世界の誰より君がいい

はじめアキラ

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<22・情報の海にて。>

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●リンリン356@rinrin_356
ちょっと誰か教えて欲しいことあるんだけどいい?
春華高校のミスコンについて調べてんだよね。あそこのミスコンっていつからあるか知ってる?



●Eddy@edededed
 返信先:@rinrin_356
あ、リンリンひさしぶり。
最近浮上してないからどうしたのかと思ってた



●リンリン356@rinrin_356
 返信先:@edededed
友達と遊ぶのに忙しかった!それもそれでリア充だな、なお相変わらず彼氏はいねえ!(ドヤァ)
エディなんか春華高校について知らね?友達が春華受験したいとか言ってんだけど、キナ臭い噂があって迷ってるんだと。特にミスコン絡みでさ。なんか知らね?



●Eddy@edededed
 返信先:@rinrin_356
ミスコンか。そういえば、あそこ毎年文化祭でやってたね。クラスで選抜されるもんだから、毎回どいつもこいつも顔面偏差値やべーんだよな
女装とはいったい?なくらいの美人が揃うって専ら評判。男同士で恋愛するのが普通な世の中でも女装にコーフンするってのは、やっぱり俺らにもそういう遺伝子が残ってるってことなのかね
うちの従兄が春華出身だったはず、ちょっと訊いてみるわ



●リンリン356@rinrin_356
 返信先:@edededed
さんくす!助かるー!



●Eddy@edededed
春華高校の偏差値マジでやべー。あいつなんでこんな学校に合格できてんだイミフ
ミスコンってだいぶ前からあんのな。五十年前くらいからあるっぽいじゃん
でもって最近はリンリンが言った通り不穏な空気もあるっぽいか



●リンリン356@rinrin_356
 返信先:@edededed
あんがと!
不穏っていうとどんなかんじ?



●Eddy@edededed
 返信先:@rinrin_356
去年のミスコン、優勝者と準優勝者が揃って不登校になってるらしい。しかも準優勝者は二回も入院してるみたいだ。従兄は去年文化祭に遊びに行って、準優勝者の方が好みだったから投票したらしいんだけどさ
何があったんだろって思ったけど、病気だったらしい?としか従兄も友達も知らなかったっぽい
すごくお淑やかでお上品なおぼっちゃんだったけど、持病があったように見えなかったのに何でだって思ってたって



●リンリン356@rinrin_356
 返信先:@edededed
そうなんだ、心配だな。
そういうことって、それよりも前のミスコンでも起きてたのか?



●Eddy@edededed
 返信先:@rinrin_356
レス遅くなってすまそ
従兄が春華友達や後輩に訊いてくれた。その前の年も、優勝者が文化祭直後に三日ほど学校休んでるらしい
でもって不登校にはならなかったんだけど、すごく元気で明るい奴だったのに妙に無口になってたって。
何かあったのかってそいつの友達はみんな心配したけど教えてくれなかったらしい。
ていうか、何年か前には優勝者が自殺したって話もあるみたいだ。これまじでなんなんだ?リンリンはなんか知ってるか?



●リンリン356@rinrin_356
 返信先:@edededed
悪ぃ、俺もそんなに細かく知ってるわけじゃねーっていうか
ただ、優勝者に対して学校がなんかやばいことしてるんじゃないか?って噂があるんだよな
ほら、ミスコンで優勝するような生徒って美人ばっかりだろうし、しかもクラスで選ばれて出てきた中の一人だからまず人気者じゃん?
いかがわしいことしてる変態オヤジが学校の上層部にいるんじゃないか?って友達から訊いて心配してるというか。俺の友達も結構イケメンだしさー



●Eddy@edededed
 返信先:@rinrin_356
うわぁ、無いとも言い切れないのがまた……
わかった、他にもなんかわかったら連絡するよ。



 ***



 何といっても、揚羽は外面の良さに自信がある。見目も悪くないという自負があるし、加えて既に“両性具有”であるということを明かしてしまえば相手の心理的なハードルが下がることも知っていた。クスリを既に使っている人間は基本的に、既婚者か経産婦だというのが世間一般の認識だろうから。実際、揚羽の場合はどっちも間違っているわけではない――伴侶となるパートナーが、現在傍にいないというだけで。

「友達がな、去年の春華の準優勝者やってん」

 春華の卒業生で、四年前に自殺したという優勝者の友人。その人物を突き止めたのは鈴之助だった。SNSでも情報収集というのもなかなか馬鹿にならないものである。元々コミュニケーション能力の高い鈴之助は、ツニッターのフォロワー数も千人以上に上っていた。特に有名人でもなんでもないのにその数は結構凄いのではないかと思っている。その彼が、春華に関する情報を集めたところ、やはり過去ミスコンの優勝者に異変があったらしいということがはっきりしたというわけだ。
 ただし、ミスコンそのものは五十年くらい前からあるものの、露骨に異変が起きるようになったのは十五年くらい前からでは?とのこと。
 それまでは、優勝者が直後に入院するようなこともなければ、明るかった人間が突然暗くなったり怒りっぽくなるような異変も特に見られなかったという。裏の制度が変わったのはそれくらい前、と判断するべきだろう。勿論、体調不良を起こした形跡がないからといって、事件が起きていないと言い切ることは難しいだろうが。

