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<2・幽霊に惚れられて襲われるってそれどんなエロゲー?>
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久遠と名乗った少年は、それはもうあけすけにものを語ってくれた。自分の欲望や目的を隠すつもりもありませんと言うように。
「……えっと、つまり」
ひとしきり話を聴いたところで、仁は頭痛を覚えてこめかみを抑えた。
「お前は、このアパートのこの部屋にずーっと取り憑いてる幽霊だと」
「うん」
「で、いつから取り憑いてるのか、何で取り憑いてるのかはわかってないと」
「うん」
「男にしかキョーミなし。だから女がこの部屋に住んだ時には何もしない。……前の住人もそのまた前の住人も女の単身者だったから、特に何も騒ぎを起こさなかったと」
「補足するならその前の人はレズカップルだったー。もう、イケメンが見たいのにさー俺は。女の子は可愛いけど、ベッドでいちゃつかれてもちっとも興味が湧かないよー。あ、仁は知ってる?レズカップルがどんな風にベッドの上であれやこれやするのかー」
「聴いてないし未成年が語ってんじゃねーよそんなこと!少しは恥ずかしがれ!!」
いや、今の法律だと十八歳で成人ではあるが。多分、目の前のこいつは十七歳くらいだろうと思われた、なんとなく。
ちなみに、ゴツいイカツイと言われる俺もまだ十九歳。お酒が飲める年齢ではないし、悲しいかなドーテーである。女の子とそういうことをした経験は一切ない。
「えーなんで?せっかく健全な男子にとって楽しそうな話をしてあげようと思ったのにぃ」
久遠は唇を尖らせた。
「おかしいなぁ。俺、結構お喋りは上手いほうだと思ってるんだけどなぁ。多分コミュ障タイプじゃなかったと思うし、友達も多かったと思うんだよね。なのになんで、さっきから微妙に会話が噛み合ってない気がするんだろ?ねえ仁?」
「間違っても俺のせいじゃねぇからな。つか慣れ慣れしく呼び捨てにすんじゃねえつってんだろが年下」
「えー、やだ。さん付けとか名字で呼んだら他人行儀じゃん。俺は、仁のことが好きなの。もっと近くにいたいの。ここで距離を取られちゃったら寂しいの、わかる?」
「わかんねーよ!」
何なんだ、この幽霊は。ズキズキと痛むこめかみを擦りながら仁は思った。金縛りで人を散々怖がらせておいてこれか、これなのか。しかも目的が下半身的なアレソレをしようとしていたなんて。フェ●でもしてくれるつもりだったのか。それってどんなエロマンガだ。しかも、どっちかというとウェブサイトの広告に出てきて邪魔してくるタイプのアレではないか。
「仁は、俺のこと嫌い?」
少年は、潤々した目で見つめてくる。思わず仁は呻いた。中学時代の後輩によく似ている。まるで子犬のようとでも言えばいいのか、非常に母性(父性)を擽る表情。自分が可愛いことを自覚している人間の所作だ。
はっきり言って、昔から年下と犬に弱い自覚がある仁である。子供の頃実家で飼っていたパグも、そのうるうるお目々攻撃に負けてお菓子をあげすぎてしまい、ちょっと太らせてしまって猛反省させられたほどなのだ。
「き、嫌いっていうか」
言葉に詰まって、しどろもどろになる。
「幽霊だろ、お前。その、呪われたり祟られたりしそうで嫌なんですけど」
「俺、好きになった人のこと脅かしたりしないよ。さっきはその、ちょっと悪戯しようとしただけだってば」
「金縛りをちょっとで済ますな!それに、俺は……その、男とどうこうするつもりなんかないからな」
同性でも、可愛い顔をしている相手にぐっと来ることがないわけではない。でも、実際に恋愛するならやっぱり女の子がいいに決まっている。いくら久遠の見た目が良くても、だからって会って早々お付き合いしたいですなんて言われて頷けるわけがないのだ。
それは、彼が幽霊だから、というだけではないのである。
「……それに、俺はお前のこと知らなすぎるだろ。友達にもなってないのに、惚れたとか言われても困る。それは、お前も同じだろ。人を見た目だけで惚れたとかなんとか言ってくるんじゃねえよ」
このアパートに憑いている地縛霊というのが本当なら、下手なことを言って怒らせたらマジで呪われる可能性はある。
それでも、言うべきことは言わなければと思ったのだ。自分のためにも、この少年のためにも。
「確かに、俺は君を知らない」
少年は頷いた。
「でも、俺は仁こそが運命の人だと思うんだ」
「何でだよ」
「うーん、君なら俺を助けてくれるんじゃないかなって思ったのもあるし……こう、センサーにビビビッて来ちゃったんだよね!一目惚れってそういうものだと思わない?一目見ただけでもう、その人に魅了されて抜け出せなくなるっていうか!」
「う、うーん?でもなぁ……」
「まあ、その一目惚れって感覚は、経験したとがある人じゃないとわからないものだし?中身も知らないのに好きになるなんて有り得ないって考え方も理解できるよ。信じられなくても仕方ないよね。だからさ……」
あ、これ嫌な予感。仁は冷や汗を掻いた。眼の前でそれはそれは嬉しそうに久遠が頬に手を当てて乙女のポーズをする。
「だからぁ!これから、仁にはもっともーっと、俺のことを知って貰わないとね!これからずーっと一緒にいるから、よろしくね仁!」
「はぁぁぁ!?」
拝啓、お母様。
息子はピンチです。盛大に、超絶にピンチです。
引っ越してきたらそこが隠れた事故物件で、幽霊に惚れられてしまいました。
このような場合、どのように切り抜けるのが正解でございましょうか?
