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<15・愚者の行軍>
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そろそろどこぞの勇者が動き出してくる頃かと思っていたが、まさか西の勇者・マサユキがその先陣を切ろうとは夢にも思っていなかった。彼は、とにかく己が“農業でまったりスローライフができればいい”と思っているだけの人間である(そのためにどんなワガママも実現する、非常に迷惑な一面はあるにせよ)。だから、農地をゆっくり広げることに積極的であっても、女神の言う通り“勇者”なんて面倒なことをする気は微塵もない。だから、積極的に北の地に攻め入ってくることはまずないと思われていたが。
――本当に、この方向は予想外だったなあ。
西の地から逃げて来た住人が、魔王たるアーリアに助けを求めて来たのである。一家の農地と一緒に、可愛いひとり娘が労働力として強引にマサユキに取られてしまい、そのまま帰ってこなくなってしまったのだと。
実は、以前にも同じような事件がもう一例あったことはわかっていた。エルフの村の娘、ユージーンがその美しさゆえにマサユキに見初められてしまい、農地と一緒に強引に供出されてしまった事件である。その時反抗した結果、ユージーンの家族はそれぞれが大怪我をしてしまい、特に父親は再起不能の状態で現在村の病院に寝たきりの状態だというのだ。
同じ事件が繰り返される可能性は、今後も十分にあった。ただ、かの勇者の影響が“スローライフに関わること”と“西の土地”に限定されているために、北の地に住まう自分達に直接の影響が出ていなかったというだけなのである。彼は望めば、自分が欲しい農地を本拠地の隣に隣接する形で出現させることができ、本来その土地を持っていた者達に“交換”という形で要らない土地を押し付けることができる力を持っている。“農地を増やすことがスローライフには不可欠”と能力の上で判断されているためだろう。
娘の供出も同様だ。彼が“楽しい生活のためには、可愛い女の子の労働力が必要だ”と考えたせいで、少女達が半ば奴隷のように扱われ彼の農地で馬車馬のごとく働かさせられているのである。家族が娘を取り返そうとすれば、ユージーンの一家の二の舞だ。マサユキの“スローライフ”を邪魔したものとして判断され、“謎の事故”に巻き込まれて大怪我をしたり死んだりして撤退を余儀なくされるのである。直接の戦闘能力ではないというのに、一見平和な力にも見えるのに――マサユキのせいで西の地域が機能しなくなりつつあるのはそういう事情なのだった。
「どうやら、マサユキは特定のエルフの村に眼をつけたようですね。まあ、彼が求めるミナギハーブが、村の特産品だったというのもあるのでしょうけど」
橋の交渉をするにせよ状況をまとめるにせよ、一度城に帰った方が無難ではある。そう判断したアーリアは、城に戻ってクラリスからの報告を聴いていた。オーガの一族であるクラリスは女性でありながら非常に大柄で屈強な体を持っている。が、ただ腕力に秀でるのみならず冷静な敷判断もできる、非常に優秀な女性であるのだ。
彼女は、己の手には少々小さすぎるタブレットを器用に操りながらも、アーリアが戻るまでの間に的確にまとめた資料をホログラムで表示して解説していく。
「かつて、マサユキに誘拐されたユージーン。今回、攫われた娘は彼女と同じ村の出身でした。エルフはハーブの栽培に関して適性があるということもあり、あの村のハーブは食用にしてもよし、薬にしてもよしと非常に評判だったみたいですからね。うちの街でも一部取引があったはず。その農地と一緒に、労働力として娘が連れて行かれてしまったようです。スローライフに必要、と強引にこじつければ何でもアリなのがあの男の力の恐ろしいところなんでしょうね」
「本当に傍迷惑な話だなあ……。それで、攫われた娘の“マルレーネ”だっけ?彼女を取り返して欲しい、って家族が助けを求めて来たんだね?」
「ええ、まあ」
