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<18・明日を謳い、君を謳う。>
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『あ、ああああ、ああああああああ!』
スクリーンの中、若い女優は悲鳴を上げた。廃屋の天井、釣り下がっていた裸電球が音を立てて割れる。ポルターガイスト。女は怯えて蹲るしかない。
『や、やめて……!わ、私は此処にちょっと調べものをしにきただけなの!あなたに危害を加えるつもりなんかないの、本当よ!ただ、ただ事件の真実が知りたいだけなんだから!』
再び画面が大きく揺れ、今度は窓ガラスが粉々に砕け散った。女の上にばらばらと降り注ぐ破片。助けて、助けてと女はただ繰り返す他ない。
『や、やめて……!そ、それとも何?事件について、過去に書いた記事のことを恨んでるの?確かに事実じゃなかったわ。冤罪だったかもしれない。でも私はあくまで疑惑を書いただけで、彼が犯人だと断定したわけじゃない。そう決めたのは警察と世間であって、私じゃ、ああああ!』
女の体が、ふわりと浮かび上がった。そして宙で、その体を脅かすように揺らし始める。
『助けて、やめて、下ろしてええええ!わ、わた、私はっ……ふぐっ!』
突然、女は首を抑えて苦しみ始める。
『あ、あぐうううううううううううううううううううううううううううううううううううう!ぐ、ぐるじい、やべてっ……く、首の骨が、折れちゃうっ』
ばたばたばた、とスカートから伸びた足がなまめかしく宙を掻く。見えない力に抵抗する女。首を絞められている、ということなのだろう。はぐ、はぐ、とその口が金魚のようにぱくぱくと開いては閉じてを繰り返す。実に滑稽に。
『痛い、痛い、痛い、あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!』
ぶしゅう、という音と共に女の太ももを液体が伝った。苦痛に耐えきれず、失禁したということだろう。やがて暴れていた女の手足の動きが弱弱しくなり、だらん、と下に垂れ下がった。ぐるん、と女の目が上向くと同時にその体が派手に床に叩きつけられる。
それは、この廃屋に潜む幽霊が復讐を遂げた瞬間だった。重々しい音楽と共に画面が暗くなっていく。観客たちから、僅かに抑えきれなかったどよめきが上がる。小さく“ここで死ぬんだ”という声も聞こえた。
それに対して、仁は。
――なんつーか、リアリティがねえよな……。
思った以上に怖くなかった映画に、あっけに取られている状況である。さらに。
「うーん思った以上にリアリティがない。三十点かなあ」
仁の座席の真後ろで、ふよふよと浮かんだ久遠が。手厳しい評価を下しているのだった。
***
仁が鹿島に話を聴きに行って、そして久遠に何もかも真実を伝えてから――一週間。
久遠は結局、幽霊のまま成仏していない。しかも、しれっとあの部屋の地縛霊ではなく、部屋の外に出られるようになっていた。記憶を取り戻したのに、一体何故そうなったのか?それには理由がある。
『……全部話を聴いたら、全部思い出した。思い出したけど……なんだろうな。思ったより、ショック受けてないってかんじ。むしろ、少し救われたかもしれない。鹿島先生にとって俺は、どうでもいい存在なんかじゃなかった。そこまで苦しんでくれてたんだってさ。そりゃ、俺を捨ててお見合い結婚しようとしたことを許したわけじゃないけど』
久遠は言った。色々思うところはあるけれど、これでもう自分も“終わったこと”にできそうだと。
だから、鹿島をこれ以上憎むつもりもなければ、呪うつもりもないのだと。
『もう、先生に関しての未練はないよ。だから……他の未練がなくなったら、俺は成仏できると思うんだ。この部屋で、絶対に帰ってこない先生を待つ理由はもう、俺にはないんだから』
彼があの部屋の地縛霊でなくなったのは。あの部屋が、もう鹿島雄二の部屋ではないと認められるようになったから。彼が戻ってこない事実を受け止められたから、だという。
そう、だから本来ならそのまま成仏できてもおかしくなかったのだ。他に、未練がなかったのなら。つまり。
「……お前、本当に俺にずっと憑いてくるつもりかよ」
つまり、仁の存在が新しい未練になっていなかったのなら。
彼は部屋ではなく、仁に憑りついてしまったというわけである。正確には憑依というより、背後霊になったようなものであるが。
「結構不安定な状態なんじゃねえの?大丈夫か?あと、お前が見たいって言うからホラー映画見に連れていったけどな。周りに聞こえないからってぼそぼそツッコミ入れるのやめろや」
「えええ、仁だってさっきの“廃屋奇談”には言いたいこといろいろあったくせにい」
「そりゃ、怖がりな俺があんま怖くねえと思った時点でだいぶあれだけどよ……」
これで本当にいいのか。さすがに神社に相談でもした方がいいのでは。いや、でも久遠と離れたいわけでもないし――そうもだもだ考えながら一週間が過ぎてしまったというわけである。
本日は、久遠の希望により彼が見たがっていた映画を見に行ったところだった。現在、映画館に併設されているカフェである。一人でぶつぶつ言っている怪しい男になってしまっているわけだが、まあ、周囲も五月蠅いしきっとみんなも気にしていないだろう。というか、気にしていないと思いたい。
廃屋奇談。とある作家の小説が原作の、廃屋で起きる怪現象をモチーフにしたホラー映画である。有名な女優を複数起用しているし、CMもひっきりなしに流していた。久遠もテレビCMを見て、是非とも見に行きたいと言い出したのである。あの狭い部屋からやっと出られるようになったのだ、映画くらい見に行きたいと思うのは当然のことだろう。仁が一緒に行くのなら、彼はどこにでも行けるようになったわけなのだから。
ゆえに、ちょっと怖いけど、と思いつつ付き合った仁だったのだが。
「だってさあ、廃屋に足を踏み入れる理由付けがまず弱いじゃん?」
肝心の久遠は映画の内容がよっぽど不満だったらしく、唇を尖らせている状態である。
「そもそも廃屋だからって勝手に入ったら不法侵入になるし?あんな足元崩れそうなところになんでプロの雑誌記者が入ろうとするのかなあってかんじだし?」
「まあなあ」
「それに、幽霊はあの雑誌記者に恨みがあったわけでしょ?それにしてはポルターガイストのやり方が弱い!俺だったらもっと拷問する!なんで電球割った時も硝子割った時も綺麗に破片が女優を避けてんの?怪我してないの?俺だったらこれ幸いとズタズタにするけど!」
「え、ツッコミどころそこ?」
「そーだよ、俺だってプロの幽霊だもん!硝子割れるポルターガイスト起こせるのに、あの硝子を有効活用できないはずがないし!あと、首絞められてるのに流暢に喋りすぎだし、大体おしっこ漏らすのにうんち漏らさないって随分都合が良いというか、普通両方とも駄々漏れになるよねーというか。俺が死んだ時はまあ、散々カンチョーされた後だったからそういうこともなかったぽいんだけどお」
「最後の情報はマジでいらねえよ!?」
お前、何でそんなブラックすぎる情報をジョーク混じりで言えるんだ、と思わず仁はツッコミを入れてしまった。そして慌てて周囲を見回す。幸いにして、仁の大きな声に振り返った客や店員はいないようだったが。
ていうか、プロの幽霊って。いや、間違ってはいないのだが。
「……お前、自分が死んだときのことも思い出したんだろ。怖いとか、殺した連中許せないとかないの?」
仁が声を潜めて言うと、久遠はにっこり笑って言った。
「全員ちゃんと法で裁かれたでしょ。俺以外にも殺してたってんで、殆どのやつらに死刑判決が下ったし。俺、死んですぐは記憶があったから、その時のうちにちゃんとあいつら全員呪ったから問題ないよ。具体的には、全員下痢がノンストップになる呪いをかけて病院に担ぎ込まれて、そのせいで警察に見つかって捕まったわけだから結果オーライだよね」
