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<2・秘宝管理クラブへようこそ。>
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ごくり、と唾を飲み込み。深呼吸して、ドアに手をかけて。
何故だろうか。――往々にしてそのタイミングで、人は声をかけられるものなのである。
「何をしているんですか、そこで」
「q3mp:4jc、:ぴcqj。:pfkrx。@rkx・q@zrkqpみrxjfq、09pr3:。ぞq7!?」
我ながらめっちゃ変な声が出た。ついでに思い切りスッ転んだ。尻餅をつきそうになったところ、後ろにいた誰かに体を支えられることになる。
ふわり、とオレンジのような甘い香りが漂った。香水というほどきつくはなく、されどシャンプーにしては濃厚な。
いや、それよりも、今聞いた声は。
「ままままま、まさか」
なんとか体勢を立て直し、振り返る。
「春風くんっ!?」
「はい、僕が春風祈ですが……」
どこか不思議そうに小首を傾げる彼。見間違えるはずもない、一目惚れをしたまさにその相手だ。少し長めの黒髪が、首を傾げた拍子にさらりと横に流れる。まるでお人形のような美貌。正直、真正面に立っているだけで目の保養を通り越して目に毒なほどである。
「えっと、この部屋に何か御用ですか?ここ、うちのクラブの部室なんですけど……」
「あ、あ、えっと、それはですね、ていうかあのですね、えっとですねえ!」
そういえば、彼は誰に対しても丁寧な言葉遣いを崩さないタイプだと聞いたことがあったような。だからだろうか、より一層上品なお坊ちゃん感が出ているのは。
引きずられるようにして、ひかりもエセ敬語モードに入ってしまう。普段は人に丁寧語を使うことなんて先生くらいにしかないというのに。
「わ、私その、その……秋野ひかりと言いますが!秘宝管理クラブってやつに興味があって!な、な、何やってるところなのかなあって!だ、だ、だから!」
流石にストレートに“本当に興味があるのは春風くんです”だなんて言えない。ひっくり返った声でわたわたと説明すると、心なしか彼の気配が変わったような気がしたのだ。そう、困惑したものから、少しだけ緊張したようなものに。
「……そうですか」
数秒の沈黙の後、祈は前に出て自らドアを開けたのだった。
「でしたら、ご案内しますよ。ようこそ、秘宝管理クラブへ」
***
まるで、秘宝管理クラブに入ることが決まったかのような物言いである。別にクラブに入りたいわけではないのだけれど、とは言えないまま、ひかりは中に足を踏み入れることになったのだった。
まあ、このクラブに関わることで、春風祈という少年に関わりを持てるというのなら万々歳である。それはそれ、好きになった人の傍に少しでもいたいのは当然の乙女心ではあるまいか。
「ここは……」
恐らく、元々は資料室か何かに使っていたのだろう。広い教室くらいのスペースに、ステンレス製の棚が並んでいる。そして棚の上には、奇妙な品々が並べられているのだった。
理科の実験で使うような、ビーカーに入った金色のコイン。
妙に厳重に鍵がかかったオルゴールっぽい赤茶の箱。
ガムテープでがっちり棚に固定されたサッカーボールに、両手を挙げて万歳した姿勢のフランス人形。――秘宝というからには、歴史的に価値のあるお宝なんかを保存しているのかと思っていたが。見たところどれも、そのへんの玩具屋などで売っていそうな品々ばかりである。
「秘宝管理クラブっていうから、何を管理してるのかと思ったら。なんていうか、普通のもの、ばっかり?」
「そう見えますか?」
「うん。これだって……」
そう言ってひかりが覗き込んだのは、小さな円いシャーレだ。中には一枚、葉っぱのようなものが浮かんでいる。某有名なハンター漫画の水見式みたい――なんて感想を抱いたその直後だ。
くるん、と葉が一回転した。特に触ってもいないというのに。しかも。
「あっひゃああああああああああああああああ!?」
ひっくり返った葉の裏にあったのは、大きな口。そう、葉の裏に、人間の口がうちていたのだ。青紫色の唇の中、いかにも不健康そうな黄ばんだ歯がずらずらと並んでいる。それがひかりの方を見た途端、にいいい、と三日月型に歪んだのだ。そして。
「アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!アーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!アーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!」
心底愉快だと言わんばかりに、笑った。人間の男の声で。
ひとしきり笑って満足したのだろうか。やがて再び、くるん、葉が一回転して戻る。――シャーレは再び、ただの水に浮いた葉、の姿に戻ったのだった。
「ななななな、なななななななな、何アレ!?葉、葉の裏に、く、く、くちっ……くちがっ!人の口がぁっ!」
「ああ、あれは“笑い葉”っていうんです」
「わ、わらいば!?」
「ええ」
祈はひかりがびっくりしたシャーレの前に、つかつかと近づいていく。しかし、シャーレの中の葉はまったく反応しなかった。まるで人を選り好みでもしているかのように。
「この葉はですね、アメリカのとある辺境の町で発見されたんです。まるで竜巻でも起こったかのように崩壊した家のリビングから見つかりました。不思議ですよね?家の中はしっちゃかめっちゃか、ソファーもテーブルもひっくり返っているしカーテンはびりびりに破れてる。そんな状況で、このシャーレだけはまったくの無傷でそこに存在していたんです」
彼はシャーレの前に立てかけてあった、小さな名札のようなものを手に取って見せてくれた。そこには確かに“No,126842 笑い葉”と書かれている。
「このシャーレが見つかった家には、一人の中年男性が住んでいました。彼は幼女連続誘拐事件の容疑者として、警察に捜査されていた人物だったんです。ところがいざ逮捕状を持って家の中に突入すると、家の中は御覧の有様。犯人はおろか、誘拐されたはずの少女達もどこにもいない。二階の部屋には確かに、少女用の服やそのために用意されたであろう衣類、ベッドなどの痕跡が残されているにも関わらず」
「え、え?どういうこと?」
「わかりません。確かなことは、彼と少女達が永遠に行方不明になってしまったことと、その事件のヒントになるであろうこのシャーレのみ。……そしてシャーレに浮いている葉は、一定以下の少女が近づくと愉快そうに大笑いするようになった、ということだけです。つまり、小学生以下の女の子ですね」
「うげ」
よくわからないが、それでひかりに反応したということらしい。なんつーロリコンだ、と気分が悪くなってくる。
「葉の裏にある唇の形状、DNAなどはいなくなった男と一致しました。しかし、何故男がこのような姿になったのか、少女達はどうなってしまったのかなどはまったくわかっていません。……実は、世界にはこういう“正体不明、解析不明、用途不明、制作者不明”の品物が山ほど存在しているんです。それらを監視、管理する組織が陰ながら世界中に存在しています」
祈は名札を元に戻し、宣言する。
「それらを我々は便宜上“秘宝”と呼ぶ。未知なる可能性を秘めた特殊な品々だから、宝物も同然と考える人が山ほどいるというわけです。僕はこの学校で、秘宝の管理・使用を任された日本支部の人間……国家認定・秘宝管理士なのですよ」
まさか、とひかりは周囲を見回した。さっきは、そのへんに売っていそうな玩具やがらくたにしか見えなかった品々が、一気に意味を持ってくる。どれもこれも番号と名札がつけられ、丁寧に棚に陳列されている。
それはつまり、これらすべてが。
「このへん全部が……その謎アイテムってこと!?」
「その通り」
祈はにっこりと微笑んだ。
「そしてこれらの品々こそ、僕がこの学校に転校してきた理由でもあるんです」
「どういうこと……?」
ほへえ、と感心しながら周囲の棚を見て回る。祈が止めない、ということはここにあるのは触らない限り危険のないアイテムばかりなのだろう。さっきの大笑いする葉も、ちょっと気持ち悪いがそれだけだ。笑われただけで、別に体調が悪くなったなんてこともない。
二十一世紀の時代に、科学的にまったく解析不能な謎アイテムの数々がある。信じがたいが、実際に見てしまった以上信じるしかあるまい。そしてちょっとわくわくするのは確かだ。なんせ、自分の学校にこのような場所があるなんて思ってもみなかったのだから。
