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<5・カラオケ店にて。>
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「何なんすかー祥一郎さんてば」
「んあ?」
本日は光流を送り届けたあと、夜までカラオケオールナイトの予定である。光流から告白されて、付き合う(?)みたいになってしまってから半月ばかり。祥一郎はすっかり、光流の予定を把握してしまうようになっていた。明日は土曜日で、光流の大学での予定はない。土曜日には一切講義を入れなかったのだと本人が語っていた。
まあようするに、夜遅くなっても翌日に響くことを心配しなくていいということ。光流が一限目から授業がある曜日に限り、祥一郎も早起きできるようにしなければならないからである。まあ、それを抜きにしてもここ最近、随分生活が規則正しくなってしまったと感じるわけだが――明らかに誰かさんのせいで。
「最近祥一郎さんがずーっと一緒にいるあいつ、なんなんすか」
そんな折。
カラオケを楽しみながら、隣に座って話しかけてきたのはネオ・ソルジャーで祥一郎の右腕的立場である、嘉島鈴之介だ。小柄で筋肉質、すばしっこい彼はまさにネオ・ソルジャーの特攻隊長であった。大昔のヤンキーを真似したらしく、時代錯誤のリーゼントが特徴である。妙に彼に似合っている。
喧嘩になればまっさきに突っ込んでいき、自分より遥かにデカい連中を殴り飛ばして進んでいく。さながら、小さなブリドーザーのような少年だった。年は二つ年下の十六歳。少々感情的になりがちなのが玉に瑕だが、仲間思いなこととその喧嘩の腕は祥一郎も皆も一目置くものである。
ゆえに。
そろそろ、彼か別の幹部連中からツッコミが来るかなとは思っていたのだ――光流のことは。みんなが気になっていることとはいえ、アタマの恋人事情なんて簡単に訊けるものでもない。尋ねられるのは精々、祥一郎にある程度認められている鈴之助たちのような幹部連中くらいなものだろう。
「日照学園ですっけ。あんなおぼっちゃん大学のやつと、どこでどう知り合ったんですか?はっきり言って、祥一郎さん似合わねーやつ連れてんなってみんなの間で持ちきりなんすけど?」
「あー……まあ、似合わないな、うん。釣り合ってもいねーし」
もやもやもや、と頭の中で自分と彼が並んで歩いている姿を想像する。こうして俯瞰して考えてみると、なるほど不釣り合いどころの騒ぎではない。片や街を仕切るヤンキー高校生、片や眼鏡のおぼっちゃん大学生。正反対すぎるほど正反対な相手。向こうは大学生なのに制服着ている上、小柄で童顔だから余計にシュールだろう。
なんというか、恋人同士にも友達同士にも見えない気がする。むしろ、正反対な性格の兄弟のような。――なお、あいつの方が弟に見えるのは間違いない。
「仕方ねーじゃん、助けたら懐かれちまったんだからよ」
鈴之助相手に隠すほどのことでもない。路地裏で暴行されかかっていた光流を助けたこと、以来成り行きでボディガードのようなものを務める羽目になって大学の送り迎えをしていること。自分がガッツリ助けるようになってから、光流を付け狙う奴らがどんどん減っていったこと。
そして好きだ、なんて告白されてそのまま――という話をざっくりと。
「なんつーか、見た目に反して強かなやつっすねそいつ」
鈴之助は目をパチクリさせて、最初に祥一郎が抱いたのとほぼそっくり同じ感想を告げてきた。
「優しい優しい祥一郎サンだから良かったようなものの。普通のヤンキー相手にそんなことしたら、ナメてんのかー!人をパシリにすんじゃねー!ってブチギレられてるところっすよ?」
「確かになー」
「ていうか、天下のネオ・ソルジャーの頭である大槻祥一郎を知らなかったんすかそいつ。遅れてるぅ」
「いやまあ、それはしょうがねーだろうよ。カタギの奴らが俺らのことそんなに認識してないのも無理ないだろ。あいつ、大学入ってからこの街に来たっぽいし、この街の事情だって詳しくねーんだろうし」
「そういうもんなんすかねー」
「そういうもんなんだよ」
