14 / 32
<14・終わり、始まり>
しおりを挟む
「お、終わった……?」
あ、こういう事言うとフラグになるんだっけ。思わず青ざめながら、凛音は恐る恐る一寸法師に近づいて行く。ぐったりと倒れた彼は、攻撃の余波を受けて完全に気を失っている様子だった。仰向けに大の字を作って倒れているその傍には、巨大な椀の欠片が散らばっている。
踏んだらちょっと痛そうだ。なんせ、この姿に凛音が履いているのは草履である。ぴったりと足にフィットしているせいで存外歩きづらくはないが(前世の自分が、これの扱い方を心得て慣れているせいかもしれない)普通の靴より足の裏が心許ないのは間違いない。
「!」
気絶した一寸法師を覗き込んだ凛音は、彼の手首に妙なものが纏わりついていることに気付く。まるで黒い、靄のようなもの。それが彼の右の手首に装着された紫色のブレスレット周囲をぶわぶわと回っているのだ。
明らかに、邪悪な何か。もしかしてこれが、一寸法師のを洗脳している魔王の意思とやらだろうか。凛音が手を伸ばそうとした瞬間、ピシリ、とブレスレットに罅が入る。そして。
「あ」
ブレスレットが音を立てて砕けた瞬間、何か黒い人魂のようなものがそこから溢れ出してきた。ぶわり、と宙に浮かび上がったそれを見て直感する。恐らくこれを斬れば、一寸法師は魔王の支配下から開放されるのではないか。
技を出す必要はない。凛音は再び刀を構え、一気に振り抜いた。
「せやっ!」
一刀両断。真っ黒な火の玉は真っ二つに割られ、気色悪い悲鳴と共に溶けて消えた。その途端、倒れている一寸法師に変化が現れる。
丁髷が云われていた髪が解けてツインテールになり、侍風の和装がみるみるうちに可愛いピンクのシャツとスカートに変わる。さらにそのすぐ傍に現れたのは――大きな、赤いランドセルだ。
「本当に、女の子だったんだ。しかも……どう見ても小学生じゃんか……」
こんな女の子が、一歩間違えれば人殺しになるところであったなんて。こんな少女に、同じ物語を攫ったり殺したりなんて仕事を任せていただなんて。
ギリ、と凛音は唇を噛み締める。まだ顔を見たこともない“魔王”とやらに、途方もない怒りを感じた。一体どこのろくでなしだというのだ、こんな小さな子供の意思を奪って、こんな酷い事をやらせるなんて。
――今、はっきりとわかった。
警察やらなんやらを、一体どう誤魔化せばいいのか。周囲の抉れた地面やら壊れた建物やらは、鳥籠の解除と共に元に戻るだろうが。それでも倒れている少女と、涼貴の怪我はどうにもならない。きっと根掘り葉掘り聞かれるのを、これから下手な説明でやり過ごさなければいけないだろう。
しかし、今は。それさえも、どうでもいいと思っている自分がいる。面倒だけれど、それよりも大事なことがある。
このような事――これ以上、続けさせてはならない。いいはずが、ない。
――だから、私は戦わないといけないんだ。他の誰かじゃない……私が、自分の意思で戦わないといけないんだ。
誰かに任せて、傍観者を気取ってなどいられない。舞台に上がれる者が限られているのなら、それは自分がやるべきことだ。きっと涼貴も同じように決意したのだろう。ああ見えて随分と正義感が強いようだし――案外自分達は、似たもの同士であるようだから。
――そのために、まず最初にやるべきことは。一緒に戦う、仲間を増やすってこと!
