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<8・位置と心理の謎。>
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「はははははは、春風くんっ」
おそるおそる。
おそすおそるおそるおそる。
おそるおそるったら、おそるおそる。
「ここここここ、この鏡わっ、しゃ、しゃわっても、だいひょーぶなんでしょうか!?」
「……秋野さん、ちょっと落ち着きましょう。呂律回ってませんよ」
「で、でもぉ……!」
図書室に来る時は、見ないふりでどうにかやり過ごしたが。二度目はそうもいかない。なんせ、この鏡を調査することそのものが目的なのだから。
図書室前の手洗い場。他の場所同様、蛇口がずらずらと並んでおり、その前には蛇口と同じ数だけ鏡が設置されている。暑い日には、ここから水を飲む生徒も少なくない。最近は蛇口の水を直接飲むことを警戒して、ペットボトルや水筒からしか飲まない生徒もいるようだが、少なくともひかりは違っていた。
というか夏の暑い日などになると、ペットボトルや水筒を一個持ってきただけではどうしても足らないのである。そういう時はやむなく、お茶や水を飲み切ったあとの水筒に追加で水道水を入れて持ち歩くことになるのだ。本当に大丈夫?なんてどうのこうの言っている場合ではないのである。水を飲まなければ干からびてしまう。
だったら二本以上持って行けば?なんて思うかもしれないが、そもそも教科書や筆箱を入れていたらランドセルに水筒を入れる余裕など皆無なのである。入っても精々一本。二本以上持ち歩くことなどできるはずもない。
小学校のランドセルというのはいろいろ考えて頑丈に作られているのかもしれないが、布製でない分柔軟性はないのだ。もう少し柔らかく、ものがたくさん入るようにしてくれればいいのにと思わずにはいられない。中学生や高校生のバックが本当に羨ましいと思う。あと、ランドセルは重い。どうしても重い。昔はもっと重かったと言われそうではあるけれど。
まあ、それはさておき。水飲み場そのものはひかりも何度もお世話になってきた場所であるし、目の前にあるその場所は、ひかりがいつも使う教室前の水飲み場となんら変わらないようには見えるのだが。
「だ、だってさ。鏡に浮かび上がる模様っていうの……あれがオカルトなのか、悪戯なのかはまだはっきりとわからないんでしょ?だったら、鏡が呪われてるからーなんてこともあるかもしれないんだよね?」
そろりそろり、と水飲み場に近づいていくひかり。腰は完全にひけている。
「正直、怖いです。正直に言います、とっても怖いです。大事なことなので二回言いました」
「大丈夫ですよ。仮に呪物だとしても、触っただけで呪われたりしませんって。少なくともこの鏡は」
「あんまり安心できないフォローありがと!」
いや、確かに数々の秘宝と触れ合ってきた祈からすると、“触っても大丈夫な呪物”なんて珍しくもなんともないのかもしれないが。ひかりにとっては、呪物であった時点でお近づきになりたくないものに違いない。
「確かに、鏡が自発的に文字や魔法陣を浮かび上がらせているのか、誰かが描いているのかはまだはっきりしていません。でも貴女もお気づきの通り、この鏡そのものはずーっと前からここに設置されているものですし、たくさんの生徒が触っているはずです。その生徒たちに異変がないならば、この鏡は触っただけで人に危害を及ぼすものではないはずなんです」
ひかりと違って、祈は本当に怖がっていないようだ。とととと、と何の躊躇もなく鏡の前に立ち、とんとん、と軽く拳で叩いてみせる。ひいっ!とつい悲鳴を上げるひかりと違って、彼はまったく平気な顔だ。
「また、魔法陣などが浮かび上がるのは一番右端の鏡だけというのも気になりますよね。さっき校長からメールが来たんですけど」
「え、校長とメールでやり取りしてるの?」
「してますよ、というか僕の直属の上司ですし。LINEもやってます。長文とか資料送付の時はメールの方が便利なのでそっち使いますが。……校長にこの鏡について尋ねたんですが、ここに設置されている五枚の鏡はすべて、同時期に交換されたもののようです。今から六年ほど前なので、そこまで古いものでもないのですよ」
「あ、そうなんだ……」
祈いわく。交換された理由も単なる老朽化で錆びまくってて汚かったから、というだけのことであるらしい。特に、一番左端の鏡には罅が入っていて危なかったのだそうだ。だったらこれを機会に六枚全部取り換えてしまおう、となったのが六年ほど前の事。ひかりが入学する前なので、そりゃ知らないのも当然という話である。
なお罅が入った原因は、生徒がふざけて廊下で箒を振り回していたのが激突したから、というなんともしょうもない理由。ようは、呪いだのオカルトだのとは一切関係がないという。
「外した時、壁に変な模様があるなんてことはなく。誰かが不自然な怪我をしたということもないそうです。ああ、一番左端の鏡に罅を入れた男子はスッ転んで擦り傷を負ったそうですが、それはまあ関係ないでしょうね。位置も違いますし」
「それはただのアホやろ」
男子小学生ってなんでこういうのばっかなんだ、とつい言いかけて止まった。目の前のお上品で綺麗な少年も一応男子小学生のカテゴリに入るとギリギリで思い出したからだ。
しかし。
――いやあ、絶対違う。断じて違う。……どう見ても、春風くんはうちのクラスにいるお馬鹿連中とは別の生物だよ……頭いいし、冷静だし、女の子の悪口も言わないし!
