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<25・黒い空にて。>
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本当に殴りたかったのは、誰なのだろう。
多分それは、弱い自分自身だ。本当に嫌いなのは、弱くて情けなくて無力で、そんな自分自身だったのだ。
「もうやだ、やだよ……!」
真っ黒な海の底で、ルイは頭を抱えて蹲る。長い黒髪が自慢だった。自分で結わえる必要もなく、いつもお手伝いさんが綺麗に結わえてリボンで止めてくれた。青くてキラキラした色が子供の頃から好きで、両親や召使達に褒められるたびにきゃらきゃらとはしゃいでいるのを思い出す。
あのリボンは、あれから一度もつけていない。
汚れたわけでも、破れたわけでもなかった。自分でつけることもできないわけじゃなかった。それでもできなくなったのは、無邪気に笑っていた自分自身を思い出したくなかったからだ。
両親は、自分を灰崎家の跡取りとしか見ていなかった。きっと、事件が起きなくてもどこかで見限られていたのではないかとも思うのだ。あの時までは、両親の期待にこたえて勉強も運動もこなしてきたし、そのたびに褒められて誇らしく思っていたけれど――きっとそんなこと、自分の器量でいつまでも続けられなかっただろうから。どこかで失敗して、期待通りにできなくて、失望したとなじられたことだろう。それがたまたま文化祭のあと事件を契機に浮彫になっただけのこと。
『黒沢家の方々にご理解いただけなかったのは仕方ないが……国の名誉あるお役目を承ったのだ。莫大な恩赦も出すと言っている。産みたくないなんて我儘を言わずに、健康な男児を産みなさい、いいね?』
父の声は、今でも一言一句思い出せる。
それから、大量に出血して――授かった子を流してしまった時、病院で母に喚かれた言葉も。
『見知らぬ奴らに集団でレイプを受けただけでも恥ずかしいのに……国の役目だから仕方ないとそれでも受け止めていたのに!まさかその子を流してしまうなんて、なんて恥知らずなの!これじゃあ、汚れた体しか残らないじゃない!』
自分は、なんて馬鹿だったんだろう。
愛されていたのは己ではなかった。彼等にとって都合の良い、灰崎家の優秀な道具である自分でしかなかったのだ。それまでなんてみじめな勘違いを続けてきたのか。――ルイは退院と同時に灰崎家を見限り、夜の町へ飛び出した。好き勝手に投げやりに遊んでから、川にでも身を投げて今度こそ死んでやろうと思ったがゆえに。
それを踏みとどまったのは、その時であった男達が存外優しかったから。今、嵐の金星の幹部に就いている連中は、このチームの初期メンバーは。そんなルイを、真っ先に助けてくれた者達であったのである。
家や学校に居場所がなくてはみだしていた者達は、同じはみだし者に優しかった。そして言ってくれたのだ。
「あいつらは言ってくれた。復讐してもいいと。そのために生きてもいいと。……俺は、あいつらのおかげで息ができたんだ。感謝している、心から。……それを、お前のような……今日まで何一つ不自由なく幸せに生きて来れたような奴に否定されたくなんかない!」
ドロドロの、タールのように濁った黒い海の中、ルイは目の前の男に向けて叫ぶ。真っ赤な短髪の男は、喚くルイをじっと見つめるばかり。
やがて、口を開いて言う最初の台詞は。
「否定なんかしてねえよ」
「え」
「確かに、俺はお前みたいな目に遭ったこともねえし。この通りでけえし、力も強ぇし、家もそこそこ裕福だし……まずそういう経験はしないんだろう。そもそも、他人である以上お前の気持ちがわかるなんて言う権利は俺にはねえしな。……だからこそ、否定なんかしないさ。むしろ、お前はすげえと思うよ。俺でさえ想像して、想像しきれなくてぞっとして凍りついたってのに。お前は実際その絶望を前にして、それでも生きたんだろ」
一歩、前に近づいてくる。ルイは男から逃げることもできず、ただ男の来訪を驚いて見るばかり。
「すげえよ、お前は。お前が今生きてるってのはそれだけ……お前が強かったってことだろ。生きてる事に比べたら、その理由なんて二の次三の次だと俺は思うぜ。復讐を目的にすることで、お前が救われるってならそれでもいいと思う」
ただな、と彼は続けた。
「光流を殺して、それでお前が死ぬつもりだってなら俺はお前を止めなくちゃいけねえ。それは光流が俺にとって大事だからってだけじゃねえぞ。……それじゃ結局誰も救われねえまま、一番裁かれるべき奴らがのうのうと嗤ったまんまだからだ。悔しくねえのか、お前はそれで」
「――っ!だからって……!」
「そりゃ、敵はでけえだろうよ。俺だってその規模を全部わかってるわけじゃねえし怖いと思ってねえわけじゃねえ。でもな。お前、どうせ死ぬつもりだってなら……逆に、本当に意味で怖いもんなんかないんじゃねえのか。最後にそいつに挑んでみてもいいんじゃないのか。……クズども残さずぶっ飛ばして、それで笑えるようになってから死ねよ。その方が楽しいだろ、どう見ても」
なんという、脳禁思考。馬鹿馬鹿しいと、ちょっと前の自分なら鼻で笑ったはずだ。
それなのに、出来ない。そう。
「そのためなら、俺らはいくらでも力を貸す。俺らネオ・ソルジャーと、お前が信じる嵐の金星。両方のタッグでも、まだ足りなきゃその時はその時だ」
柔い硝子が砕けるような音がした。幻聴だ、こんなものは。それでも黒い海ばかりだった闇が砕けて、祥一郎の今の姿と――呆然と自分達を見つめる仲間達の姿が目に入る。
追憶から戻ってきた瞬間、瞼を刺した光。そして、嵐の金星のアジト。