倒れている涼貴の傍に走りながら、凛音は思う。
仲間割れなどしている場合ではない。ピーターパンを説得し、なんとしても力を貸して貰わなければ。
***
「あらあら、本当にいい腕してるのね。頼もしいわ」
バラバラになって崩れ落ちた人形。それを前に刀を収めた瑠衣を見て、パチパチと拍手する人物が一人。白衣を来た女性は穏やかな声で笑いながら歩み寄ってくる。
彼女の名前は、永倉リーナ。四十三歳で、ある製薬会社の研究員をしているらしい。らしい、というのはどこでどんな研究をしているのか、なんて詳しい情報は何も聞かされていないからである。彼女がピーターパンである莉緒の保護者替わりであるらしかった。苗字が違うが、親戚か何かなのだろうか。
彼女と莉緒が一緒に暮らしている自宅には、なんと地下に能力を訓練し研究できる施設が備え付けられていた。一体どれだけ資金があるんだろう、と疑わずにはいられない。残念ながら自分はまだこの家の外の景色さえ見ていないので、この場所が何県の何処なのかもわからないわけだが(さすがに、国外ということはないだろう。自分はパスポートも持っていないし)。
「今日の訓練はそろそろ終わりにしましょう。莉緒も学校から帰って来る頃合だし」
「莉緒君、普通に学校に行ってるんッスね」
「ええ、勿論よ。あれでいて成績優秀なの。ちょっと協調性がないのが難点だけど……まあ色々あったしねえ」
「えっと……」
そろそろ、もう少し色々と話を聞いてもいい頃合だろうか。なし崩しのように彼らに言われるまま訓練をしているわけだが。正直まだ、瑠衣は戦うことに納得しきれているわけではない。本当に戦うことが、正解かどうかも確信できていない状況だ。
ただあの時、莉緒に言われた言葉がどうしても引っかかっているだけで。
このまま見て見ぬフリをするのも嫌だから、という曖昧な理由があるだけで。
「いいわよ、黙って訓練ばかりさせて、こっちも悪かったと思ってるしね」
苦笑しつつ、リーナが言う。どうやらこちらが尋ねたいことなどお見通しらしい。多分悪い人ではない、のだろう。こうして話していると、なんというか普通に莉緒のお母さんだと言われても通用しそうだ。実際の母親ではないらしいが、彼女の莉緒への接し方はそれに近いものがある。きっと全部わかっていて、この戦いに参加しているのだろう、ということも。
「えっと、じゃあ……」
鳥籠を解除して転装を解き、地上へ戻るエレベーターに戻りながら聞いた話によれば。
此処は、埼玉県の××市、であるらしい。かなり北の方、結構山に近い田舎なのだと教えてくれた。これくらいの大きな屋敷と地下室を作れたのは物価が安かったからなのよねえ、と彼女は笑いながら話してくれた。
次に、彼女と莉緒の関係だが。莉緒は、彼女の妹の息子であるらしいのだ。それがちょっと訳有りで妹が育てられなくなり、今は実質リーナが育てているような状態であるということも。二人揃って物語の転生者であり――リーナは七匹の子山羊の“母山羊”の転生であるということも。
「物語の転生者には、主人公の転生者が多いんだけどねえ。そうではない、悪役とか脇役が転生してるケースもあるの。特にほら、七匹の子山羊なんて主人公がぼんやりした童話じゃない?私もそうだし、他にも転生したキャラクターはいるみたいなのよねえ」
「そうなんですか」
「ええ、そうなの。七匹の子山羊で言えば、狼も転生してたみたいなのよ。……残念ながら、今はお話ができる状態じゃないんだけどね。私が見つけた時にはもう、魔王の手下に襲われて……意識不明の重体で、入院してたから」
「……」
意識不明。瑠衣は渋い気持ちで下を向く。
戦いの重要性も、戦わなければいけない必要性も説明された。魔王の目的も、魔王の手下達が物語を集めようとしていることも――従わない者は手にかけているらしいということも。
それでもまだ。瑠衣は実際に戦いに参加したことがあるわけではない。大きな怪我をするかもしれないだとか、死んだ人間がいるなどという話を聞いても、イマイチピンと来ていないというのが本心だった。こんな状態で果たして戦力になるのか、という不安も。
「……あの」
これも、尋ねておくべきだろう。エレベーターを降りたところで、瑠衣は口を開く。
「魔王と戦うなら、本来一人でも多く仲間が必要なのに。莉緒君にそれがわかってないとは思えないのに……シンデレラを嫌っているって、それはどうしてなんスか」
『他にも仲間を集めている奴はいるようだが……正直“シンデレラ”は信用できない。全ての物語には須く“前世の罪”がある。自らの罪を悔やんでない輩を仲間にする気はない』
『覚醒した物語は、同じ目覚めた物語に触れればその前世をある程度読み取ることができる。また、俺のように索敵能力が高ければある程度近付くだけでも可能だ。加賀美瑠衣、お前のことは数日前から調査して、結果仲間にするべきと判断した。お前は己がしたことを、心底後悔しているからだ』
物語の、前世の罪。
桃太郎である瑠衣にはそれが痛いほどよくわかる。自分は、真実をろくに見ようともせずに村人達の口車に乗り、なんの罪もない鬼達を虐殺して英雄になった大罪人だ。その罪は、桃太郎が死んでも――来世になっても、償い切れるものではないと思っている。実際前世の記憶を思い出してしまった日は、あまりの恐ろしさに吐き気が止まらなかったほどなのだから。
しかし、全ての物語に罪があるというのは、どういうことなのか。
シンデレラにも、ピーターパンにも、七匹の子山羊にも罪があるということなのか?
