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<21・続・ナイトグールにて。>
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はっきり言って、灰崎ルイ本人に思い入れがあるわけではない。あくまで自分が助けたいのは光流の方で、ルイ本人に対しては“恨む先を間違えてるだろうが”という気持ちも少なからずあるのは事実だ。なんせ仮に逃げなければ光流が被害に遭っていたわけで、さらにルイも逃げていた場合はまた別の人間が標的になったことは想像に難くないのだから。
ただ。
春華高校のこの状況は、恐らく長年繰り返されてきたもの。ここで終わりにしなければまた同じ悲劇が起きることは想像に難くない。またしても、何も知らずミスコンに出て優勝した生徒が被害に遭うことになる。単なるお祭りだと信じて、クラスの仲間達に愛されて推薦されたであろう生徒が酷い目に遭わされるのだ。それこそ、過去には自殺した生徒がいたっておかしくないのではないか。
これは、一人の人間としての怒りだ。
この件をどうにかしなければ光流が救われないだろう、というのもある。彼を助けるためにその大本の根を断ちたいという気持ちも。でも、それだけじゃない。ルイを助ければきっと光流も助かるだろうというのもあるが、それが全てというわけではない。
ただ、とにかく許せない。一人の人間として、高校生として、男として許してはいけないことがあると思ったのだ。そこに理屈なんてものはない。正義感というものかどうかもわからない。強いていうなら。
「自分自身のために、腐った奴らをぶっつぶしてやりてえんだ。お前ら、協力してくれねえか」
それに尽きるのだ。
例え、信頼のおける仲間達を巻き込む結果になるとしても。
「……お前の言いたいことはなんとなく察したぜ、祥一郎君よ」
最初に口を開いたのは、意外にも桐嶋だった。
「黙って話聞いてたけどよ、確かにそりゃとんでもねえ話だ。隣町のことと言っても、知っちまった以上ほっといていいとは思わねえ。ここで歯止めをかけなきゃ、同じシステムが他の学校にも普及する可能性は十分にあるしな。……ただ、今の俺はお前らの先輩であると同時に一人の大人だ、だから言うべきことは言わせて貰う」
「何だ」
「この件にガチで取り組もうってんなら、相手は春華高校にとどまらねえ、国そのものと喧嘩する羽目になるかもしれねえぜ。お前、その覚悟はあんのか?」
極めて真っ当な意見だった。ここで問われている覚悟というのは、単純に祥一郎がどこまで背負えるか、ということだけではあるまい。同じものを、仲間達にも背負わせる覚悟があるのかどうかということだろう。
この話を幹部の皆にしているということはつまり、ネオ・ソルジャー全員を動員した祭りになる可能性が高いということ。このまま祥一郎が号令をかければ、優秀な兵隊たちはみんな祥一郎の望むままに動いてくれる可能性が高いだろう。勿論、あからさまに間違った指示を出した時は幹部から苦言が飛んでくるだろうが、そうでなければ彼等はギリギリまで祥一郎の意思を尊重してくれるだろうとわかっている。それくらいの信頼は得られているという自負があるから尚更に。
アタマとは、そういうものだ。自分の指示通り皆が動いてくれるならば、その代わり自分は彼等を助けるために全力を尽くす責務がある。会社の上司も、軍隊の上官も、本来そういうものであるべきはずだ。
「不良同士の喧嘩とは話が違うぜ。あれとは全く別のベクトルの“怪我”をする可能性がある。……戦う相手がただの個人やギャングだってなら、悪い奴を拳でぶっ飛ばせば終いになるだろう。でも、相手がもっと規模のでかい化け物ならそういうわけにもいかねえ。それこそ、春華高校の教頭や校長を叩きのめしても終わらねえし、そいつらに指示を出した国偉いやつの顔面に一発食らわせてやっても根本的な解決にならねえってのは……お前もわかってるよな?」
「……ああ」
実は、そこが一番自分も困っている点なのである。
町を脅かす半グレ組織があって、そいつらがいなくなればすべて解決するというのなら話は早い。アジトに乗り込んでいって、悪い奴らを根こそぎぶっ倒せば大抵それで解決するからだ。