そりゃ私が一目惚れするのも当然だよね!と最終的に結論はそこに至る。不自然に黙り込んだひかりに少し祈は訝し気な顔をしたが、すぐにスルーして話を先に進めた。
「鏡を交換してからも特におかしな出来事はなし。異変は完全に、今年の新学期が始まってから起きています。つまり鏡が後天的に呪物化したとしても、誰かが悪戯を開始したのもそのタイミングということ。その時、何か特別な出来事が起きた可能性があります」
「特別な出来事って言われても……」
正直新学期早々、ひかりは祈に一目惚れしてテンションがぶち壊れたし、直後に秘宝管理クラブに入ることになって毎日バッタバタだったのでまったくわからないのだ。
そもそも何かが起きていたとしても、広い学校全ての異変を網羅できるはずもない。マチカならもう少しセンサーが働いているかもしれないが、彼女だって全学年の動向を全て把握しているはずはないだろう。
「実は、気になっていることがいくつかあります。一つは、どうして“一番右端の鏡だったのか”ということ」
こつん、と彼はもう一度、軽く鏡の上部を叩いた。
「もし、人の手で悪戯をしているのだとしましょう。その場合、何故いつもこの水飲み場の、三階図書室の前の、一番右端の鏡なのでしょうか?」
「というと?」
「ここ、校舎の端っこなんですよね。ここに毎回悪戯して手間がかからないの、司書の久本先生くらいです。久本先生をいったん犯人から除外するとした場合、他の先生や職員、生徒からすると悪戯のための道具を運ぶだけで結構手間な位置というか。どの鏡でもいいなら、もう少し楽な位置があったんじゃないかと思いまして」
「それは、人目に触れるからじゃないの?」
「と、僕も思ったんですけど。時間帯を調整すれば、人目を避けられるタイミングなんていくらでもあると思いません?中学校や高校と違って、小学校では遅くまで部活をするなんて基本認められないんですから。遅い時間まで残っているのは先生たちくらい。職員室まわりと通り道の一階だけ避ければ、いくらでも対応可能であるように思います」
「あー……」
言われてみれば、その通りかもしれない。
ということは、図書室のこの鏡である必要がどうしてもあった、ということなのだろうか。では、その理由とは何なのだろう?
そしてこの理屈は、鏡が呪物であって自分で文様を浮かび上がらせている場合でも考えることができるかもしれない。この鏡である必要があった、この鏡だけがなんらかの理由で特別だった。ではそのなんらかの理由とは?
「さらに、一番右端の鏡であるということも不思議なんです。……犯人の目的はわかりませんが、誰かを怖がらせたり、怯えさせたり、もしくは脅迫目的であるとしましょう。その場合は、より一層なんらかの呪いに見せかけた方が効果的なんですが。それなら、悪戯をするのは右端ではなく、左端……あっちの鏡にするべきだと思いませんか?」
祈が、左端の鏡を指さして言う。なるほど、とひかりも頷いた。
「左端の鏡が、どっかのバカのせいで割られてるから、だね?それで交換する羽目になったから恨まれてるとか、そういう演出ができるわけだ」
「その通り。実際、左端の鏡に細工がされたのなら、もう少し生徒の間で噂が広まるのではないでしょうか。六年前に在校生だった人はいないとしても、姉や兄が同じ学校に通っている人は少なくない。そこから“呪いでは”という噂が広まることは十分考えられたはず。犯人が呪いにみせかけたいなら、その方が都合が良いでしょう?」
「それはそうだね。……みんな刺激的な話とか、面白い話に飢えてるしなあ。ふざけて尾ひれ付けた噂流しまくりそう……今はネットもあるしね」
「そういうことです」
つまり――仮に誰かの悪戯であるとした場合。オバケに見せかけたい意図が相手になかったか、もしくは六年前に鏡が割られた事件を知らなかったかのどちらかになるということだろう。
生徒であるならば、後者も考えられなくはない。だが、ここまで手が込んだことをしている上、悪戯がされたと思われる時間が早朝か深夜の可能性が高いと来ている。だったらニンゲンの犯人がいる場合、生徒より大人の仕業である可能性の方が高いのではなかろうか。
「では、この一番右端の鏡に何か特別なことがないのか、というと。一個だけ僕は思い当たることがあるんです」
祈は右端の鏡の前から、まっすぐ正面に歩いた。――そこには、図書室のスライドドアがある。ちなみに、このスライドドアを開けてすぐ右側が図書室のカウンターとなっている。
「この鏡、図書室のドアの真正面なんです。図書室から出ると、真っ先にこの鏡が目に入る位置にあります。そして、カウンター奥の司書室に行くには、図書室の中からドアを使うしかありません。廊下側にドアがないですからね」
「それ、変な構造だよね。ボロい学校だからかなあ」
「かもしれませんね。でも一番大事なのはそこじゃない。……毎朝この鏡に悪戯をされた場合、ほぼ確実にそれを目撃する人物がいるということです。つまり、嫌でも鏡に書かれた魔法陣やら文様を視界にいれる人がいるということ。この一番右端の鏡はそのために大変都合がいい」
「!」
まさか、とひかりは目を見開いた。
図書室の前の、一番右端の鏡。それを選んだ理由はつまり。
「……久本先生に見せつけるためかもしれないってこと?」
「はい。先生が犯人でないなら、標的にされている可能性は非常に高いと僕は考えています」
それから、と祈はとんでもないことを口にするのだった。
「写真で見せてもらった魔法陣と文様。実は僕、似たようなものに見覚えがあるんです」
おそるおそる。
おそすおそるおそるおそる。
おそるおそるったら、おそるおそる。
「ここここここ、この鏡わっ、しゃ、しゃわっても、だいひょーぶなんでしょうか!?」
「……秋野さん、ちょっと落ち着きましょう。呂律回ってませんよ」
「で、でもぉ……!」
図書室に来る時は、見ないふりでどうにかやり過ごしたが。二度目はそうもいかない。なんせ、この鏡を調査することそのものが目的なのだから。
図書室前の手洗い場。他の場所同様、蛇口がずらずらと並んでおり、その前には蛇口と同じ数だけ鏡が設置されている。暑い日には、ここから水を飲む生徒も少なくない。最近は蛇口の水を直接飲むことを警戒して、ペットボトルや水筒からしか飲まない生徒もいるようだが、少なくともひかりは違っていた。
というか夏の暑い日などになると、ペットボトルや水筒を一個持ってきただけではどうしても足らないのである。そういう時はやむなく、お茶や水を飲み切ったあとの水筒に追加で水道水を入れて持ち歩くことになるのだ。本当に大丈夫?なんてどうのこうの言っている場合ではないのである。水を飲まなければ干からびてしまう。
だったら二本以上持って行けば?なんて思うかもしれないが、そもそも教科書や筆箱を入れていたらランドセルに水筒を入れる余裕など皆無なのである。入っても精々一本。二本以上持ち歩くことなどできるはずもない。
小学校のランドセルというのはいろいろ考えて頑丈に作られているのかもしれないが、布製でない分柔軟性はないのだ。もう少し柔らかく、ものがたくさん入るようにしてくれればいいのにと思わずにはいられない。中学生や高校生のバックが本当に羨ましいと思う。あと、ランドセルは重い。どうしても重い。昔はもっと重かったと言われそうではあるけれど。
まあ、それはさておき。水飲み場そのものはひかりも何度もお世話になってきた場所であるし、目の前にあるその場所は、ひかりがいつも使う教室前の水飲み場となんら変わらないようには見えるのだが。
「だ、だってさ。鏡に浮かび上がる模様っていうの……あれがオカルトなのか、悪戯なのかはまだはっきりとわからないんでしょ?だったら、鏡が呪われてるからーなんてこともあるかもしれないんだよね?」