「何だその嫌すぎる呪い!?」
「脱水症状で殺さなかっただけありがたいと思ってよ!あ、でも可愛い女の子の目の前で漏らさせたからいろんな意味で社会的に終わったと思うけどね。人にカンチョーした上で散々輪姦したあげく林にポイしてくれたんだから、この程度で済ませた俺優しくない?」
「お、おう……」
仁は思った。心から思った。こいつをマジで怒らせたらどんな恐ろしい呪いをふっかけられるかわかったものではない、全力で気を付けようと。
「殺される時は超痛かったし苦しかったし最低な気分だったけど。でも、今はもういいんだ。二十年も前のことで、俺にとっては終わったことなんだから」
あはははは、と笑う久遠。その声はもう、今までのような空元気はない。本当に楽しそうだった。まるで、何もかも吹っ切れたかのように。
「変な話だけど。幽霊にならなかったら、仁とも出会えなかったしね。だから、俺はこれはこれで悪くない結果だと思ってるよ」
「前向きすぎね?」
「俺も仁と一緒で、ねっこは結構ポジティブ人間だからね!」
「まあ、そうだろうな」
「うん、だから」
ぐい、と彼は顔を近づけてくる。
「今日のだって、俺にとってはデートなんだから。……ね、次は、ちゃんとキスしようね。今度は俺から迫るから」
「!」
果たして、こんな日々はいつまで続くやら。そして、続けていいのやら。そしてハッピーエンドと読んでいいものなのやら。
わからないことだらけだったが、ただ一つはっきりしていることがある。仁が当分、この小悪魔な幽霊に振り回されることになるということだけだった。
「覚悟しておいて。いつか仁のキスも、心も、童貞も全部俺が奪うんだから」
「お、お前、オマエなっ!」
「あははははは、真っ赤になってる仁かわいいー!マジで食べちゃいたいなー!!」
「――――っ!」
ラブリーすぎる厄介な幽霊は、仁の隣で笑っている。
恐らくは明日も明後日も。
スクリーンの中、若い女優は悲鳴を上げた。廃屋の天井、釣り下がっていた裸電球が音を立てて割れる。ポルターガイスト。女は怯えて蹲るしかない。
『や、やめて……!わ、私は此処にちょっと調べものをしにきただけなの!あなたに危害を加えるつもりなんかないの、本当よ!ただ、ただ事件の真実が知りたいだけなんだから!』
再び画面が大きく揺れ、今度は窓ガラスが粉々に砕け散った。女の上にばらばらと降り注ぐ破片。助けて、助けてと女はただ繰り返す他ない。
『や、やめて……!そ、それとも何?事件について、過去に書いた記事のことを恨んでるの?確かに事実じゃなかったわ。冤罪だったかもしれない。でも私はあくまで疑惑を書いただけで、彼が犯人だと断定したわけじゃない。そう決めたのは警察と世間であって、私じゃ、ああああ!』
女の体が、ふわりと浮かび上がった。そして宙で、その体を脅かすように揺らし始める。
『助けて、やめて、下ろしてええええ!わ、わた、私はっ……ふぐっ!』
突然、女は首を抑えて苦しみ始める。
『あ、あぐうううううううううううううううううううううううううううううううううううう!ぐ、ぐるじい、やべてっ……く、首の骨が、折れちゃうっ』
ばたばたばた、とスカートから伸びた足がなまめかしく宙を掻く。見えない力に抵抗する女。首を絞められている、ということなのだろう。はぐ、はぐ、とその口が金魚のようにぱくぱくと開いては閉じてを繰り返す。実に滑稽に。
『痛い、痛い、痛い、あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!』
ぶしゅう、という音と共に女の太ももを液体が伝った。苦痛に耐えきれず、失禁したということだろう。やがて暴れていた女の手足の動きが弱弱しくなり、だらん、と下に垂れ下がった。ぐるん、と女の目が上向くと同時にその体が派手に床に叩きつけられる。
それは、この廃屋に潜む幽霊が復讐を遂げた瞬間だった。重々しい音楽と共に画面が暗くなっていく。観客たちから、僅かに抑えきれなかったどよめきが上がる。小さく“ここで死ぬんだ”という声も聞こえた。
それに対して、仁は。
――なんつーか、リアリティがねえよな……。
思った以上に怖くなかった映画に、あっけに取られている状況である。さらに。
「うーん思った以上にリアリティがない。三十点かなあ」
仁の座席の真後ろで、ふよふよと浮かんだ久遠が。手厳しい評価を下しているのだった。
***
仁が鹿島に話を聴きに行って、そして久遠に何もかも真実を伝えてから――一週間。
久遠は結局、幽霊のまま成仏していない。しかも、しれっとあの部屋の地縛霊ではなく、部屋の外に出られるようになっていた。記憶を取り戻したのに、一体何故そうなったのか?それには理由がある。
『……全部話を聴いたら、全部思い出した。思い出したけど……なんだろうな。思ったより、ショック受けてないってかんじ。むしろ、少し救われたかもしれない。鹿島先生にとって俺は、どうでもいい存在なんかじゃなかった。そこまで苦しんでくれてたんだってさ。そりゃ、俺を捨ててお見合い結婚しようとしたことを許したわけじゃないけど』
久遠は言った。色々思うところはあるけれど、これでもう自分も“終わったこと”にできそうだと。
だから、鹿島をこれ以上憎むつもりもなければ、呪うつもりもないのだと。
『もう、先生に関しての未練はないよ。だから……他の未練がなくなったら、俺は成仏できると思うんだ。この部屋で、絶対に帰ってこない先生を待つ理由はもう、俺にはないんだから』
彼があの部屋の地縛霊でなくなったのは。あの部屋が、もう鹿島雄二の部屋ではないと認められるようになったから。彼が戻ってこない事実を受け止められたから、だという。
そう、だから本来ならそのまま成仏できてもおかしくなかったのだ。他に、未練がなかったのなら。つまり。
「……お前、本当に俺にずっと憑いてくるつもりかよ」
つまり、仁の存在が新しい未練になっていなかったのなら。
彼は部屋ではなく、仁に憑りついてしまったというわけである。正確には憑依というより、背後霊になったようなものであるが。
「結構不安定な状態なんじゃねえの?大丈夫か?あと、お前が見たいって言うからホラー映画見に連れていったけどな。周りに聞こえないからってぼそぼそツッコミ入れるのやめろや」
「えええ、仁だってさっきの“廃屋奇談”には言いたいこといろいろあったくせにい」
「そりゃ、怖がりな俺があんま怖くねえと思った時点でだいぶあれだけどよ……」
これで本当にいいのか。さすがに神社に相談でもした方がいいのでは。いや、でも久遠と離れたいわけでもないし――そうもだもだ考えながら一週間が過ぎてしまったというわけである。
本日は、久遠の希望により彼が見たがっていた映画を見に行ったところだった。現在、映画館に併設されているカフェである。一人でぶつぶつ言っている怪しい男になってしまっているわけだが、まあ、周囲も五月蠅いしきっとみんなも気にしていないだろう。というか、気にしていないと思いたい。
廃屋奇談。とある作家の小説が原作の、廃屋で起きる怪現象をモチーフにしたホラー映画である。有名な女優を複数起用しているし、CMもひっきりなしに流していた。久遠もテレビCMを見て、是非とも見に行きたいと言い出したのである。あの狭い部屋からやっと出られるようになったのだ、映画くらい見に行きたいと思うのは当然のことだろう。仁が一緒に行くのなら、彼はどこにでも行けるようになったわけなのだから。
ゆえに、ちょっと怖いけど、と思いつつ付き合った仁だったのだが。
「だってさあ、廃屋に足を踏み入れる理由付けがまず弱いじゃん?」
肝心の久遠は映画の内容がよっぽど不満だったらしく、唇を尖らせている状態である。