「……そうね」
いずれ聞かれる質問だとは思っていたのだろう。リーナは苦虫を噛み潰したような顔になり――はあ、と大きく息を一つ吐いた。
「そもそも、昔話も童話も、大抵どこかしら残酷な要素がはいってるのよね。最後に魔女が殺されたとか、おばあさんがひどい目にあったとか、そういう話が本当に多いわ。原典よりも、だいぶマイルドに改変されて現世には伝わっているけどね。何でだと思う?」
「何で、って……」
「理由は二つ。人は、痛みのない教訓からは何も学ぶことができないからよ。いくら“それはやってはいけないこと”と教えても、“何故やってはいけないのか”“ルールを破ればどんなペナルティがあるのか”を身をもって知っていないと効果は薄いでしょ」
そして理由のもう一つはね、と。彼女は苦笑に近い表情を浮かべて告げた。
「人は、残酷なものを、安全圏から眺めるのが大好きなの。……物語を本棚に収めた魔女も同じ。残酷な悲劇を、本として楽しむのが大好き。魔王がそういう物語を作ろうとしている、最大の理由がそういうことなんでしょうね」
あ、こういう事言うとフラグになるんだっけ。思わず青ざめながら、凛音は恐る恐る一寸法師に近づいて行く。ぐったりと倒れた彼は、攻撃の余波を受けて完全に気を失っている様子だった。仰向けに大の字を作って倒れているその傍には、巨大な椀の欠片が散らばっている。
踏んだらちょっと痛そうだ。なんせ、この姿に凛音が履いているのは草履である。ぴったりと足にフィットしているせいで存外歩きづらくはないが(前世の自分が、これの扱い方を心得て慣れているせいかもしれない)普通の靴より足の裏が心許ないのは間違いない。
「!」
気絶した一寸法師を覗き込んだ凛音は、彼の手首に妙なものが纏わりついていることに気付く。まるで黒い、靄のようなもの。それが彼の右の手首に装着された紫色のブレスレット周囲をぶわぶわと回っているのだ。
明らかに、邪悪な何か。もしかしてこれが、一寸法師のを洗脳している魔王の意思とやらだろうか。凛音が手を伸ばそうとした瞬間、ピシリ、とブレスレットに罅が入る。そして。
「あ」
ブレスレットが音を立てて砕けた瞬間、何か黒い人魂のようなものがそこから溢れ出してきた。ぶわり、と宙に浮かび上がったそれを見て直感する。恐らくこれを斬れば、一寸法師は魔王の支配下から開放されるのではないか。
技を出す必要はない。凛音は再び刀を構え、一気に振り抜いた。
「せやっ!」
一刀両断。真っ黒な火の玉は真っ二つに割られ、気色悪い悲鳴と共に溶けて消えた。その途端、倒れている一寸法師に変化が現れる。
丁髷が云われていた髪が解けてツインテールになり、侍風の和装がみるみるうちに可愛いピンクのシャツとスカートに変わる。さらにそのすぐ傍に現れたのは――大きな、赤いランドセルだ。
「本当に、女の子だったんだ。しかも……どう見ても小学生じゃんか……」
こんな女の子が、一歩間違えれば人殺しになるところであったなんて。こんな少女に、同じ物語を攫ったり殺したりなんて仕事を任せていただなんて。
ギリ、と凛音は唇を噛み締める。まだ顔を見たこともない“魔王”とやらに、途方もない怒りを感じた。一体どこのろくでなしだというのだ、こんな小さな子供の意思を奪って、こんな酷い事をやらせるなんて。
――今、はっきりとわかった。
警察やらなんやらを、一体どう誤魔化せばいいのか。周囲の抉れた地面やら壊れた建物やらは、鳥籠の解除と共に元に戻るだろうが。それでも倒れている少女と、涼貴の怪我はどうにもならない。きっと根掘り葉掘り聞かれるのを、これから下手な説明でやり過ごさなければいけないだろう。
しかし、今は。それさえも、どうでもいいと思っている自分がいる。面倒だけれど、それよりも大事なことがある。
このような事――これ以上、続けさせてはならない。いいはずが、ない。
――だから、私は戦わないといけないんだ。他の誰かじゃない……私が、自分の意思で戦わないといけないんだ。
誰かに任せて、傍観者を気取ってなどいられない。舞台に上がれる者が限られているのなら、それは自分がやるべきことだ。きっと涼貴も同じように決意したのだろう。ああ見えて随分と正義感が強いようだし――案外自分達は、似たもの同士であるようだから。
――そのために、まず最初にやるべきことは。一緒に戦う、仲間を増やすってこと!
