、私の手や服装、仕草等は見えるのです。

 私が予知した未来の映像は、対象とした人物が発する物音や声しか聴こえないので、私自身の声は勿論聴こえません。例え、未来の映像の中の私が何かに触れていても、何かを食べていても、その感覚は未来を予知している私には届きません。

 さて、そんな確認をしているところで五分が経過しました。授業終わりのチャイムが鳴り響き、クラス中が騒がしくなります。そして予知した通り原山先生が私の所までやってきます。

「明日君、今日遅刻したんだってぇ?最近職員室での評判悪いよぉ。ほどほどにねぇ」

 はいはい、さっき聞きましたよ。同じ説教を二度されるのはなんだか気分が悪いです。仕方ないですけどね。

「あー、すいません。以後気をつけます」

 適当な返事で流す私に、焦りはありませんでした。自分の仕草や態度は予知したものとは変わってしまいましたが、まあ概ね予知した未来に間違いはないでしょう。これで、間接的に視た自身の未来は簡単に変化することが分かりました。そもそも、二度同じような体験をする訳ですから、自分の態度や心境に何の変化もないというのが不自然ですね。

 とりあえず、六時限目の用意をした私は席に戻りました。もう、今日何度目か分かりませんが今生君の様子を観察するのです。ストーカーと思われると問題なので、トイレに行く道中のすれ違いざまで自然に確認します。

「マジか、やっぱあの漫画打ちきりかよ。つまんなかったしなー。ハハハ」

 友達と何らかの会話をしながら、今生君が向かい側からやって来ます。見たところ違和感は感じませんが、私とのすれ違いでどんな反応をするのやら。

 席を立つのなら今です。

「読子どこ行くの?」

 ここで情ちゃんが声をかけてくるのも分かっていました。別に予知した訳ではありません。近くに居れば、私が行動を起こす時彼女は決まってこんな風に声をかけるのですから。いまだにその理由は分かりませんが。

 そして私は彼女のその問いに対してこう答えるのです。

「秘密だよ」

 今生君の態度が明らかに変化しました。勢いよく私に振り向き、まるで何かを思いだしたような焦りの表情を浮かべていました。

 秘密。今、今生勇人君は明日読子の秘密を知っています。というより私が教えました。その自覚がこの一言で一気に目覚めたのでしょう。

 このまま席に戻るのも不自然なので、足す用もありませんが一応トイレには向かいます。

 別に今生君をからかいたい訳ではないのです。むしろ、他の誰にも話して欲しくないからこそ、こうやって遠まわしに念を押しているのです。まだ彼が軽いノリのお喋り野郎だという可能性もないとは言い切れませんし。

 あとは放課後で彼の正体を問い詰められればと思ったのですが、そういえば彼には部活がありましたね。これに関しては仕方ないですが、どうにかして彼と誰もいないところで話せないものでしょうか……。

 仕方ありません。彼の未来を予知しまくって、彼のことを少しでも理解するようにしましょう。いや、今生君の未来は視えないんだった!こんな基本的なことを忘れてしまうとは、私相当焦ってますね。もう、女を困らせる男ね。

 なら現状、彼と最も親しみのあるありそうな友人の未来を予知して間接的に今生君の情報を得るしか……。それはさっき試して駄目だったでしょう。馬鹿ですか私は。

 思考回路にどうも支障が見られます。

「いやいや―――――――――LINEでいいじゃん」

 その結論に至った時はすでに遅く、五分休憩があっという間に終了していました。六時限目開始のチャイムがその証です。

 私の現在位置はトイレの個室前。中途半端な所で最悪な時間帯を迎えました。

 未来予知が出来る私がこんな簡単な未来を視逃すとは……。一つの事に集中し過ぎると先が見えなくなる癖は、直したいものですね。

 午後二時二十一分。急いで教室に駆け込んだはいいもの、既に六時限目の授業が始まっていました。ちなみに保健です。

 教室に滑り込むのも、このアウェーな感じも今日で二度目です。

 保健の佐藤甘味[さとうあまみ]先生は特になんの特徴もありません。見た目も口調も授業内容も特別変わっている訳ではありません。癖の強い教師が多いこの不可思議高校の中ではむしろ珍しい方だと思います。

 ちなみに佐藤先生は教科書の内容を生徒に読ませる派です。そろそろ私の番が回って来そうです。

「はい、次」

「健康水準の向上に関わった大きな要因として、経済の発展が挙げられます。」

 私の番はこれで終わりです。短くて良かったでした。

 教科書を読ませる派と言っても、実はそこから更に二つの派閥に分かれるんです。黒板に書き写す要項の本文を全て一人に読ませる派と、一人に一行ずつ読ませる派ですね。

 まあ、そんなことはどうでもよくて。なんというか暇なんですよね。授業が終わって放課後になっても私の場合、家に帰るだけですから。

 放課後今生君に接触出来る機会もといきっかけがない私が、彼から話を聞き出すにはもうLINEしかないです。学校の人気者の彼が一人でいる状況が想像できませんし、私みたいな地味な奴と二人きりで話ができるなんて尚更無理でしょう。仮にその現場を誰かに目撃でもされたら、変な噂が流れて今生君に迷惑です。いや、もう迷惑はかけているんですけれど。