アニメや漫画もそう。悪の魔王を倒せば世界は平和になります、で話が解決することが多いのはつまりそういうことなのだろう。何故魔王が生まれたのか?第二、大三の魔王が生まれる可能性はないのか?魔王の部下達の処遇はどうなるのか?魔族への差別意識はどうすればいいのか?そして壊された町の復興は?――そんなところまで考えて細かく描写される作品など僅かだろう。
何故なら、勇者が絶対的な正義で、魔王が絶対的な悪である方が見ている人間が爽快だからだ。そして、深く考えなくても物語が理解できて楽だから。ゆえに、フィクションの世界では非常にシンプルな解決方法が取られることが少なくない。極端で偏見に満ちた言い方をするのであれば――簡単なのだ、暴力で解決できることは。勇者が魔王を殺せば世界は綺麗さっぱり平和です、にした方が。ゆえに、そういうものを好む人間は少なくないし、作られる作品にはそういうものが多いのである。
でも現実は、そんなわかりやすいものではない。
もしこれが、本当に国からの指示ならば。そして、その国の方針を“是”として考える者達が複数いて、その認識が国の上層部そのものに浸透してしまっているのであれば。本当に退治しなければいけないのは、その意識そのものである。特定の個人ではない。それこそ、総理大臣が指示を出していたとて、その総理大臣をボコボコにして土下座すれば済むなんて話ではないのだ。その意思を正しいものと認識して、意思を引き継ぐ者がいるならば何の解決にもならないのである。春華高校のシステムがなくなろうと、それこそ高校そのものがなくなろうとも。
――今までの喧嘩とは違う、そんなこと俺だってわかってる。
殴れば済むならいくらでも乗り込んでいくけれど、今回は誰を殴れば終わるのかもわからないし、多分殴っても終わらない。
だから仲間達の知恵が必要なのだ。自分が持っていないものを、彼等ならきっと持っていると信じているからこそ。
「……殴りてえとは思ってるけど、殴って解決するとは思ってねえ。でも、こんなクソみてえなことは、去年で最後にしなくちゃならねえはずだ。今年の文化祭まではあと四か月ある。そいつらを助けることはまだできるはずだ。それから……今春華高校目指して受験勉強してる奴らも」
「そうだな」
「我儘なのはわかってる。でも俺は、一人でも多く助けられる方法を模索してえ。人間として許しちゃいけねえことだと思うし、俺が死ぬほどムカつくからなんとかしてえ。……みんなに、知恵を貸して欲しい。桐嶋サンも」
「……そうか」
情けない本心だと、笑われるかと思った。しかし意外にも、桐嶋はハハッと、カウンターに肘をついて笑ったのだった。
「良かった良かった、お前が俺が思っていたよりも冷静でよ。さすがに何も考えなしに、いきなり春華高校に乗り込むほどバカじゃなかったか」
それって褒められてるのだろうか。祥一郎はなんだか釈然としない。しかも揚羽にまで“ほんまになぁ!”なんて笑いだされてしまっては。
「ま、それがうちらのボスのええところやさかい。……相手は国そのものと言っても過言やないし、今までの喧嘩と種類が違うのは同感やけど……ま、やり方ないわけやないと思うで。な、義春?」
「……ああ」
揚羽の言葉に、無口で優しい巨漢はこくりと頷く。
「今は、情報が武器になる、と思う」
情報?祥一郎が首を傾げると、颯が“確かにな”と頷いた。
「まず俺達がやることは二つだな。嵐の金星を抑えて、ひとまず奴らが白峰光流に近づかないようにすること。そして、できれば協力を要請すると同時に情報を貰うことだな。無論、春華高校に関する情報は別ルートでも集める必要があるが」
「え、え、どういうことなんすか、颯サン?」
「鈴之助、少しは自分の頭でも考えろ。……強制性交換罪は今の世の中でも有効ということだ。中絶などは推奨されないとはされているが、法律の上ではそれも権利として認められている。国は優秀な人材の確保、及び人口増加のためにそれらの法律を自ら犯しているいるということになる。国民にそれらが知られてみろ、間違いなく大炎上では済まないことになるだろうさ。それこそ、やり方次第では国家がひっくり返るだろう」
頭が追い付いていない様子の鈴之助に、丁寧に説明する彼。祥一郎もなんとなく予想ができた。
国から高校の管理者へ指示、という言い方ならばまず現在の文部科学省が動いている。文科省大臣から秘密裏に指示が降りてきていると考えるのが妥当だ。そして、当然ながら彼は与党である生産民主党に所属している。――虎視眈々と政権交代を狙っている野党の連中がこの事実を知ったらどうするか?これ幸い、とスキャンダルに発展させて内閣の支持率を下げに行くはずだ。それくらいは自分でも想像がつく。