「それで、ミスコンの後に何度も入院することになって、すごく心配してたんや。しかも、いつの間にかクスリ飲んで両性になってたみたいやし、なんかあったんちゃうかと思ってな」
「……!」

 カフェに呼び出した大学生は、びくりと体を硬直させた。明らかに青ざめて震えている。何かを知っているのは間違いあるまい。
 ここは、畳みかけるべきか、と揚羽は判断する。ブラフを撒くのは得意だ。

「人に堂々と言うことやあらへんのやけど、自分も既に両性で。それも無理やりクスリ飲まされたクチやねん」
「え……」
「誰のともわからん子供が生まれたんやけど、その時まだ自分中学生やったから育てられるはずもなくてな。結局、引き取ってもらう羽目になってん。……まあ、そういうわけだからいろいろ友達のことも想像してまうんや。ひょっとしたら、誰かに酷い目に遭わされたんちゃうんかって。あのミスコン、優勝者の子もなんや不登校になっとるし、過去に自殺した子もいるゆうたら疑ってまうやろ。自分は、友達を追い詰めたもんが何なのか知りたいんや」

 今のは自分の“本当の過去”ではないが、両性具有で子供を産んだことがあるという点については嘘ではない。男子大学生は、それとなく揚羽の胸元あたりに視線を落として、次に気まずそうに唇を噛み締めた。――やがて、泣きそうな顔でこう告げるのである。

「……俺も、何もかも知ってるわけじゃない。でも、あんなに明るくて……ヒーローみたいなキャラだったあいつが、何であんなことになっちまったのか、あんな目に遭わなくちゃいけなかったのか知りたい。俺、俺……あいつがやばいことになってるのに気付いたのに、ちゃんと話も聞いてやれなくて、パニックで」

 ぽたり、とテーブルに雫が落ちた。
 彼の眼から、堪えきれなかったのであろう涙が滴り落ちる。

「妊娠したって。でも、誰の子供かわかんないって。怖いって。何で俺がこんな目に遭ってんの、って。泣きながら電話してきたのに、俺、俺は……!」
「それで、亡くなってしもうたん?」
「電車に飛び込んで死んじまった。遺書は……俺は見てないし、あったかどうかも知らない。どこかには、あったのかもしんねえけど、でも俺、それを探すのも怖くて……どうすりゃいいのかもわかんなくて……!」

 揚羽は眼を細める。前々から、この恐ろしい計画が進行していたのは間違いないということだろう。
 自殺した少年の、遺書。それを見つけることができれば、あるいは。



 ***



「へえ、すごーい!」

 喧嘩の腕では、揚羽、義春、鈴之助に一歩劣ると知っている。
 しかし自分の最大の武器はそこではない、と颯はわかっていた。搦め手ならば己が最も得意だからだ。それこそ、変装が一番得意なのも自分である。声色を変えるのだってお手の物。本物の女性そっくりに化けることだってできる。ゆえに、単純な調査能力ではネオ・ソルジャーでも随一だという自信があった。

「お兄さん、元春華高校なんですか?頭いいんですねえ!」

 今も。“お姫様バー”の店員として潜入して、ホステスまがいの接客をしている真っ最中だ。ここは、綺麗なお姫様の扮した男性店員がおもてなしをする系のバーである。昔の女性って、なんでこんな風邪ひきそうなドレスを平然と着ていたんだろう、と緑色のパーティドレスを着た颯は思う。
 いくら肌着やら胸パッドやらを身に着けているからといって、寒いことに代わりはないのだ。若干冷房がきいた室内だから尚更に。

「おう、春華卒業してなあ。今は小津澤大学だ、すげーべ?」
「そこも頭いい~!雲の上の世界ってかんじ!ねえねえお兄さん、春華高校ってどんなところですか?友達が、春華目指して頑張りたいって言ってるんですよお。だから、知ってること教えてくれたら嬉しいなーって」

 安酒で酔わせつつ、腕にぴったりとくっついて甘い声を出す。すると男はわかりやすく鼻の下を伸ばして、そうだなあ、と軽い口を開いてくれるのだ。
 颯の友人が経営するこの店は、昔から情報収集の場として非常にぴったりだった。お姫様バー、の店員にも実はネオ・ソルジャーの、しかも颯の部隊のメンバーが何人かいたりする。こういうところでじゃぶじゃぶお金を使って酒を飲んでくれる人間は、少し心の弱いところをくすぐるだけで簡単に情報を吐いてくれると知っているからだ。

「いやあ、あそこはなあ……ただのお堅い学校じゃねーんだって。あんた綺麗だから、秘密をいろいろ教えてやろうかなーげへへ」

 本当にげへへって笑うやついるのかよ、と心の中でつっこむ颯。いや本当に、ライトノベルの盗賊のようである。

「実は、文化祭のあとで、すげーいい思いができるイベントがあるんだって。一番の美人と、タダでヤらせてもらえんだよ。しかも、学校後任でな」
「……へえ?」

 既に、レコーダーは起動させてある。こいつの声は、ばっちり録音済みだ。

「その一番の美人さんって、どなた?あ、ひょっとして……文化祭恒例イベントの、ミスコンの優勝者さんだったりして?」

 優勝者を凌辱した生徒たちが、毎年何人かずつ発生しているはず。自分の考えは正しかったというわけだ。
 情報源は何も、被害者側だけではないのだから。
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