突然、爆音が響き渡った。テンションが上がりまくった仲間の一人が、ハードロックを熱唱し始めたからである。BGM音量も声量もマイク音量もぶっ壊れているとしか思えない。ついでに、なかなかの音痴ときた。俺は思わず立ち上がって叫ぶ。
「おい佐田ァ!声量落とせマイクとBGMも落とせ人の鼓膜を破壊する気かっ!あと食べ物乗ってるテーブルに足乗せてんじゃねえぞコラ!ひっくり返ったらどうすんだー!!」
これをやらかすやつは決まっている。メンバーの一人に怒鳴ると、すんませーん、という声がエコーがかって聞こえた。他のメンバーたちが、佐田怒られてやんのーと笑っている。お前らも止めろよ、と呆れるしかない。
あと食べ物を粗末にするような真似をしたらぶっ殺すと硬く決意していた。彼が足を乗せていたテーブルにはフライドポテトやピザが乗っているのである。
「……前々から思ってたんですけど」
ぼそっと鈴之助が呟いた。
「祥一郎サンって……妙に律儀ですよね。あと言動の端々に育ちの良さ滲んじゃってるんですけど大丈夫っすか。実はめちゃくちゃヤンキー向いてないでしょ」
「うるせえ、俺だってぶっちゃけ思ってるわ」
育ち、という言葉で思い出した。そういえば、鈴之助は確か。
「お前は片親なんだっけか」
メンバーの家庭環境については、本人たちが自分で語らない限りあまりつっこまないことにしている。というのも、ネオ・ソルジャーのメンバーの中には、家族仲が悪すぎて居場所を求めて自分のところに逃げてきた奴も少なくないと知っているからだ。そもそも、いくら義勇軍めいたことをしていたとはいえ、ヤンキーはヤンキーである。喧嘩もするしバイクで突っ走るようなことくらいもする。学校もサボる。どこかしら訳ありな奴らが集うのも、当たり前といえば当たり前のことなのだろう。
「“母親”しかいなくて、貧乏だったんだっけお前」
「あー……まあ、そうっすね」
それでも尋ねたのは相手が鈴之助で、既に本人から多少の事情は聞いていたからこそ。
男だらけになったこの世界、当然母親も父親も男性である。正確には、母親は薬を飲んで両性具有になった元男性なわけだが。
「うち、親父いなかったっすからね。ていうか……親父が、わからなかったっつーか」
非常に美しい見目をしていたという、鈴之助の母親は。通っていた大学で、まさにアイドルのような扱いをされていたのだという。そして、婚約者も決まっていたし、将来その婚約者の子供を産む決意もしていたという。
だから卒業と結婚を前にして、一足早く薬を飲んでいた。それがアダになることなど知る由もなく。
「クソ見てぇな話しだよな」
ありきたりな感想しか、言うことができない。鈴之助の母親は集団でレイプされ、誰のものともわからぬ子供を身籠ってしまった。そして、それが原因で婚約者に縁を切られてしまったという。
光流のケースとは違うが。それでも、相手の尊厳を粉々に破壊する恐ろしい行為であることは間違いない。しかも、そんな目に遭った人の心の傷を癒やすこともせず、婚約を破棄するなんて。
「クソみてえな話ですけど、その事件がなければ俺が生まれてないってのが複雑っすね。まあ、今の御時世中絶なんて殆ど許しちゃくれなかったから仕方なかったんでしょーけど。あと、婚約者の人は最後まで、それでもおふくろと結婚したいって言ってたみたいっす。側で支えたいって」
「てことは、家の人に反対されたか」
「婚約相手がお金もちの家だったっすからねー。跡継ぎ産ませたい嫁が本人の意思とは関係ないとはいえ婚前交渉した挙げ句、家の血の一滴も入らない子供を産むってんだから、許すわけにもいかないと思ったんでしょ。クソだけど想像つかなくはないっすね」
「……そうかよ」
自分にはどうしてもわからない世界の話だ。世界で一番大切な存在、そう思ったからこそ大学生のうちに結婚しようと思っていたのではないのか。それなのに、相手が一番苦しんでいる時にそれを捨てるなんて――捨てさせようなんて、人間のすることではない。
そうまでして家の名誉とやらは、守らなければならないものなのか。人の心よりも、愛情よりも。
「……まあ、そんなわけだから俺は婚約者サンを憎んでないし、多分おふくろもそうだと思うっす。結局一人で産んで俺を育ててくれて感謝してますしね」
ただ、と鈴之助は続ける。
「今の世界はきっと昔の世界以上に……自分をコントロールできない獣で溢れてるんだろーなーって。それはちょっと思っちゃうかもっていうか」
「……そうだな。子孫を作るためとはいえ、世界各国の政府が民衆にやってきたことも、法律も滅茶苦茶だ」
法律と言えば、あれもそう。
国家動員推奨法。
二十歳になったら結婚して子供を作れ、そうすれば支援をしてやる――なんて。そんなものがあるせいで、愛もないのに相手を傷つけて自分のものにしようとする馬鹿が出る。ただ金を貰って少しでも楽な生活がしたい、それだけが理由で。
「国家動員推奨法に関しては、俺もなんだかなーと思ってるっすよ。だって、推奨するとか言いながら結局強制みたいな空気じゃないですか。結婚してない人、子供いない人は社会で冷遇される、そんな空気が出来ちゃってる。だからまあ、既成事実だけでもって思う人がいるのはわからないでもないっす」
ねえ祥一郎サン、と鈴之助が言う。
「その光流ってヒト、十九歳なんすよね。二十になったらその人と結婚するんスか。少なくとも相手は祥一郎サンのこと好きなんでしょ」
「あ、いやその、俺は……」
「好きでもなんでもない人にハジメテあげる羽目になったり、子供作ることになるくらいなら……やっぱり相手は好きな人がいい。そう思うのは当たり前だと思うんすけどね」
音楽が変わる。ハードロックはいつの間にか終わっていた。別のメンバーが男二人で肩を組みつつ、ゆったりとしたバラードを歌っているようだ。ガタイの良いコンビなせいで、正直相当暑苦しい。
たた、鈴之助の声はさっきよりもはっきり聞こえるようになったわけで。
「よく考えてくださいっすよ、祥一郎サン」
鈴之助は笑って言う。
「前にも言ったけど、俺だって祥一郎サンがいいんすよ。子供産むの、俺の方でいいですから」
「鈴之助……」
「はははっ、なーんちゃって」
祥一郎は、返答に困って黙り込んでしまう。その顔だけでは、鈴之助がどこまで本気なのかまったくわからなかったがゆえに。
「んあ?」
本日は光流を送り届けたあと、夜までカラオケオールナイトの予定である。光流から告白されて、付き合う(?)みたいになってしまってから半月ばかり。祥一郎はすっかり、光流の予定を把握してしまうようになっていた。明日は土曜日で、光流の大学での予定はない。土曜日には一切講義を入れなかったのだと本人が語っていた。
まあようするに、夜遅くなっても翌日に響くことを心配しなくていいということ。光流が一限目から授業がある曜日に限り、祥一郎も早起きできるようにしなければならないからである。まあ、それを抜きにしてもここ最近、随分生活が規則正しくなってしまったと感じるわけだが――明らかに誰かさんのせいで。
「最近祥一郎さんがずーっと一緒にいるあいつ、なんなんすか」
そんな折。
カラオケを楽しみながら、隣に座って話しかけてきたのはネオ・ソルジャーで祥一郎の右腕的立場である、嘉島鈴之介だ。小柄で筋肉質、すばしっこい彼はまさにネオ・ソルジャーの特攻隊長であった。大昔のヤンキーを真似したらしく、時代錯誤のリーゼントが特徴である。妙に彼に似合っている。
喧嘩になればまっさきに突っ込んでいき、自分より遥かにデカい連中を殴り飛ばして進んでいく。さながら、小さなブリドーザーのような少年だった。年は二つ年下の十六歳。少々感情的になりがちなのが玉に瑕だが、仲間思いなこととその喧嘩の腕は祥一郎も皆も一目置くものである。
ゆえに。
そろそろ、彼か別の幹部連中からツッコミが来るかなとは思っていたのだ――光流のことは。みんなが気になっていることとはいえ、アタマの恋人事情なんて簡単に訊けるものでもない。尋ねられるのは精々、祥一郎にある程度認められている鈴之助たちのような幹部連中くらいなものだろう。
「日照学園ですっけ。あんなおぼっちゃん大学のやつと、どこでどう知り合ったんですか?はっきり言って、祥一郎さん似合わねーやつ連れてんなってみんなの間で持ちきりなんすけど?」
「あー……まあ、似合わないな、うん。釣り合ってもいねーし」
もやもやもや、と頭の中で自分と彼が並んで歩いている姿を想像する。こうして俯瞰して考えてみると、なるほど不釣り合いどころの騒ぎではない。片や街を仕切るヤンキー高校生、片や眼鏡のおぼっちゃん大学生。正反対すぎるほど正反対な相手。向こうは大学生なのに制服着ている上、小柄で童顔だから余計にシュールだろう。
なんというか、恋人同士にも友達同士にも見えない気がする。むしろ、正反対な性格の兄弟のような。――なお、あいつの方が弟に見えるのは間違いない。
「仕方ねーじゃん、助けたら懐かれちまったんだからよ」
鈴之助相手に隠すほどのことでもない。路地裏で暴行されかかっていた光流を助けたこと、以来成り行きでボディガードのようなものを務める羽目になって大学の送り迎えをしていること。自分がガッツリ助けるようになってから、光流を付け狙う奴らがどんどん減っていったこと。
そして好きだ、なんて告白されてそのまま――という話をざっくりと。
「なんつーか、見た目に反して強かなやつっすねそいつ」
鈴之助は目をパチクリさせて、最初に祥一郎が抱いたのとほぼそっくり同じ感想を告げてきた。
「優しい優しい祥一郎サンだから良かったようなものの。普通のヤンキー相手にそんなことしたら、ナメてんのかー!人をパシリにすんじゃねー!ってブチギレられてるところっすよ?」
「確かになー」
「ていうか、天下のネオ・ソルジャーの頭である大槻祥一郎を知らなかったんすかそいつ。遅れてるぅ」
「いやまあ、それはしょうがねーだろうよ。カタギの奴らが俺らのことそんなに認識してないのも無理ないだろ。あいつ、大学入ってからこの街に来たっぽいし、この街の事情だって詳しくねーんだろうし」
「そういうもんなんすかねー」
「そういうもんなんだよ」
突然、爆音が響き渡った。テンションが上がりまくった仲間の一人が、ハードロックを熱唱し始めたからである。BGM音量も声量もマイク音量もぶっ壊れているとしか思えない。ついでに、なかなかの音痴ときた。俺は思わず立ち上がって叫ぶ。
「おい佐田ァ!声量落とせマイクとBGMも落とせ人の鼓膜を破壊する気かっ!あと食べ物乗ってるテーブルに足乗せてんじゃねえぞコラ!ひっくり返ったらどうすんだー!!」
これをやらかすやつは決まっている。メンバーの一人に怒鳴ると、すんませーん、という声がエコーがかって聞こえた。他のメンバーたちが、佐田怒られてやんのーと笑っている。お前らも止めろよ、と呆れるしかない。
あと食べ物を粗末にするような真似をしたらぶっ殺すと硬く決意していた。彼が足を乗せていたテーブルにはフライドポテトやピザが乗っているのである。
「……前々から思ってたんですけど」
ぼそっと鈴之助が呟いた。
「祥一郎サンって……妙に律儀ですよね。あと言動の端々に育ちの良さ滲んじゃってるんですけど大丈夫っすか。実はめちゃくちゃヤンキー向いてないでしょ」
「うるせえ、俺だってぶっちゃけ思ってるわ」
育ち、という言葉で思い出した。そういえば、鈴之助は確か。
「お前は片親なんだっけか」
メンバーの家庭環境については、本人たちが自分で語らない限りあまりつっこまないことにしている。というのも、ネオ・ソルジャーのメンバーの中には、家族仲が悪すぎて居場所を求めて自分のところに逃げてきた奴も少なくないと知っているからだ。そもそも、いくら義勇軍めいたことをしていたとはいえ、ヤンキーはヤンキーである。喧嘩もするしバイクで突っ走るようなことくらいもする。学校もサボる。どこかしら訳ありな奴らが集うのも、当たり前といえば当たり前のことなのだろう。
「“母親”しかいなくて、貧乏だったんだっけお前」
「あー……まあ、そうっすね」
それでも尋ねたのは相手が鈴之助で、既に本人から多少の事情は聞いていたからこそ。
男だらけになったこの世界、当然母親も父親も男性である。正確には、母親は薬を飲んで両性具有になった元男性なわけだが。
「うち、親父いなかったっすからね。ていうか……親父が、わからなかったっつーか」
非常に美しい見目をしていたという、鈴之助の母親は。通っていた大学で、まさにアイドルのような扱いをされていたのだという。そして、婚約者も決まっていたし、将来その婚約者の子供を産む決意もしていたという。
だから卒業と結婚を前にして、一足早く薬を飲んでいた。それがアダになることなど知る由もなく。
「クソ見てぇな話しだよな」
ありきたりな感想しか、言うことができない。鈴之助の母親は集団でレイプされ、誰のものともわからぬ子供を身籠ってしまった。そして、それが原因で婚約者に縁を切られてしまったという。
光流のケースとは違うが。それでも、相手の尊厳を粉々に破壊する恐ろしい行為であることは間違いない。しかも、そんな目に遭った人の心の傷を癒やすこともせず、婚約を破棄するなんて。
「クソみてえな話ですけど、その事件がなければ俺が生まれてないってのが複雑っすね。まあ、今の御時世中絶なんて殆ど許しちゃくれなかったから仕方なかったんでしょーけど。あと、婚約者の人は最後まで、それでもおふくろと結婚したいって言ってたみたいっす。側で支えたいって」
「てことは、家の人に反対されたか」
「婚約相手がお金もちの家だったっすからねー。跡継ぎ産ませたい嫁が本人の意思とは関係ないとはいえ婚前交渉した挙げ句、家の血の一滴も入らない子供を産むってんだから、許すわけにもいかないと思ったんでしょ。クソだけど想像つかなくはないっすね」
「……そうかよ」
自分にはどうしてもわからない世界の話だ。世界で一番大切な存在、そう思ったからこそ大学生のうちに結婚しようと思っていたのではないのか。それなのに、相手が一番苦しんでいる時にそれを捨てるなんて――捨てさせようなんて、人間のすることではない。
そうまでして家の名誉とやらは、守らなければならないものなのか。人の心よりも、愛情よりも。
「……まあ、そんなわけだから俺は婚約者サンを憎んでないし、多分おふくろもそうだと思うっす。結局一人で産んで俺を育ててくれて感謝してますしね」
ただ、と鈴之助は続ける。
「今の世界はきっと昔の世界以上に……自分をコントロールできない獣で溢れてるんだろーなーって。それはちょっと思っちゃうかもっていうか」
「……そうだな。子孫を作るためとはいえ、世界各国の政府が民衆にやってきたことも、法律も滅茶苦茶だ」
法律と言えば、あれもそう。
国家動員推奨法。
二十歳になったら結婚して子供を作れ、そうすれば支援をしてやる――なんて。そんなものがあるせいで、愛もないのに相手を傷つけて自分のものにしようとする馬鹿が出る。ただ金を貰って少しでも楽な生活がしたい、それだけが理由で。
「国家動員推奨法に関しては、俺もなんだかなーと思ってるっすよ。だって、推奨するとか言いながら結局強制みたいな空気じゃないですか。結婚してない人、子供いない人は社会で冷遇される、そんな空気が出来ちゃってる。だからまあ、既成事実だけでもって思う人がいるのはわからないでもないっす」
ねえ祥一郎サン、と鈴之助が言う。
「その光流ってヒト、十九歳なんすよね。二十になったらその人と結婚するんスか。少なくとも相手は祥一郎サンのこと好きなんでしょ」
「あ、いやその、俺は……」
「好きでもなんでもない人にハジメテあげる羽目になったり、子供作ることになるくらいなら……やっぱり相手は好きな人がいい。そう思うのは当たり前だと思うんすけどね」
音楽が変わる。ハードロックはいつの間にか終わっていた。別のメンバーが男二人で肩を組みつつ、ゆったりとしたバラードを歌っているようだ。ガタイの良いコンビなせいで、正直相当暑苦しい。
たた、鈴之助の声はさっきよりもはっきり聞こえるようになったわけで。
「よく考えてくださいっすよ、祥一郎サン」
鈴之助は笑って言う。
「前にも言ったけど、俺だって祥一郎サンがいいんすよ。子供産むの、俺の方でいいですから」
「鈴之助……」
「はははっ、なーんちゃって」
祥一郎は、返答に困って黙り込んでしまう。その顔だけでは、鈴之助がどこまで本気なのかまったくわからなかったがゆえに。
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