震えるルイの拳を真正面から受け止め、こちらを真っ直ぐ見つめる祥一郎の姿。
「春華高校の上層部がやってきたこと、それから被害者への聞き取りと元加害者の証言。証拠は俺らだけでもかなり集めてるつもりだぜ。奴らを社会的にボコボコにして、一番ムカつくやつの顔面に一発ぶちこんでやれよ。……そこまでやったら、その後で……それでも光流が許せなかったらその時はまた考えりゃいいだろうが」
きっと、祥一郎の力は強いのだろう。でもそれだけじゃない。ルイの振り上げた拳が掴まれたまま動かないのは、きっと。
「死ぬ度胸があんなら、死ぬ気で世界を変えてみろよ。お前の世界、真っ暗なまんまで終わらせる気か」
ふざけるなよ、と思った。でもそれは、少し前に考えたのとまるで違う理由だ。光流の傍にこいつがいるのがムカつくし、嫉妬もするがそれだけではなくて。
「……あんた、マジで、最低」
ああ、本当に悔しい。
「何で、そんなかっこいいんですかね」
真正面から、たった一人で乗り込んできた、古臭い侍のような男は。
まさにその言葉の一太刀で、淀んでいたルイの心の扉をこじ開けていったのだった。
***
【怪談?】学校に纏わる黒い噂を集めるスレ・その20【陰謀?】
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301:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
びっくりしてちびった
302:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
>>301
汚ねえwww
303:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
>>301
つ 【大人用オムツ】
304:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
ようするに……どういうことだってばよ??
前スレで言われてた、春華高校にまつわる話ってマジだったの?
305:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
いやー、マジだったんだろ。だって動画も写真も出ちゃってるし
306:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
確かに、人口増加がちょっと伸び悩んでるとは言われてるしさあ
春華高校レベルの優秀な人間に、強制的にでも子孫を作って欲しいと思うのはわからんではないけど
一体いつの時代の話だよ、倫理観どこ行ったんだよ
307:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
むしろ、昔なら絶対許されなかったようなことが今起きてたってことだろ
男子しかいなくなって久しい世界だしさ、人口増やして国を存続させるためには、単身者なんて許したくないってことなんじゃないの
表の法律では、単身者は“支援を受けられない”どまりだけど、実際はこっそり拉致られてるなんて噂もあったし
308:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
聞いたことがあるわ
独り身の若い男は無理やり拉致られてクスリ盛られて、子供を産む道具にさせられてんじゃないかっていう
海外の話かと思ってたけど、日本でもあったんじゃないかって思っちゃうよな、こういうの聞くと
309:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
ありえない
310:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
絶対嫌だ!!!!!
いや、ほんと、俺自分で子供産む勇気ないし将来結婚しても絶対夫の方しかやりたくねえって思ってたのに
311:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
出産って悪阻もやべえし、産む時の痛みハンパないっていうもんな
それで死ぬ人もいるって。昔の女性達はよく当たり前のように耐えられてたもんだ
312:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
脳の構造上、昔の女性達の方がまだ生き延びる確率高かったみたいだけどな
だって両性になったって、結局脳みそは男のまんまなんだし
313:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
まあ、出生率が伸び悩む理由の一つそれなんだよな
出産して、無事に生き延びられる母親がどうしても多くないから
いや、生き延びる奴の方が多いけど、それでも二割くらいは出産で死んでるらしいし
314:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
だから、一回出産に成功すると、二人目三人目もぜひよろしく!みたいな空気になるんだよな……
いや、わかってるけどさあ
315:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
文化祭のミスコンで優勝したコが、本人の了承を得ずに毎回選ばれた十人とセクロスさせられた挙句子供を産まさせられてた
しかもその子供は取り上げて国のものってことにされてた
そういうこでおけ?
316:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
>>315
そういうことなんでしょうよ……
317:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
吐き気がする邪悪ってつまりそういうことだよな
318:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
指示出してたのって、やっぱり噂通りなのかな
文部科学省から命令が降りてきたはずだし
319:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
文部科学省の大臣で、与党・生産民主党に所属してる……あいつが命令出してたはずだよな、普通に考えて。
本人マスコミに追われまくって、めっちゃ否定してたけど
320:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
現役総理や、内閣のミナサンはどこまで噛んでたのかねえ
321:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
噛んでても、トカゲのしっぽ切りされそうだよな
まあ、シッポというにはだいぶでかすぎるし、生産民主党へのダメージもでかいだろうけど
322:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
野党の平等民主党が積極的に情報公開して叩いてたみたいだけど、誰なんだろうなあいつらに情報リークしたの
323:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
さあ?
324:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
どっかにいたのかもな。こういうのが絶対許せない、ヒーローみたいなやつが
案外、俺らの隣を普通に歩いている人かもしれないよ
325:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
マジか、なんかかっけー
326:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
春華高校、上層部総入れ替えになるってよ。評判ガタ落ちだから、立て直すの大変だろうけど……通ってる生徒たちのためにも頑張ってほしいな
327:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
うおおおおおまいらニュース見ろ!つかもう見てるかもだけど!
文部科学省の大臣、自宅マンション前で襲撃されたって!
328:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
マジで!?
329:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
あ、ほんとだ。コートきた覆面男に、顔面おもいっきりパンチされて鼻血だらだらになったらしいな!
一発だけぶんなぐって、そのまま逃げたらしいけど
330:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
誰だろ?その噂のヒーローさんかな?
331:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
さあて、どうなんだろうなー?
多分それは、弱い自分自身だ。本当に嫌いなのは、弱くて情けなくて無力で、そんな自分自身だったのだ。
「もうやだ、やだよ……!」
真っ黒な海の底で、ルイは頭を抱えて蹲る。長い黒髪が自慢だった。自分で結わえる必要もなく、いつもお手伝いさんが綺麗に結わえてリボンで止めてくれた。青くてキラキラした色が子供の頃から好きで、両親や召使達に褒められるたびにきゃらきゃらとはしゃいでいるのを思い出す。
あのリボンは、あれから一度もつけていない。
汚れたわけでも、破れたわけでもなかった。自分でつけることもできないわけじゃなかった。それでもできなくなったのは、無邪気に笑っていた自分自身を思い出したくなかったからだ。
両親は、自分を灰崎家の跡取りとしか見ていなかった。きっと、事件が起きなくてもどこかで見限られていたのではないかとも思うのだ。あの時までは、両親の期待にこたえて勉強も運動もこなしてきたし、そのたびに褒められて誇らしく思っていたけれど――きっとそんなこと、自分の器量でいつまでも続けられなかっただろうから。どこかで失敗して、期待通りにできなくて、失望したとなじられたことだろう。それがたまたま文化祭のあと事件を契機に浮彫になっただけのこと。
『黒沢家の方々にご理解いただけなかったのは仕方ないが……国の名誉あるお役目を承ったのだ。莫大な恩赦も出すと言っている。産みたくないなんて我儘を言わずに、健康な男児を産みなさい、いいね?』
父の声は、今でも一言一句思い出せる。
それから、大量に出血して――授かった子を流してしまった時、病院で母に喚かれた言葉も。
『見知らぬ奴らに集団でレイプを受けただけでも恥ずかしいのに……国の役目だから仕方ないとそれでも受け止めていたのに!まさかその子を流してしまうなんて、なんて恥知らずなの!これじゃあ、汚れた体しか残らないじゃない!』
自分は、なんて馬鹿だったんだろう。