気になることがあるとすれば、一つ。
「どうして、うちの学校にこんな……秘宝を管理するような部屋があるの?学校で管理しないといけないもんなの?これ全部、転校と同時に春風くんが持ち込んだもの……ってなわけじゃないよね?」
ひかりが尋ねると、もちろんです、と彼は頷いた。
「実は、順序があべこべなんですよ。先にこの土地に、組織の日本支部の、秘宝管理倉庫があったんです。なんせ組織の歴史は古く、戦前から存在するものですから。ところが、空襲でこのあたり一帯も派手に焼けまして。倉庫もまるっと焼けてしまったんですよね」
「あー、じゃあ、中のものも?」
「倉庫の地下にあったものは無事だったんですが、上にあったものは殆どが焼失してしまいました。で、実は地下倉庫にあるものは……上の倉庫にあるものより貴重だったり、あるいは危険度が高いアイテムばかりだったんです。簡単に場所を動かすことはできない。その上、戦争直後は政府もバッタバタでしたからね。秘宝の管理に手間も人もかける余裕がなくなった上、大人の事情によってここに学校を建築することになってしまいまして」
「あー……」
なるほど。管理倉庫のあった上に、学校をそのまま建てざるをえなくなってしまったらしい。で、やむなく学校の一区画に、秘宝管理の部屋を残したということのようだ。
「でも、国家機密、に近いものだよね。生徒が勝手に入ってきたりしないの?それに、変なアイテム触って、危ないことに使ったりとかはしない?」
「基本的には問題ありません。とある秘宝の力を使って結界を作っていますからね。基本、この部屋の存在を知っていても、秘宝管理クラブのことに気付いても……多くの者は興味を抱かないんです。だから近寄らないし、言及しない。まるで道端の石ころに誰も気に留めないように」
「え」
それってどういうことだ、とひかりは目を見開く。
同時に気付いたのだ。何故そんな大事な話を、祈が初対面のひかりにしたのかということに。
「だから不思議なんです……秋野ひかりさん。貴女がどうして、このクラブに興味を持ったのかが」
きらり、と。彼の眼鏡の奥で、瞳が光るのが見えたのだ。
何故だろうか。――往々にしてそのタイミングで、人は声をかけられるものなのである。
「何をしているんですか、そこで」
「q3mp:4jc、:ぴcqj。:pfkrx。@rkx・q@zrkqpみrxjfq、09pr3:。ぞq7!?」
我ながらめっちゃ変な声が出た。ついでに思い切りスッ転んだ。尻餅をつきそうになったところ、後ろにいた誰かに体を支えられることになる。
ふわり、とオレンジのような甘い香りが漂った。香水というほどきつくはなく、されどシャンプーにしては濃厚な。
いや、それよりも、今聞いた声は。
「ままままま、まさか」
なんとか体勢を立て直し、振り返る。
「春風くんっ!?」
「はい、僕が春風祈ですが……」
どこか不思議そうに小首を傾げる彼。見間違えるはずもない、一目惚れをしたまさにその相手だ。少し長めの黒髪が、首を傾げた拍子にさらりと横に流れる。まるでお人形のような美貌。正直、真正面に立っているだけで目の保養を通り越して目に毒なほどである。
「えっと、この部屋に何か御用ですか?ここ、うちのクラブの部室なんですけど……」
「あ、あ、えっと、それはですね、ていうかあのですね、えっとですねえ!」
そういえば、彼は誰に対しても丁寧な言葉遣いを崩さないタイプだと聞いたことがあったような。だからだろうか、より一層上品なお坊ちゃん感が出ているのは。
引きずられるようにして、ひかりもエセ敬語モードに入ってしまう。普段は人に丁寧語を使うことなんて先生くらいにしかないというのに。
「わ、私その、その……秋野ひかりと言いますが!秘宝管理クラブってやつに興味があって!な、な、何やってるところなのかなあって!だ、だ、だから!」
流石にストレートに“本当に興味があるのは春風くんです”だなんて言えない。ひっくり返った声でわたわたと説明すると、心なしか彼の気配が変わったような気がしたのだ。そう、困惑したものから、少しだけ緊張したようなものに。
「……そうですか」
数秒の沈黙の後、祈は前に出て自らドアを開けたのだった。
「でしたら、ご案内しますよ。ようこそ、秘宝管理クラブへ」
***
まるで、秘宝管理クラブに入ることが決まったかのような物言いである。別にクラブに入りたいわけではないのだけれど、とは言えないまま、ひかりは中に足を踏み入れることになったのだった。
まあ、このクラブに関わることで、春風祈という少年に関わりを持てるというのなら万々歳である。それはそれ、好きになった人の傍に少しでもいたいのは当然の乙女心ではあるまいか。
「ここは……」
恐らく、元々は資料室か何かに使っていたのだろう。広い教室くらいのスペースに、ステンレス製の棚が並んでいる。そして棚の上には、奇妙な品々が並べられているのだった。
理科の実験で使うような、ビーカーに入った金色のコイン。
妙に厳重に鍵がかかったオルゴールっぽい赤茶の箱。
ガムテープでがっちり棚に固定されたサッカーボールに、両手を挙げて万歳した姿勢のフランス人形。――秘宝というからには、歴史的に価値のあるお宝なんかを保存しているのかと思っていたが。見たところどれも、そのへんの玩具屋などで売っていそうな品々ばかりである。
「秘宝管理クラブっていうから、何を管理してるのかと思ったら。なんていうか、普通のもの、ばっかり?」
「そう見えますか?」
「うん。これだって……」
そう言ってひかりが覗き込んだのは、小さな円いシャーレだ。中には一枚、葉っぱのようなものが浮かんでいる。某有名なハンター漫画の水見式みたい――なんて感想を抱いたその直後だ。
くるん、と葉が一回転した。特に触ってもいないというのに。しかも。
「あっひゃああああああああああああああああ!?」
ひっくり返った葉の裏にあったのは、大きな口。そう、葉の裏に、人間の口がうちていたのだ。青紫色の唇の中、いかにも不健康そうな黄ばんだ歯がずらずらと並んでいる。それがひかりの方を見た途端、にいいい、と三日月型に歪んだのだ。そして。
「アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!アーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!アーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!」
心底愉快だと言わんばかりに、笑った。人間の男の声で。
ひとしきり笑って満足したのだろうか。やがて再び、くるん、葉が一回転して戻る。――シャーレは再び、ただの水に浮いた葉、の姿に戻ったのだった。
「ななななな、なななななななな、何アレ!?葉、葉の裏に、く、く、くちっ……くちがっ!人の口がぁっ!」
「ああ、あれは“笑い葉”っていうんです」
「わ、わらいば!?」
「ええ」
祈はひかりがびっくりしたシャーレの前に、つかつかと近づいていく。しかし、シャーレの中の葉はまったく反応しなかった。まるで人を選り好みでもしているかのように。
「この葉はですね、アメリカのとある辺境の町で発見されたんです。まるで竜巻でも起こったかのように崩壊した家のリビングから見つかりました。不思議ですよね?家の中はしっちゃかめっちゃか、ソファーもテーブルもひっくり返っているしカーテンはびりびりに破れてる。そんな状況で、このシャーレだけはまったくの無傷でそこに存在していたんです」
彼はシャーレの前に立てかけてあった、小さな名札のようなものを手に取って見せてくれた。そこには確かに“No,126842 笑い葉”と書かれている。
「このシャーレが見つかった家には、一人の中年男性が住んでいました。彼は幼女連続誘拐事件の容疑者として、警察に捜査されていた人物だったんです。ところがいざ逮捕状を持って家の中に突入すると、家の中は御覧の有様。犯人はおろか、誘拐されたはずの少女達もどこにもいない。二階の部屋には確かに、少女用の服やそのために用意されたであろう衣類、ベッドなどの痕跡が残されているにも関わらず」
「え、え?どういうこと?」
「わかりません。確かなことは、彼と少女達が永遠に行方不明になってしまったことと、その事件のヒントになるであろうこのシャーレのみ。……そしてシャーレに浮いている葉は、一定以下の少女が近づくと愉快そうに大笑いするようになった、ということだけです。つまり、小学生以下の女の子ですね」