***
――どうしよう。マジでどうしよう。
結局殆ど眠れないまま、朝を迎えてしまった。ほんの少しうとうとして目覚めれば、自分の体の横に正座してこちらを見下ろしてきている幽霊少年がこんにちは。
仁がびっくりしてひっくり返ると同時に向こうもびびって尻もちをつき、ポルターガイストを起こしてくれたからたまったものではない。棚の上からティッシュやらハンカチやら本やらCDやらバラバラ落ちてきて家の中がしっちゃかめっちゃかになったのだ。おかげで、仁は朝っぱらから朝食もろくに食べずに片付けに追われることになったのだった。
――悪い奴じゃないのかもしれない。でも、流石に幽霊と付き合う趣味は俺にはねえ……!
美女の幽霊だったらちょっとグラッと来たかもしれないが、相手は男である。しかも年下の男子。いろんな意味で、恋愛対象から外れてしまっているのである。いきなり、一目惚れしたから付き合ってーとか言われたって、OKできるはずもない。そもそも、幽霊と付き合っても結婚できないというのに。
『お前には悪いけど、幽霊と生きた人間がどうやって付き合うってんだ!無理だ無理!!』
仁は必死で訴えた。すると久遠は少し考えた後に。
『うーん、確かにそうだけど、俺もう結構長く地縛霊やってる気がするし。そろそろ神隠しくらいできるようになるんじゃないかって気がしてきたんだよね。ほら、少なくともポルターガイストと金縛りはできたし、練習すればできるようになると思うんだ!』
『できるようになってたまるか、そんなこと!』
相変わらずネジが外れた答えが返ってくる始末。一体どこまで前向きな幽霊なんだろう。見たところ、高校生の姿で化けて出るあたり、その年で若くして死んだ可能性が濃厚である。寿命であるはずがない。病気か、他殺か、自殺か、事故か。いずれにせよ、何か悲劇があって死んだ可能性が高いだろうに、なんであんなに明るいのか。
『うーん、仁はひょっとして怖がり?幽霊ダメ?困ったなぁ』
極めつけがこれだ。
『幽霊と同居は嫌だと言われても、俺この部屋の地縛霊だしなぁ。ぶっちゃけ出られないんだよね、ここから。でもって自分がなんでこの部屋に取り憑いてるかもわからないし、何で死んだのかも覚えてないから成仏の仕様がないんだよねえ』
いやだから、なんでそんなに呑気なのかと言いたい。地縛霊って、あんまり長く現世にいすぎると悪霊になってしまうのではないのだろうか。それは、久遠としても結構困ったことになるのだと思うが。
――悪霊になってもいいと思ってるのか。それとも本当は記憶喪失が嘘で、成仏したくないからあんなこと言ってんのか、どっちだ?
どっちも有り得そうでうんざりした。いかんせんあの性格である。
――とにかく、このままじゃ俺はずーっとあの幽霊少年とルームシェアしなくちゃならねえ。流石にそれはいろんな意味でごめんだ。なんとか、あいつを成仏させる方法を考えないと。
彼の正体を突き止める。やはり、それがまず第一だろう。それから、除霊の専門家にも頼りたいところだ。どこか近所に、良い寺か神社はないものか。お盆の時期ではないから、予約が殺到しているということもないと信じたいのだが。
「おはよーさん仁!仁も今日は一限からか?」
「風人」
大学の門をくぐったところで、耳慣れたエセ関西弁が聞こえてきて振り返った。そこには同じアメフト部のレシーバーである、三嶋風人みしまかざとの姿が。高校の時からのアメフト仲間でもある。同じ大学のアメフト部に入ろうと、誘い合って同じ大学を受験したのだ。どちらも同じ建築学科志望だったというのもある。
「ああ、うん。俺は一限で心理学取ってるから。風人は?」
「おれは考古学やなー。大学の一般教養科目って変なの多くてええわ。ちなみに二限は生活学取ってるで。単位のためとあるんやけど、このへんは普通に日常生活で役立つ分野やね。仁にもオススメしとくわ」
「なるほど、ありがと」
同じアメフト部でも、自分達は体格が随分違う。ラインマンの仁はとにかく横にも盾にもデカくて屈強だが、レシーバーの風人はもっと細身だ。筋肉はあるが、細い体にしなやかな筋肉がついているといった様子である。身長も、仁より15cm は小さい。後衛職の選手には、彼のように小柄な人間も少なくないのだった。すばしっこさや、スタミナの方が優先的に求められる傾向にあるからだろう。
そういえば、と仁はあることを思い出す。
確かこの友人は、オカルトなことに詳しかったり興味を持っていたりするのではなかったか、と。
「……なあ、風人。ちょっと相談したいことがあるんたけど、いいか?」
「ん、なんや?授業始まってまうで?」
「終わった後でいい。手身近にでいいから、聞いてほしい話があるんだ」
霊感があるわけではないだろう。現に、仁とこうして接していても彼は何も言ってこないのだから。
それでも、オカルトの知識がある人間はそれだけでありがたいことも多いのである。
「実は俺、お前と違って親戚の家じゃなくて……アパートで一人暮らしなんだけどさ。その家が、事故物件かもしれなくて」
「ほんまに!?」
俺な言葉に、風人は目をキラキラと輝かせた。こいつ面白がりやがって、と仁は不貞腐れる。確かに向こうには他人事かもしれないけれど。
「事故物件なんてほんまおもろいやん!何や何や、何が起きたん!?」
「こっちは本気で悩んでるんだっつーの!とにかく後で話すから!」
まあ、興味を持ってもらえるだけマシだろう。今はそう思っておくことにしようと決める仁なのだった。
「……えっと、つまり」
ひとしきり話を聴いたところで、仁は頭痛を覚えてこめかみを抑えた。
「お前は、このアパートのこの部屋にずーっと取り憑いてる幽霊だと」
「うん」
「で、いつから取り憑いてるのか、何で取り憑いてるのかはわかってないと」
「うん」
「男にしかキョーミなし。だから女がこの部屋に住んだ時には何もしない。……前の住人もそのまた前の住人も女の単身者だったから、特に何も騒ぎを起こさなかったと」
「補足するならその前の人はレズカップルだったー。もう、イケメンが見たいのにさー俺は。女の子は可愛いけど、ベッドでいちゃつかれてもちっとも興味が湧かないよー。あ、仁は知ってる?レズカップルがどんな風にベッドの上であれやこれやするのかー」
「聴いてないし未成年が語ってんじゃねーよそんなこと!少しは恥ずかしがれ!!」
いや、今の法律だと十八歳で成人ではあるが。多分、目の前のこいつは十七歳くらいだろうと思われた、なんとなく。
ちなみに、ゴツいイカツイと言われる俺もまだ十九歳。お酒が飲める年齢ではないし、悲しいかなドーテーである。女の子とそういうことをした経験は一切ない。
「えーなんで?せっかく健全な男子にとって楽しそうな話をしてあげようと思ったのにぃ」
久遠は唇を尖らせた。
「おかしいなぁ。俺、結構お喋りは上手いほうだと思ってるんだけどなぁ。多分コミュ障タイプじゃなかったと思うし、友達も多かったと思うんだよね。なのになんで、さっきから微妙に会話が噛み合ってない気がするんだろ?ねえ仁?」
「間違っても俺のせいじゃねぇからな。つか慣れ慣れしく呼び捨てにすんじゃねえつってんだろが年下」
「えー、やだ。さん付けとか名字で呼んだら他人行儀じゃん。俺は、仁のことが好きなの。もっと近くにいたいの。ここで距離を取られちゃったら寂しいの、わかる?」
「わかんねーよ!」
何なんだ、この幽霊は。ズキズキと痛むこめかみを擦りながら仁は思った。金縛りで人を散々怖がらせておいてこれか、これなのか。しかも目的が下半身的なアレソレをしようとしていたなんて。フェ●でもしてくれるつもりだったのか。それってどんなエロマンガだ。しかも、どっちかというとウェブサイトの広告に出てきて邪魔してくるタイプのアレではないか。
「仁は、俺のこと嫌い?」
少年は、潤々した目で見つめてくる。思わず仁は呻いた。中学時代の後輩によく似ている。まるで子犬のようとでも言えばいいのか、非常に母性(父性)を擽る表情。自分が可愛いことを自覚している人間の所作だ。
はっきり言って、昔から年下と犬に弱い自覚がある仁である。子供の頃実家で飼っていたパグも、そのうるうるお目々攻撃に負けてお菓子をあげすぎてしまい、ちょっと太らせてしまって猛反省させられたほどなのだ。
「き、嫌いっていうか」
言葉に詰まって、しどろもどろになる。
「幽霊だろ、お前。その、呪われたり祟られたりしそうで嫌なんですけど」
「俺、好きになった人のこと脅かしたりしないよ。さっきはその、ちょっと悪戯しようとしただけだってば」
「金縛りをちょっとで済ますな!それに、俺は……その、男とどうこうするつもりなんかないからな」
同性でも、可愛い顔をしている相手にぐっと来ることがないわけではない。でも、実際に恋愛するならやっぱり女の子がいいに決まっている。いくら久遠の見た目が良くても、だからって会って早々お付き合いしたいですなんて言われて頷けるわけがないのだ。
それは、彼が幽霊だから、というだけではないのである。
「……それに、俺はお前のこと知らなすぎるだろ。友達にもなってないのに、惚れたとか言われても困る。それは、お前も同じだろ。人を見た目だけで惚れたとかなんとか言ってくるんじゃねえよ」
このアパートに憑いている地縛霊というのが本当なら、下手なことを言って怒らせたらマジで呪われる可能性はある。
それでも、言うべきことは言わなければと思ったのだ。自分のためにも、この少年のためにも。
「確かに、俺は君を知らない」
少年は頷いた。
「でも、俺は仁こそが運命の人だと思うんだ」
「何でだよ」
「うーん、君なら俺を助けてくれるんじゃないかなって思ったのもあるし……こう、センサーにビビビッて来ちゃったんだよね!一目惚れってそういうものだと思わない?一目見ただけでもう、その人に魅了されて抜け出せなくなるっていうか!」
「う、うーん?でもなぁ……」
「まあ、その一目惚れって感覚は、経験したとがある人じゃないとわからないものだし?中身も知らないのに好きになるなんて有り得ないって考え方も理解できるよ。信じられなくても仕方ないよね。だからさ……」
あ、これ嫌な予感。仁は冷や汗を掻いた。眼の前でそれはそれは嬉しそうに久遠が頬に手を当てて乙女のポーズをする。
「だからぁ!これから、仁にはもっともーっと、俺のことを知って貰わないとね!これからずーっと一緒にいるから、よろしくね仁!」
「はぁぁぁ!?」
拝啓、お母様。
息子はピンチです。盛大に、超絶にピンチです。
引っ越してきたらそこが隠れた事故物件で、幽霊に惚れられてしまいました。
このような場合、どのように切り抜けるのが正解でございましょうか?
***
――どうしよう。マジでどうしよう。
結局殆ど眠れないまま、朝を迎えてしまった。ほんの少しうとうとして目覚めれば、自分の体の横に正座してこちらを見下ろしてきている幽霊少年がこんにちは。
仁がびっくりしてひっくり返ると同時に向こうもびびって尻もちをつき、ポルターガイストを起こしてくれたからたまったものではない。棚の上からティッシュやらハンカチやら本やらCDやらバラバラ落ちてきて家の中がしっちゃかめっちゃかになったのだ。おかげで、仁は朝っぱらから朝食もろくに食べずに片付けに追われることになったのだった。
――悪い奴じゃないのかもしれない。でも、流石に幽霊と付き合う趣味は俺にはねえ……!
美女の幽霊だったらちょっとグラッと来たかもしれないが、相手は男である。しかも年下の男子。いろんな意味で、恋愛対象から外れてしまっているのである。いきなり、一目惚れしたから付き合ってーとか言われたって、OKできるはずもない。そもそも、幽霊と付き合っても結婚できないというのに。
『お前には悪いけど、幽霊と生きた人間がどうやって付き合うってんだ!無理だ無理!!』
仁は必死で訴えた。すると久遠は少し考えた後に。
『うーん、確かにそうだけど、俺もう結構長く地縛霊やってる気がするし。そろそろ神隠しくらいできるようになるんじゃないかって気がしてきたんだよね。ほら、少なくともポルターガイストと金縛りはできたし、練習すればできるようになると思うんだ!』
『できるようになってたまるか、そんなこと!』
相変わらずネジが外れた答えが返ってくる始末。一体どこまで前向きな幽霊なんだろう。見たところ、高校生の姿で化けて出るあたり、その年で若くして死んだ可能性が濃厚である。寿命であるはずがない。病気か、他殺か、自殺か、事故か。いずれにせよ、何か悲劇があって死んだ可能性が高いだろうに、なんであんなに明るいのか。
『うーん、仁はひょっとして怖がり?幽霊ダメ?困ったなぁ』
極めつけがこれだ。
『幽霊と同居は嫌だと言われても、俺この部屋の地縛霊だしなぁ。ぶっちゃけ出られないんだよね、ここから。でもって自分がなんでこの部屋に取り憑いてるかもわからないし、何で死んだのかも覚えてないから成仏の仕様がないんだよねえ』
いやだから、なんでそんなに呑気なのかと言いたい。地縛霊って、あんまり長く現世にいすぎると悪霊になってしまうのではないのだろうか。それは、久遠としても結構困ったことになるのだと思うが。
――悪霊になってもいいと思ってるのか。それとも本当は記憶喪失が嘘で、成仏したくないからあんなこと言ってんのか、どっちだ?
どっちも有り得そうでうんざりした。いかんせんあの性格である。
――とにかく、このままじゃ俺はずーっとあの幽霊少年とルームシェアしなくちゃならねえ。流石にそれはいろんな意味でごめんだ。なんとか、あいつを成仏させる方法を考えないと。
彼の正体を突き止める。やはり、それがまず第一だろう。それから、除霊の専門家にも頼りたいところだ。どこか近所に、良い寺か神社はないものか。お盆の時期ではないから、予約が殺到しているということもないと信じたいのだが。
「おはよーさん仁!仁も今日は一限からか?」
「風人」
大学の門をくぐったところで、耳慣れたエセ関西弁が聞こえてきて振り返った。そこには同じアメフト部のレシーバーである、三嶋風人みしまかざとの姿が。高校の時からのアメフト仲間でもある。同じ大学のアメフト部に入ろうと、誘い合って同じ大学を受験したのだ。どちらも同じ建築学科志望だったというのもある。
「ああ、うん。俺は一限で心理学取ってるから。風人は?」
「おれは考古学やなー。大学の一般教養科目って変なの多くてええわ。ちなみに二限は生活学取ってるで。単位のためとあるんやけど、このへんは普通に日常生活で役立つ分野やね。仁にもオススメしとくわ」
「なるほど、ありがと」
同じアメフト部でも、自分達は体格が随分違う。ラインマンの仁はとにかく横にも盾にもデカくて屈強だが、レシーバーの風人はもっと細身だ。筋肉はあるが、細い体にしなやかな筋肉がついているといった様子である。身長も、仁より15cm は小さい。後衛職の選手には、彼のように小柄な人間も少なくないのだった。すばしっこさや、スタミナの方が優先的に求められる傾向にあるからだろう。
そういえば、と仁はあることを思い出す。
確かこの友人は、オカルトなことに詳しかったり興味を持っていたりするのではなかったか、と。
「……なあ、風人。ちょっと相談したいことがあるんたけど、いいか?」
「ん、なんや?授業始まってまうで?」
「終わった後でいい。手身近にでいいから、聞いてほしい話があるんだ」
霊感があるわけではないだろう。現に、仁とこうして接していても彼は何も言ってこないのだから。
それでも、オカルトの知識がある人間はそれだけでありがたいことも多いのである。
「実は俺、お前と違って親戚の家じゃなくて……アパートで一人暮らしなんだけどさ。その家が、事故物件かもしれなくて」
「ほんまに!?」
俺な言葉に、風人は目をキラキラと輝かせた。こいつ面白がりやがって、と仁は不貞腐れる。確かに向こうには他人事かもしれないけれど。
「事故物件なんてほんまおもろいやん!何や何や、何が起きたん!?」
「こっちは本気で悩んでるんだっつーの!とにかく後で話すから!」
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