愛されていたのは己ではなかった。彼等にとって都合の良い、灰崎家の優秀な道具である自分でしかなかったのだ。それまでなんてみじめな勘違いを続けてきたのか。――ルイは退院と同時に灰崎家を見限り、夜の町へ飛び出した。好き勝手に投げやりに遊んでから、川にでも身を投げて今度こそ死んでやろうと思ったがゆえに。
それを踏みとどまったのは、その時であった男達が存外優しかったから。今、嵐の金星の幹部に就いている連中は、このチームの初期メンバーは。そんなルイを、真っ先に助けてくれた者達であったのである。
家や学校に居場所がなくてはみだしていた者達は、同じはみだし者に優しかった。そして言ってくれたのだ。
「あいつらは言ってくれた。復讐してもいいと。そのために生きてもいいと。……俺は、あいつらのおかげで息ができたんだ。感謝している、心から。……それを、お前のような……今日まで何一つ不自由なく幸せに生きて来れたような奴に否定されたくなんかない!」
ドロドロの、タールのように濁った黒い海の中、ルイは目の前の男に向けて叫ぶ。真っ赤な短髪の男は、喚くルイをじっと見つめるばかり。
やがて、口を開いて言う最初の台詞は。
「否定なんかしてねえよ」
「え」
「確かに、俺はお前みたいな目に遭ったこともねえし。この通りでけえし、力も強ぇし、家もそこそこ裕福だし……まずそういう経験はしないんだろう。そもそも、他人である以上お前の気持ちがわかるなんて言う権利は俺にはねえしな。……だからこそ、否定なんかしないさ。むしろ、お前はすげえと思うよ。俺でさえ想像して、想像しきれなくてぞっとして凍りついたってのに。お前は実際その絶望を前にして、それでも生きたんだろ」
一歩、前に近づいてくる。ルイは男から逃げることもできず、ただ男の来訪を驚いて見るばかり。
「すげえよ、お前は。お前が今生きてるってのはそれだけ……お前が強かったってことだろ。生きてる事に比べたら、その理由なんて二の次三の次だと俺は思うぜ。復讐を目的にすることで、お前が救われるってならそれでもいいと思う」
ただな、と彼は続けた。
「光流を殺して、それでお前が死ぬつもりだってなら俺はお前を止めなくちゃいけねえ。それは光流が俺にとって大事だからってだけじゃねえぞ。……それじゃ結局誰も救われねえまま、一番裁かれるべき奴らがのうのうと嗤ったまんまだからだ。悔しくねえのか、お前はそれで」
「――っ!だからって……!」
「そりゃ、敵はでけえだろうよ。俺だってその規模を全部わかってるわけじゃねえし怖いと思ってねえわけじゃねえ。でもな。お前、どうせ死ぬつもりだってなら……逆に、本当に意味で怖いもんなんかないんじゃねえのか。最後にそいつに挑んでみてもいいんじゃないのか。……クズども残さずぶっ飛ばして、それで笑えるようになってから死ねよ。その方が楽しいだろ、どう見ても」
なんという、脳禁思考。馬鹿馬鹿しいと、ちょっと前の自分なら鼻で笑ったはずだ。
それなのに、出来ない。そう。
「そのためなら、俺らはいくらでも力を貸す。俺らネオ・ソルジャーと、お前が信じる嵐の金星。両方のタッグでも、まだ足りなきゃその時はその時だ」
柔い硝子が砕けるような音がした。幻聴だ、こんなものは。それでも黒い海ばかりだった闇が砕けて、祥一郎の今の姿と――呆然と自分達を見つめる仲間達の姿が目に入る。
追憶から戻ってきた瞬間、瞼を刺した光。そして、嵐の金星のアジト。
震えるルイの拳を真正面から受け止め、こちらを真っ直ぐ見つめる祥一郎の姿。
「春華高校の上層部がやってきたこと、それから被害者への聞き取りと元加害者の証言。証拠は俺らだけでもかなり集めてるつもりだぜ。奴らを社会的にボコボコにして、一番ムカつくやつの顔面に一発ぶちこんでやれよ。……そこまでやったら、その後で……それでも光流が許せなかったらその時はまた考えりゃいいだろうが」
きっと、祥一郎の力は強いのだろう。でもそれだけじゃない。ルイの振り上げた拳が掴まれたまま動かないのは、きっと。
「死ぬ度胸があんなら、死ぬ気で世界を変えてみろよ。お前の世界、真っ暗なまんまで終わらせる気か」
ふざけるなよ、と思った。でもそれは、少し前に考えたのとまるで違う理由だ。光流の傍にこいつがいるのがムカつくし、嫉妬もするがそれだけではなくて。
「……あんた、マジで、最低」
ああ、本当に悔しい。
「何で、そんなかっこいいんですかね」
真正面から、たった一人で乗り込んできた、古臭い侍のような男は。
まさにその言葉の一太刀で、淀んでいたルイの心の扉をこじ開けていったのだった。
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【怪談?】学校に纏わる黒い噂を集めるスレ・その20【陰謀?】
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301:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
びっくりしてちびった
302:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
>>301
汚ねえwww
303:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
>>301
つ 【大人用オムツ】
304:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
ようするに……どういうことだってばよ??