「うげ」
よくわからないが、それでひかりに反応したということらしい。なんつーロリコンだ、と気分が悪くなってくる。
「葉の裏にある唇の形状、DNAなどはいなくなった男と一致しました。しかし、何故男がこのような姿になったのか、少女達はどうなってしまったのかなどはまったくわかっていません。……実は、世界にはこういう“正体不明、解析不明、用途不明、制作者不明”の品物が山ほど存在しているんです。それらを監視、管理する組織が陰ながら世界中に存在しています」
祈は名札を元に戻し、宣言する。
「それらを我々は便宜上“秘宝”と呼ぶ。未知なる可能性を秘めた特殊な品々だから、宝物も同然と考える人が山ほどいるというわけです。僕はこの学校で、秘宝の管理・使用を任された日本支部の人間……国家認定・秘宝管理士なのですよ」
まさか、とひかりは周囲を見回した。さっきは、そのへんに売っていそうな玩具やがらくたにしか見えなかった品々が、一気に意味を持ってくる。どれもこれも番号と名札がつけられ、丁寧に棚に陳列されている。
それはつまり、これらすべてが。
「このへん全部が……その謎アイテムってこと!?」
「その通り」
祈はにっこりと微笑んだ。
「そしてこれらの品々こそ、僕がこの学校に転校してきた理由でもあるんです」
「どういうこと……?」
ほへえ、と感心しながら周囲の棚を見て回る。祈が止めない、ということはここにあるのは触らない限り危険のないアイテムばかりなのだろう。さっきの大笑いする葉も、ちょっと気持ち悪いがそれだけだ。笑われただけで、別に体調が悪くなったなんてこともない。
二十一世紀の時代に、科学的にまったく解析不能な謎アイテムの数々がある。信じがたいが、実際に見てしまった以上信じるしかあるまい。そしてちょっとわくわくするのは確かだ。なんせ、自分の学校にこのような場所があるなんて思ってもみなかったのだから。
気になることがあるとすれば、一つ。
「どうして、うちの学校にこんな……秘宝を管理するような部屋があるの?学校で管理しないといけないもんなの?これ全部、転校と同時に春風くんが持ち込んだもの……ってなわけじゃないよね?」
ひかりが尋ねると、もちろんです、と彼は頷いた。
「実は、順序があべこべなんですよ。先にこの土地に、組織の日本支部の、秘宝管理倉庫があったんです。なんせ組織の歴史は古く、戦前から存在するものですから。ところが、空襲でこのあたり一帯も派手に焼けまして。倉庫もまるっと焼けてしまったんですよね」
「あー、じゃあ、中のものも?」
「倉庫の地下にあったものは無事だったんですが、上にあったものは殆どが焼失してしまいました。で、実は地下倉庫にあるものは……上の倉庫にあるものより貴重だったり、あるいは危険度が高いアイテムばかりだったんです。簡単に場所を動かすことはできない。その上、戦争直後は政府もバッタバタでしたからね。秘宝の管理に手間も人もかける余裕がなくなった上、大人の事情によってここに学校を建築することになってしまいまして」
「あー……」
なるほど。管理倉庫のあった上に、学校をそのまま建てざるをえなくなってしまったらしい。で、やむなく学校の一区画に、秘宝管理の部屋を残したということのようだ。
「でも、国家機密、に近いものだよね。生徒が勝手に入ってきたりしないの?それに、変なアイテム触って、危ないことに使ったりとかはしない?」
「基本的には問題ありません。とある秘宝の力を使って結界を作っていますからね。基本、この部屋の存在を知っていても、秘宝管理クラブのことに気付いても……多くの者は興味を抱かないんです。だから近寄らないし、言及しない。まるで道端の石ころに誰も気に留めないように」
「え」
それってどういうことだ、とひかりは目を見開く。
同時に気付いたのだ。何故そんな大事な話を、祈が初対面のひかりにしたのかということに。
「だから不思議なんです……秋野ひかりさん。貴女がどうして、このクラブに興味を持ったのかが」
きらり、と。彼の眼鏡の奥で、瞳が光るのが見えたのだ。
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