その家族は今、現在自分達がいる城の会議室から少し離れた客室で待機させられているようだが。――その母親と思しき女性の泣き声が、ここまで聞こえてくるあたり余程だろう。自分が城に戻ってくるまでずっと泣き続けていたのか、完全にパニックが収まらない状況になってしまったのか。なんにせよ、娘を無理やり奪われ、しかも二度と会えないかもしれない状況に追い込まれたと知った時の家族の絶望はいかばかりであったか知れない。
しかも、彼らは娘のみならず、自らの収入源であった畑をもごっそり奪われてしまっているのである。娘も財源も失い、一体これからどうやって生きていけばいいのかわからない。娘の両親は、そう言って悲嘆に暮れているようだった。
「……不幸な話だとは思います。ですが……マサユキを討伐するための準備が、全て整っているわけではないですよね」
考え込むアーリアに、クラリスが渋い顔で意見を述べる。
「恐れながら申し上げますが。……あの紫苑と、部下達の調査がまだ終わっておりません。彼らの情報を待たなければ、マサユキを説得し元の世界に返すことは難しいでしょう。そして、あちらの世界とこちらの世界の時間の流れの差を考えるのならば……彼女が戻ってくるまで、あと何日かかるか全く予想ができませんよ」
「だねえ」
「そして、マサユキを倒すにしても……取り返すには、西の土地に踏み込まなければどうにもならないはずです。西の土地では、マサユキの能力が全て有効になる。彼の“面倒事のないスローライフ”の邪魔をすると判断したものは、全て不可視の力で阻害され排除されることとなります。我々にその力の発動を防ぐ手立てはありません。むしろそれが出来ないからこそのチート……勇者達の暴走を、女神さえも止められなかった最大の理由ではありませんか。そんな特別な力もない、少し戦闘能力が高いだけの我々に、一体どうやって対処できると仰るつもりですか」
彼女は、けして臆病な人間ではない。むしろアーリアが命じれば、命を落とす可能性が高い任務であっても積極的に飛び出して行き、全力で獲物を刈り取る覚悟と実力を持ち合わせていると知っている。だからこうやって止めてくるのは全て、アーリアを心配してのことだと知っているのだ。
「じゃあ、見捨てるかい?」
彼らは優しい。そんな仲間に恵まれた己の、なんと幸運なことか。
ただの傭兵でしかなかった自分がここまでの地位に上り詰められたのも、全ては彼らが自分を支えてくれたからに他ならない。感謝以外に、一体どんな言葉が相応しいというのだろう。
そう、だから。そんな彼だと知っているからこそ――自分は。
「確かに、西から逃げて来た一家は元々北の住民じゃない。宗教の違いから、新しいトラブルの種にならないとも限らない。まだ家族と呼べる存在ではない、というのはわかるよ。……でも、彼らはそれでも私を信じて、私みたいな“勇者と女神に弓引く魔王”だとわかっていてもなお、助けを求めようと逃げ込んで来た人たちなんだ。そんな人たちを、本当にここで見捨てていいものなのかな?……救出が一日遅れれば遅れるほど、娘さんの地獄も長くなる。そうだろう?」
こんな物言いをするのは、あまりにも卑怯だと知っている。本来優しい女性であるクラリスが、それでどれほど思い悩むのかということも。
「本来なら、ユージーンだってもっと早く助けてあげたかったところだ。ああ、手が触れる範囲だけ助けようとするなんて、偽善以外の何物でもないのもわかっているよ。でも、だからって“手が触れられる範囲でさえ”須く見捨てるのが本当に正しいことだとは、私は正直思わないんだ。君もそうじゃないかい、クラリス」
「わ、私は……」
「今は、ユージーンが攫われた時とは状況が違うんだよ。その家族が直接“私に”助けを求めて来たということもあるけど……それ以上に。マサユキに対抗する手段が、全くないってわけじゃない。確かにトドメを刺す説得方法はまだ紫苑が持ち帰ってきていないけど。彼女が出かける前に考えてくれたプランなら、一応ある。それを使えば、少なくともマサユキを追い詰めることはできるはずだ」
アーリアの言葉に、クラリスは押し黙る。彼女も、紫苑が立てた作戦についてはすみずみまで眼を通しているはずだった。それなのに渋るのは、まだ計画実行には早計だという気持ちがあり、紫苑のような得体の知れぬ異世界人の考えをどこまで信じていいのかわからないという不安があり――この計画を始めたら最後、マサユキに完全に北の地から宣戦布告をしたも同然になるという恐れがあるからだろう。
一度始めたら、完遂するまでもう戻ることはできなくなる。
そのあいだに、他の勇者二人に隙を突かれないという保証も全くないわけで。
「本当に、やるおつもりですか」
どうしてそこまで見ず知らずの他人のために戦えるのか。どうしてそこまで会ったばかりの少女が作った作戦を信用できるのか。クラリスがそれらの言葉を強引に飲み込んだ瞬間を、知った。本当にできた部下だ。だからこそ、アーリアは。
「一番最初に、君たちを雇った時に言ったはずだ。……私は、この世界を本当の意味で“幸せ”にしたいんだって。そのために戦えるのが私だけならば、躊躇うことなくその役目を全うしてみせる、と」
はいみんなー!と傍で控えて成り行きを見守っていた部下たちを集め、アーリアは壁のボタンを押した。あっという間に、お洒落な花が飾られ白いテーブルクロスが敷かれていった一室が、無機質で電子的な長テーブルと丸椅子が設置された会議室へと取ってかわられることになる。
さあ作戦会議だ。紫苑が戻ってきていないことが心残りだが、どのみち彼女の出番は最後の最後であったのである。作戦を進めるだけならば問題はない――最終段階までいかに時間を稼げるかは自分達の腕にかかっているけれど。
「対マサユキ……西方攻略作戦について、作戦会議を始めるよ!大丈夫、プランならある。私を信じて、ついてきてほしい!」
マサユキの能力はチートだ。しかし隙がないわけではない。そして、彼の力は無作為であるようでいて一定の法則・制限があることもわかっている。
そこを突くことができれば、制する方法はある。同時に、マサユキに囚われているであろう娘達を救出する方法も。
――勇者と戦うための大前提。それは……基本的には、相手の最も得意な土俵にはけして上がらないとうこと。特に、マサユキのような能力の方向性が定まりづらい、抽象的で解釈が多様にできるような能力者なら尚更だ。
そう、だから作戦はシンプル。
まずはあの勇者を、西の土地から引っ張り出すのだ。
――本当に、この方向は予想外だったなあ。
西の地から逃げて来た住人が、魔王たるアーリアに助けを求めて来たのである。一家の農地と一緒に、可愛いひとり娘が労働力として強引にマサユキに取られてしまい、そのまま帰ってこなくなってしまったのだと。
実は、以前にも同じような事件がもう一例あったことはわかっていた。エルフの村の娘、ユージーンがその美しさゆえにマサユキに見初められてしまい、農地と一緒に強引に供出されてしまった事件である。その時反抗した結果、ユージーンの家族はそれぞれが大怪我をしてしまい、特に父親は再起不能の状態で現在村の病院に寝たきりの状態だというのだ。
同じ事件が繰り返される可能性は、今後も十分にあった。ただ、かの勇者の影響が“スローライフに関わること”と“西の土地”に限定されているために、北の地に住まう自分達に直接の影響が出ていなかったというだけなのである。彼は望めば、自分が欲しい農地を本拠地の隣に隣接する形で出現させることができ、本来その土地を持っていた者達に“交換”という形で要らない土地を押し付けることができる力を持っている。“農地を増やすことがスローライフには不可欠”と能力の上で判断されているためだろう。
娘の供出も同様だ。彼が“楽しい生活のためには、可愛い女の子の労働力が必要だ”と考えたせいで、少女達が半ば奴隷のように扱われ彼の農地で馬車馬のごとく働かさせられているのである。家族が娘を取り返そうとすれば、ユージーンの一家の二の舞だ。マサユキの“スローライフ”を邪魔したものとして判断され、“謎の事故”に巻き込まれて大怪我をしたり死んだりして撤退を余儀なくされるのである。直接の戦闘能力ではないというのに、一見平和な力にも見えるのに――マサユキのせいで西の地域が機能しなくなりつつあるのはそういう事情なのだった。
「どうやら、マサユキは特定のエルフの村に眼をつけたようですね。まあ、彼が求めるミナギハーブが、村の特産品だったというのもあるのでしょうけど」
橋の交渉をするにせよ状況をまとめるにせよ、一度城に帰った方が無難ではある。そう判断したアーリアは、城に戻ってクラリスからの報告を聴いていた。オーガの一族であるクラリスは女性でありながら非常に大柄で屈強な体を持っている。が、ただ腕力に秀でるのみならず冷静な敷判断もできる、非常に優秀な女性であるのだ。
彼女は、己の手には少々小さすぎるタブレットを器用に操りながらも、アーリアが戻るまでの間に的確にまとめた資料をホログラムで表示して解説していく。
「かつて、マサユキに誘拐されたユージーン。今回、攫われた娘は彼女と同じ村の出身でした。エルフはハーブの栽培に関して適性があるということもあり、あの村のハーブは食用にしてもよし、薬にしてもよしと非常に評判だったみたいですからね。うちの街でも一部取引があったはず。その農地と一緒に、労働力として娘が連れて行かれてしまったようです。スローライフに必要、と強引にこじつければ何でもアリなのがあの男の力の恐ろしいところなんでしょうね」
「本当に傍迷惑な話だなあ……。それで、攫われた娘の“マルレーネ”だっけ?彼女を取り返して欲しい、って家族が助けを求めて来たんだね?」
「ええ、まあ」
その家族は今、現在自分達がいる城の会議室から少し離れた客室で待機させられているようだが。――その母親と思しき女性の泣き声が、ここまで聞こえてくるあたり余程だろう。自分が城に戻ってくるまでずっと泣き続けていたのか、完全にパニックが収まらない状況になってしまったのか。なんにせよ、娘を無理やり奪われ、しかも二度と会えないかもしれない状況に追い込まれたと知った時の家族の絶望はいかばかりであったか知れない。
しかも、彼らは娘のみならず、自らの収入源であった畑をもごっそり奪われてしまっているのである。娘も財源も失い、一体これからどうやって生きていけばいいのかわからない。娘の両親は、そう言って悲嘆に暮れているようだった。
「……不幸な話だとは思います。ですが……マサユキを討伐するための準備が、全て整っているわけではないですよね」
考え込むアーリアに、クラリスが渋い顔で意見を述べる。
「恐れながら申し上げますが。……あの紫苑と、部下達の調査がまだ終わっておりません。彼らの情報を待たなければ、マサユキを説得し元の世界に返すことは難しいでしょう。そして、あちらの世界とこちらの世界の時間の流れの差を考えるのならば……彼女が戻ってくるまで、あと何日かかるか全く予想ができませんよ」
「だねえ」
「そして、マサユキを倒すにしても……取り返すには、西の土地に踏み込まなければどうにもならないはずです。西の土地では、マサユキの能力が全て有効になる。彼の“面倒事のないスローライフ”の邪魔をすると判断したものは、全て不可視の力で阻害され排除されることとなります。我々にその力の発動を防ぐ手立てはありません。むしろそれが出来ないからこそのチート……勇者達の暴走を、女神さえも止められなかった最大の理由ではありませんか。そんな特別な力もない、少し戦闘能力が高いだけの我々に、一体どうやって対処できると仰るつもりですか」
彼女は、けして臆病な人間ではない。むしろアーリアが命じれば、命を落とす可能性が高い任務であっても積極的に飛び出して行き、全力で獲物を刈り取る覚悟と実力を持ち合わせていると知っている。だからこうやって止めてくるのは全て、アーリアを心配してのことだと知っているのだ。
「じゃあ、見捨てるかい?」
彼らは優しい。そんな仲間に恵まれた己の、なんと幸運なことか。
ただの傭兵でしかなかった自分がここまでの地位に上り詰められたのも、全ては彼らが自分を支えてくれたからに他ならない。感謝以外に、一体どんな言葉が相応しいというのだろう。
そう、だから。そんな彼だと知っているからこそ――自分は。
「確かに、西から逃げて来た一家は元々北の住民じゃない。宗教の違いから、新しいトラブルの種にならないとも限らない。まだ家族と呼べる存在ではない、というのはわかるよ。……でも、彼らはそれでも私を信じて、私みたいな“勇者と女神に弓引く魔王”だとわかっていてもなお、助けを求めようと逃げ込んで来た人たちなんだ。そんな人たちを、本当にここで見捨てていいものなのかな?……救出が一日遅れれば遅れるほど、娘さんの地獄も長くなる。そうだろう?」
こんな物言いをするのは、あまりにも卑怯だと知っている。本来優しい女性であるクラリスが、それでどれほど思い悩むのかということも。
「本来なら、ユージーンだってもっと早く助けてあげたかったところだ。ああ、手が触れる範囲だけ助けようとするなんて、偽善以外の何物でもないのもわかっているよ。でも、だからって“手が触れられる範囲でさえ”須く見捨てるのが本当に正しいことだとは、私は正直思わないんだ。君もそうじゃないかい、クラリス」
「わ、私は……」
「今は、ユージーンが攫われた時とは状況が違うんだよ。その家族が直接“私に”助けを求めて来たということもあるけど……それ以上に。マサユキに対抗する手段が、全くないってわけじゃない。確かにトドメを刺す説得方法はまだ紫苑が持ち帰ってきていないけど。彼女が出かける前に考えてくれたプランなら、一応ある。それを使えば、少なくともマサユキを追い詰めることはできるはずだ」
アーリアの言葉に、クラリスは押し黙る。彼女も、紫苑が立てた作戦についてはすみずみまで眼を通しているはずだった。それなのに渋るのは、まだ計画実行には早計だという気持ちがあり、紫苑のような得体の知れぬ異世界人の考えをどこまで信じていいのかわからないという不安があり――この計画を始めたら最後、マサユキに完全に北の地から宣戦布告をしたも同然になるという恐れがあるからだろう。
一度始めたら、完遂するまでもう戻ることはできなくなる。
そのあいだに、他の勇者二人に隙を突かれないという保証も全くないわけで。
「本当に、やるおつもりですか」
どうしてそこまで見ず知らずの他人のために戦えるのか。どうしてそこまで会ったばかりの少女が作った作戦を信用できるのか。クラリスがそれらの言葉を強引に飲み込んだ瞬間を、知った。本当にできた部下だ。だからこそ、アーリアは。
「一番最初に、君たちを雇った時に言ったはずだ。……私は、この世界を本当の意味で“幸せ”にしたいんだって。そのために戦えるのが私だけならば、躊躇うことなくその役目を全うしてみせる、と」
はいみんなー!と傍で控えて成り行きを見守っていた部下たちを集め、アーリアは壁のボタンを押した。あっという間に、お洒落な花が飾られ白いテーブルクロスが敷かれていった一室が、無機質で電子的な長テーブルと丸椅子が設置された会議室へと取ってかわられることになる。
さあ作戦会議だ。紫苑が戻ってきていないことが心残りだが、どのみち彼女の出番は最後の最後であったのである。作戦を進めるだけならば問題はない――最終段階までいかに時間を稼げるかは自分達の腕にかかっているけれど。
「対マサユキ……西方攻略作戦について、作戦会議を始めるよ!大丈夫、プランならある。私を信じて、ついてきてほしい!」
マサユキの能力はチートだ。しかし隙がないわけではない。そして、彼の力は無作為であるようでいて一定の法則・制限があることもわかっている。
そこを突くことができれば、制する方法はある。同時に、マサユキに囚われているであろう娘達を救出する方法も。
――勇者と戦うための大前提。それは……基本的には、相手の最も得意な土俵にはけして上がらないとうこと。特に、マサユキのような能力の方向性が定まりづらい、抽象的で解釈が多様にできるような能力者なら尚更だ。
そう、だから作戦はシンプル。
まずはあの勇者を、西の土地から引っ張り出すのだ。
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