前スレで言われてた、春華高校にまつわる話ってマジだったの?
305:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
いやー、マジだったんだろ。だって動画も写真も出ちゃってるし
306:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
確かに、人口増加がちょっと伸び悩んでるとは言われてるしさあ
春華高校レベルの優秀な人間に、強制的にでも子孫を作って欲しいと思うのはわからんではないけど
一体いつの時代の話だよ、倫理観どこ行ったんだよ
307:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
むしろ、昔なら絶対許されなかったようなことが今起きてたってことだろ
男子しかいなくなって久しい世界だしさ、人口増やして国を存続させるためには、単身者なんて許したくないってことなんじゃないの
表の法律では、単身者は“支援を受けられない”どまりだけど、実際はこっそり拉致られてるなんて噂もあったし
308:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
聞いたことがあるわ
独り身の若い男は無理やり拉致られてクスリ盛られて、子供を産む道具にさせられてんじゃないかっていう
海外の話かと思ってたけど、日本でもあったんじゃないかって思っちゃうよな、こういうの聞くと
309:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
ありえない
310:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
絶対嫌だ!!!!!
いや、ほんと、俺自分で子供産む勇気ないし将来結婚しても絶対夫の方しかやりたくねえって思ってたのに
311:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
出産って悪阻もやべえし、産む時の痛みハンパないっていうもんな
それで死ぬ人もいるって。昔の女性達はよく当たり前のように耐えられてたもんだ
312:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
脳の構造上、昔の女性達の方がまだ生き延びる確率高かったみたいだけどな
だって両性になったって、結局脳みそは男のまんまなんだし
313:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
まあ、出生率が伸び悩む理由の一つそれなんだよな
出産して、無事に生き延びられる母親がどうしても多くないから
いや、生き延びる奴の方が多いけど、それでも二割くらいは出産で死んでるらしいし
314:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
だから、一回出産に成功すると、二人目三人目もぜひよろしく!みたいな空気になるんだよな……
いや、わかってるけどさあ
315:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
文化祭のミスコンで優勝したコが、本人の了承を得ずに毎回選ばれた十人とセクロスさせられた挙句子供を産まさせられてた
しかもその子供は取り上げて国のものってことにされてた
そういうこでおけ?
316:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
>>315
そういうことなんでしょうよ……
317:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
吐き気がする邪悪ってつまりそういうことだよな
318:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
指示出してたのって、やっぱり噂通りなのかな
文部科学省から命令が降りてきたはずだし
319:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
文部科学省の大臣で、与党・生産民主党に所属してる……あいつが命令出してたはずだよな、普通に考えて。
本人マスコミに追われまくって、めっちゃ否定してたけど
320:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
現役総理や、内閣のミナサンはどこまで噛んでたのかねえ
321:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
噛んでても、トカゲのしっぽ切りされそうだよな
まあ、シッポというにはだいぶでかすぎるし、生産民主党へのダメージもでかいだろうけど
322:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
野党の平等民主党が積極的に情報公開して叩いてたみたいだけど、誰なんだろうなあいつらに情報リークしたの
323:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
さあ?
324:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
どっかにいたのかもな。こういうのが絶対許せない、ヒーローみたいなやつが
案外、俺らの隣を普通に歩いている人かもしれないよ
325:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
マジか、なんかかっけー
326:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
春華高校、上層部総入れ替えになるってよ。評判ガタ落ちだから、立て直すの大変だろうけど……通ってる生徒たちのためにも頑張ってほしいな
327:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
うおおおおおまいらニュース見ろ!つかもう見てるかもだけど!
文部科学省の大臣、自宅マンション前で襲撃されたって!
328:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
マジで!?
329:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
あ、ほんとだ。コートきた覆面男に、顔面おもいっきりパンチされて鼻血だらだらになったらしいな!
一発だけぶんなぐって、そのまま逃げたらしいけど
330:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
誰だろ?その噂のヒーローさんかな?
331:名無しの学校の階段でついでに怪談する件@以下職員室よりお送りいたします
さあて、どうなんだろうなー?
応援ありがとうございます!
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