そろりそろり、と水飲み場に近づいていくひかり。腰は完全にひけている。
「正直、怖いです。正直に言います、とっても怖いです。大事なことなので二回言いました」
「大丈夫ですよ。仮に呪物だとしても、触っただけで呪われたりしませんって。少なくともこの鏡は」
「あんまり安心できないフォローありがと!」
いや、確かに数々の秘宝と触れ合ってきた祈からすると、“触っても大丈夫な呪物”なんて珍しくもなんともないのかもしれないが。ひかりにとっては、呪物であった時点でお近づきになりたくないものに違いない。
「確かに、鏡が自発的に文字や魔法陣を浮かび上がらせているのか、誰かが描いているのかはまだはっきりしていません。でも貴女もお気づきの通り、この鏡そのものはずーっと前からここに設置されているものですし、たくさんの生徒が触っているはずです。その生徒たちに異変がないならば、この鏡は触っただけで人に危害を及ぼすものではないはずなんです」
ひかりと違って、祈は本当に怖がっていないようだ。とととと、と何の躊躇もなく鏡の前に立ち、とんとん、と軽く拳で叩いてみせる。ひいっ!とつい悲鳴を上げるひかりと違って、彼はまったく平気な顔だ。
「また、魔法陣などが浮かび上がるのは一番右端の鏡だけというのも気になりますよね。さっき校長からメールが来たんですけど」
「え、校長とメールでやり取りしてるの?」
「してますよ、というか僕の直属の上司ですし。LINEもやってます。長文とか資料送付の時はメールの方が便利なのでそっち使いますが。……校長にこの鏡について尋ねたんですが、ここに設置されている五枚の鏡はすべて、同時期に交換されたもののようです。今から六年ほど前なので、そこまで古いものでもないのですよ」
「あ、そうなんだ……」
祈いわく。交換された理由も単なる老朽化で錆びまくってて汚かったから、というだけのことであるらしい。特に、一番左端の鏡には罅が入っていて危なかったのだそうだ。だったらこれを機会に六枚全部取り換えてしまおう、となったのが六年ほど前の事。ひかりが入学する前なので、そりゃ知らないのも当然という話である。
なお罅が入った原因は、生徒がふざけて廊下で箒を振り回していたのが激突したから、というなんともしょうもない理由。ようは、呪いだのオカルトだのとは一切関係がないという。
「外した時、壁に変な模様があるなんてことはなく。誰かが不自然な怪我をしたということもないそうです。ああ、一番左端の鏡に罅を入れた男子はスッ転んで擦り傷を負ったそうですが、それはまあ関係ないでしょうね。位置も違いますし」
「それはただのアホやろ」
男子小学生ってなんでこういうのばっかなんだ、とつい言いかけて止まった。目の前のお上品で綺麗な少年も一応男子小学生のカテゴリに入るとギリギリで思い出したからだ。
しかし。
――いやあ、絶対違う。断じて違う。……どう見ても、春風くんはうちのクラスにいるお馬鹿連中とは別の生物だよ……頭いいし、冷静だし、女の子の悪口も言わないし!
そりゃ私が一目惚れするのも当然だよね!と最終的に結論はそこに至る。不自然に黙り込んだひかりに少し祈は訝し気な顔をしたが、すぐにスルーして話を先に進めた。
「鏡を交換してからも特におかしな出来事はなし。異変は完全に、今年の新学期が始まってから起きています。つまり鏡が後天的に呪物化したとしても、誰かが悪戯を開始したのもそのタイミングということ。その時、何か特別な出来事が起きた可能性があります」
「特別な出来事って言われても……」
正直新学期早々、ひかりは祈に一目惚れしてテンションがぶち壊れたし、直後に秘宝管理クラブに入ることになって毎日バッタバタだったのでまったくわからないのだ。
そもそも何かが起きていたとしても、広い学校全ての異変を網羅できるはずもない。マチカならもう少しセンサーが働いているかもしれないが、彼女だって全学年の動向を全て把握しているはずはないだろう。
「実は、気になっていることがいくつかあります。一つは、どうして“一番右端の鏡だったのか”ということ」
こつん、と彼はもう一度、軽く鏡の上部を叩いた。
「もし、人の手で悪戯をしているのだとしましょう。その場合、何故いつもこの水飲み場の、三階図書室の前の、一番右端の鏡なのでしょうか?」
「というと?」
「ここ、校舎の端っこなんですよね。ここに毎回悪戯して手間がかからないの、司書の久本先生くらいです。久本先生をいったん犯人から除外するとした場合、他の先生や職員、生徒からすると悪戯のための道具を運ぶだけで結構手間な位置というか。どの鏡でもいいなら、もう少し楽な位置があったんじゃないかと思いまして」
「それは、人目に触れるからじゃないの?」
「と、僕も思ったんですけど。時間帯を調整すれば、人目を避けられるタイミングなんていくらでもあると思いません?中学校や高校と違って、小学校では遅くまで部活をするなんて基本認められないんですから。遅い時間まで残っているのは先生たちくらい。職員室まわりと通り道の一階だけ避ければ、いくらでも対応可能であるように思います」
「あー……」
言われてみれば、その通りかもしれない。
ということは、図書室のこの鏡である必要がどうしてもあった、ということなのだろうか。では、その理由とは何なのだろう?