 私のLINEの友達人数は百二十一人です。といってもその殆どと会話することはないです。その内の約四分の一が公式アカウントなのは恥ずかしいので伏せておきます。

 自分から友達追加することに引け目を感じる私は、基本追加待ちです。今生君からも追加してもらいましたが、彼の場合は誰だろうと片っ端から追加していくタイプなのでしょう。

 余計なことを考えれば考えるほど時間の進みが遅いことに気づかされます。時刻は二時四十分。まだ、二十分しか経っていません。

「あーあ、早く終わらないかなぁ」

「あと三十分我慢してね」

 クラスから笑い声が溢れます。小声で愚痴を言ったつもりが、思いっきり聞こえていたようです。

 この恥ずかしさも今日で二度目です。自業自得とはいえ、なんだか今日は嫌な日です。

 ノートにびっしり書き埋められた文字を眺めます。意味のないただの文字列。ノートの半分は黒板のものではなく、私の興味標的を表すアルファベットでした。

 鬱だ、寝よう。

「読子、竜桜先生が来月結婚するんだって」

 眠気覚ましなのか嫌がらせなのかはたまた両方なのかは知りませんが、もう構うのが面倒なので無視します。

 お休みなさい。佐藤先生は居眠りに厳しかったり甘かったりムラがありますが、今日は甘いことを祈ります。

 しかし一度目立ってしまった私がぐっすり眠らせてもらえる訳がなく、佐藤先生には他の生徒気づかれぬようこっそり注意されました。私にこれ以上の恥をかかせないためのお気遣いには心から感謝致します。

 結局今日最後の授業も全く集中できずに終わってしまいました。

 放課後。授業という魔と戦い続けた生徒達が、心を解放する有限の楽園タイム。彼の者は部活動に勤しみ、彼の者は委員会で議論に熱中し、彼の者は夕暮れの教室にて甘酸っぱい恋の体験を、そして私は―――――――――――――――

 ただ帰るだけです。校門に向かう早さで私の右に出る者はいないでしょう。 ところがその早さに着いてこれる輩がいるのです。校門に向かう道中でもやはり彼女の声は聴こえます。

「読子ー、今日も仲良く一緒に帰るわよ」

 この子、私のこと好きすぎじゃない?

 黒渕のボストン眼鏡をかけた人道情さんは今日も今日とて、私の側にやって来ます。最近そんな情ちゃんが可愛いと思ってしまいがちですが、どうせ今日も別れ際に酷いことを言ってくるに違いありません。

 私の好感度を上げたいのか下げたいのかよくわからないですね。

「唐突だけど私がどうしてあんたに付きまとってるか知ってる?」

 付きまとっている自覚はあったんですね。

 それにしたって確かに理由は気になります。元を辿れば、入学式の時に情ちゃんの方から声をかけてくれたのが、私達の友人関係の始まりですし。

「それはね…………。読子、あんたのかけてる眼鏡が―――――」

 情ちゃんの口が止まってしまいました。何でしょう、彼女は前を向いたまま固まっています。まるで何かに気が付いたように。

「読子、あんたにお客さんよ。ほら」

 と言って私に前方の人影を見るよう仕向けます。そこにいる人物は本来なら部活動に参加している筈です。 しかし現状は制服のまま、校門の前で私達を見つめています。

「私は見てないと思うわよ。完全にあんたの方を見てるわ」

 今生勇人君。今私を待ち伏せるかのように校門前にて構えています。右肩に大きなエナメルバッグをかけていることから、今日も部活動なのでしょう。

 本当に私に用があるのでしょうか。それはこちらとしても好都合なのですが、情ちゃんがいると話したくても話しにくいです。今は、未来予知のことを彼女に知られたくないのですから。

 彼女は確かに信頼できます。言ってしまえば、今生君より先に未来予知について話しておいた方が気楽だったかも知れません。

 では何故それをしないのか。理由は大きく二つあり。まず私のやろうとしていることの危険性です。いるかどうかも分からないFなる人物を探るために私は行動しています。そこに彼女を安易に巻き込みたくないのです。いくら危ない人を見てきた情ちゃんだとしても、危機に対応できるかはまた別問題です。断ればいいだけですが、何だかんだで協力してくれる姿勢に私は妥協してしまうでしょう。情ちゃんは口は達者ですが、体はか弱い女の子なのです。