倒れている涼貴の傍に走りながら、凛音は思う。
仲間割れなどしている場合ではない。ピーターパンを説得し、なんとしても力を貸して貰わなければ。
***
「あらあら、本当にいい腕してるのね。頼もしいわ」
バラバラになって崩れ落ちた人形。それを前に刀を収めた瑠衣を見て、パチパチと拍手する人物が一人。白衣を来た女性は穏やかな声で笑いながら歩み寄ってくる。
彼女の名前は、永倉リーナ。四十三歳で、ある製薬会社の研究員をしているらしい。らしい、というのはどこでどんな研究をしているのか、なんて詳しい情報は何も聞かされていないからである。彼女がピーターパンである莉緒の保護者替わりであるらしかった。苗字が違うが、親戚か何かなのだろうか。
彼女と莉緒が一緒に暮らしている自宅には、なんと地下に能力を訓練し研究できる施設が備え付けられていた。一体どれだけ資金があるんだろう、と疑わずにはいられない。残念ながら自分はまだこの家の外の景色さえ見ていないので、この場所が何県の何処なのかもわからないわけだが(さすがに、国外ということはないだろう。自分はパスポートも持っていないし)。
「今日の訓練はそろそろ終わりにしましょう。莉緒も学校から帰って来る頃合だし」
「莉緒君、普通に学校に行ってるんッスね」
「ええ、勿論よ。あれでいて成績優秀なの。ちょっと協調性がないのが難点だけど……まあ色々あったしねえ」
「えっと……」
そろそろ、もう少し色々と話を聞いてもいい頃合だろうか。なし崩しのように彼らに言われるまま訓練をしているわけだが。正直まだ、瑠衣は戦うことに納得しきれているわけではない。本当に戦うことが、正解かどうかも確信できていない状況だ。
ただあの時、莉緒に言われた言葉がどうしても引っかかっているだけで。
このまま見て見ぬフリをするのも嫌だから、という曖昧な理由があるだけで。
「いいわよ、黙って訓練ばかりさせて、こっちも悪かったと思ってるしね」
苦笑しつつ、リーナが言う。どうやらこちらが尋ねたいことなどお見通しらしい。多分悪い人ではない、のだろう。こうして話していると、なんというか普通に莉緒のお母さんだと言われても通用しそうだ。実際の母親ではないらしいが、彼女の莉緒への接し方はそれに近いものがある。きっと全部わかっていて、この戦いに参加しているのだろう、ということも。
「えっと、じゃあ……」
鳥籠を解除して転装を解き、地上へ戻るエレベーターに戻りながら聞いた話によれば。
此処は、埼玉県の××市、であるらしい。かなり北の方、結構山に近い田舎なのだと教えてくれた。これくらいの大きな屋敷と地下室を作れたのは物価が安かったからなのよねえ、と彼女は笑いながら話してくれた。
次に、彼女と莉緒の関係だが。莉緒は、彼女の妹の息子であるらしいのだ。それがちょっと訳有りで妹が育てられなくなり、今は実質リーナが育てているような状態であるということも。二人揃って物語の転生者であり――リーナは七匹の子山羊の“母山羊”の転生であるということも。
「物語の転生者には、主人公の転生者が多いんだけどねえ。そうではない、悪役とか脇役が転生してるケースもあるの。特にほら、七匹の子山羊なんて主人公がぼんやりした童話じゃない?私もそうだし、他にも転生したキャラクターはいるみたいなのよねえ」
「そうなんですか」
「ええ、そうなの。七匹の子山羊で言えば、狼も転生してたみたいなのよ。……残念ながら、今はお話ができる状態じゃないんだけどね。私が見つけた時にはもう、魔王の手下に襲われて……意識不明の重体で、入院してたから」
「……」
意識不明。瑠衣は渋い気持ちで下を向く。
戦いの重要性も、戦わなければいけない必要性も説明された。魔王の目的も、魔王の手下達が物語を集めようとしていることも――従わない者は手にかけているらしいということも。
それでもまだ。瑠衣は実際に戦いに参加したことがあるわけではない。大きな怪我をするかもしれないだとか、死んだ人間がいるなどという話を聞いても、イマイチピンと来ていないというのが本心だった。こんな状態で果たして戦力になるのか、という不安も。
「……あの」
これも、尋ねておくべきだろう。エレベーターを降りたところで、瑠衣は口を開く。
「魔王と戦うなら、本来一人でも多く仲間が必要なのに。莉緒君にそれがわかってないとは思えないのに……シンデレラを嫌っているって、それはどうしてなんスか」
『他にも仲間を集めている奴はいるようだが……正直“シンデレラ”は信用できない。全ての物語には須く“前世の罪”がある。自らの罪を悔やんでない輩を仲間にする気はない』