「ほんまにこのような馬鹿げたことを、春華高校がやっていたのか?そして、被害者がいたのか?国の指示やったっちゅーのはほんまの話か?……このへんの証拠集めが重要になってくるっちゅーことやな。それこそ春華高校の件だけ抑えても意味あらへん。最悪、トカゲのしっぽ切りよろしく“春華高校が勝手にやったことです”ってことにされて終いにされるだけやから」
つまり、と揚羽が肩をすくめた。
「お祭りの前に盛大な下準備が必要やっちゅーことやね。慣れない情報戦やけど、幸い兵隊はぎょーさんおるのがネオ・ソルジャーや。人海戦術がわりときくやろ」
「え、えっと、つまり?」
「……鈴之助クンも、ボスの言う通りに動けばええっちゅー話やな」
「そうか、わかった!」
あ、面倒くさすぎて説明投げたなこいつ、と祥一郎は悟った。自分も勉強は苦手だが、一応ニュースくらいはそれなりに見るし一般常識は最低限抑えているつもりである(そして、政治経済に関しては他の教科ほど苦手ではない)。今年追加認定試験を受けるかも!なんて笑って宣言してしまっている鈴之助よりは幾分マシなのだろう。
「嵐の金星を抑えつつ説得、それから情報収集。……春華高校絡みだけじゃなくて、どこに情報をリークしにいくかも精査する必要があるな。それこそ、政権交代を狙いに行く野党の方も“人口増加計画”に関しては同じような考えだったなら意味がない。そちらも確かめる必要がある」
まあ、と颯が眼鏡をくいっと押し上げて言った。
「そういうのは、俺が得意そうだ。……祥一郎、計画立案は任せて貰えるか。情報戦は得意だ」
「お前らが味方で本当に良かったぜ、マジで」
昔、とある漫画のキャラクターが言ったという。自分は組織のリーダーだけれど完璧じゃない。あれもこれもどれも、できないことがたくさんある。一人じゃ何もできない、だからこそ仲間が必要だと。それが自分の誇りだと。
今ならその意味が、自分にもよくわかるような気がする。
一人で何でもできてしまうラノベの最強チートキャラにはできないようなことが、完璧じゃない自分達だからこそできるのではないか。
――光流、大丈夫だ。
祥一郎は、ぐっと拳を握りしめる。
――俺達は、一人じゃない。
きっとなんとかなる。
こんなにも頼もしい、仲間達がいてくれるのだから。
ただ。
春華高校のこの状況は、恐らく長年繰り返されてきたもの。ここで終わりにしなければまた同じ悲劇が起きることは想像に難くない。またしても、何も知らずミスコンに出て優勝した生徒が被害に遭うことになる。単なるお祭りだと信じて、クラスの仲間達に愛されて推薦されたであろう生徒が酷い目に遭わされるのだ。それこそ、過去には自殺した生徒がいたっておかしくないのではないか。
これは、一人の人間としての怒りだ。
この件をどうにかしなければ光流が救われないだろう、というのもある。彼を助けるためにその大本の根を断ちたいという気持ちも。でも、それだけじゃない。ルイを助ければきっと光流も助かるだろうというのもあるが、それが全てというわけではない。
ただ、とにかく許せない。一人の人間として、高校生として、男として許してはいけないことがあると思ったのだ。そこに理屈なんてものはない。正義感というものかどうかもわからない。強いていうなら。
「自分自身のために、腐った奴らをぶっつぶしてやりてえんだ。お前ら、協力してくれねえか」
それに尽きるのだ。
例え、信頼のおける仲間達を巻き込む結果になるとしても。
「……お前の言いたいことはなんとなく察したぜ、祥一郎君よ」
最初に口を開いたのは、意外にも桐嶋だった。
「黙って話聞いてたけどよ、確かにそりゃとんでもねえ話だ。隣町のことと言っても、知っちまった以上ほっといていいとは思わねえ。ここで歯止めをかけなきゃ、同じシステムが他の学校にも普及する可能性は十分にあるしな。……ただ、今の俺はお前らの先輩であると同時に一人の大人だ、だから言うべきことは言わせて貰う」
「何だ」
「この件にガチで取り組もうってんなら、相手は春華高校にとどまらねえ、国そのものと喧嘩する羽目になるかもしれねえぜ。お前、その覚悟はあんのか?」
極めて真っ当な意見だった。ここで問われている覚悟というのは、単純に祥一郎がどこまで背負えるか、ということだけではあるまい。同じものを、仲間達にも背負わせる覚悟があるのかどうかということだろう。
この話を幹部の皆にしているということはつまり、ネオ・ソルジャー全員を動員した祭りになる可能性が高いということ。このまま祥一郎が号令をかければ、優秀な兵隊たちはみんな祥一郎の望むままに動いてくれる可能性が高いだろう。勿論、あからさまに間違った指示を出した時は幹部から苦言が飛んでくるだろうが、そうでなければ彼等はギリギリまで祥一郎の意思を尊重してくれるだろうとわかっている。それくらいの信頼は得られているという自負があるから尚更に。
アタマとは、そういうものだ。自分の指示通り皆が動いてくれるならば、その代わり自分は彼等を助けるために全力を尽くす責務がある。会社の上司も、軍隊の上官も、本来そういうものであるべきはずだ。
「不良同士の喧嘩とは話が違うぜ。あれとは全く別のベクトルの“怪我”をする可能性がある。……戦う相手がただの個人やギャングだってなら、悪い奴を拳でぶっ飛ばせば終いになるだろう。でも、相手がもっと規模のでかい化け物ならそういうわけにもいかねえ。それこそ、春華高校の教頭や校長を叩きのめしても終わらねえし、そいつらに指示を出した国偉いやつの顔面に一発食らわせてやっても根本的な解決にならねえってのは……お前もわかってるよな?」
「……ああ」
実は、そこが一番自分も困っている点なのである。
町を脅かす半グレ組織があって、そいつらがいなくなればすべて解決するというのなら話は早い。アジトに乗り込んでいって、悪い奴らを根こそぎぶっ倒せば大抵それで解決するからだ。
アニメや漫画もそう。悪の魔王を倒せば世界は平和になります、で話が解決することが多いのはつまりそういうことなのだろう。何故魔王が生まれたのか?第二、大三の魔王が生まれる可能性はないのか?魔王の部下達の処遇はどうなるのか?魔族への差別意識はどうすればいいのか?そして壊された町の復興は?――そんなところまで考えて細かく描写される作品など僅かだろう。
何故なら、勇者が絶対的な正義で、魔王が絶対的な悪である方が見ている人間が爽快だからだ。そして、深く考えなくても物語が理解できて楽だから。ゆえに、フィクションの世界では非常にシンプルな解決方法が取られることが少なくない。極端で偏見に満ちた言い方をするのであれば――簡単なのだ、暴力で解決できることは。勇者が魔王を殺せば世界は綺麗さっぱり平和です、にした方が。ゆえに、そういうものを好む人間は少なくないし、作られる作品にはそういうものが多いのである。
でも現実は、そんなわかりやすいものではない。
もしこれが、本当に国からの指示ならば。そして、その国の方針を“是”として考える者達が複数いて、その認識が国の上層部そのものに浸透してしまっているのであれば。本当に退治しなければいけないのは、その意識そのものである。特定の個人ではない。それこそ、総理大臣が指示を出していたとて、その総理大臣をボコボコにして土下座すれば済むなんて話ではないのだ。その意思を正しいものと認識して、意思を引き継ぐ者がいるならば何の解決にもならないのである。春華高校のシステムがなくなろうと、それこそ高校そのものがなくなろうとも。
――今までの喧嘩とは違う、そんなこと俺だってわかってる。
殴れば済むならいくらでも乗り込んでいくけれど、今回は誰を殴れば終わるのかもわからないし、多分殴っても終わらない。
だから仲間達の知恵が必要なのだ。自分が持っていないものを、彼等ならきっと持っていると信じているからこそ。
「……殴りてえとは思ってるけど、殴って解決するとは思ってねえ。でも、こんなクソみてえなことは、去年で最後にしなくちゃならねえはずだ。今年の文化祭まではあと四か月ある。そいつらを助けることはまだできるはずだ。それから……今春華高校目指して受験勉強してる奴らも」
「そうだな」
「我儘なのはわかってる。でも俺は、一人でも多く助けられる方法を模索してえ。人間として許しちゃいけねえことだと思うし、俺が死ぬほどムカつくからなんとかしてえ。……みんなに、知恵を貸して欲しい。桐嶋サンも」
「……そうか」
情けない本心だと、笑われるかと思った。しかし意外にも、桐嶋はハハッと、カウンターに肘をついて笑ったのだった。