「そもそも廃屋だからって勝手に入ったら不法侵入になるし?あんな足元崩れそうなところになんでプロの雑誌記者が入ろうとするのかなあってかんじだし?」
「まあなあ」
「それに、幽霊はあの雑誌記者に恨みがあったわけでしょ?それにしてはポルターガイストのやり方が弱い!俺だったらもっと拷問する!なんで電球割った時も硝子割った時も綺麗に破片が女優を避けてんの?怪我してないの?俺だったらこれ幸いとズタズタにするけど!」
「え、ツッコミどころそこ?」
「そーだよ、俺だってプロの幽霊だもん!硝子割れるポルターガイスト起こせるのに、あの硝子を有効活用できないはずがないし!あと、首絞められてるのに流暢に喋りすぎだし、大体おしっこ漏らすのにうんち漏らさないって随分都合が良いというか、普通両方とも駄々漏れになるよねーというか。俺が死んだ時はまあ、散々カンチョーされた後だったからそういうこともなかったぽいんだけどお」
「最後の情報はマジでいらねえよ!?」
お前、何でそんなブラックすぎる情報をジョーク混じりで言えるんだ、と思わず仁はツッコミを入れてしまった。そして慌てて周囲を見回す。幸いにして、仁の大きな声に振り返った客や店員はいないようだったが。
ていうか、プロの幽霊って。いや、間違ってはいないのだが。
「……お前、自分が死んだときのことも思い出したんだろ。怖いとか、殺した連中許せないとかないの?」
仁が声を潜めて言うと、久遠はにっこり笑って言った。
「全員ちゃんと法で裁かれたでしょ。俺以外にも殺してたってんで、殆どのやつらに死刑判決が下ったし。俺、死んですぐは記憶があったから、その時のうちにちゃんとあいつら全員呪ったから問題ないよ。具体的には、全員下痢がノンストップになる呪いをかけて病院に担ぎ込まれて、そのせいで警察に見つかって捕まったわけだから結果オーライだよね」
「何だその嫌すぎる呪い!?」
「脱水症状で殺さなかっただけありがたいと思ってよ!あ、でも可愛い女の子の目の前で漏らさせたからいろんな意味で社会的に終わったと思うけどね。人にカンチョーした上で散々輪姦したあげく林にポイしてくれたんだから、この程度で済ませた俺優しくない?」
「お、おう……」
仁は思った。心から思った。こいつをマジで怒らせたらどんな恐ろしい呪いをふっかけられるかわかったものではない、全力で気を付けようと。
「殺される時は超痛かったし苦しかったし最低な気分だったけど。でも、今はもういいんだ。二十年も前のことで、俺にとっては終わったことなんだから」
あはははは、と笑う久遠。その声はもう、今までのような空元気はない。本当に楽しそうだった。まるで、何もかも吹っ切れたかのように。
「変な話だけど。幽霊にならなかったら、仁とも出会えなかったしね。だから、俺はこれはこれで悪くない結果だと思ってるよ」
「前向きすぎね?」
「俺も仁と一緒で、ねっこは結構ポジティブ人間だからね!」
「まあ、そうだろうな」
「うん、だから」
ぐい、と彼は顔を近づけてくる。
「今日のだって、俺にとってはデートなんだから。……ね、次は、ちゃんとキスしようね。今度は俺から迫るから」
「!」
果たして、こんな日々はいつまで続くやら。そして、続けていいのやら。そしてハッピーエンドと読んでいいものなのやら。
わからないことだらけだったが、ただ一つはっきりしていることがある。仁が当分、この小悪魔な幽霊に振り回されることになるということだけだった。
「覚悟しておいて。いつか仁のキスも、心も、童貞も全部俺が奪うんだから」
「お、お前、オマエなっ!」
「あははははは、真っ赤になってる仁かわいいー!マジで食べちゃいたいなー!!」
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ラブリーすぎる厄介な幽霊は、仁の隣で笑っている。
恐らくは明日も明後日も。
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