 未来が視えるなら危機を回避するのは難しくないかもしれませんが、時に私の好奇心が勝り、そういったものを顧みずに突き進んでしまうような状況もあるでしょう。それがFに近づく為に重要なら尚更。

 二つ目は彼女の家系です。極道の一人娘を勝手にあちこち振り回すような真似でもしてみなさいよ、普通に殺されるでしょう。そこまでいかなくても痛い目には遭わせられそうです。私自身それが嫌なので彼女には関わって欲しくないのです。

 情ちゃんは信頼してるけれど、その家族までは信用できません。

「私はお邪魔のようだから、ここらで失礼するわ」

 なんだ空気が読めるじゃないですか。普段ならしつこく追求してくる癖に。

 まあ今は助かりましたけど。助かったと言えば、彼女には何度も助けられていますね。昨日なんかは授業中ノートを見せて貰ったし、私が居眠りしそうなときもしょっちゅう声をかけていたり……。これは少し違いますが今日はジュースを奢ってくれましたね。多分今挙げた以外でも、知らず知らず助けらたりお世話になっているのではないでしょうか。いいえ、きっとそうです。

 無神経な私が彼女の日々の優しさに甘えていたのならなんだか申し訳ないです。散々心の中で悪態ついてごめんね、情ちゃん……。

「あっ!読子、ジュース代返して」

 一瞬心が揺らぎそうになりましたが、そもそも人から奢って貰うのが普通だと思わない方がいいですよね。女子高生のお財布事情からしてみれば、たかがジュース代でも高くつくのです。

「ああ、ごめんごめん。ええっと、ちょっと待ってね」

 私は財布から百五十円を取りだし、情ちゃんの掌に乗せます。

「さっきはありがとね。じゃあね」

「おい待て。足りないぞ」

 情ちゃんに少し威圧的に呼び止められます。

「あれ?コカ・コーラカロリーゼロ五百ミリリットルで百五十円じゃなかったっけ?」

 情ちゃんは、凄みのある無言からゆっくりと発しました。

「五時間分の利子があるだろう」

「取り立てのヤクザが言いそうなことを……。いいよそういう冗談は」

「それだけじゃない。授業中の居眠り防止の呼びかけ代×2に授業中暇だろうから冗談で楽しませてやった代×2にどうせ昼食食べる相手いないだろうから一緒に食べてあげた代にetcで税込み四七二〇円だ。こちらが請求書になりますので、氏名、住所、電話番号メールアドレス、口座番号をお書きになりましたらここに印鑑を押してください。シャチハタは不可で」

「うるせぇよ!もう帰れよ‼」

 色々と前言撤回。思い出してみれば、この女は嫌な意味でオチをつける奴でした。

 人道情と言う名の守銭奴は一目散に下校しましたが、いまのやり取りを彼に見られてしまったのは最悪です。

「あの……大丈夫?」

 ドン引きされているじゃないですか。その反応を見ても大袈裟に焦ることがなかったのは、今日の修羅場を乗り越えた末の成長でしょうか。

 今生君に声をかけます。幸い、校門前には私と今生君の二人だけです。二人っきりです。

「えっと……なんかごめんね、やかましくしちゃって」

「いやいや、面白かったぜ。明日さんの意外な一面が見れて」

 彼は笑いながら言ってくれました。笑った際に見えた白い歯がなんだか眩しかったです。

 彼の一言で精神的にも落ち着いてきました。彼とこのまま雑談でもしたい気分ですが、その誘惑は今は抑えるべきです。

「なんか急に呼び止めてごめんね。さっきのことが気になってさ」

「いいよ、気にしてないし」

 私が若干上から目線なのはただの照れだとお察しください。生意気だと思われていないでしょうか。本当は今生君と誰よりも話したかった癖に。

 そして今、彼はとても大事なことを言ってくれましたね。

 さっきの事とは未来予知のことで間違いないでしょう。

「えっ?さっきのことって?」

 絶対うざい奴だと思われたでしょうね。心ではいくらでも素直になれるのに、どうして実際に話すとなるとこうも面倒なのでしょうか。私という奴は。

「いやいや、忘れちゃった? 未来が視えるとかなんとか言ってたでしょ」

「あ、あー!あ、あのことね。覚えてる、覚えてる」

 私があたふたしているのは置いておいて、その話題を今生君の口から聞けたのはありがたいですね。LINEで訊き出す必要性がこれで消えました。

「その事で君に伝えなきゃならないことがあるんだ。それは」

 その言葉の続きは全く予想できません。彼は予知できない以前に、何となく次の行動が読めません。

「俺は未来機構東京支部の捜査三課に所属している今生勇人だ。よろしく」

 未来機構って本当に存在したんですね。


【十一】
「というのは嘘なんだけど」

「嘘かいっ!ちょっと期待しちゃったよ。本当にあの妄想が的中してるのかと思っちゃったじゃん」

「妄想?もしかして未来が視えるってのも明日さんの恥ずかしい妄想?」

「いやそれは事実」

 おっと。なんだか流れで認めてしまいましたが、まあいいでしょう。元々彼には真実を話すつもりでしたし。

 しかし、先程の彼が述べた未来機構~の部分が嘘だというのは大分ショックです。未来の予知できない彼ならありえなくもなさそうですが。

「んなわけないでしょ。珍しい冗談だから乗ってみたけど」

「本当に?未来予知について何も知らないの?」

「知らないよ。明日さんこそ、自分が予知能力者だって証明できるの?」

 私は少し考えます。時刻は三時三十五分。周りに人影はありません。ならば――――

「今から五分後に……三時四十分になる‼」

「当たり前だろ!明日さんってもしかして馬鹿なのか?」

  騙せると思った私が一番馬鹿でした。君の言う通りです。

「もちろん、今のは冗談だよ。もしかして真に受けちゃった?可愛い」

 今の台詞に人道情要素が含まれている気がしますが、影響されてるとは考えたくないですね。普通の会話は苦手だけど、挑発は一丁前の明日読子です。

「明日さんの方が可愛いぜ。眼鏡に中二的思考にチビだなんて萌えの真骨だな」

「チビは言うな⁉あーあ、身長だけは語ってこなかったのに……」

 ええそうですよ。一人称視点なのを利用して、自分の最大のコンプレックスは隠してきましたよ。これからも隠し続けるつもりでしたよ。何か悪いですか?

 この際だから語らせてもらいますけど、私は意外にも巨乳です。まだ母ほどではないですが、近いうち大きさでは勝るのではないかというくらいの成長スピードです。

 さて、私の本当の身体的特徴を説明したところで本題に戻ります。

 そうです。この会話という名の煽り合戦に勝利した、野球兼筋肉馬鹿に明日読子の予知能力を知らしめてやるのです。現段階では、私の予知能力は他人を直視しなければ効果が発揮されません。しかし、目の前にそびえ立つ人物は私の予知能力が効きません。故に、それ以外の人間を対象にしなければならないのですが、如何せん早めに下校しようとしたのでまだ周囲に誰もいなかったのです。

 だからこそ、この一見無駄なやり取りも時間稼ぎには必要だったのです。

 私と今生君以外にも有象無象の生徒達が校門目掛けてやって来ます。

 これを待っていたんです。これだけの予知材料……いいえ人数がいれば今生君に未来予知を信じさせるのも難しくはないでしょう。

 では眼鏡を取り外し、私達の横を通り過ぎようとしている女子生徒を対象に、

 予知―――――。 

「じゃあ今から証明するね。今度は真面目だよ。今から五分後に、あの女子生徒は近くの自動販売機でい・ろ・は・すを買うよ」

「ふーん、それであの娘に着いて行けとでも?女の子をストーキングするのは気が引ける。俺、紳士だから」

 あれ今生君ってこんなにナルシストなキャラだったっけ?

 私を苛立たせてまた煽り合戦に持ちむつもりですか。いやそれにしても、今こいつなんと言いましたか。気が引けるとか言ってましたよね。つまり今の発言から読み取れる真意は…………

「君、信じる気ないでしょう」

「あるさ。ただ男子にしてくれないか。俺は女の子にモテるけど、やはり緊張するんだ」

 事実にしても随分大っぴらに、そして堂々と言いやがりますね。今の発言からは嫌味のニュアンスも感じました。まあ私は女子なので悔しいとか羨ましいとかは思いませんけど。

 そして、予知するなら男子にしてくれという注文ですが、これに逆らう理由は特にないので承ることにしましょうか。どうせ信じる気はないのでしょうが。

 私達の位置からだと左斜め後ろにいる、エナメルバッグを担いだ男子生徒に狙いを定め、

 予知―――――。終了。

「今度はあの男の子だよ」

 と言って、私は今生君に予知した人物を指し示します。

「で、どんな未来が予知できたんだ?」

 彼は憎たらしい表情で私を見下ろし、私にそう問うてきました。群れと離れた子羊を、憐れむかのようにも捉えられます。

 しかし、これは挑発です。現に明日読子は未来予知が出来るじゃあないですか。弱気になってはいけません。この憎々しいもとい肉々しい狼に銀の弾丸を報いるのです。

「五分後、あの男の子は更衣室で運動着に着替えるよ。この鼻血がその証拠だよ」

「男子なのはいいとして、さっきからどうして五分後の未来なんだ?もっとすぐ先の未来を予知した方が手っ取り早く信憑性を上げられるだろうに。例えば五秒後とか」

 てめぇが男にしろっつたから従ったんだろうが‼早く信じろや‼次から次へとオーダーを追加してきやがって……文句の多い男は本来女からモテない筈なんですけれど。

 しかし困りましたね。現段階では私は五分後の未来しか予知できないのです。そのオーダーを受けることが不可能ならば、仕方ありません。

「ごめんね。私、五分後の未来しか予知できないの。でもあの男の子が部室で着替えるのは本当だよ。気が引けるかもしれないけど、着いて行ってみてよ……ねっ?」

 必殺、下手上目遣い!これはコミュニケーションが苦手な私ながら身に付けた、持てる女子力を全て消費することで初めて効果が現れる魅惑の秘技。まず上目遣いで相手の懐に迫り、そして若干甘えた口調で弱々しく相手に要求する。

