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<21・勇者アヤナの策略>
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西の勇者が、北の魔王に落とされた。その情報はすぐにアヤナに伝わった。アヤナの能力も他の勇者同様、メリッサの支配地域のみ有効であるため、東の地の外に恋奴隷を走らせることはできないのだが。それでも、自由に動ける人材がいないわけではない。アヤナに唯一外の情報を知らせることができる人物こそ、己に加護を与えた女神であるメリッサその人である。
女神であっても、己の支配区域以外に出向けば力は落ちるし、向こうの女神に感知されるので妨害を受ける可能性がある。が、殊に北の地域の場合は、後者の心配はない。北には女神の守護がない。メリッサがこっそりと出入りしても、余計な干渉を受ける心配はないのである。
「まあ、北の地域にも私の力を及ぼすことができたら話は早かったんだけど。どうにか、支配地域を広げることはできないの?メリッサ」
「……それが簡単にできたら苦労なんかしないわ」
屋敷で、選りすぐりのイケメン達にマッサージを受けながら。報告を受けるアヤナに、メリッサは苦い顔を向けてくる。
「他の女神の支配地域を奪い取るための、代理戦争として勇者を呼び出した形なのよ。勇者を倒し、女神を屈服させればその地域は手に入り私の加護を及ぼすこともできるようになるけれど。……そうするまでは、それぞれの力は拮抗したまま。他の地域まで、私の加護……ひいては貴女の能力を発揮させることはできないわ」
「それがわからないのよ、メリッサ。西と南に、東のメリッサの力が届かないのはわかる。でも、北には女神の加護なんかないのよ?何故北の地域でも無理なの。他の女神に邪魔されるわけでもないっていうのに」
そこが、どうしてもわからなかった点である。何故北の地だけ女神がいないのか?というのも長年の疑問ではあるが。女神の加護のない土地など簡単に奪えそうなのに、奪えずにいるのもどうしても疑問だ。
存在するのは神でも神を信じる者達でもない。チートスキルを持った勇者もいない、ただの現地住民たちだけであるはずだというのに。
「……いくつか要因があるけれど、やはり“勝ち取った土地”ではないからそもそも影響が及びにくいのがまずひとつね」
その質問はきっと、メリッサも予想できていたことだろう。化粧台の椅子を引っ張ってきて勝手に座ると、はあ、と大きくため息をつく。それを見てアヤナは苦い気持ちになった。この世界の女神という存在が、存外俗物であることは知っているのだ。彼女達は人間に少しでも近い生活を好む。だから人間と同じモノも食べたがるし、性欲や排泄もそれなりにあると知っている。死にもしないし老いもしないので、やはり普通の人間とは大きく異なる存在であることに変わりはないのだけれど。同時に、自身が永遠に死なない存在であるがゆえか、子供を作ることもできない存在だとは聞いている。彼女らにとって性的な交渉は、単なる興味と欲望を満たすものに過ぎないのだ。
そう、そんな彼女達だが。実情は遥かに俗物であるはずだというのに、世間ではまるで“清廉潔白な聖母”のような扱いを受けているというのがおかしな話だ。長年生きてきて自堕落に生活して、処女だなんてあるはずもないというのに。そして、中途半端に人間たちの欲を反映して非常にあられもない服装と姿をしている。スケスケで露出の高い服に加え、なんといっても下着を一切身につけていないのだ。
まあ、ようするに。自分の家で、ノーパンで椅子に座るのは本気でやめてほしいわけである。あの椅子は後で掃除させて消毒もしっかりしないと、と心の底から思うアヤナだ。いや、信者の中には女神がノーパンで座った椅子を高値で買取りたがるモノ好きもいそうなので、いっそ売り飛ばしてしまうというの選択肢としてあるか。いずれにせよ自分は勇者であっても女神の信者ではないので、その感覚は全く理解できない。
「それと。あの“魔王”の力が、想像以上に大きいっていうのもあるわ」
「大袈裟ね。たかが人間じゃない。人間にしては戦闘能力も高いし頭も回るみたいだけど、それだけだわ。チートを持った勇者には及ぶべくもない存在でしょ」
「そうね。でも……元々彼も異世界人なのよ。記憶は失ってるみたいだけど。異世界から突如事故で転生か転移してきて、現地で記憶のない状態で育てられたっていう生い立ちらしくて。勇者ではないけど、勇者に近いプロセスを踏んだ上で現地住人の信頼を得ているわけ。……信頼っていうのはね、信仰に限りなく近いの。その絆が強ければ強いほど、見えないところで大きな力を持つことになる。女神がまさに、そういう存在であるようにね。バカにはならないのよ。現にあの魔王がいることで、女神がいないはずの北の地域を誰も侵攻できずにいるんだから」
「信頼、ねえ」
ふん、とアヤナは鼻を鳴らす。それは、何よりも嫌いな言葉の一つだった。
「くだらないわ。人の心や絆なんて簡単に移ろうものよ。人は結局自分の事しか考えられない、身勝手なイキモノなんだから。誰かのために命を賭けられるバカなんか、現実に存在するわけがないのに」
魔王・アーリアの写真は自分も何度か見たことがある。異性であるため多少イライラは少ないが――それでも、そのお綺麗な顔は見ているだけで腹立たしいものだった。大きな、まるで夢や希望を詰め込んだような青い眼。金色の髪。白い肌に笑顔。あんな世間知らずにそうなお子様に、何故北の人々はついていく気になったのか。何か騙されてでもいるのではないか。
それともアレか。結局――顔が全て、ということなのか。カッコよければ、美しければ、何をやっても説得力があるし簡単に信頼を集められる、と。
『うわあ、こっちに来るなよブス!江尻菌が感染るだろー!キッタネー!!』
ずきり、と胸の奥の古傷が痛む。もう今の自分は、誰からも指をさされてクスクス笑われるような、ブサイク極まりない“江尻彩名”ではない。美しく、可憐な容姿に。そして勇者という名の選ばれたチート能力を持つ存在に生まれ変わったのだ。断じて、もう同じことは起こらない。それがわかっているのに、どうして今あんな罵倒を思い出すのだろう。
奴らに復讐できなかったことが、唯一の未練であるからだろうか。美しく可憐になった姿を見せつけ、踏みつけてやれなかったから、だから。
――わかってるわよ、忘れるべきなんだってことくらい。もう私は、ブサイクで何をやってもダメな……“バイキン江尻”じゃないんだから!あんなクズどものことなんかさっさと忘れて、今のこの世界で幸せになって生きるべきなんだから……!
そうだ、アーリア。やつのせいだ。奴がそのお綺麗な顔だけで、皆の信頼を集めて魔王なんて名乗るものだから。
そんなもの、幻想だと思い知らせてやらねば気がすまない。奴の力なんて、本物の勇者たるアヤナには簡単に打ち砕けることを。彼が持つ信頼という武器など、アヤナが望めば簡単に瓦解することを――そうだ、証明すればこの胸のモヤモヤも晴れるはずなのである。自分は何一つ、間違ったことなどしてはいないのだから。
自分が勇者、なんて面倒な仕事を引き受けることにしたのもそのためだ。自分は報われたと、正しいと証明するために。自分をこの美しい顔に生まれ変わらせてくれ、チートな力をくれたメリッサにささやかながら恩返しをしてあげるために。勇者の仕事を完遂し、北も西も南も全ての地域を手に入れ、すべての美しい男をこの足元に傅かせてやるのである。あのアーリアも、例外ではない。
「……西の勇者が倒れたということは。現状西の地域は、魔王が手に入れた。そういうことになるのかしら?」
荒ぶる心を抑えつけ、言葉にすれば。大体それであってると思うわ、とメリッサは告げた。
「だからって、私達の“力”には特別影響があるわけではないのだけれどね。……ただ、このままの勢いで北の魔王が東と南にも侵攻を開始してくる可能性はあるし……仮に南を先に攻めたとしても、魔王の力をこれ以上強大にするのは危険だと思うわよ。どうするの、アヤナ」
「あら、私の力を疑ってるのかしら。心配性な女神様ね」
もう少し自分を信じて欲しいものだ、とアヤナは思う。自分とメリッサの間にも、信頼なんてものはないことくらいわかっている。仕事の上での、ある種ビジネスライクに近い関係だ。それでも女神とて他の女神をギャフンと言わせたいから自分を呼び出したわけだし、偵察なんて仕事も言われるがままこなしてくれるのはつまりそういうことであるわけで。
自分は、西の勇者であるマサユキほど馬鹿ではないのだ。そして自分の力はマサユキのようなぼんやりとしたものでもなければ、戦いに使いにくい力というわけでもない。戦闘になれば、恋奴隷達が一斉に牙を剥き――襲って来た者達も次々虜にしてしまうことのできるとんでもない能力なのである。抗う術はない。少し頭を使って戦えば、負ける心配などどうしてする必要があるだろうか。
「マサユキの敗因は明白よ。せっかく、向こうが慌てるような奴隷……もとい人質を奪うことができたのに、それをまともに活用しようともしないんだもの。北の地域に直接乗り込んでいくなんて馬鹿のすることだわ。自分の能力が西でしか効かないことにも気づいてなかったんだとしたら、間抜け以外の何物でもないもの」
戦えば最強のスキル。しかし、効果が及ぶのは己の女神の支配地域のみ。そして、いくら東の地域で恋奴隷にした男であっても、東の地域を抜ければ洗脳が解けてしまうことは既に経験からわかっていることである。西の地域にハッパをかけに行った部隊は、その実洗脳のみならず“仲間や家族”と人質にするなどを駆使して部隊を動かしたのだ。洗脳が解けたところで、人質を取られていては彼らも抗う術などないのだから。
勿論、それができても最も自分たちが力を発揮できるのが己のホームグラウンドであることは言うまでもなく。よその地域では、新たに恋奴隷を増やすこともできないのは事実だ。よって。
「やるべきことは一つ。……北の魔王軍の方から、こちらに乗り込んでくるように仕向ければいいのよ。東で戦えば、この勇者・アヤナに負けなんてないんだから」
女神であっても、己の支配区域以外に出向けば力は落ちるし、向こうの女神に感知されるので妨害を受ける可能性がある。が、殊に北の地域の場合は、後者の心配はない。北には女神の守護がない。メリッサがこっそりと出入りしても、余計な干渉を受ける心配はないのである。
「まあ、北の地域にも私の力を及ぼすことができたら話は早かったんだけど。どうにか、支配地域を広げることはできないの?メリッサ」
「……それが簡単にできたら苦労なんかしないわ」
屋敷で、選りすぐりのイケメン達にマッサージを受けながら。報告を受けるアヤナに、メリッサは苦い顔を向けてくる。
「他の女神の支配地域を奪い取るための、代理戦争として勇者を呼び出した形なのよ。勇者を倒し、女神を屈服させればその地域は手に入り私の加護を及ぼすこともできるようになるけれど。……そうするまでは、それぞれの力は拮抗したまま。他の地域まで、私の加護……ひいては貴女の能力を発揮させることはできないわ」
「それがわからないのよ、メリッサ。西と南に、東のメリッサの力が届かないのはわかる。でも、北には女神の加護なんかないのよ?何故北の地域でも無理なの。他の女神に邪魔されるわけでもないっていうのに」
そこが、どうしてもわからなかった点である。何故北の地だけ女神がいないのか?というのも長年の疑問ではあるが。女神の加護のない土地など簡単に奪えそうなのに、奪えずにいるのもどうしても疑問だ。
存在するのは神でも神を信じる者達でもない。チートスキルを持った勇者もいない、ただの現地住民たちだけであるはずだというのに。
「……いくつか要因があるけれど、やはり“勝ち取った土地”ではないからそもそも影響が及びにくいのがまずひとつね」
その質問はきっと、メリッサも予想できていたことだろう。化粧台の椅子を引っ張ってきて勝手に座ると、はあ、と大きくため息をつく。それを見てアヤナは苦い気持ちになった。この世界の女神という存在が、存外俗物であることは知っているのだ。彼女達は人間に少しでも近い生活を好む。だから人間と同じモノも食べたがるし、性欲や排泄もそれなりにあると知っている。死にもしないし老いもしないので、やはり普通の人間とは大きく異なる存在であることに変わりはないのだけれど。同時に、自身が永遠に死なない存在であるがゆえか、子供を作ることもできない存在だとは聞いている。彼女らにとって性的な交渉は、単なる興味と欲望を満たすものに過ぎないのだ。
そう、そんな彼女達だが。実情は遥かに俗物であるはずだというのに、世間ではまるで“清廉潔白な聖母”のような扱いを受けているというのがおかしな話だ。長年生きてきて自堕落に生活して、処女だなんてあるはずもないというのに。そして、中途半端に人間たちの欲を反映して非常にあられもない服装と姿をしている。スケスケで露出の高い服に加え、なんといっても下着を一切身につけていないのだ。
まあ、ようするに。自分の家で、ノーパンで椅子に座るのは本気でやめてほしいわけである。あの椅子は後で掃除させて消毒もしっかりしないと、と心の底から思うアヤナだ。いや、信者の中には女神がノーパンで座った椅子を高値で買取りたがるモノ好きもいそうなので、いっそ売り飛ばしてしまうというの選択肢としてあるか。いずれにせよ自分は勇者であっても女神の信者ではないので、その感覚は全く理解できない。
「それと。あの“魔王”の力が、想像以上に大きいっていうのもあるわ」
「大袈裟ね。たかが人間じゃない。人間にしては戦闘能力も高いし頭も回るみたいだけど、それだけだわ。チートを持った勇者には及ぶべくもない存在でしょ」
「そうね。でも……元々彼も異世界人なのよ。記憶は失ってるみたいだけど。異世界から突如事故で転生か転移してきて、現地で記憶のない状態で育てられたっていう生い立ちらしくて。勇者ではないけど、勇者に近いプロセスを踏んだ上で現地住人の信頼を得ているわけ。……信頼っていうのはね、信仰に限りなく近いの。その絆が強ければ強いほど、見えないところで大きな力を持つことになる。女神がまさに、そういう存在であるようにね。バカにはならないのよ。現にあの魔王がいることで、女神がいないはずの北の地域を誰も侵攻できずにいるんだから」
「信頼、ねえ」
ふん、とアヤナは鼻を鳴らす。それは、何よりも嫌いな言葉の一つだった。
「くだらないわ。人の心や絆なんて簡単に移ろうものよ。人は結局自分の事しか考えられない、身勝手なイキモノなんだから。誰かのために命を賭けられるバカなんか、現実に存在するわけがないのに」
魔王・アーリアの写真は自分も何度か見たことがある。異性であるため多少イライラは少ないが――それでも、そのお綺麗な顔は見ているだけで腹立たしいものだった。大きな、まるで夢や希望を詰め込んだような青い眼。金色の髪。白い肌に笑顔。あんな世間知らずにそうなお子様に、何故北の人々はついていく気になったのか。何か騙されてでもいるのではないか。
それともアレか。結局――顔が全て、ということなのか。カッコよければ、美しければ、何をやっても説得力があるし簡単に信頼を集められる、と。
『うわあ、こっちに来るなよブス!江尻菌が感染るだろー!キッタネー!!』
ずきり、と胸の奥の古傷が痛む。もう今の自分は、誰からも指をさされてクスクス笑われるような、ブサイク極まりない“江尻彩名”ではない。美しく、可憐な容姿に。そして勇者という名の選ばれたチート能力を持つ存在に生まれ変わったのだ。断じて、もう同じことは起こらない。それがわかっているのに、どうして今あんな罵倒を思い出すのだろう。
奴らに復讐できなかったことが、唯一の未練であるからだろうか。美しく可憐になった姿を見せつけ、踏みつけてやれなかったから、だから。
――わかってるわよ、忘れるべきなんだってことくらい。もう私は、ブサイクで何をやってもダメな……“バイキン江尻”じゃないんだから!あんなクズどものことなんかさっさと忘れて、今のこの世界で幸せになって生きるべきなんだから……!
そうだ、アーリア。やつのせいだ。奴がそのお綺麗な顔だけで、皆の信頼を集めて魔王なんて名乗るものだから。
そんなもの、幻想だと思い知らせてやらねば気がすまない。奴の力なんて、本物の勇者たるアヤナには簡単に打ち砕けることを。彼が持つ信頼という武器など、アヤナが望めば簡単に瓦解することを――そうだ、証明すればこの胸のモヤモヤも晴れるはずなのである。自分は何一つ、間違ったことなどしてはいないのだから。
自分が勇者、なんて面倒な仕事を引き受けることにしたのもそのためだ。自分は報われたと、正しいと証明するために。自分をこの美しい顔に生まれ変わらせてくれ、チートな力をくれたメリッサにささやかながら恩返しをしてあげるために。勇者の仕事を完遂し、北も西も南も全ての地域を手に入れ、すべての美しい男をこの足元に傅かせてやるのである。あのアーリアも、例外ではない。
「……西の勇者が倒れたということは。現状西の地域は、魔王が手に入れた。そういうことになるのかしら?」
荒ぶる心を抑えつけ、言葉にすれば。大体それであってると思うわ、とメリッサは告げた。
「だからって、私達の“力”には特別影響があるわけではないのだけれどね。……ただ、このままの勢いで北の魔王が東と南にも侵攻を開始してくる可能性はあるし……仮に南を先に攻めたとしても、魔王の力をこれ以上強大にするのは危険だと思うわよ。どうするの、アヤナ」
「あら、私の力を疑ってるのかしら。心配性な女神様ね」
もう少し自分を信じて欲しいものだ、とアヤナは思う。自分とメリッサの間にも、信頼なんてものはないことくらいわかっている。仕事の上での、ある種ビジネスライクに近い関係だ。それでも女神とて他の女神をギャフンと言わせたいから自分を呼び出したわけだし、偵察なんて仕事も言われるがままこなしてくれるのはつまりそういうことであるわけで。
自分は、西の勇者であるマサユキほど馬鹿ではないのだ。そして自分の力はマサユキのようなぼんやりとしたものでもなければ、戦いに使いにくい力というわけでもない。戦闘になれば、恋奴隷達が一斉に牙を剥き――襲って来た者達も次々虜にしてしまうことのできるとんでもない能力なのである。抗う術はない。少し頭を使って戦えば、負ける心配などどうしてする必要があるだろうか。
「マサユキの敗因は明白よ。せっかく、向こうが慌てるような奴隷……もとい人質を奪うことができたのに、それをまともに活用しようともしないんだもの。北の地域に直接乗り込んでいくなんて馬鹿のすることだわ。自分の能力が西でしか効かないことにも気づいてなかったんだとしたら、間抜け以外の何物でもないもの」
戦えば最強のスキル。しかし、効果が及ぶのは己の女神の支配地域のみ。そして、いくら東の地域で恋奴隷にした男であっても、東の地域を抜ければ洗脳が解けてしまうことは既に経験からわかっていることである。西の地域にハッパをかけに行った部隊は、その実洗脳のみならず“仲間や家族”と人質にするなどを駆使して部隊を動かしたのだ。洗脳が解けたところで、人質を取られていては彼らも抗う術などないのだから。
勿論、それができても最も自分たちが力を発揮できるのが己のホームグラウンドであることは言うまでもなく。よその地域では、新たに恋奴隷を増やすこともできないのは事実だ。よって。
「やるべきことは一つ。……北の魔王軍の方から、こちらに乗り込んでくるように仕向ければいいのよ。東で戦えば、この勇者・アヤナに負けなんてないんだから」
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