「良かった良かった、お前が俺が思っていたよりも冷静でよ。さすがに何も考えなしに、いきなり春華高校に乗り込むほどバカじゃなかったか」
それって褒められてるのだろうか。祥一郎はなんだか釈然としない。しかも揚羽にまで“ほんまになぁ!”なんて笑いだされてしまっては。
「ま、それがうちらのボスのええところやさかい。……相手は国そのものと言っても過言やないし、今までの喧嘩と種類が違うのは同感やけど……ま、やり方ないわけやないと思うで。な、義春?」
「……ああ」
揚羽の言葉に、無口で優しい巨漢はこくりと頷く。
「今は、情報が武器になる、と思う」
情報?祥一郎が首を傾げると、颯が“確かにな”と頷いた。
「まず俺達がやることは二つだな。嵐の金星を抑えて、ひとまず奴らが白峰光流に近づかないようにすること。そして、できれば協力を要請すると同時に情報を貰うことだな。無論、春華高校に関する情報は別ルートでも集める必要があるが」
「え、え、どういうことなんすか、颯サン?」
「鈴之助、少しは自分の頭でも考えろ。……強制性交換罪は今の世の中でも有効ということだ。中絶などは推奨されないとはされているが、法律の上ではそれも権利として認められている。国は優秀な人材の確保、及び人口増加のためにそれらの法律を自ら犯しているいるということになる。国民にそれらが知られてみろ、間違いなく大炎上では済まないことになるだろうさ。それこそ、やり方次第では国家がひっくり返るだろう」
頭が追い付いていない様子の鈴之助に、丁寧に説明する彼。祥一郎もなんとなく予想ができた。
国から高校の管理者へ指示、という言い方ならばまず現在の文部科学省が動いている。文科省大臣から秘密裏に指示が降りてきていると考えるのが妥当だ。そして、当然ながら彼は与党である生産民主党に所属している。――虎視眈々と政権交代を狙っている野党の連中がこの事実を知ったらどうするか?これ幸い、とスキャンダルに発展させて内閣の支持率を下げに行くはずだ。それくらいは自分でも想像がつく。
「ほんまにこのような馬鹿げたことを、春華高校がやっていたのか?そして、被害者がいたのか?国の指示やったっちゅーのはほんまの話か?……このへんの証拠集めが重要になってくるっちゅーことやな。それこそ春華高校の件だけ抑えても意味あらへん。最悪、トカゲのしっぽ切りよろしく“春華高校が勝手にやったことです”ってことにされて終いにされるだけやから」
つまり、と揚羽が肩をすくめた。
「お祭りの前に盛大な下準備が必要やっちゅーことやね。慣れない情報戦やけど、幸い兵隊はぎょーさんおるのがネオ・ソルジャーや。人海戦術がわりときくやろ」
「え、えっと、つまり?」
「……鈴之助クンも、ボスの言う通りに動けばええっちゅー話やな」
「そうか、わかった!」
あ、面倒くさすぎて説明投げたなこいつ、と祥一郎は悟った。自分も勉強は苦手だが、一応ニュースくらいはそれなりに見るし一般常識は最低限抑えているつもりである(そして、政治経済に関しては他の教科ほど苦手ではない)。今年追加認定試験を受けるかも!なんて笑って宣言してしまっている鈴之助よりは幾分マシなのだろう。
「嵐の金星を抑えつつ説得、それから情報収集。……春華高校絡みだけじゃなくて、どこに情報をリークしにいくかも精査する必要があるな。それこそ、政権交代を狙いに行く野党の方も“人口増加計画”に関しては同じような考えだったなら意味がない。そちらも確かめる必要がある」
まあ、と颯が眼鏡をくいっと押し上げて言った。
「そういうのは、俺が得意そうだ。……祥一郎、計画立案は任せて貰えるか。情報戦は得意だ」
「お前らが味方で本当に良かったぜ、マジで」
昔、とある漫画のキャラクターが言ったという。自分は組織のリーダーだけれど完璧じゃない。あれもこれもどれも、できないことがたくさんある。一人じゃ何もできない、だからこそ仲間が必要だと。それが自分の誇りだと。
今ならその意味が、自分にもよくわかるような気がする。
一人で何でもできてしまうラノベの最強チートキャラにはできないようなことが、完璧じゃない自分達だからこそできるのではないか。
――光流、大丈夫だ。
祥一郎は、ぐっと拳を握りしめる。
――俺達は、一人じゃない。
きっとなんとかなる。
こんなにも頼もしい、仲間達がいてくれるのだから。
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