 この技は、相手より二回り以上背丈が小さいことが必須条件です。そして、顔もそれなりに可愛くなければ成功確率は大幅に下がるでしょう。

 彼が私に気があるとは考えられませんが、それでも鼓動が早くなり、異性として少しは意識してしまうでしょう。その状態に持っていければ、ある程度のお願いは聞いてくれると思います。そして未来予知を信じるのも時間の問題です。

 さぁどうだ、今生勇人。今の君は私をからかう立場にいるつもりだろうが、この瞬間で立場が逆転するぞ。こんな弱々しい女の子の頼みを平気で断るほど、君は非情ではないでしょう。思う存分萌えるがいい、照れるがいい!

 彼の顔を一応確認します。まあ確認するまでもなく、赤く染まっているでしょうが。少し挙動不審にでもなっていたら尚面白いですね。彼の表情は先程の憎たらしいものから一変し、この辺りだけ気圧が下がってるんじゃないかってくらい凍てつくほどの…………『無』でした。

「確かに俺も少しからかい過ぎた。だが、俺も君の妄想にいつまでも付き合う程暇じゃない。ここらで止めにしたほうが君の為だと思うが」

 そう言えばこの必殺技、お母さんにし使ったことなかった。ただ恥かいただけじゃん。今日で何度目だよ。私の顔が赤く染まったんですけど……。

「お願い!後一回だけチャンスをちょうだい。未来は本当に予知できてるから!」

「そうか。では俺の寛容さに免じて。部活あるから早くしてな」

 元はと言えば、お前が余計な茶々を入れなければ済んだ話なんだけどな。

 それでもこの面倒な一連のやり取りは私から持ち掛けたことですし、私に原因があるわけですし……悪態をついても、気に病んでも仕方ありません。このラストチャンスを生かさなければ。

 適当に選んだ男子生徒を対象に、

「あっ、散々邪魔して悪いけど、俺のことを予知してくれないか?そっちの方が簡単に信じられる」

「すみません。それはできません。今生君以外にしてください」

「んじゃあ、さようなら。また明日学校で」

 あれっ、これで終わり⁉ちょっと嘘でしょ。あまりにも鬼畜ですよこれは。

「ちょっと待って!」

 私は部活動に向かう今生君をただただ必死に追いかけました。せっかく向こうから声をかけてもらったのに、こんな終わり方じゃあ納得いきません。

 彼の背中に追い付いた私は、彼のブレザーを強めに掴みます。

 周りの生徒達が私達に注目しているのが分かりましたが、今はそんなことでさえ気にならない程必死です。

「ちょっと、もう勘弁──」

「お願いだから信じでぐだざぁい‼」

 気が付いたら泣き叫んでいました。瞳からは止めどなく涙が溢れ、鼻水も唇に触れるくらい垂れていました。誰が見ても汚さを感じるであろう泣きっ面を、多くの人目があるなかで晒してしまいました。今生君の意地悪に加え、上手く話が進まないもどかしさに我慢が効かなくなったのでしょう。

「おいおいマジかよ……。分かった、信じるから泣かないでくれ!」

 そんな情けない私を見かねた彼は、焦りながらも私を励まします。

 ん?ほんとに?

「ほら、早くしろ。ここにいたら目立つだろ」

 今生君は私の手を半ば強制的に引っ張り、校門の外へと連れていきます。どうやら部活の時間を割いてでも私の話を聞いてくれるようです。今度こそは真面目に聞いてくれるでしょうか。

 若干の不安を抱えつつも、秘かに喜びを感じている自分がいるのを感じます。

 女の最大の武器は甘えや萌えじゃなくて、涙なんだということを実感した瞬間でした。

「と、いうことなんだけど……」

 現在校門の前にて、スマートフォンには『16:17』と表示されていました。大分時間がかかってしまいました。

 一通り、私の未来予知に関する経験とそれを基に導き出した結論の説明を終えた私は、恐る恐る今生君の顔を覗きます。また面倒な冗談で誤魔化されたらと不安でしたが、意外にも真剣な表情で考えてくれている様で何よりです。

「ふーん、明日の未来予知には不都合な部分が多いのか。けど、もしお前の話が本当ならそら大したもんだ」

 さりげなく呼び捨てになってるのは、人付き合いが得意な彼の特徴だと思いますが、すんなり受け入れられました。学校の人気者なだけあって、地味で陰湿な私にも軽く接してきます。初対面の相手でも基本緊張とかしないんでしょうね。そりゃあ、あんなアホみたいな技も通用しませんよね。異性慣れもしてるでしょうし。

 今生君には私の昨日一昨日の事を全て話しましたが、まだFのことは話していません。 その話をするのは、彼が未来予知に関してどこまでの知識や認識があるのかを見極めてからです。

「で、なんで俺なわけ?人道とかには話したのか?」

「ううん、話してない。彼女は頼りになるんだけど、お家柄にちょっと問題があるから」

 この質問は軽くながして、今生君は立て続けに私に問いかけます。

「ならなおさらだ。どうして俺にそんな大事な話をしたんだ?俺である必要は?」

 これは当然聞かれると思っていたので、特に驚きはしません。変に嘘をついても仕方ないので、正直に答えます。というか、もっと早く話していれば。

「それは……君だけ未来が視えなかったから。昨日から色んな人を予知してきたけど、こんなこと初めてで」

「成程。だから逸脱した俺なら未来予知について何か知っていると踏んだわけだ」

「そういうこと。まだ信じにくいとは思うけど……」

 今生君は今のところ淡々としています。逆に慌てる理由もないと思いますが。

 そして私が最も気になる彼と未来予知の関係性。それはさっき彼の口から否定されましたが、彼は再びそのことに触れてくれました。

「残念だがその期待は外れだよ。さっきも言ったけど、俺はそんな得たいの知れない超能力とは一切の関わりがない。生憎、野球しかやってこなかった身なんでね」

 彼の発言を信じるかどうかはおいておいて、とりあえずこれ以上のことは聞けそうにないですね。彼も私の未来予知に不信感があるなか、真面目に答えていただいたことには感謝します。

「そっか。ありがとう、ちゃんと答えてくれて。でもごめんね、部活遅れちゃったでしょ?」

「まだアップだと思うから別にいいんだけど……あっそうだ。さっきは茶化したけど、未来予知、俺に見せてよ」

 今度こそはきちんと向き合ってくれそうな雰囲気の今生君です。というより私に対する気遣いでしょうね。さっきのことで多少の罪悪感を感じているのなら、冗談で流されることもないでしょう。

 再び眼鏡を外して、予知対象を探します。私達の目の前を歩いた下校中のカップルがいたので、その男子の方を直視して

 予知―――――。

 五秒の間にその男子の五分後の未来がはっきりと視えます。……これは、ちょっと大胆ですね。

「眼鏡をとらないと予知できないのか──で、どんな五分後が予知できた?」

「それはね……あのカップルが五分後、チューをするの。路上で、堂々と」

「カップルなら普通にやりそうなもんだが……とりあえず確認するか」

 今度は確認まで付き合ってくれるそうで。始めからそうしなさいよね、全く。

 カップルに気づかれないように、後をつけます。今生君には私の予知能力の詳細を伝えているので、

「下手に干渉し過ぎると、未来が変わっちまうんだよな。慎重に追うぞ」

 このように自身の行動にも気を配ってくれます。ここまで神経質になってくれることに正直、申し訳なさを感じていますが、泣かされたことを思い出すとやっぱり腹が立ちます。

 今生君の言う通りに、慎重に後をつけます。

 刻一刻と時が流れますが、まだ二分しか経っていません。誰かと未来予知の結果を確認するのは初めてなので、異様な緊張感があります。

 ……………………………………………………………………………………………。只今、四分五十三秒。いえ、五十四秒、五十五秒、五、四、三、二、一。

「あっ、マジだ……」

 今生君が驚きの声をあげます。それと少し引いているようにも聴こえます。

 カップルが歩道のど真ん中で、愛を確認するかのように唇を合わせ、激しく絡み合います。さながら昼ドラのように。

「おい、これチューなんてレベルじゃねーだろ⁉もっと深いやつだよこれ‼」

 確かに表現を少し間違えたかもしれませんね。しかし、予知能力で視た映像と一致はしています。私の未来予知は五分後の未来を五秒程度しか予知できないので、ディープキスの始まりのところまでしか視えなかったのです。ここまで激しいのは予知外でした。

「しかもよく見たらブサイクカップルじゃねーかよ⁉あいつら馬鹿じゃねーの?」

「ちょっと、それは失礼だよ。事実だとしても」

 そんな路上で人目も気にせず、さながらアダルトビデオの前戯のような、ディープで激しいキスを続けるカップルに今生君は露骨に嫌悪感を示します。仮に、美男美女のカップルがヤっていたとしても嬉しかったわけではないと思いますけれど。私も気持ち悪くなってきた…………。

 昨日に続いて吐く訳にもいかないので、ここは何とか堪えます。

 野次馬がぞろぞろとやってきて、スマホを片手に写真を撮ります。こういう状況をむしろ楽しんでいるかのように、ブサイクカップルは更に激しく絡み合います。それに比例して周りの野次も大きくなります。そしてそれにカップルが乗っかって…………まさに地獄の無限ループ。

「お前が一番失礼だろうが。早くずらかるぞ」

 この場を後にした私達はひとまず校門前まで戻ります。

 そして今生君の表情はかなり苛立っていました。理由は……聞くまでもありませんね。

お互いに気まずい空気のなか、しばらく無言の状態が続きます。

「……ほら、当たってたでしょ!」

「いや当たってないから。あれ売れ残りのAVだから」

 珍しく私の方から口を開いたはいいもの、逆に彼の怒りを増幅させてしまいました。口調がやけに冷静なのが余計怖いです。

 確かに今のでは証明とは呼べませんね。

「でも明日の言う五分後に事が起こったのは確かだ。まだ信じるには足りないが……もしよかったら、色々予知してくれ」

「了解!でも部活はいいの?」

「ああ。一日くらいどうってことないだろ」

 さっきはまだアップだからいいとか言ってましたよね。私にとっては好都合ですが。野球部はサボるとお灸を据えられそうな厳しい印象がありますが、ま、気にしなくていいか。

 そして、私は様々な人間の未来を予知し、その都度今生君と五分間待って結果を確認するという作業を約二時間近く繰り返しました。時には散歩中のお爺さんに、時には路上ライブに励むミュージシャンに、また時には下校中の可愛らしい小学生だったり、またまた時には露出の多い大胆な格好に身を包んだ女性だったり。あれ?女は気が引けるとか抜かしてたのはどこのどいつでしたっけ。

 そんなこんなで一段落着いたので、時刻を確認してみたところ六時をとっくに過ぎていました。門限の五時半を過ぎたことにたった今気付いた私は母への言い訳を考えます。

 薄暗い紺色の空が私達を覆っています。私は薄汚れたガードレールに腰を掛け、今生君は地べたにだらしなく座り込んでいます。余程疲れたのでしょう。

「うーん……とりあえず……信じるかな……」

 途切れ途切れに言葉を発する今生君は私の未来予知を信じる意向を示したようです。ここまでの時間を要したことは正直遺憾ですが、唯一未来の予知できない今生勇人が私の未来予知を信じたという結果は大きい……のでしょうか。そもそも私が彼に未来予知の詳細を説明したのも、それに関する更なる情報を引き出せるのではと考えたからです。にもかかわらず、今日一日で彼から得られたのは脆い信用だけです。第一、彼が私の未来予知を何らかの計画に利用しようとしているならば、今までの私の行動は全て愚の骨だと言わざるをえません。仮に、自分より先の未来を予知できる予知能力者の未来は予知できない──とかいう決まりが存在していたら、今生勇人が予知能力者である可能性も否定できない。

「なんだその浮かない顔は。お前を騙しているとでも?信じてくれよな」

 今生君は半ば自嘲的に言い放ちます。彼には私の醜い心が透き通って視えるのでしょうか。人の気持ちをいち早く察することができる彼の社交性が伺えます。

「ごめん、私疑い過ぎだよね。元はと言えば私が原因なのに……」

 全く反対のことを考えてみましょうか。彼はこの二時間、いえ私と学校の踊り場で顔を合わせたあの時から私と心の距離を縮めるために、私の戯れ言とも捉えられる未来予知に付き合ってくれた……遊んでくれたのではないでしょうか。外で日没まで遊ぶ、これが友情の築き方の基本だとしたら、彼はそれに難なく従っただけです。

 今生勇人という野球少年を信じてみる。これだけのことなら気持ちの持ちようで何とかなります。私生活に特別支障を来すということもないでしょう。

 人と、特に男の子とまともに会話したのは今回が初めてかもしれません。自分のコミュニケーション能力の低さ故に、彼に再び嫌な気持ちをさせてしまいました。友達の多い彼からしてみれば、私なんて陰湿な奴と無理して付き合う必要はありません。自分から壁を作って、何が楽しいんでしょうね。折角男の子と仲良くなれるチャンスだったかもしれないのに。私は珍しく自己嫌悪に浸ります。

 では、もういっそのこと開き直ってみますか。今生君からは間違いなく嫌われたでしょうから、せめて私の大好きな明日読子を貫こうと思います。

「私なんかのために、長い時間使わせちゃってごめんね。あと未来予知のことと今日のことは――」

「友達の秘密は誰にも言わない」

「えっ?」

 今生君の発言に一瞬戸惑った私に、彼は立ち上がり、続け様に言います。彼らしい言葉でした。

「困った事があったら相談してくれ。なるべく力になるからよ。じゃあな」

 その言葉を最後に彼はこの場を立ち去りました。遅い下校時間です。私もいち早く帰宅しなければ、母の説教がより長く面倒になるだけだというのに、そんなことさえ気にならないほど呆然としていました。

 彼の後ろ姿を遠くに感じます。なんてことない少年の、少し筋肉質な背中。見とれていたのか、憧れていたのか、はたまた羨んでいたのかは定かではありませんが、ただ見ていたかった。不思議な物悲しさも感じて。

 まあ、視えないから見ていたかっただけでしょう。そんなに深く考えるようなことでもありません。

 相談してくれという今生君の言葉に、甘えてみてるのもいいですかね。彼はFを探求する上で貴重な存在となってくれるでしょう。あの逞しい肉体も心強いです。Fは未だに謎のままですが、貴重な収穫がありました。

 今現在、私のやるべきことは早く帰宅することです。母の説教に耐えられるくらいの体力は、残しておかなければ。

 小走りで帰って来た割りには遅い時間でした。時刻は七時七分。家の窓からは光がなく、扉の鍵も閉まっていました。

 明日家の敷地は二メートル弱の塀で囲まれています。私の部屋は二階なのでまだいいですが、一階は母の生息地帯なので窮屈さが倍増します。

 そういえば、今朝母は夜中に帰るとか言ってましたね。すっかり忘れていました。夜中というのがどの時間帯を指しているかは不明ですが、しばらくの間、お家には私一人です。

 つまり、ほんの数時間ではありますが、私の縄は解かれるのです。

「キャッホオオオオオオオオオオオオオオオイ」

 ここまで露骨に喜びの声を挙げたのは、小学生の時に、DSを買って貰った時以来です。基本母は門限の五時半には家に居るので、私一人で家を使える時間はほとんどなかったのです。しかし、今宵は違います。思う存分夜を謳歌しましょう。

 いけない、いけない。まだ家の前だというのに、はしゃぎ過ぎですね。

 鞄から鍵を取りだし、鍵穴に差し込みます。右に半回転させ、扉の向こう側に足を踏み入れる権利を得ます。鍵を引き抜き、扉を左に向かって開けます。扉の隙間から暗闇に包まれた玄関が見えます。やはり、誰もいないです。

 そして扉を更に開けようとしたのですが、

「あれ?ロックがかかってる……」

 そうです。肝心のU字ロックがかかっていたので、扉は半分も開かなかったのです。これじゃあ家には入れません。また母の仕業でしょうか。だとしたらどうやって……。探偵小説の犯人なら解るでしょうか。

 家のポストに何か手掛かりがあるかもしれません。探してみましょう。

「あのババア、やってくれるじゃん」

 ポストの中には母からだと思われる、雑なメモ書きが残されていました。それとクリップで留められた福沢諭吉の姿もありました。一人真っ暗な中可哀想に。

 そしてそのメモには、汚い字でこう書かれていました。

『今日は近くの慢画喫茶に泊まってください  愛しの母より』

 慢じゃなくて、漫ですよ。何間違ってるんですか、恥ずかしい。家に帰れば、もう辱しめを受けることはないと信じてましたが、そんなことはなかったです。思春期の子供にとって、親とは恥ずかしい存在かもしれませんが、これは擁護できません。

「明日も学校だっつーの。何考えてんだよあのババア」

 当然、母に電話をかけます。このメモの意味を問いただすのです。それに、門限に厳しい母がこんなことをするでしょうか。

 今朝は呼び出し音が一度鳴っただけで繋がりましたが、今夜は違うようです。何度鳴っても繋がる気がしません。そして、

「お掛けになった電話番号は、現在お繋ぎできません。留守番電話サービスをご利用の際は、ピーという発信音のあとにお名前とご用件をお伝えください」

 ピー。

「お前さぁ、朝から好き勝手やってくれるじゃん?舐めてんの、ねえ舐めてんの?売られた喧嘩は例え親だろうと買うのがこの明日読子だ、覚えておけボケェ⁉」

 スマホの通話画面を落とします。

 言いたいことを口汚く吐き出し気分爽快の私は、仕方ないので漫画喫茶に向かうことにました。制服のままだと朝まで漫喫に残れないので、簡単な着替えをします。庭の物置に、簡素なジャージが揃っているのでそれに着替えます。

「あーあ、やってらんないわよ。全く」

 ぶつくさ文句を言いつつ、着替えを済ませます。

 漫画喫茶に向かう準備を整えた私は、一人夜道を歩きます。右も左も住宅の味気ないこの場所から、早く開放されたいです。

 夜になんとか対抗しようとする、虚弱な電灯の姿があります。

 その光に身が寄ってしまうのは、私の柔弱さの表れでしょうか。
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