そしてこの理屈は、鏡が呪物であって自分で文様を浮かび上がらせている場合でも考えることができるかもしれない。この鏡である必要があった、この鏡だけがなんらかの理由で特別だった。ではそのなんらかの理由とは?
「さらに、一番右端の鏡であるということも不思議なんです。……犯人の目的はわかりませんが、誰かを怖がらせたり、怯えさせたり、もしくは脅迫目的であるとしましょう。その場合は、より一層なんらかの呪いに見せかけた方が効果的なんですが。それなら、悪戯をするのは右端ではなく、左端……あっちの鏡にするべきだと思いませんか?」
祈が、左端の鏡を指さして言う。なるほど、とひかりも頷いた。
「左端の鏡が、どっかのバカのせいで割られてるから、だね?それで交換する羽目になったから恨まれてるとか、そういう演出ができるわけだ」
「その通り。実際、左端の鏡に細工がされたのなら、もう少し生徒の間で噂が広まるのではないでしょうか。六年前に在校生だった人はいないとしても、姉や兄が同じ学校に通っている人は少なくない。そこから“呪いでは”という噂が広まることは十分考えられたはず。犯人が呪いにみせかけたいなら、その方が都合が良いでしょう?」
「それはそうだね。……みんな刺激的な話とか、面白い話に飢えてるしなあ。ふざけて尾ひれ付けた噂流しまくりそう……今はネットもあるしね」
「そういうことです」
つまり――仮に誰かの悪戯であるとした場合。オバケに見せかけたい意図が相手になかったか、もしくは六年前に鏡が割られた事件を知らなかったかのどちらかになるということだろう。
生徒であるならば、後者も考えられなくはない。だが、ここまで手が込んだことをしている上、悪戯がされたと思われる時間が早朝か深夜の可能性が高いと来ている。だったらニンゲンの犯人がいる場合、生徒より大人の仕業である可能性の方が高いのではなかろうか。
「では、この一番右端の鏡に何か特別なことがないのか、というと。一個だけ僕は思い当たることがあるんです」
祈は右端の鏡の前から、まっすぐ正面に歩いた。――そこには、図書室のスライドドアがある。ちなみに、このスライドドアを開けてすぐ右側が図書室のカウンターとなっている。
「この鏡、図書室のドアの真正面なんです。図書室から出ると、真っ先にこの鏡が目に入る位置にあります。そして、カウンター奥の司書室に行くには、図書室の中からドアを使うしかありません。廊下側にドアがないですからね」
「それ、変な構造だよね。ボロい学校だからかなあ」
「かもしれませんね。でも一番大事なのはそこじゃない。……毎朝この鏡に悪戯をされた場合、ほぼ確実にそれを目撃する人物がいるということです。つまり、嫌でも鏡に書かれた魔法陣やら文様を視界にいれる人がいるということ。この一番右端の鏡はそのために大変都合がいい」
「!」
まさか、とひかりは目を見開いた。
図書室の前の、一番右端の鏡。それを選んだ理由はつまり。
「……久本先生に見せつけるためかもしれないってこと?」
「はい。先生が犯人でないなら、標的にされている可能性は非常に高いと僕は考えています」
それから、と祈はとんでもないことを口にするのだった。
「写真で見せてもらった魔法陣と文様。実は僕、似たようなものに見覚えがあるんです」
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