『覚醒した物語は、同じ目覚めた物語に触れればその前世をある程度読み取ることができる。また、俺のように索敵能力が高ければある程度近付くだけでも可能だ。加賀美瑠衣、お前のことは数日前から調査して、結果仲間にするべきと判断した。お前は己がしたことを、心底後悔しているからだ』
物語の、前世の罪。
桃太郎である瑠衣にはそれが痛いほどよくわかる。自分は、真実をろくに見ようともせずに村人達の口車に乗り、なんの罪もない鬼達を虐殺して英雄になった大罪人だ。その罪は、桃太郎が死んでも――来世になっても、償い切れるものではないと思っている。実際前世の記憶を思い出してしまった日は、あまりの恐ろしさに吐き気が止まらなかったほどなのだから。
しかし、全ての物語に罪があるというのは、どういうことなのか。
シンデレラにも、ピーターパンにも、七匹の子山羊にも罪があるということなのか?
「……そうね」
いずれ聞かれる質問だとは思っていたのだろう。リーナは苦虫を噛み潰したような顔になり――はあ、と大きく息を一つ吐いた。
「そもそも、昔話も童話も、大抵どこかしら残酷な要素がはいってるのよね。最後に魔女が殺されたとか、おばあさんがひどい目にあったとか、そういう話が本当に多いわ。原典よりも、だいぶマイルドに改変されて現世には伝わっているけどね。何でだと思う?」
「何で、って……」
「理由は二つ。人は、痛みのない教訓からは何も学ぶことができないからよ。いくら“それはやってはいけないこと”と教えても、“何故やってはいけないのか”“ルールを破ればどんなペナルティがあるのか”を身をもって知っていないと効果は薄いでしょ」
そして理由のもう一つはね、と。彼女は苦笑に近い表情を浮かべて告げた。
「人は、残酷なものを、安全圏から眺めるのが大好きなの。……物語を本棚に収めた魔女も同じ。残酷な悲劇を、本として楽しむのが大好き。魔王がそういう物語を作ろうとしている、最大の理由がそういうことなんでしょうね」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち
鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。
心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。
悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。
辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。
それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。
社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ!
食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて……
神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
MASK 〜黒衣の薬売り〜
天瀬純
キャラ文芸
【薬売り“黒衣 漆黒”による現代ファンタジー】
黒い布マスクに黒いスーツ姿の彼“薬売り”が紹介する奇妙な薬たち…。
いくつもの短編を通して、薬売りとの交流を“あらゆる人物視点”で綴られる現代ファンタジー。
ぜひ、お立ち寄りください。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
仲町通りのアトリエ書房 -水彩絵師と白うさぎ付き-
橘花やよい
キャラ文芸
スランプ中の絵描き・絵莉が引っ越してきたのは、喋る白うさぎのいる長野の書店「兎ノ書房」。
心を癒し、夢と向き合い、人と繋がる、じんわりする物語。
pixivで連載していた小説を改稿して更新しています。
「第7回ほっこり・じんわり大賞」大賞をいただきました。
宮廷の九訳士と後宮の生華
狭間夕
キャラ文芸
宮廷の通訳士である英明(インミン)は、文字を扱う仕事をしていることから「暗号の解読」を頼まれることもある。ある日、後宮入りした若い妃に充てられてた手紙が謎の文字で書かれていたことから、これは恋文ではないかと噂になった。真相は単純で、兄が妹に充てただけの悪意のない内容だったが、これをきっかけに静月(ジンユェ)という若い妃のことを知る。通訳士と、後宮の妃。立場は違えど、後宮に生きる華として、二人は陰謀の渦に巻き込まれることになって――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる